『十 忍法魔界転生』第6巻 決闘第一番 十兵衛vs魔界転生衆 坊太郎
さて長きに渡り描かれてきた敵の編成も終わり、ゲームのルールも設定されて、ようやくというかいよいよ本当の戦いが始まった『十 忍法魔界転生』。十兵衛と魔界転生衆の死闘旅、第一戦の相手は田宮坊太郎であります。
紀州藩主・徳川頼宣に取り憑き、幕府転覆の陰謀を企む森宗意軒と魔界転生衆。
命がけでその存在を知った三人の達人の願いを受けた柳生十兵衛は、彼らの娘たちの仇討ちを名目に、彼ら魔界転生衆を、余人を交えぬ戦いの場に引き入れます。
一方の魔界転生衆にとって、十兵衛は自分たちの側に引き入れるべき男。そして自分たちの腕を存分に振るうためにも、一対一の戦いは願ってもない形であります。
かくて、西国三十三ヶ所巡りの巡礼として旅立った十兵衛と三人娘とその弟、それと柳生十人衆の一行ですが――
と、西国第一番札所・那智山青岸渡寺で始まる第一戦。そこで待ち受けるのは田宮坊太郎であります。
この坊太郎、若年ながら――と、既に亡くなった人間に対して使うのもおかしな話ですが――抜刀術の達人にして、十兵衛の弟子とも言える男。
こうして設定を見てみると、魔界転生衆の――十兵衛たちにとっては未だ本物の剣豪たちであるかどうかわからない状況での――一番手として相応しい相手と感じます。
そんな坊太郎との対決の場となるのは、青岸渡寺の石段という変則的なステージ。そこで十兵衛が、坊太郎が、三人娘が、十人衆が、如何に動くか……は詳しくは述べません。
しかし、これまでの前哨戦の長さに比べると相当に短い分量ながら、密度の濃い一戦であることは間違いありません。
特に感心させられたのは、直接ぶつかり合う十兵衛と坊太郎はもちろんのこと、三人娘と十人衆にも見せ場がある点で、これから続く死闘のいわばチュートリアル的な内容になっている……というのはちょっとおかしな表現かもしれませんが、この物語において、それぞれがどのような立場にあるか、ここできっちりと見せてくれたことに今更ながら気づき、感心した次第です。
(特に十人衆の二つの役目がはっきりと示されていたと言いましょうか……)
そしてこの巻の後半で描かれるのは、もう一人の刺客ともいうべきクララお品の十兵衛一行への接近。
この作者にしてはかなり露骨な姿で早速迫ってくるお品に対し、十兵衛が見せる優しさの描写も良くで、硬軟巧みに取り混ぜてきた、という印象であります。
そしてこの巻のラストには次なる刺客が登場……この先、読んでいるこちらも、一時たりとも気が抜けません。
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