『戦国武将列伝』2015年2月号(その二) 戦国に命を繋ぐ料理
リイド社『戦国武将列伝』誌、2015年2月号の紹介の後編であります。前回は3作品を紹介いたしましたが、今回も3作品を紹介しましょう。
『孔雀王戦国転生』(荻野真)
いよいよ孔雀と信長の真の敵も判明し、決戦に向かうかに思われる本作ですが、今回はその序章とでも言うべき内容。
前々回の戦いで稲葉山城を奪った信長が城下を岐阜と改め、城の改修も終わったところに、祝いの品を携えた各大名の使者が訪れることとなります。
そこに現れたのは、朝廷からの使者と称する二人の古風な姿の童子。その場に酒の泉に美女たちの園を現出させてみせた彼らは、宴に酔いしれる者たちを京に招くのですが……
京に戦国武将たちを招き、総当たりの死闘を現出させんと企む存在。それこそが真の敵なのですが、その名は――いやはや、その存在のかつての名前を非常にベタな形でもじってくるのには驚きましたが、それを岐阜の由来に結びつけたのにはさらに驚かされます。
周の文王の故事に倣ってつけられたという岐阜。あまり信長らしくない逸話をこうして料理してみせたのは、さすがというべきでしょう。
『蒼太郎の詩』(本庄敬)
今号の特別書き下ろしは、人情料理漫画『蒼太の包丁』の本庄敬……というわけで、タイトルを見れば察せられるように、蒼太郎のほかにもどこかで見たようなキャラが登場する一種のスピンオフともいえる作品であります。
とある戦に敗れて戦場から落ち延びる百姓の蒼太郎たち四人の足軽。しかし敵軍に追い詰められた蒼太郎は、末期の願いとして手持ちの兵糧と野草で料理を作ろうと……
時代料理もの、特に戦国料理もの漫画もいくつかありますが、そこに共通するのは、限られた材料を用いて料理を作り上げる、一種のサバイバルもの的側面が見られることでしょう。
本作もその一つですが、面白いのはその目的がサバイバルとは正反対の――しかしそれに負けぬほど切実な――死ぬ間際にせめて美味いものを食べたいという、その想いを満たすため、という点であることは間違いありません。
その料理の目的故に、本作はどうしても地味な印象は否めないのですが、しかしそれも本作独特の味わいと言うべきでしょう。
『後藤又兵衛』(かわのいちろう)
秀吉による九州征伐後に豊前に入った黒田家に反発して蜂起した城井鎮房。それに対し、黒田側は彼と和議を結ぶと称して招き、だまし討ちにした、という史実を題材に、その中で又兵衛が何を思い、如何に動いたのか――それが描かれることとなります。
……実は本作は今回が最終回。正直に申し上げて、ずいぶんと中途半端な時点でという印象は否めません。
しかし直情径行の戦さ人であった又兵衛が、綺麗事ではすまぬ現実と直面し、その中で己が如何に立つべきかと向き合う、というドラマを描いた時点で終わるのは、一つの到達点と言えなくもありません。
そして何よりも素晴らしいのは、又兵衛と鎮房の一騎打ち(これはまあ、本作ならではのフィクションかとは思いますがそれはさておき)の描写でありましょう。
これまでも折に触れて述べてきましたが、デビュー以来の作者の真骨頂は、スピード感……というより瞬発力に溢れるアクション描写だと私は感じています。
今回描かれた又兵衛と鎮房の激突はまさにこの魅力に満ちたもの。ギリギリの一瞬までに緊張感が高まった末に生と死が交錯する様は、派手な合戦シーンとはまた違った魅力のある名場面でありました。
それだけに彼の後半生がラスト2ページのみで語られてしまったのは、やはりまことに残念と言うほかないのですが――
が、次号から同じ作者の『真田幸村舞闘伝』が連載開始とのこと。又兵衛とは大坂の陣では轡を並べた同志である幸村の物語ということで、こちらを楽しみにするといたしましょう。
次号はこの『真田幸村舞闘伝』のほか、読み切りで井伊直虎を主人公とした北崎拓の『井伊家の童女』が登場――と、「クピドの悪戯シリーズ」最新作とあるのですがこれは一体――が掲載されるとのこと。
連載陣もさることながら、意外なゲスト陣が魅力な雑誌だけに、今年も期待できそうであります。
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