『一鬼夜行 鬼が笑う』の解説を担当しました
Twitterでは既に告知させていただきましたが、先日発売された小松エメル『一鬼夜行 鬼が笑う』の解説を担当させていただきました。シリーズ第6作目となる本作は、シリーズ第一部完という大きな節目の巻、その解説という大役に身が引き締まる思いであります。
古道具屋の若主人で妖怪も恐れる閻魔顔の喜蔵と、その彼のもとに夜空を往く百鬼夜行から転がり落ちてきた猫股鬼の小春、おかしなコンビが様々な妖怪沙汰に巻き込まれていく……という『一鬼夜行』シリーズ。
そのシリーズの内容については、第一作からこのブログで取り上げて参りました。
本来であればこれまで同様、作品及びシリーズ全体の内容と、読みどころや意義等の紹介をさせていただくところですが、そちらは恐れ入りますが解説の方をご覧いただければ……
ということで、ここでは本作の内容のみを紹介させていただきましょう。
全ての猫股の上に君臨してきた猫股の長者。その長者の下で「三毛の龍」の名で恐れられていた小春は、しかし冷酷な長者に嫌悪感を抱き、猫股をであることをやめて鬼に転生したという過去を持ちます。
しかし長者にとっては、それは自分の顔に泥を塗られたも同様。長者が執念深く小春のことを付け狙ってきたことはこれまでのシリーズでも描かれてきましたが、本作において、ついに小春と長者が激突することとなるのです。
その戦いに周囲を巻き込むまいと姿を消した小春。それを知った喜蔵は、ある妖怪の誘いに乗り、小春を追って「もののけ道」に踏み込むことになるのですが……
しかしそこで彼が足を踏み入れたのは、思いも寄らぬ世界。そしてそこで彼を待っていたのは小春ではなく、しかし小春と、いや何よりも彼自身と深い縁を持つ人物でありました。
果たしてこの出会いが喜蔵に何をもたらすのか。喜蔵は再び小春に会うことができるのか。そして小春と長者の決戦のゆくえは――
というわけで、第一部完結に至り、今一度喜蔵と小春の縁のルーツに立ち返った印象のある本作。
そしてその中から浮かび上がるのは、シリーズを通じて変わらず描かれてきた、他者と共に在ることで生まれる痛みや苦しみ、しかしそれを補って余りある喜びと成長――
本作は、喜蔵と小春を通じてそれを描き出すのです。
……と、内容紹介のみにしますと言いつつ少々踏み込んでしまいましたが、私が解説を書いているから、などと言った小さなことは関係なく、ここまで喜蔵と小春を見守ってきた、『一鬼夜行』という作品を愛してきたファンであれば本作は必読であることは間違いありません。
クライマックスには少年漫画顔負けの燃える展開も待ち構えておりますので、その点も魅力であります。
『一鬼夜行 鬼が笑う』(小松エメル ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
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