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2015.03.11

『天威無法 武蔵坊弁慶』第4巻 二人の過去と求める力、そして真の旅の始まり

 荒ぶる巨人・鬼若(武蔵坊弁慶)と、復讐の貴公子・義経による奇想天外な源平合戦記『天威無法 武蔵坊弁慶』、待望の第4巻であります。怪人・鬼一法眼と、彼のもたらした伝説の兵法書・六韜の登場により戦いはいよいよ本格化、その中で鬼若と義経、それぞれの秘められた過去が語られることに……

 清盛のもとに厳重な警戒の下、捕らえられていた法眼。叔父の清盛打倒をもくろむ御曹司・教経とともに法眼と対面した鬼若は、やはり潜入してきた義経・遮那兄妹とともに、六韜の存在を聞かされることとなります。

 かつて宋に渡った法眼。かの地で皇帝から与えられた全六巻の六韜は、一つ一つが超常の力を、才を持ち主に与える恐るべき秘伝でありました。
 そして六韜の各巻は日本において散逸し、それぞれ清盛、後白河院、木曾義仲、源頼朝、藤原秀衡が手にすることに……

 と、これまでの比較的抑えめの展開を一気に覆すかのような一大伝奇展開、巻物争奪戦に突入……する前に、この巻で語られるのは、法眼と鬼若、鬼若と義経の数奇な縁の物語であります。

 法眼が六韜を持ち帰った際に託された異国の女。術により三年もの間、己の腹に赤子を宿し続けた彼女は、皇帝から追っ手をかけられるような存在でありました。
 彼女を守り、日本まで追いかけてきた刺客たちと死闘を繰り広げる法眼ですが、しかし多勢に無勢、ついに術が解け、さらに凶刃に貫かれた女の腹から現れたのは、そう……
(ちなみにこのくだりに登場する若き法然の異常な武闘派っぷりが最高)

 一方、幼い頃に父・義朝を失い、妹とともに逃避行を続けながらも、ついに清盛に捕らえられてしまった少年義経。
 彼の前に現れた清盛が義経に見せたのは、六韜の一巻により彼が手にした異常な人身掌握術と、その力であられもない姿を晒す母。そしてそれなど比べものにならぬほどの人間悪が凝ったかのような地獄絵図――


 その辿ってきたところは全く異なるとはいえ、共に幼い頃から修羅の巷に叩き込まれ、這いずるように生きてきた鬼若と義経。
 そんな二人の過去に思わぬ接点があり、それが再び運命として交わるというのは、定番ながらやはり大いに盛り上がる展開であります。

 しかしそれ以上に印象に残るのは、強大すぎる力である六韜を前にしての二人の対照的な態度でありましょう。そう、己の復讐のための力として、六韜を求める義経。それに対し、六韜の力を外道のものとして己が――そして義経が持つことを拒む鬼若と……

 これまで鬼若は、ただ強さを求め、その旅の中で、清盛の持つ己の持つそれと異なる強さにも興味を持ってきました。その彼が六韜という強さの淵源を拒否したということは、これまでの彼が旅の中で目の当たりにしてきたこと、そして己のルーツを知ったことの結果でありましょう。
 そしてそれはこれまで生きる目的を持たず、その力を持て余してきた彼が、初めて己の強さを用いる道を見いだしたということでもあります。

 この巻のラストで、鬼若がついに新たな名を得たことは、言うまでもなくその象徴でありましょう。

 そして新たな旅に踏み出した義経と遮那、そして鬼若いや弁慶。外道の力ではない本当の力を目指し――これからが真の旅の始まりであります。


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