野田サトル『ゴールデンカムイ』第3巻 新たなる敵と古き妄執
第1・2巻が連続刊行され、少し間が空いてやきもきさせられていた『ゴールデンカムイ』、待ちに待った第3巻の発売であります。アイヌの黄金争奪戦はいよいよ白熱、仲間たちの助けで窮地を脱した不死身の杉元の前に、新たな強敵が――それも個性の固まりのような相手が――現れることとなります。
謎の凶悪犯が秘匿したという莫大なアイヌの黄金を追い、その在処を記した刺青を掘られた脱獄囚たちを追う、日露戦争帰りの不死身の好漢・杉元と、アイヌの少女・アシリパの凸凹コンビ。
しかし黄金を狙うのは彼らのみではありません。自らも脱獄囚の一人である、実は生きていた土方歳三。そして怪軍人・鶴見中尉率いる最強の帝国陸軍第七師団……
それぞれが血眼で脱獄囚(の刺青人皮)を探す中、単独行動していたところを鶴見中尉に捕らわれた杉元が激しい拷問を受ける中、アシリパは味方につけた脱獄囚の一人、脱獄王こと白石とともに救出に向かうことになります。
というわけでこの巻の冒頭で描かれるのは、この救出劇の模様。これまでほとんど二人で行動してきた杉元とアシリパが引き離された中、それぞれがどのように窮地を脱するのか……
それ自体、敵方も含めてそれぞれのキャラクターに見せ場がある、なかなかに読み応えがある展開なのですが(特に自分の命がかかった時の杉元の思い切りの良さ、容赦のなさにはただ感心)、個人的により印象に残ったのは、その後であります。
捕らえられたことよりも、(その身を慮ったとはいえ)杉元が相棒の自分を信じず単独行動を取ったことを怒るアシリパ。ギクシャクした二人の「和解」の象徴となったのは、何とあの――
お互いの民族に対して偏見はないものの、しかしそれでも拭えぬ違和感はどうしても存在していた二人。これまで散々にギャグのネタとなってきたその一つを、ここで乗り越ええることによって、二人が相棒の絆をより強いものとしたというのが、何とも心憎いのであります。
しかしそれも束の間、白石も含めた三人、そしてアシリパの連れる狼・レタラの前に新たなる敵が登場することとなります。
第2巻でアシリパたちと対決した鶴見の配下にしてマタギ出身の男・谷垣・。優れた狩人である彼ですら及ばぬ伝説の狩人、これまで夥しい数の熊を葬ってきた男・二瓶鉄造が、杉元たちの前に立ち塞がるのであります。
この二瓶がまた、発する言葉の一つ一つが名台詞――にしては問題のある発言ばかりではありますが――と言いたくなるような、強烈なキャラクターの男。
狩人として強く太い自我を持ち、その命ずるがままに戦いを挑む……本作に登場するキャラクターは、いずれも単純に善悪では割り切れない、強固な自我を――言い換えれば戦う理由を持つ者ばかりですが、彼もまたその一人なのであります。
対する杉元は、兵士……というよりサバイバーとしては最強クラスながら、どこか「命」に対して優しさが抜けぬ男。
己の身を守るために他者の「命」を奪ってきた者と、己が生きるために他者の「命」を奪ってきた者――似て非なる生き方を背負う二人の対決の行方が、気にならないわけがありません。
そしてもう一人気になるといえば、堂々この巻の表紙を飾った土方歳三。これまでは顔見せ的な出番だったものが、今回ついに本格的な動きを見せることとなるのですが……
老いてなお全盛期と変わらぬ苛烈さを見せるその姿は、まさに「鬼の副長」というほかなく、彼がその後も生き残っていたら、というこちらの期待に応えるような存在感であります。
その一方で、彼が呟いた言葉の中に、彼の「副長」としての妄執を感じさせるのも見事で、この点も含め、彼がこの先の物語において、台風の目になるであろうことは、間違いありますまい。
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