« 武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第5巻 激突! 突き抜けた力を持てる者 | トップページ | 和田はつ子『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が見える』 鬼と人の間に立つ者 »

2015.08.11

せがわまさき『十 忍法魔界転生』第7巻 決闘第二番 奇勝の空中戦!

 いよいよ始まった本当の戦い、我らが柳生十兵衛と七魔剣(単行本帯曰く)の死闘旅を描く『十 忍法魔界転生』第7巻の登場であります。前の巻で一番手の田宮坊太郎を下した十兵衛一行の前に出現したのは宝蔵院胤舜。言うまでもなく宝蔵院槍術の達人であります。

 紀伊徳川家に救った奇怪な魔物とも言うべき森宗意軒と七人の転生衆。
 その企みの全貌は知らぬものの、彼らを討ち、紀州を救うために立ち上がった十兵衛は、弟子の(自称)柳生十人衆、転生衆を仇とする三人娘とその弟・弥太郎、さらに途中で出会った娘・お品(実は十兵衛堕落を目論む肉の刺客・クララお品)と、見た目はにぎやかな一行で旅立つこととなります。

 その西国三十三ヶ所巡りのルートの途上で待ち受ける転生衆。十兵衛をも仲間に加えんとする彼らは、それぞれが十兵衛に少しずつ傷を与えることで、彼の心を折ろうとしていたのですが――一番手の坊太郎は敗れ、二番手の宝蔵院が登場! というところからこの巻は始まることとなります。

 ここで対決の場となったのは、熊野灘を望む奇勝・三段壁。岬の真ん中を深い谷が真っ二つに分けたかのような絶壁の上で、二人は激突することとなります。
 既に描かれたとおり、宝蔵院の得物は十文字槍、突くだけでなく、斬る、引っかけると自在の武器であり、何よりもその攻撃範囲は刀の比ではない――

 そんな得物を手にした達人を相手に十兵衛が如何に戦うか? それはここでは述べない……というより述べられない、まさに筆舌尽くしがたい、画を見てもらうしかないバトルなのですが、しかし本当のクライマックスはその先であります。
 戦いの末にその場を逃れんとする宝蔵院が、三段壁の亀裂の向こう側に跳び去らんとした時、繰り出されるは柳生十人衆必死の技。そしてそれを受けての十兵衛の離れ業は……

 いやはや、初めて原作を読んだ時から、この場面はビジュアルで見てみたい(一つにはあまりにも奇想天外で)と思いつつ、その後様々な形で映像化・漫画化された中でも、ビジュアル化されたことのなかった名場面。それがここまで見事に描かれたのですから、ファンとしては感涙ものであります。


 ……が、ここで小うるさいファンとしてやはりどうしても気になってしまったのは、宝蔵院のビジュアル。
 なんのつもりかリボン付きのおさげ二本に、ルーズソックスめいた臑当て、よく見れば水兵さん的な襟のついた着物と、奇っ怪千万であります。
(それだけで見れば十分おかしい十文字の眉のことを忘れるほどに……)

 それが身をよじらせるようなポーズで「恋心」云々と言い出すのは、もはや危険水域をとうに越えた感があって――転生後の変態いや変貌の描写として、わかりやすいのは承知の上ですが、ちょっとやりすぎではなかったかなあ……と、思ってしまったのでした。


 閑話休題、宝蔵院との対決が前半のクライマックスとすれば、後半のクライマックスは、お品を巡る虚々実々のやりとりであります。

 冒頭で述べたとおり、一種の刺客として十兵衛一行の懐に入ったお品。気の触れた娘を装っているのをいいことに、服を着ている場面の方が少ないのではないかという勢いで桃色空気を振りまく彼女ですが……十人衆はともかく、十兵衛はどこ吹く風といった態。
 それでもあられもない姿で誘ってくるお品を、人気のない場所に連れてきた十兵衛がとった行動とは――

 これまでも何度か述べてきたかと思いますが、一種ゲーム的な駆け引きがしばしば描かれる山風作品の中でも、「ゲームのルール」という章題がある通り、特にその要素が強く感じられる本作。
 ここで描かれる見事な一計もまた、その一つなのですが……

 しかし、単にやりとりの面白さだけではないのがこの漫画版。その仮の姿とは裏腹に、クララが折に触れて見せる、コケットなだけではない様々な表情は、これまでも実に魅力的だったのですが、今回描かれた喜怒哀楽は特に印象深く――
 そこにまた十兵衛が、男としてヒーローとして、格好いいとしか言いようのない姿を見せるのが作用して、この先のある展開を予感させてくれるのです。

 そして次なる転生衆は柳生如雲斎――十兵衛とは同門にして、最強を謳われた相手の登場に、まだまだ盛り上がる本作であります。


『十 忍法魔界転生』第7巻(せがわまさき&山田風太郎 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon
十 ~忍法魔界転生~(7) (ヤンマガKCスペシャル)


関連記事
 「十 忍法魔界転生」第1巻 剣豪たちを現代に甦らせる秘術としての作品
 「十 忍法魔界転生」第2巻 転生という誘惑の意味
 「十 忍法魔界転生」第3巻 故山の剣侠、ついに主人公登場!
 「十 忍法魔界転生」第4巻 贅沢すぎる前哨戦、老達人vs転生衆!
 『十 忍法魔界転生』第5巻 本戦開始直前、ゲームのルール定まる
 『十 忍法魔界転生』第6巻 決闘第一番 十兵衛vs魔界転生衆 坊太郎

|

« 武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第5巻 激突! 突き抜けた力を持てる者 | トップページ | 和田はつ子『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が見える』 鬼と人の間に立つ者 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: せがわまさき『十 忍法魔界転生』第7巻 決闘第二番 奇勝の空中戦!:

« 武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第5巻 激突! 突き抜けた力を持てる者 | トップページ | 和田はつ子『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が見える』 鬼と人の間に立つ者 »