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2014.12.21

『お伽もよう綾にしき』第1-3巻 もののけと少女と青年と

 幼い頃からもののけにまとわりつかれる少女・鈴音は、守護代・百原家の跡継ぎ一行が奇怪なもののけに襲われている場に出くわす。鈴音が危機に瀕した時、十年前に行方不明となった「ととさま」・新九郎の形見の笛から、公家姿の男が出現、もののけを打ち払う。その男の顔は新九郎と瓜二つだった……

 まことに恥ずかしながら白状すれば、伝奇もの、室町もの好きを自称しているくせに、つい先日まで本作を読んでおりませんでした。
 ベテラン・ひかわきょうこが約10年前から4年間にわたり『LaLa』『MELODY』に連載した、ファンタジックな妖怪もの活劇であります。

 舞台となるのはおそらく室町時代末期(登場人物の言で細川政元の飯綱の法への言及があるので)。
 ヒロイン・鈴音は幼い頃から人に見えないものが見え、もののけたちに何かとまとわりつかれる体質であった彼女は周囲から疎まれる毎日であったのですが、ある日彼女の前に現れた青年修験者・日高新九郎が彼女の運命を変えることとなります。

 人並み外れた験力と正しく優しい心を持つ新九郎は、鈴音の身を守り、正しく力を使わせるべく、護身の法を教えることに。そして鈴音は、そんな新九郎に父の姿を見て「ととさま」と呼ぶことに……(といっても二人の年の差は十歳程度なのですが)。
 が、その新九郎は当時伊摩の国を騒がせていたもののけ騒動を鎮めるため、陰で糸を引いていた妖人・大木現八郎と対決。国は平和となったものの、新九郎の行方は知れず、十年の時が流れ……


 というのが本作の基本設定。本編では、成長した鈴音が伊摩の国の守護代の座を巡るお家騒動に巻き込まれ、もののけを操る敵と対するうちに、自分の力に目覚め、そして新九郎の行方を求めて冒険を繰り広げることとなります。

 このメインストーリー自体は比較的シンプルな展開(基本的にはアタック&カウンターアタック)なのですが、しかしそこに散りばめられた種々の謎や、濃やかなキャラクター描写が実に楽しいのであります。

 その謎の最たるものが、鈴音を護って戦う公家姿のもののけ「おじゃる様」(鈴音命名)であります。
 もののけに襲撃されている跡継ぎ一行を守ろうとしたものの、力及ばず追い詰められたとき、新九郎の形見の笛から出現したおじゃる様。
 そこらのもののけなど及びもつかぬ持ち、鈴音を抱えて自在に空を飛ぶ(この辺り、登場人物が言及しているように細川政元の逸話を思わせます)強力な彼の顔は、何故か新九郎と瓜二つであり、彼自身、自分の名前も過去も思い出せない状況にあります。

 果たしておじゃる様と新九郎の関係は、そしてそもそも何故新九郎は姿を消したのか?
 物語はこの点を中心に大きく動いていくのですが、いやはやこれがこちらの予想を大きく上回る展開で実に面白い。
 物語が進んでいくにつれ、敵側にも意外な事情が発覚、そしてまたそれが物語に大きなうねりを……という辺りは、ベテランのストーリーテリングの妙と言うべきでありましょうか。

 そしてもちろん、少女漫画らしい鈴音と新九郎の関係性の変化も何とも微笑ましく楽しいのですが……


 とりあえず最初の巻だけ様子見で……などと思っていたところが全く止まらず、第3巻まで読んでしまったところですが、この巻のラストでまた一気に物語が大きく動き、これはのんびりしている場合ではない、と早速残り2巻にも手を出そうとしているところであります。

 本当に今頃でお恥ずかしいところではありますが……


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