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2015.10.28

『牙狼 紅蓮ノ月』 第3話「呪詛」

 藤原道長の別邸で、呪詛の痕跡が見つかった。道長の命により次々と捕らわれていく巷の陰陽師たちの中には、星明も含まれていた。星明を救うため、雷吼と金時が別邸に潜入した時、道長は謎の男・芦屋道満と対面していた。事件の絡繰りを暴いた道満は、集められた呪物を用いて魔界への迎門を開く……

 前回は雷吼の過去の一端と戦う理由が描かれた本作、今回は魔戒法師・星明が物語の中心となりますが、それに留まらず、様々なキャラクターの背景が少しずつ語られていくこととなります。

 藤原道長の別邸で、池の置き石を舐めた犬が変死。その下から、何やら液体が入った土器が埋められていたのが見つかります(この液体、もう少しドロッとしていてもよかったのでは)
 大陰陽師・安倍晴明(はるあき)から、これが自分を狙った呪詛であると聞かされた道長は、検非違使たちに命じて、巷の陰陽師たちを残らず捕らえようとするのですが……

 と、宇治拾遺物語の逸話を題材としたと思しい今回のエピソード。そちらでは呪詛を仕掛けたのは芦屋道満ということになりますが、本作ではそれに一ひねりが加えられた物語が描かれることとなります。

 呪詛の疑いで捕らえられてしまった星明(しかし、家に居るときに魔法衣姿なのはいかがなものか)。実は彼女は安倍家の姫――晴明の孫娘・キヨメであることが判明します。道長の元で祖父と再会した星明ですが、何やら複雑な事情がある様子です。

 と、同じく捕まっていたのはあの顔面傷だらけの謎の男・芦屋道満。屋敷から新たに見つかったという呪物の山を見せる道長は、道満が道長の甥・藤原伊周に命じられてやったのだろうと問い詰めるのですが……しかし道満は、この一件が伊周を追い落とすための道長の自作自演であることを暴き立てます。
 そして実はわざと捕まっていた道満の目的こそは偽の呪物たち。政敵を追い落とすために数多くの陰陽師たちを巻き込んだ企みに用いられた呪物は、偽物ながら、人のネガティブな念・陰我が宿ったものでありました。

 この陰我を用い、道満がその場に魔界への扉・迎門(ゲート。苦しい!)を開いたことにより、次々と出現する素体炎羅。そして炎羅に取り憑かれた陰陽師たちが天狗状の炎羅に変化し、周囲は大混乱に陥るものの、そこに駆けつけたのは、星明を助けに入り込んでいた雷吼。

 道満を捕まえることよりも人々を護ることに拘る雷吼は星明の呪文により封印を解かれた黄金の鎧を装着(ここで炎羅に捕まった星明を晴明が助けるのは、お約束とはいえイイ)、まさしく鎧袖一触で炎羅たちを粉砕するのでありました。


 と、お話的には比較的あっさり目の印象もある今回ですが、先に触れた星明と晴明の関係のほかにも、様々な真実が明かされました。
 その一つが道満に関すること――前回、謎の老人・道魔法師と会話していた道満ですが、どうやら法師こそは先代の芦屋道満(道摩法師は元々は道満の異称と言われますが、本作では一ひねり加わっているのが面白い)。
 かつては安倍晴明とともに宮中に仕えていたとのことですが、さて彼らが何を目的に行動しているのかは未だ謎であります。

 また、物語冒頭から幾度か登場し、星明に目尻を下げていた若き武士・源頼信の存在も、徐々にクローズアップされてきた感があります。
 今回、星明を巡って雷吼と激突した頼信ですが、彼によれば、元々は黄金の鎧は源家に伝わるものとのこと。ここで史実に目をやれば、頼信は雷吼=頼光の弟であって、ああそういうことなのかな、思ってしまいますが、さて……

 そしてその雷吼も、番犬所や星明とは微妙に意識のすれ違いがあるのが気になるところ。
 人の世の理には関わらないという番犬所、炎羅を生み出す源となる道満を倒そうとする星明と異なり、人を護ることを目的に戦うという星明ですが――さて、彼の正義の在り方がどのように物語に影響を与えるのか、というのは別の作品っぽい話になりますが、この点がこの物語の焦点になるのではないか……と、なかなかに気になるところであります。

 あとはこれで画的にもう少し頑張ってくれれば、というのも正直なところではあるのですが――



関連記事
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 『牙狼 紅蓮ノ月』 第2話「縁刀」

関連サイト
 公式サイト

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