『ゴールデンカムイ』第2巻 アイヌの人々と強大な敵たちと
第1巻が発売されるなり話題沸騰、もちろん私も大ファンの『ゴールデンカムイ』待望の第2巻であります。北海道を舞台に、その規模8億円とも言われるアイヌの黄金を巡り、不死身の軍人崩れとアイヌの少女が繰り広げる冒険譚は、この巻でも絶好調であります。
日露戦争での活躍から、不死身の異名を持つ青年・杉元。ある目的から一攫千金を夢見て北海道に渡り、そこである男が奪い、秘匿したという莫大なアイヌの黄金の存在を知った彼は、その騒動で父を殺されたというアイヌの少女・アシリパとともに黄金の行方を追うことになります。
しかし黄金の在処が記されたのは、網走刑務所に収監されていた囚人たちの体に彫られた刺青、それも一人や二人ではきかぬ人数、しかも彼らは脱走し、広大な北海道に潜伏中。
それでも粘り強く彼らを追う杉元とアシリパのコンビですが、しかしその前には同じく黄金を追う強敵が……
というわけで、基本設定の紹介といった趣であった第1巻に比べ、少し余裕を持って展開される印象もあるこの第2巻。中心となるのは、アシリパに案内されて彼女の村を訪れた杉元が目の当たりにするアイヌの暮らしであります。
知っているようでいて、ほとんど全く我々が知らないアイヌの世界。彼らが何処に暮らし、何を食べ、何を信じて生きてきたのか……第1巻の時点で、その数々を丹念に、そして分かり易く描いてきた本作ですが、この巻ではそれがさらにパワーアップしています。
「カムイ」の概念とそれとの接し方のほうに、彼らの信仰の、生活の根幹にあるものから、厄除けのために子供時代に付けられる名前のような何ともユニークなものまで、ただただ感心させられるばかり。
アイヌへの言われなき差別・搾取が横行していた当時としては破格ではないかと感じられる杉元のニュートラルな視線、一方で伝統を重んじつつもそれに縛られず、新たな考え方も持つアシリパの語りと、不自然にならない範囲で現代の我々にも共感できる形での描写には、感心させられます。
そして、杉元がアイヌの言葉を解さない(アシリパが通訳になっている)という設定が、硬軟織り交ぜて物語と有機的に絡んでくるのもまた、うまい、としか言いようがありません。(絶対イイことを言っているな、と思わせるアシリパの祖母の言葉の意味が、最後に示されるのがまた心憎い)
また、もう一つ見逃せないのは、第1巻でも評判だったアイヌの料理。この巻でもふんだんに描かれるその食事シーンは、生唾ものの魅力たっぷりであると同時に、アイヌの人々の生活、そして価値観の象徴として、重要な意味を持つものでありましょう。
……と書けば、何やら平和な展開ばかりに見えるかもしれませんが、もちろんさにあらず。この巻で杉元が本格的に対峙することとなるのは、最強を謳われる北の帝国陸軍第七師団、その中でも奇怪なカリスマと狂気を怪人・鶴見中尉率いる部隊。
日露戦争で頭蓋の一部を欠損し、半面を仮面で覆っているという、見るからに怪しげな鶴見ですが、自らの行動の障害になるものは容赦なく痛めつけ、排除する姿は、軍人の一側面の象徴――そしてもちろんその反対側の象徴が杉元なのですが――と言えるでしょう。
しかしそれだけでなく、彼の一見異常な野望の根底にあるものは、報われぬまま散っていった同志への鎮魂という目的というのがまた面白い。
鶴見に限らず、彼の部下たちもまた、事に当たっては異常に冷徹な行動を見せながらも、しかしその中に彼らなりの行動原理、人間性を見せるのがいいのです。
敵のための敵、単なる障害物ではなく、血の通った存在として彼らを描いてみせるのは、本作の、シンプルではあるものの、ツボを押さえた人物描写によるものであり――そしてそれは彼らだけでなく、杉元やアシリパ、あるいは彼らが旅の途中で接する人々にも共通するものであります。
そしてそれこそが、本作を単なる殺人ゲームではなく、殺伐としているようでいてむしろどこか爽やかさすら感じさせる冒険活劇として成立させているのでしょう。
そしてまた、その本作流の描写で描かれる老土方歳三(!)がまた実に格好良く……囚人サイドの将とも言うべき彼の出番はまだごくわずかなのですが、これからの活躍には否応なしに期待させられてしまうのです。
舞台も、登場人物も、もちろん物語も(そして食べ物も)魅力だらけの本作。杉元大ピンチの場面で続いているからというだけでなく、続きが一刻も早く読みたいと思わされるのも無理のないことなのであります。
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