野田サトル『ゴールデンカムイ』第4巻 彼らの狂気、彼らの人としての想い
蝦夷地のどこかに隠された莫大なアイヌの黄金を巡り、不死身の帰還兵とアイヌの少女、最強の北鎮部隊・第七師団、生きていた土方歳三率いる死刑囚集団が三つ巴の死闘を繰り広げる『ゴールデンカムイ』も、はや第4巻。脱獄囚の一人・二瓶との死闘に続き、物語は意外な方向に展開していくことに……
黄金の在処を記した刺青を持つ脱獄囚を追う杉元とアシリパ(と脱獄王・白石)の前に現れた新たなる敵・二瓶鉄蔵。
冬眠中の羆もうなされる、悪夢の熊撃ちと異名を持つ凄腕の猟師であり、独特の死生観を持つ彼は、逆にアシリパと行動を共にする狼・レタラを狙って行動を開始、ついに杉元と正面衝突することに……
と、いきなりクライマックスな第4巻ですが、物語はここから急展開。杉元とアシリパが彼女の故郷のコタンに滞在している最中、小樽の町では第七師団と土方の脱獄囚集団が激突。
脱獄中の身を感じさせぬあまりに派手な行動を見せる土方の真意はといえば……ああ、ここでも土方は土方でした。
第3巻の感想でも述べましたが、本作の土方は、「鬼の副長」がそのまま年を取ればこうなるであろう、と思わせるキャラクター造形。
つまりは冷徹さとカリスマ性に、さらに風格が加わった、一目で傑物と感じられる人物なのですが……そこに秘められた狂気がこの巻でも――新選組ファンにはぐっとくる形で――仄めかされるのがたまらないのであります。
しかしこの狂気、裏を返せば一種の人間性と言えるのではないかとすら感じられるのですが、その点は、この巻で初めて土方と対峙した第七師団を率いる鶴見中尉も同様でありましょう。
この巻の表紙を飾る彼の異様な風体、そして前巻で見せた奇怪な言動と裏腹に、改めて語られる彼の過去とその大望は、極めて人間的な想いに彩られているのであります。
そしてそれは彼らのみに限りません。その善悪はひとまず置いておくとして、本作の登場人物の一人一人は――漫画的な過剰、ディフォルメはあれど――それぞれに自らの想いを……言い換えれば行動の指針を持ち、そしてそれ故に実に人間臭い存在感を感じさせます。
身も蓋もない言い方をすれば、黄金を巡って人の生皮を剥ぐ争闘が繰り広げられる本作。しかしそれでも本作に不快感や嫌悪感がさまで感じられないのは、舞台・物語の妙や、時折挟まれるコミカルなシーンによるところもありますが、やはりこの登場人物たちの人間臭さに依るところが大きいのではないか……
改めてそう感じさせられた次第です。
が、その一方でいささか不満があるのも事実であります。確かに杉元とアシリパ、白石のコミカルなやりとりは一服の清涼剤でありますし、彼らの狩猟とその獲物によるアイヌ料理は、もはや本作には欠かせない要素ではありますが――
しかし(前の巻辺りからそのきらいはありましたが)この巻では明らかにそのバランスが突出していると申しましょうか、ストーリー展開のバランスを崩しているやに感じられるのです。
実際のところ、この巻で杉元とアシリパがメインのストーリーに絡むのはこの巻の冒頭とラスト程度、あとは別のキャラクターが物語を動かしている状態で――その分、白石がどんどんキャラ立ちしているのが痛快ですらあるのですが――さすがにちょっといかがなものかな、とは感じます。
この巻のラストでは新たな敵が、それも、これまでのそれとは全く別のベクトルで危険な敵が登場するのですが――さて、彼を向こうに回し、杉元がいかに戦うか。
まずはそこから彼の逆襲を期待したいところであります。
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