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2015.11.12

永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第14巻 人と猫股、男と女 それぞれの想い

 一巻紹介が飛んでしまいましたが、『猫絵十兵衛御伽草紙』も快調に巻を重ねて第十四巻。今回表紙を飾るのは、サブレギュラーの戯作者・濃野初風先生と、ちょっと意外なキャラの登板。愛猫の小春もしっかりと顔を出しているのが微笑ましいところであります(ちなみに折り込みのニタの着物の柄も良し)。

 さて、毎回読み切り形式の短編集スタイルの本作、この巻には全8話が収録されております。

 子供時代の西浦さんが魔風から猫たちを救うために奮戦する姿と、意外な出会いが描かれる『棒鼻猫』
 猫股坊主を助けるために一計を案じたお馴染み猫股三人組が繰り広げるドタバタ騒動『放生猫』
 最愛の妻に先立たれた植木屋が、妻の顔の菊人形を作るための下絵を十兵衛に依頼する『菊猫』
 下総の猫神に請われ、十兵衛とニタが眷属の猫股のうわなり打ちの立ち会い人となる『うわなり猫』
 新作執筆前にスランプに陥ってしまった濃野初風と愛猫の交流『嗄れ猫 弐』
 十玄先生のところに一気にやってきた子猫たちの世話で十玄はじめとする一門が振り回される『やんちゃん猫』
 大晦日、王子稲荷に急ぐ途中で神火を消してしまった狐のために十兵衛とニタが一肌脱ぐ『狐火星』
 猫丁長屋の魚屋・辰造が恋人が長年可愛がってきた年寄り猫猫に振り回される『姑猫』


 今回も人情話とファンタジー色の強い話がバランス良く入り交じっている印象ですが、今回特に印象に残ったのは、前後して収録された『菊猫』と『うわなり猫』でしょうか。

 片や、亡妻を思い続け、一度は絶望しながらも、菊人形に妻の姿を留めることで再起しようとする男の物語。
 片や、不実な男(猫股)に捨てられ悲しみにくれながらも、周囲の後押しでうわなり(後妻)打ちに加わったことで再起していく女(猫股)の物語――

 人間と猫股の違いはあれど、相手を想う気持ち、喪って悲しむ気持ちは同じ。そして、それぞれのエピソードに登場する男の有り様があまりにも正反対なのが(そしてそこに「花」がキーアイテムとして絡んでいるのが)何とも興味深く感じられたところです。

 そしてもう一編、こちらは思い切りお伽話めいた世界観が楽しかったのが『狐火星』。
 猫ならぬ狐がメインとなるエピソードですが、神火が消えてしまった狐が頼った相手というのがまたとんでもない大物で、この辺りのスケールの広がり方が、民話めいた野放図さなのが実に楽しい一編でした。


 それにしても本作もこの第十四巻で第九十二話まで収録。このペースで行けば、次の巻では第百話まで到達することになり、こちらも楽しみなことです。


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