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2015.02.09

『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(その一) 定家、古今伝授に挑む

 宮中が政争で揺れる中、藤原定家は父・俊成から「古今伝授」の資格を確かめる三種の御題を出される。しかし俊成は何者かに誘拐され、救出のために定家は御題解読を強いられることに。美貌で毒舌の僧侶・長覚、石清水八幡宮の別当の子・潮丸の力を借り、謎に挑む定家の知った真実とは……

 これまでもこのブログで様々な作品を取り上げてきたように、歴史ミステリ、それも有名人探偵ものは、私の大好きな(サブ)ジャンルであります。
 そして本作もそうした作品の一つ、かの歌人・藤原定家が、古今伝授の謎解きに挑むという、大いに興味をそそられる内容であります。

 藤原定家といえば、現代にまで残る「新古今和歌集」、「新勅撰和歌集」を編纂した高名な歌人。そして古今伝授は、「古今和歌集」を解釈する上での秘伝の伝授……教科書的に捉えれば、そうなります。

 しかし定家は歌人だけではなく、朝廷に仕えた貴族――今で言えば政治家。当時朝廷で大きな勢力を持っていた九条家の家宰的な立場で、風雅の世界とは対極にある、生臭い政界のまっただ中にいたとも言えるのです。
 そして古今伝授は(当たり前といえば当たり前ですが)今なお謎多きもの。歴史の表舞台に出てくるのは、本作よりももう少し後の時代かと思いますが、それだけにこの時代には、より原型に近いものがあるのではないか……そんな想像を掻き立てられるのです。

 それ故というべきか、本作における定家の探索行も、風雅の道を究める、という行為に留まりません。

 本作の背景となるのは、鎌倉幕府が出来たばかりの頃、朝廷を揺るがした建久七年の政変――当時の権力者であり、定家が仕えた九条兼実が宮中を追われ、幕府と結んだ源通親が権力を手中に収めた事件です。
 兼実側が復権を狙い、通親側が権力を盤石のものとしようとする中、その真っ只中に現れたのが古今伝授。何と古今伝授は歌道の秘伝にとどまらず、天下の行方にまつわる重要な情報が含まれているというのです。

 当代の伝授者である父・俊成から、にわかに重要な意味を持つこととなったこの古今伝授を行うと告げられた定家ですが、しかしそのためには、謎めいた三つの謎を解かなければなりません。
 しかも定家が謎を前に悩んでいる中、俊成は何者かに拉致され、その身と引き替えに伝授の秘密を要求されることに――

 かくて歌人として、政治家として、そして人の子として……三つの立場から何としても古今伝授の謎を解き明かさねばならなくなった定家ですが、秘伝だけあってあまりにも謎は手強い。そこで定家の前に頼もしい(?)仲間たちが現れることとなります。
 それがかの悪左府・藤原頼長の孫であり、輝くような美貌と明晰な知性を持ちながら、毒舌で人付き合いの悪い怪人物・長覚。本作の探偵役であります。


 おや、探偵役は定家では……というところで、長くなりましたので次回に続きます。


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藤原定家●謎合秘帖 幻の神器 (角川文庫)

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