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2015.03.28

『宇喜多の捨て嫁』(その一) イメージに忠実な梟雄伝……?

 表題作でオール讀物新人賞を受賞、そして昨年下期の直木賞ノミネートと、実に輝かしい経歴の本作。しかし、そこで展開されるのは、どこまでも恐ろしく、暗鬱な物語――それもそのはず、本作の中心となるのは、戦国時代の大悪人として今なお知られる、宇喜多直家なのですから。

 戦国時代後期に、備前・美作・播磨で覇を唱え、その子・秀家に続く宇喜多家の隆盛を、ほとんど彼一代で成し遂げた直家ですが――しかしその人生は裏切りと謀略、暗殺の連続として名高いもの。
 特に自らの妻の父である中山信正を討ち、さらにその後娘たちが嫁した先も容赦なく攻め滅ぼしていった様は、後に旧主である浦上宗景を追放して備前を奪ったこと以上に、彼にネガティブな印象を与えています。

 さて、本作の表題作となっているのはまさにその娘の一人、四女の於葉の目から見た直家の物語。
 これまでこれまで母が、姉たちが父の覇業の犠牲となってきた様を目の当たりにして父に強い反発を感じながらも、父の決めるままに美作の後藤勝基のもとに嫁入りすることとなった於葉。
 そんな彼女を、後藤家の嫁取奉行は、彼女を「捨て嫁」と――暗殺・謀略を繰り返す彼女の父・宇喜多直家にとって、彼女は捨て駒ならぬ捨て嫁だと――嘲ります。

 その屈辱に耐えつつも、「その時」には父を討つ覚悟で嫁した於葉は、幸いにも優しい夫に迎えられて幸せな暮らしを送ることとなります。
 しかしそれもつかの間、やはり不穏な動きを見せる直家。しかもその中で浮かび上がった後藤家中の内通者は、意外な人物でありました。後藤家の人間として、ある覚悟を決める於葉ですが……

 「捨て嫁」というシンプルかつ残酷なキーワードで、一瞬にして作品世界にこちらをのめり込ませておきつつも、さらにそこから二転三転する残酷な権謀術数の世界を――それもある意味ピュアなヒロインの眼を通じて――この作品は、確かに高い評価もむべなるかな、と感じます。


 しかし個人的には、この作品のみでは、あまりノることができなかった……というのも正直なところ。それは簡単に言ってしまえば、ここで描かれる直家像が、あまりに通俗的に感じられたためであります。

 上で述べたとおり、希代の悪人、乱世の梟雄として知られる直家。表題作で描かれる直家は、確かにそのイメージに忠実であります。
 いや、忠実に過ぎると申せましょうか――最近の研究では、家臣や領民にはそれなりに慕われていたなど、それ以外の側面もうかがえる人物だけに、梟雄という点のみを、これでもか、とクローズアップする内容に、単純な割り切りのようなものを感じてしまったのであります。
(戦場では般若の面をかぶり、そして体中から血膿をまき散らす業病を背負うというキャラ造形もまた、その印象を強めます)


 が……もちろんそれが、恥ずかしながら私のあまりに浅薄な思いこみであったことは言うまでもありません。
 表題作のほか、本作を構成する5つの短編――時代と視点を融通無碍に変えながら展開していく物語の中に描かれるのは、そうした、ほとんど超人的な梟雄たる直家の中の、「人間」の部分なのですから……

 以下、長くなりますので次回に続きます。


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宇喜多の捨て嫁

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