『ゴールデンカムイ』第1巻 開幕、蝦夷地の黄金争奪戦!
日露戦争で「不死身の杉元」の異名を取った男・杉元佐一は、ある理由から一攫千金を目指して渡った北海道で、網走監獄の死刑囚が隠したというアイヌの黄金の存在を知る。手がかりになるという脱獄囚たちの体に彫られた刺青を求め、杉元と父を殺されたアイヌの少女・アシリパの冒険が始まる。
以前からその高い評判を聞いていた『ゴールデンカムイ』。蝦夷地を舞台とした活劇と聞いては黙っていられず、単行本第1巻を手にしてみれば、なるほど評判も納得の作品でありました。
本作の主人公となるのは、日露戦争は二〇三高地での活躍から「不死身の杉元」と呼ばれた元軍人の青年・杉元と、幼いながらも凄腕の狩人であるアイヌの美少女・アシリパ。
どう考えても共通点のないこの二人が、奪われたアイヌの黄金を求めて、命がけの争奪戦の中に飛び込んでいくこととなります。
そもそもこの黄金の由来は、アイヌが和人に対する反抗のための軍資金として集められたもの。それに目を付けたある男によって、黄金の在処を知る男たちは虐殺され、男もまた、網走監獄に厳重に囚われることとなります。
しかしそこで男は同じ監獄の囚人たちの体に刺青の形で黄金の在処を暗号として残し、刺青の囚人たちは監獄から脱走したのでした。
ある理由から大金を必要としていた杉元は、偶然その囚人の一人と出会ったことから黄金の存在を知り、そして殺されたアイヌの一人の娘であるアシリパとともに、囚人たちを――囚人たちの刺青を追うことになるのであります。
しかしこの刺青、体の一部ではなく、体の正中線を境に、全体にわたって彫られている……すなわち(あまり想像したくないところですが)皮を剥がして開くことを想定して彫られたもの。
つまり、その刺青の模様を手にするには、囚人に協力させてスケッチするか――さもなくば、殺して皮を剥ぎ取るしかない、ということになります。
そして黄金の秘密を知る者、囚人たちを追う者は、杉元とアシリパだけではありません。黄金を奪った謎の囚人、最強を謳われる北の帝国陸軍師団……さらに脱獄した囚人たち自身も、当然ながら自分たちの刺青の価値を知り、それを手放すはずもありません。
二人の旅は、そんな連中を相手にしての危険極まりないもの。それに加え、熊や雪崩など、蝦夷地の自然が容赦なく牙を剥くのであります。
……と、シチュエーションだけ挙げれば、非常に殺伐とした、血なまぐさい殺人ゲーム的な物語を想像してしまうかもしれませんが、しかし実際に読んでみての印象は、むしろカラッとした、陽性とは言わぬまでも陰湿さを感じさせない――冬の日の晴れた朝のような感触が、本作にはあります。
それは一つには、杉元のキャラクター造形に依るところがあるでしょう。
日露戦争の屍山血河をくぐり抜け、自分が殺される前に殺すという生き方が染みついた杉元。しかし彼は自分自身で語るように好んで人を傷つけるような人間では決してなく、またアシリパ――一般的に当時の和人がアイヌをどのような目で見ていたかは、言うまでもありますまい――に対しても、対等の存在として付き合うことができる、むしろ好漢とも言うべき青年であります。
そんな彼の印象は、彼の過去、そしてこの争奪戦に身を投じた理由から、より強まるわけですが、戦闘者であっても殺人者ではなく、黄金を求める理由も我欲であって我欲ではない、そんな彼のキャラクターは、本作のよう殺伐とした設定の物語において、一服の清涼剤として感じられるものであります。
そしてまた、そんな彼らの戦いを包み込む蝦夷地の自然と、それに寄り添って暮らすアシリパらアイヌの文化に対する、新鮮かつ当を得た描写もまた、魅力的であります。
この時代の蝦夷地を舞台とした物語、特に活劇は、決してないわけではない、むしろ名作も多いものの、やはり一般には縁遠い舞台ではあります。
本作の絵と語り口は、そんな舞台を巧みに描き出し――そしてその中においては、人の欲と欲のぶつかり合いも、自然の営みの一部として、包み込まれてしまうように感じられるのです。
そんな本作は、幸い単行本は二ヶ月連続刊行とのこと。終盤には想像もしなかったようなとんでもない人物の名が出てきたこともあり、続きが待ちきれなかっただけに、ありがたい話であります。
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