唐々煙『煉獄に笑う』第3巻 二人の真意、二人の笑う理由
先日は後日譚というべき外伝を紹介しましたが、『曇天に笑う』の過去編である『煉獄に笑う』も絶好調。非常に密度の濃い展開のため、もう4,5巻は展開されている印象ですが単行本はまだ3巻。この巻では、伊賀の百地一派と曇姉弟、そして石田佐吉との戦いが本格的に動き出すこととなります。
大蛇の存在に繋がるという謎の「髑髏鬼灯」を巡り、いよいよ激化する諸勢力の争い。
国友での騒動を何とか収めた石田佐吉は、髑髏鬼灯に最も近いと思われる曇神社の双子の謎を追うのですが……そこに割って入る形となったのは、伊賀の上忍・百地丹波に率いられる一派でありました。
伊賀に囚われて凄絶な拷問を受ける曇姉弟の姉・阿国。
その阿国を救い出すついでに伊賀を見物してこようと嘯く弟・芭恋と、彼に無理矢理同行する佐吉。思わぬコンビ結成となった芭恋と佐吉の前に、妖忍・百地丹波と、その下の八人の達人・百地八咫烏が立ち塞がるのですが――
と、基本的には前巻の終盤から引き続くバトル展開なのですが、しかしそこに絡んでくる要素が多く、そしてその内容もとにかく濃いのであります。
未だに正体不明の髑髏鬼灯に、いよいよこの時代でも問題となり始めた大蛇の器の謎。曇クロニクル常連ともいうべきあの人物に、石田と言えば……と、新キャラクターの登場(第1話ラストでこちらの胸をときめかせてくれたシルエットたちはこれで出揃った……?)
そして何よりも圧巻なのは、ついに語られる曇姉弟の行動の真意であります。
後世では近江を護る者として周囲から親しまれ、敬愛されている曇神社の人々。しかし本作の阿国・芭恋姉弟は、住民たちからは差別と悪意の対象とされ、そして本人たちもまた、それをむしろ煽るかのような迷惑極まりない言動を繰り返す状況にあります。
このトリックスターめいた二人の態度はどこから来ているのか? それをついに佐吉は知ることになるのですが……
なるほど、と唸ると同時に天を仰ぎたくなるようなその内容を佐吉が知るのと並行して描かれる、伊賀で、近江で、阿国を、芭恋を追い詰めていく百地の奸計。
それに対して、阿国と芭恋が選んだ道とは、そして彼らにとっての「れんごく」とは――
いやはや、この巻のラストで描かれるものに対しては、もう涙しかありません。
それでいてさりげなく、しかしとんでもない秘密も明かされ(もっともこれはフェイクの可能性もありますが……)、引きとしては最高でありましょう。
それにしても、結末はある程度予告されていとはいえ、そこに至るまで何が描かれるのか、そしてどれだけの時間が必要とされるのか、まだまだ全くわかりません。
結末を早く読みたいような、読みたくないような――こんな気持ちになるのは、もう完全に本作に魅了されてしまったということなのでしょう。
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