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2014.11.02

『猫の手、貸します 猫の手屋繁盛記』 正真正銘、猫侍が行く!?

 大身旗本の跡取りだが、ある事情で人間大の白猫となってしまった近山宗太郎。実家を出て裏長屋に住むこととした宗太郎は、善行を積んで元の人の姿に戻るため、よろず請け負い業「猫の手屋」を始めた。そんな彼のもとには、鼠退治から幽霊供養のような奇妙なものまで、様々な依頼が……

 先日も似たようなことを書きましたが、既に毎月のように発表される妖怪時代小説、時代怪異譚において、作品の大きな売りとなるのは、やはり主人公の個性でありましょう。
 その意味では本作の主人公は、個性という点では屈指の存在。正真正銘の猫侍、武士の姿をした、人間大の白猫――いや、人間大の白猫になってしまった武士なのであります。

 とある旗本の跡取りである宗太郎は、酒に酔ったある晩の出来事がもとで、翌朝目覚めてみれば白猫になってしまった青年。
 その原因となった猫股から、善行を積むことで人間に戻れると言われた彼は、一人裏長屋に住み、何でも屋「猫の手屋」を開業し、周囲の人々の役に立つことをしようと意気込むのですが……

 宗太郎は猫になる前は、いや今も四角四面で生真面目な性格。しかも大身の若様ということで下々の暮らしを知らず、その日常は戸惑いばかり。
 そんな彼のことを猫になってしまった人間ではなく、人間になりかけの猫だと思い込んで接してくる(それにいちいち律儀にツッコミを入れるのもおかしいのですが)長屋の人々に助けられながら、彼は市井の様々な事件を解決するために奔走する……というのが本作の基本設定であります。


 なるほど、猫がらみの時代小説というのは決して少なくなく、先日も猫時代小説アンソロジーが刊行されたばかり(近日中に紹介いたします)ですが、ファンタジーではなく、「現実の」江戸に猫侍が活躍する作品というのは相当に珍しい。
(個人的には、人間大の猫が長屋に住んでいるという事実に周囲の人間が驚かないことに何らかのエクスキューズが欲しいと思いますが、そこはまあ、そこは江戸っ子のおおらかさと言うべきでしょうか)

 そう、本作は主人公が猫侍であること(そして一部猫股等が登場すること)を除けば、かなり真っ当な人情もの時代小説であると言えます。
 もちろん、その最大の特長と、シチュエーションとのギャップから来るおかしさが本作の最大の魅力でありますが、良く言えば手堅い、厳しく言えば新味がないという印象があるのもまた事実ではあります。

 宗太郎の父が、実はあの有名人らしい、というほのめかしもあり、そちらの方に行っても面白いとは思いますが、あまり派手な展開となってしまうのも勿体ないという気もいたしますし、なかなか難しいところではあります。


 ちなみに本作、作者の『不思議絵師 蓮十』シリーズにも登場している歌川国芳が登場(時代的には本作の方がだいぶ後)。
 出番は少ないのですが、猫好きの国芳らしい変た…いやエキセントリックな行動ぶりも楽しいところです。


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猫の手、貸します 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)

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