『お江戸ねこぱんち』第十二号 猫時代漫画誌、半年ぶりのお目見え
実に半年ぶりの発売となった『お江戸ねこぱんち』。間に『江戸ぱんち』が挟まっていたため、言われてみれば、という感はあるものの、やはり新作を読めるのは嬉しいもの。今回はTV時代劇『猫侍』の漫画版第2弾も掲載され、なかなかに賑やかであります。
さて、今回も個人的に印象に残った作品を挙げていくこととしましょう。
『猫暦』(ねこしみず美濃)
ほぼ一枚看板になった印象もある本作、司天台で己の夢に邁進する少女・おえいと、その許嫁を称する猫又のヤツメを中心に展開するのはいつも通りですが、今回はなかなかの急展開の印象であります。
前回、大奥に使いに出たおえいが出会った通詞の美女・七尾。実は正体不明の魔物、大奥で続発する神隠しの張本人である七尾に狙われながらも、ヤツメのおかげで難を逃れたおえいの前に、再び七尾が姿を見せることとなります。
人の世に魔が忍び込むという日蝕の中、おえいに迫る七尾。そしてクライマックスで明かされるその正体は……えっ。
と、驚かされること請け合いであります。
もしかすると(伝奇物語として)今後の物語に大きな大きな影響を与えるかもしれない今回の展開ですが、その一方で、七尾に何故女子の身で司天台にいるのかと問われた時のおえいの言葉が、宙に、星に夢を抱く者であれば涙ものの内容で、この辺りのうまさもさすがとしか言いようがありません。
『今宵も猫月夜』(須田翔子)
江戸に潜む悪を、魔を斬るリアル猫侍・眠夜月之進の活躍を描く連作シリーズ、今回は
そんな月之進の姿を見ることができる少年・セイ太を中心に展開する少々異色作。
実は月之進の姿は普通の人間には猫にしか見えず、侍姿に見えるのは、人ならぬ者に縁深い者のみ、という本作の基本設定。
では何故セイ太が月之進を見ることができるのか、そして彼と縁のある「人ならぬ者」とは……と、そこから一ひねりした展開がなかなかに面白いのであります。
個人的には、これくらいのことで……という印象はありますし、結末ですれ違いの姿をはっきりと描いても良かったのでは、と思ったりもするのですが、そこは好きずきでありましょう。
何よりも、本作ならではのユニークな設定と物語が噛み合った点は、評価できます。
『ねこみぶ』(宮川亜希子)
個人的には、今回、一番「やられた!」と思わされた作品
おそらくは今回が初登場の作者による、本作は、この雑誌には非常に珍しい、劇画タッチの絵柄で描かれる新選組ものなのですが……
実は本作はギャグ漫画。あの強面の武闘派集団新選組と猫が――という組み合わせだけでもう反則なのですが、ギャグのテンポがまた良いのです。
何と全3話構成の本作、非情の密偵・斎藤一の意外な素顔が見られる第2話、近藤勇の華麗な剣技(?)が堪能できる第3話も良いのですが、隊士が一堂に会しての評定の模様を描く第1話は、土方のツッコミも絶妙で、爆笑させていただきました。
優れたコメディアンは自分では笑わないもの、などと申しますが、それを地で行くような、大真面目で、大いにおかしい怪作です。
というわけで、3作品挙げさせていただきましたが、実際にはどの作品も水準以上の印象。最近『猫絵十兵衛』が掲載されなくなったのは残念ですが、それだけ作品が揃ってきたということなのでしょう。
ちなみにこの『お江戸ねこぱんち』誌、読者コーナーの投書を見ると、50代60代の女性(おそらく)の割合が非常に大きく(その一方で一桁の年齢の子供のイラストも混じっていたりして)、この辺りも大いに興味深いところであります。
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