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2014.10.21

『信長のシェフ』第11巻 ケン、料理で家族を引き裂く!?

 巻数二桁に突入した『信長のシェフ』ですが、信長の天下布武もいよいよ佳境。室町幕府を滅亡させた信長が向かう先は、浅井長政――彼の妹・市の嫁ぎ先であり、ケンとも因縁浅からぬ人物であります。全面対決が迫る中、ケンにできることとは……

 前の巻は嵐の前の静けさという印象だった本作ですが、この巻の大半を使って描かれるのは、織田と浅井の決戦。
 浅井といえば、ケンもかつて小谷城に潜入した際に事が露見し、長政の命で危うく斬首されるところをお市の方のアシストのおかげで助かったりと因縁浅からぬ間柄ですが――

 そんなケンは、信長の命で、この戦を収める最後の希望を胸に、再び浅井家に潜入することとなります。
 料理において、長政を翻意させ、戦を止めさせる……普通にやっても無茶なことを、己の姿を見せずに達成するにはどうすればよいか? いきなりの不可能ミッションですが、それを達成させつつ、長政とお市の絆を見せる展開にまず感心させられます。

 しかしもちろん歴史を変えることは叶わず、織田と浅井の決戦が始まってしまうのですが――ここでのケンの決意、長政たち家族を引き裂かねばならないという決意が強く印象に残ります。
 料理は人に笑顔を与えるもの、共に食卓を囲んだ者たちを結びつけるもの――料理人であれば当然持っているであろうその矜持を、敢えて捨てようとするケンの想いは強く響きます。

 しかしそんなケンの決意が、死を前に強く結びつこうという家族に、男女に通じるものなのか――その結末についてはここでは述べませんが、互いに強く想い合うが故にすれ違い、引き裂かれる、いや引き裂かねばならない戦国の男女の姿には泣かされます。
 そして、戦国武将である以前に等身大の男である相手に対するケンの手向けの言葉も、タイムトラベラーたる彼ならではのものであり、これもグッとくるのです。

 信長・長政・お市――三者のドラマチックな関係は、それ故に様々な物語で扱われてきた、言ってみれば信長ものでは定番のエピソードであります。
 それを新鮮な味付けで料理するのは生半な苦労ではないと思いますが……それを見事やってのけたのは、やはり本作ならではでしょう。


 さて、浅井戦決着後、束の間の平和に、木下改め羽柴家における人助け&夫婦円満の手助けという、ある意味料理漫画の王道的展開を経て、次に待つのはケン自身の物語。
 この巻の冒頭で本願寺の手に落ちた信長の忍び・楓。彼女を救い出すために本願寺に赴いたケンは、そこで彼のことを――平成の世のことを知るようこと再び出会うこととなるのですが……

 ある意味冒頭から今に至るまで引っ張ってきたとも言えるケンの過去(未来?)がいよいよ明らかになるのか。信長の天下布武同様、こちらも佳境であります。


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