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2015.03.24

『妖草師 人斬り草』(その一) 奇怪なる妖草との対決、ふたたび

 常世に育ち、人の心を苗床に現世に芽吹く異界の草花・妖草を刈る妖草師の戦いを描くシリーズ、待望の第2弾であります。長編の前作に対し、本作は短編集。しかしシリーズとしての魅力は、本作も変わるところはありません。

 常世――「向こう側」の世界という出自に相応しく、この世のものならざる生命と能力を持つ妖草。人の強い想い、特にネガティブな感情に反応して、古来から現世に出現したこの妖草に挑んできたのが、妖草師と呼ばれる人々であります。
 江戸時代中期を舞台とする本作の主人公・庭田重奈雄もその一人。公家に生まれながらも故あって放蕩に身を持ち崩し、家を追われて今は京の町屋で植物医を表の生業とする青年であります。

 そんな彼の周囲に集まるのは、花道・池坊宗家の娘にして妖気を察知する天眼通の持ち主・椿や、後に大画家として名を挙げる変人絵師・曾我蕭伯、ある事件がきっかけで彼らの知己となった池大雅といった面々。
 その池大雅の家に現れた妖草退治をきっかけに、京の闇で暗躍する邪悪な妖草師と重奈雄の戦いは、江戸の紀州藩邸を舞台とした壮絶な死闘にまで発展し――というのがシリーズ第1作『妖草師』の物語ですが、本作はその直後から始まる5つの物語が収録されております。

 京の名刹・養源院の住職の夢に毎夜現れる奇怪な入道に、江戸から帰還した重奈雄が挑む『柿入道』
 山村の田に現れた瑞草と妖草、二つの存在に若き日の伊藤若冲が絡む『若冲という男』
 京で姿を消し、一瞬のうちに江戸に現れた少女と出会った平賀源内が妖草騒動に巻き込まれる『夜の梅』
 文覚ゆかりの神護寺の紅葉に紛れて人を襲う吸血植物に襲われた与謝蕪村と重奈雄らの出会い『文覚の袈裟』
 拷問によって無実の人々を罪に陥れてきた西町奉行所に生まれた恐るべき人斬り草と重奈雄・蕭伯の死闘を描く『西町奉行』

 以前、『伊藤若冲、妖草師に遭う』のタイトルで『読楽』誌に掲載された第2話のほかは、いずれも書き下ろしの作品であります。


 さて、本作の魅力は、まずはその妖草たちの奇怪な存在にあることは言うまでもありません。

 物理な脅威であるだけでなく、時に魔力としかいいようのない力を持ち、獲物を求めて自在に移動すらする……
 一つところから動かず、光や水を糧に静かに生きるという植物という存在に対する我々の思い込みとは正反対の性質を持つ妖草・妖木たちの思い切った奇怪さ・恐ろしさは、むしろ爽快さすら感じさせるものがあります。

 そしてそれに抗する重奈雄の武器もまた、様々な能力を持つ妖草である、という、一種の使役バトルとも言える要素もまた、バリエーション豊かな戦いを展開してくれるのが嬉しいところであります。

 しかし――本作の魅力はそれに留まりません。それは……長くなるので次回に続きます。


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