原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第7巻 加速する現代の講談
さて、少年織田信長の大暴れを描く『いくさの子 織田三郎信長伝』の海賊編も、この第7巻でいよいよ佳境。伝説の秘石「光の天」を巡る争奪戦の最中、「海の伝説」の異名を取る怪海賊ジョゼ船長と信長の全面対決がいよいよ始まることとなります。
持つ者に己の未来を見せるという「光の天」。それを手にした者は天下をも握るという秘石を、今川義元が狙っていることを知った信長たちは、その秘石を運ぶジョゼ船長を狙います。
しかし相手は七つの海を股にかける名うての海賊、真っ正面からの力押しでは攻略不可能と知った信長は、なんと腹心の仲間たちとともに、奴隷に扮してジョゼ船長の船に潜入することに……!
と、破天荒もここに極まれり、と言いたくなるような信長の作戦ですが、その八方破れぶりは一周回って実に痛快。
確かに桶狭間以降の信長がこんな行動を取ったら(本作の場合、それも真剣にありそうなのが恐ろしいのですが)問題ですが、まあ、うつけ者時代の信長なら……と思わされるのが本作の底知れぬパワーであります。
この海賊編の敵役であり、その異常にテンションの高いキャラクターでもって、前巻では作品を乗っ取ってしまった感もあったジョゼ船長。
その怪人ぶりは相変わらず、誰か止めて下さい、という印象なのですが、さすがは主人公、信長が物語の上でも、テンションとビジュアルの上でも見事に止めてみせて、いや魅せてくれました。
強大な敵は内側から打ち崩すというのはこの手のお話では定番、それも、敵に虐げられた者たちを味方につけてというのも、また定番でありましょう。
そんな物語の定番をきっちりと押さえつつ、そこに古臭さを感じさせないのは、これはその定番を、男臭さや格好良さ、そしてテンションの高さで上書きしているからでありましょう。
そう、秘石奪取よりも奴隷解放を選び、自らの命を的にしての奇策で一発逆転してみせる信長の姿は、文句なしに主人公として格好良い。
その信長像こそは、これまで数多くのヒーローを描いてきた作者ならではのものでありましょう。
……が、それが何だか物理的な格好良さにまで具現化されて、作中の登場人物までそれに感動するようになると、面白いは本当に面白いのですが、何やら雲行きが怪しくなってきます。
実際のところ、クライマックスの信長vsジョゼ船長は、信長のキメキメっぷり(これが実際に格好良いから困る。いや困らない)と、ジョゼ船長のテンションの高さが相まって、一種の異空間が発生しているやにも感じられてきます。
あまりこうした比較は好きではないのですが、この過剰なキャラクター性とビジュアル的なインパクトによる演出感覚は、戦国ものアクションゲームのそれ的なものが……
と感じたところで、それらのゲームのイメージソースの一つに、作者の『花の慶次』があるであろうことを思えば、それはむしろ当然の帰結なのかもしれない、と気付きましたが。
話が二転三転してしまいましたが、一つの物語としての長所と短所が同時に存在しているような本作の最近の展開は、しかし連載漫画ならではの一種のドライブ感覚が発生しているようで、個人的には好ましいところであります。
物語を語る者と、それを受け止める者のテンションが相乗して、どんどんと物語が加速していく――
そんな本作は、かつて数多くの英雄豪傑譚を生み出してきた講談を、現代にアップデートしたものなのかもしれない……そんな想いすら浮かぶのであります。
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