『戦国武将列伝』2014年12月号(その二) 理を超える愛の先に
リイド社『戦国武将列伝』誌の2014年12月号の紹介その二であります。今回も引き続き、印象に残った作品を一つずつ挙げていきたいと思います。
『セキガハラ』(長谷川哲也)
巨大(な怪物と一体化した)黒田如水の登場、三人の柳生石舟斎の出現(そして瞬殺)、さらにもう一人の家康まで……と、色々と飛ばしている本作においてもまたずいぶんととんでもない展開となった前回。
それを受けての今回は、新家康vs旧家康の家康対決を通じ、家康という人物の核が示されることとなります。
ほとんどドクターヘルのような姿の黒田如水の操る怪物・黒ノ巣の能力により生み出された家康の黒臣(くろおん)。思力なしの生身の人間として筋肉のみを武器に激突する二人の家康ですが――そこで旧家康、いや真の家康が語る筋肉の意味とは……ただ一つ、自由のため。
なるほど、それは幼い頃から人質として辛酸を舐めてきた家康ならではの想いでありましょう。それと家康の健康マニアぶりを組み合わせての本作ならではの設定ではありますが、妙な説得力があるのも本作の面白い点であります。
それにしてもとんでもないところで「影武者徳川家康」なことになってしまいましたが、果たして関ヶ原本戦ではどうなってしまうのか……その辺りの先の見えなさもやはり本作流でありましょう。
『鬼切丸伝』(楠桂)
前々回以来、時代をぐっと遡り、鬼切丸の少年のオリジンをはじめ平安時代を舞台に物語を展開してきた本作ですが、今回は平安時代も末の源平合戦が舞台。
とくれば、誰が「鬼」かは明白でしょう。そう、母の胎内に18ヶ月留まり、生まれた時から歯も生えそろい、鬼子として殺されかけた男、幼名・鬼若――武蔵坊弁慶であります。
当然、鬼と見れば斬らずにはおれぬ鬼切丸の少年が弁慶を放っておくはずもないのですが、しかし京の五条の橋の上での対決に割って入ったのはもちろん牛若丸(ここで少年が牛若丸の剣術を天狗から教わったものと一目で見抜くのも面白い)。
弁慶の中の人間性を感じ取った牛若は彼を信じて配下に加え、鬼切丸の少年もそれも一興と見逃すのですが――
その後の義経主従の運命は歴史が語るとおり。しかし本作は、史実(と語られるもの)を踏まえて、なお本作ならではの結末を用意しているのであります。
鬼切丸に斬られた鬼は塵と化して消える。それは『鬼切丸』の頃からの基本中の基本設定でありますが、しかし……
本作の結末で描かれたのは、厳然たる理を超えるほどの愛であり、そしてそれは一つの希望でもありましょうか。
そんな美しい世界をラスト一ページでひっくり返す点も含めて、お見事と言うべきでしょう。
というわけで『戦国武将列伝』12月号から4作品を紹介しましたが、次号は読み切りで本庄敬の戦国グルメもの『蒼太郎の詩』が掲載されるとのこと。本庄敬の代表作といえば『蒼太の包丁』ですが……まさか。
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