『戦国武将列伝』2015年6月号(その一) 天下一の男、舞う
早いものでもう偶数月の月末、『戦国武将列伝』の最新号が発売されました。巻頭に美樹本晴彦によるピンナップが掲載され、新連載はあさりよしとおと、時代劇画誌離れした角度から攻めてくる雑誌ですが、連載作品の方も、相変わらず攻めまくり。今回も、印象に残った作品を取り上げます。
『セキガハラ』(長谷川哲也)
前回、徳川四天王の二人にほとんど手も足も出ずに壊滅状態となった反徳川勢。片手を落とされた三成……は意外とあっさりと回復したものの、仲間を増やさなければ勝ち目はない。
というわけでおそらくはこの先数回は仲間探し、味方を増やすターンになるのではないかと思いますが、その最初に登場するのが小早川秀秋というのが(良い意味で)頭を抱えたくなります。
気弱で優柔不断な若造、という印象が強い秀秋ですが、本作では、人は皆ペルソナをつけていると自らの本心を韜晦する食えない青年として描かれており、三成と家康を天秤にかけるそぶりすらあるのが面白い。
一方でやはり初登場の毛利輝元も、茫洋とした見かけながら、家康の変身、いや変心を一発で見抜く慧眼ぶりで、こちらはまだ三成と絡んでいないものの、この先の動きが楽しみであることは間違いありません。
『バイラリン 真田幸村』(かわのいちろう)
こちらは一足お先に関ヶ原が開戦した連載第2回、今回描かれるのは、真田家が石田方と徳川方、それぞれに分かれることとなる有名なエピソードですが……しかし本作のフィルターを通せば、幸村の得体の知れなさが強く浮かび上がります。
徳川方に兄・信之が、そして石田方に父・昌幸と幸村に分かれることとなった真田家ですが、それを積極的に仕掛けたのは幸村(それに嬉々として乗る昌幸もまた「らしい」ですが)。
一度は激突を避けようとした徳川方を、あえて引き戻すような形で戦いに引っ張り込む姿は狂気すら感じさせるもので、単純な英傑として幸村を描かないのが実に面白いのであります。
作者お得意のアクションシーンは、今回は少ないのですが、それが意外な対戦カードで描かれるのも嬉しく、まったく、幸村の頭の中同様、何が飛び出してくるかわからない作品であります。
『山三の舞』(下元ちえ)
『かぶき姫 天下一の女』で出雲阿国の半生を新鮮かつ痛快に描いた作者の本誌初登場は、そのアナザーバージョンとも言うべき短編。タイトルからわかるように、阿国といえばこの人、名古屋山三郎の傾きぶりを描く作品であります。
その奔放無頼の傾きぶりから、京の町で傾き者集団はおろか、所司代の軍勢からも狙われる山三郎。そんな彼の前に現れた弟子入り志願の少女・阿国に対して彼が語った傾き者の在り方とは……
権門の気まぐれで、舞うことも――いや、生きることすらも左右される芸人という身分に生まれ、死んでいった仲間たちの想いを背負っているという阿国。
『かぶき姫 天下一の女』では、天下一という称号を巡り、自分が何のために舞うのかということに迷い悩んだ彼女。本作においてはそれと少々異なる切り口ではありますが、やはりその根にあるものは同様でありましょう。
しかしそれに対する山三郎の答えは、ある意味意外でありつつ、しかし正鵠を射たものであり――かつ、何よりも痛快であります。
新鮮な感性と、それを受け止める画の巧みさがある作者だけに、またの登場を大いに期待する次第です。
以下、長くなりますので次回に続きます。
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