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2014.12.29

『鬼舞 見習い女房と安倍の姉妹』 新展開!? 何故か女装×3

 今年もコミカルな平安ホラーで活躍した瀬川貴次、そのオンゴーイングの人気シリーズ『鬼舞』も、今年第一部とも言うべき「呪天」編が完結し、そして主人公・宇原道冬たちの過去の因縁を巡る物語も語られました。さて、いよいよ第二部突入、と思いきやこのタイトルは一体――

 というわけで、何だかタイトルの時点で恐ろしい予感しかしない本作は、いわば番外編エピソードであります。

 中宮の周囲で頻発する怪異。夜、何者かが燭台の火を消し、そしてそこに現れる金色の目……呪天の引き起こした事件の爪痕もようやく癒えてきた陰陽寮に、この怪異解決の依頼が舞い込むことになります。
 しかし問題は先方からの指名が冬路――女装した道冬であったこと。以前中宮の周囲で起きた事件を解決した際、潜入捜査のために女童に化けた道冬は、中宮たちからすっかり気に入られていたのであります。

 そして今回事態をややこしくするのは、その彼について、安倍晴明の二人の息子――吉平と吉昌の兄弟までも女装して協力すると言い出したこと。かくして見習い女房と安倍の姉妹が、中宮に潜入することに……


 というわけで、もうこのあらすじ以上に言うべきことはない――というのは少々乱暴ですが、まあ女性読者サービスと申しましょうか、そういう展開であります。
 いやいやいや、普通の男の子は女装した友達や先輩にぼうっとなったりしないから! という男性視点の常識的なツッコミは野暮というものでありましょう。

 もちろん大変な展開ではありますが、その展開をそれなりに納得させた上で(何故安倍家の兄弟が自ら女装すると言い出したか、など)、さらにややこしくも楽しい展開を用意してみせるのは、作者ならではでありましょう。
 特に以前の巻から引っ張ってきた、冬路が何故か気になるようになってきたイヤミな暦得業生の大春日、さらに冬路を見初めた帝(!)などのシチュエーションももちろんフル回転、いやはや、男としては設定に若干引きつつも、コメディとしての楽しさには感心であります。

 さらに言えば、怪異の正体――というか何故灯りを消すのか、というその理由も明かされてみれば何とも可笑しく、さらに「フィクションもいいけど現実もね!」的なメッセージまで見せてくるのには、良い意味で呆れた次第です。


 その気になれば(?)深刻な展開になる材料は色々とある本シリーズではありますが、もちろん本作のようなコミカルな展開も大きな魅力。
 来年待ち受けているであろう新展開の前に、こういう話もアリ、でしょう。


『鬼舞 見習い女房と安倍の姉妹』(瀬川貴次 集英社コバルト文庫) Amazon
鬼舞 見習い女房と安倍の姉妹 (コバルト文庫 せ 1-54)


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