『信長のシェフ』第12巻 急展開、新たなる男の名は
浅井長政と朝倉義景を討ち、包囲網を脱した織田信長。いよいよ天下布武に王手がかかった印象もある信長ですが、彼に仕えるケンの運命は相変わらず波乱含み。この最新第12巻では、彼の前にある人物が――それもとんでもない名前を持って現れることとなります。
本願寺の手に落ちた信長の忍び・楓を救うために本願寺に赴いたケン。その前に現れたのは、彼と同じく未来人(現代人)であり、そして彼とは何やら浅からぬ関係にあった女性・ようこ……
と、修羅場の予感となった前巻のラストですが、比較的あっさりとその場は収まり、楓も無事解放されることとなります。
だがしかし、その代償は大きなものでありました。ケンは西洋料理を顕如の許しなく――すなわち、ほぼ無期限に――作ることができなくなってしまったのですから。
と、いきなり主人公の存在価値にも関わる展開ですが、しかし冷静に考えてみれば、これまでも料理に関しては古今東西無双の知識を持っていたケン。
この窮地も、ある意味頓知めいた切り返しでシェフは続行するのですが、しかしその後も、これまで以上にバラエティに富んだ(?)事件がケンの周囲には起きます。
強欲な宋国商人との闘茶、歴史上名高い長政らの髑髏を前にした宴会、細川忠興と明智お玉の初対面……
硬軟取り混ぜた様々な事件が起きる中、これまで同様にその料理の腕で活躍するケンですが、その前に姿を現したのは意外な人物。
そう、それは彼やようこと同じ現代からタイムスリップしてきた男。そして彼のこの時代での名前は、果心居士……!
以前も述べたかもしれませんが、現代人が過去にタイムスリップする物語で、主人公と同時代人が、歴史上の人物の名を名乗って登場するというのは、ある意味定番の展開ではあります。
それが歴史上の怪人物や悪名高き人物である場合も少なくありませんが、なるほど、ここで果心居士をこう使ってきたか! と感心いたしました。
(そしてこの「果心居士」、ケンとは同僚であれど料理人ではないという設定のひねりも面白い)
元々の性格もありましょうが、記憶喪失となったことで、比較的ニュートラルな視点でこの時代と接してきたケン。現代とはあまりに異なる時代の暴力性に翻弄されてきたようこ。
そして第三の現代人たる「果心居士」の行動原理は……
この巻のラストでは、彼の意味深な行動が描かれますが、これがもしかしてあの人物を動かし、あの事件に繋がっていくのか?
来たるべき1582年は先のことではありますが、ケンの、そして信長の人生はまだまだ波乱含みであります。
……とこの巻を楽しみつつも、ケンの西洋料理封印、半ば伝説である果心居士の登場と、物語の方向性が少々変わったように思いきや、10巻まで原作を担当し、その後もこの巻まで料理監修を担当した西村ミツルが、ここで完全に本作から離れるとのこと。
さて、これが物語にどのように影響するのか……少なくとも作品の空気が変わってきたことは伝わってきただけに、気になるところではあります。
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