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2015.01.03

『お伽もよう綾にしき ふたたび』第1-2巻 幸福な結末の後の理想的な後日譚

 伊摩の国での戦いを終え、晴れて夫婦となった鈴音と新九郎。守護の招きで京に向かうこととなった二人だが、旅の途中で不思議な事件が続発する。襲い来るもののけに対し新九郎と別行動を取った鈴音だが、その前に河童の子・青藻が現れる。青藻は、京に災厄を呼ぶ謎の怪物の存在を語るのだが……

 ひかわきょうこの室町ファンタジー『お伽もよう綾にしき』の、タイトル通りの続編、拾遺集といった趣の作品であります。
 この第1、2巻は、前作の後日譚といった趣の中編的エピソードが収録されています。

 幼い頃からもののけを招く体質のため、周囲から疎んじられていた鈴音と、育ての親代わりの新九郎、彼とうり二つの狐のもののけ・おじゃる様たちの協力によって、強大な魔物の魔の手から救われた伊摩の国。
 戦いの後に夫婦となり、微笑ましい新婚生活を送っていた鈴音と新九郎が、伊摩の国の守護に招かれ、京に向かうことになったことから、この物語は始まることとなります。

 初めは単なる物見遊山と思われたこの旅ですが、二人の周囲には何やらいわくありげなもののけや凶暴な盗賊が現れ、旅は遅々として進まぬ有様。
 様々な形で襲ってくる相手に対し、鈴音・おじゃる様組と新九郎・現八郎組、二手に分かれることとなった一行ですが、それぞれの前には思いも寄らぬ相手が現れることとなります。

 応仁の乱をはじめ京で打ち続く戦乱を招いた謎の存在、それと孤独な戦いを続けてきた幼い河童、おじゃる様すら恐怖を覚える謎の敵――
 物語に登場する様々な要素は意外な形で結びつき、物語は大団円を迎えることとなります。


 大団円というほかない、これ以上はないほどの綺麗な形で完結した前作ですが、そこから物語を展開させるのは、なかなかに難しいのではないか……というのは、もちろんこちらの余計な心配。
 本作は一つの物語の続編、後日譚として、こちらのみたいものをきっちりと見せてくれた、という印象であります。

 めでたく結ばれ、アツアツかつ微笑ましいカップルぶりを見せる鈴音と新九郎。自由の身となりながらも相変わらずのツンデレぶりで鈴音を助けるおじゃる様。妖術師から天狗となって新九郎にデレデレ状態の現八郎――
 それぞれに幸せな結末を迎えた彼らが、その幸せさを壊すことなく、新しい物語を見せてくれるのは、ファンとしては嬉しい限りであります。

 物語の方も、前作では控えめだった時代背景が今回はクローズアップ。前作はとある(架空の)地方が舞台でしたが、今回は京近辺が舞台ということで、応仁の乱など歴史的事件が巧みに設定に組み込まれているのもお見事というべきでしょう。

 それでいて物語の中心となるのは、もののけと人との間の切ない交流という、細やかな情のあり方というのもまた『お伽もよう綾にしき』らしいところ。
 この要素が、術が使えるとはいえ本来は非力な少女である鈴音が、強大な魔物に戦いを挑むドラマの原動力として機能してくるのには唸らされた次第です。


 分量的には単行本二冊分ということもあり、少々こじんまりとまとまってしまった印象もありますが、まずは理想的な後日譚と言うべきでしょう。
 次の巻からは、逆に前日譚、新九郎の過去エピソードとのことで、今度は逆に一つの結末に向け、どのように物語が描かれていくのか――その点に期待したいと思います。


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