『お江戸ねこぱんち』第十一号 久々の登場は水準以上
間に猫抜きの『江戸ぱんち』を挟んで久しぶりに登場の『お江戸ねこぱんち』であります。今回は『猫絵十兵衛御伽草紙』は、月めくりカレンダーが付録ということで掲載はお休み。看板作品の一つが欠席ででどうなるかな……と思いましたが、水準以上の作品が多く、なかなかに楽しめる一冊でした。
というわけで今回も、印象に残った作品を挙げていきましょう。
『猫暦』(ねこしみず美濃)
『お江戸ねこぱんち』のもう一つの看板漫画は今回も快調。天文学を志すおえいと自称許婚のヤツメの物語、今回の舞台は――なんと大奥。
大奥で見つかった古い天文器具の鑑定に呼ばれたおえい(と彼女に勝手についてきたヤツメ)ですが、大奥では若い娘の神隠し事件が……
舞台が大奥と知った時は驚きましたが、そこで見つかった天文器具の来歴も納得で、なるほどこの設定であればおえいを大奥で活躍させるのも可能というもの。
その一方で、大奥に潜む謎の存在が……とファンタスティックな要素も面白く、本作ならではの要素がバランスよく散りばめられた印象です。
しかしこの展開、当然後に引くのだと思いますが……さて。
『団子屋猫福』(山野りんりん)
三毛猫を連れて団子屋を営む青年と客の交流を描く、不思議な物語であります。
猫に引き寄せられるように店を訪れる、妻を捜す男や両親を捜す幼い兄弟。さらにそこに現れた娘は、記憶が曖昧なようなのですが……
読み進めるうちに、舞台は大火があった後だとわかるのですが、さて娘に妙に冷たい団子屋の真意は何なのか。
こちらの目に見えていた物語の構造が一変し、そして青年が背負う孤独の影の正体が明らかになる結末が強く印象に残ります。
『今宵は猫月夜』(須田翔子)
江戸の平和のために奔走する猫侍・眠夜月之進を主人公とした人気シリーズ、今回は初恋の人を探す老雌猫にまつわる物語。
若い頃、病弱な飼い主に化けて見合いをすることとなった彼女。相手に一目惚れしてしまった猫の背を優しく押す飼い主ですが、祝言の日に相手は姿を消し……
真相はすぐにわかってしまうのですが、月之進が猫ではなく、侍に見えるのは、人ならざるものと縁を持った者だけ、という設定がうまく生かされた印象の今回。予想はできても、結末のある場面はグッときます。
『美南見猫夜話』(桐村海丸)
新選組を結成する前の試衛館組を描いた『とんがらし』の桐村海丸が独特のムードで描く、不思議な恋物語であります。
どこか暢気に暮らす牢人の青年が、悪友に連れられて訪れた、化け猫が出るという女郎屋。そこで彼を待ち受けていたのは、果たして化け猫なのですが……
ややもすると粗く見えかねないタッチですが、ゆるやかに流れる空気感が気持ちよい本作。説明はほとんどされていないものの、物語の中に浮かび上がる人間関係を想像するのも楽しい作品です。
冷静に考えるとかなりインモラルな話にも感じますが、そういうものも飲み込んでしまうゆるやかさがここにはあります。
その他、『お半と吉深 牢屋奉行の猫』(栗城祥子)は、牢屋奉行・石出帯刀のあの有名なエピソードに猫の恩返しを絡めた奇譚、『品川宿猫語り 江戸噺』(にしだかな)は、品川宿の宿屋を舞台にしたジェントル・ゴースト・ストーリーで、こちらもそれぞれ楽しめました。
さて、次号は再び『江戸ぱんち』とのこと。第1号はなかなか楽しめましたが、こちらも期待したいところであります。
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