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2015.09.27

會川昇『超人幻想 神化三六年』 超人を求める人々の物語

 もう一つの昭和、様々な超人たちが実在した世界の「神化」36年に起きた怪事件を描く物語――「ミステリ・マガジン」に『神化三六年のドゥマ』のタイトルで前半部分が掲載された作品が単行本化されました。10月放送開始のアニメ『コンクリート・レボルティオ』と世界観を一にする物語であります。

 かつて数々の超人が投入されたという戦争を乗り越え、「二度目の」オリンピックを控えて復興に邁進する東京。放送が開始されたばかりの勃興期にあるTV局でディレクターとして活躍する木更嘉津馬が自ら脚本を手がける生放送人形劇の放映寸前、スタジオで起きたトラブル――
 スタジオから奇妙な唸り声が聞こえ、その直後に元GHQの怪人物率いる男たちが乱入、放送を中止させようとしたのに対し、体を張って止めに入った嘉津馬が目撃したもの。それは二本足で立つ獣、その場にいるはずもない存在であり、その獣によって居合わせた人々は次々と殺害され、嘉津馬にもその鉤爪が振り下ろされることとなります。

 しかしその「次の瞬間」……気がつけば嘉津馬がいたのは生放送開始数十分前の時点。わけがわからないながらも何とかスタジオから人々を待避させて続く悲劇を回避した嘉津馬ですが、しかしそこに残ったのは幾多の謎であります。
 自ら「ドゥマ」と名乗った獣は何者で、どこから現れたのか。獣の出現を予期し、スタジオに現れた男たちは何者なのか。そして何よりも、「その瞬間」嘉津馬の身に何が起きたのか……友人のSF作家や密かに心を寄せる漫画家とともに謎を追う嘉津馬が知る、戦争中の闇の存在と、「超人」にまつわる真実。そして再び彼の身に危険が迫ったとき――


 様々な由来・能力を持つ「超人」が存在する(と言われている)ことを――そしてそれに伴う戦前戦中の様々な出来事を――除けば我々の生きてきた昭和とよく似た時代を舞台に描かれる本作。
 その設定から無理矢理にジャンル付けすれば歴史改変SF、あるいは時間SFとも呼べそうな内容の物語ですが、しかし謎だらけの事件に巻き込まれた主人公が、二転三転する状況の中で真相に一歩一歩迫っていく様は、なるほど冒頭に述べた前半部分の掲載誌に相応しい内容と申せましょう。

 そして嘉津馬が知る真相は、この世界に存在する超人たち――かつて確かに存在し、戦争に投入されながらも、戦中戦後の混乱期の中で姿を消した、いや消された超人たちの存在に密接に関わるもの。
 嘉津馬のような一般人たちの存在は簡単に吹き飛ばされてしまう、巨大なタブー、歴史の闇そのものとも言うべきその真相の重さ無惨さは、作者が脚本を担当したアニメ『UNーGO』にも通じる、やりきれぬものを感じさせるものですらあります。


 しかし、本作は決してそれだけに終わるものではありません。本作を本作たらしめる存在――「超人」は、一種の救いとしても存在しているのですから。

 常人を超える力を持ち、それ故に、時として常人を超える悲しみと苦しみを背負う超人。時の政府による、保護という名の隠蔽によって、その存在は常人の預かり知らぬ、一種の伝説と化している超人――
 本作の主人公・嘉津馬は、ある理由からそんな超人たちに心を寄せる人物であり……そして本作は、そんな彼の視点から、人は何故超人を求めるのか、すなわち人は何故「超人の物語」を描くのかを問い直す物語なのです。

 その「何故」の詳細について、ここではもちろん述べません。しかしそこにあるのは、この世に存在しないかもしれないモノを求める、切ないまでの人の想いであり、そしてそれを受け止め、力づけてくれる物語の力であるとだけ、述べることは許されるでしょう。
 そしてそれは、様々な作品の中で「ここではないどこか」を求める人の心(ちなみに作中には作者のコアなファンにはニヤリとできる小ネタが)を見つめ、そして現実と虚構のせめぎ合いの中で虚構の意味を描いてきた、作者ならではのものであり……そしてそれはこれまで同様、現実に生きる我々の心を強く打つのであります。

 現実は確かに厳しくままならぬものかもしれない。それでも……誰よりもその厳しさを知りつつも、その「それでも」の、「それでも」を求めることの尊さを描いてきた作者ならではの物語である本作。
 ウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊……これまでも様々な「超人」たちの物語を描いてきた作者なればこそ描ける「幻想」とそれを求める人々の物語であります。


 ちなみに、あくまでも地に足の着いた現実的視点から描かれた本作に比べ、ポップで華やかなPV等を見る限りでは、『コンクリート・レボルティオ』は大きく趣を異にするようにも感じられます。
 しかし作者がメインライターとして関わる以上、本作同様、そちらでも――また異なる形ではありましょうが――超人の存在を、超人の物語を求める人の心は描かれるのは間違いありますまい。それをこの目で確かめるのを、楽しみにしているところであります。


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