『戦国武将列伝』2015年2月号(その一) 少年、戦国に戻る
年を越してしまい恐縮ですが、2014年最後の『戦国武将列伝』誌であります。今号の巻頭カラー&表紙は楠桂『鬼切丸伝』、特別読み切りとして本庄敬『蒼太郎の詩』が掲載されています。それでは、今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げていきましょう。
『鬼切丸伝』(楠桂)
これまで数回にわたり鬼切丸の少年のオリジンを中心に平安時代を舞台としたエピソードが続いていましたが、久々に戦国時代に戻って描かれる今回登場するのは、柴田勝豊と丸岡城であります。
柴田勝家の甥である勝豊が築城した丸岡城は、その後主を次々と変えつつも現代にまで残っていますが、今回描かれるのは、その築城の際に隻眼の後家・お静が人柱とされた、という逸話を踏まえた物語であります。
息子を武士に取り立てるという勝豊との約束を信じ、人柱となったお静。しかしその約束は果たされず、怨霊と化した彼女が荒れ狂い……というのが逸話の内容ですが、本作においてはそれをより凄惨なものに描き変え、そして彼女が変じたものが鬼であった、ということで鬼切丸の少年が登場することになるのですが――
強い妄念・執念により人が変じる本作の鬼。今回のその念は、約束を違えた勝豊への怒りであると同時に、残した子供への母の強い愛であります。
もちろんいかなる鬼であれ見逃すことはない鬼切丸の少年ですが、しかし本作で描かれた彼の母もまた、人の裏切りで命を落とした女性。それを踏まえた上で今回の展開を見れば、また色々と考えさせられるものがあり、そしてそれが本作独自の方向性なのかもしれないと感じさせられます。
『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
毎回二本立てで描かれる本作ですが、今回描かれるのは、相馬家を相手とした政宗の初陣……なのですが、強く印象に残るのは、今回初登場の伊達成実であります。
景綱と並んで政宗を支えた忠臣として、コンビで登場することも少なくない成実ですが、武で知られた人物、それもかなり猪突猛進だったとのことで、本作のような作品では格好の題材でしょう。
特に彼の特徴的な兜――毛虫の前立てをネタにした天丼的ギャグは、この作者ならではでしょう。
その一方で、愛姫を使って、この当時の東北に特徴的な大名間の関係を語らせるなど、歴史ものとしての目配りもさすがといったところでしょう。
そしてラストではあの人物の死が……色々な意味で次回が気になるところであります。
『セキガハラ』(長谷川哲也)
秀吉を殺した奇怪な蜘蛛の怪物をはじめ、本作でのこれまでの一連の怪事件の背後で糸を引いてきた真の敵・黒田如水が登場し、いよいよ関ヶ原に向けて動き出した感のある本作。
これまで比較的中立なスタンスだった家康が、自らの黒臣(くろおん)に敗れて消滅、黒臣に成り代わられたことで一気に情勢は不利になった三成ですが、今回はさらに敵の魔手が広がっていく様が描かれます。
その魔手の向かう先は、ほかならぬ徳川家。家康に続き、四天王までが皆……というわけで、影武者徳川家康ならぬ影武者徳川家状態であります。
さらに、この時点では既に死んでいるはずの酒井忠次も登場。本来であれば同時に登場するはずのない四天王をぬけぬけと(誉めております)勢ぞろいさせてしまうセンスが楽しいのです。
とはいえ、敵をわかりやすい悪(あるいは偽者)としたことで、構図が二元論的なものになりかねないのでは……という危惧はなくもないのですが、しかし当の三成をはじめとして、これに抗する側も一筋縄ではいかない者ばかり。
史実では、少なくとも開戦時には互角以上の形となっていた西軍ですが、さてここから巻き返すことができるか? 相変わらず先が読めぬ展開で続きます。
長くなりますので続きます。
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