『牙狼 紅蓮ノ月』 第5話「袴垂」
ふとした事件がきっかけで検非違使の藤原保昌と、彼に仕える放免の小袖と知り合った雷吼。小袖に惹かれる保昌だが、身分の差がそれを許すはずもなく周囲から猛反発を受ける。同じく保昌に惹かれていた小袖は、彼のことを思い自ら離れるが、身分を憎むその心の隙間に魔が忍び寄る……
今回のタイトルは「袴垂」。袴垂といえば、平安時代の伝説の盗賊・袴垂保輔が浮かびますが、袴垂はともかく、保輔――藤原保輔は実在の人物。藤原南家という名門の出でありながらも、盗賊に身を落とし、世間を騒がせたという人物です。
今回のメインとなるのは、その保輔と、彼に仕える放免の女性・小袖。放免というのは、一度罪を犯して捕らえられながらも、釈放(放免)された者を検非違使の手下として使っていたものであります。
正直に言って、放免に女性がいたという記録はないはずですが、まあいなかった、という記録もないということで、この世界ではいたと考えておくべきなのでしょう。
さて、ある晩、手に入れた里芋を暢気に愛でながら歩く雷吼がぶつかったのは、検非違使に追われる刃を持った男。この男を保輔と小袖が捕らえたことから、雷吼は二人と知り合うこととなります。
小袖の身分を知り、苦労があったのだなあと自然に言った雷吼の言葉に、二人に好感を抱くことになります。
さてその直後、小袖に小袖に髪飾り(お手製)をプレゼントする保輔。何ともぎこちない関係の二人ですが、言うまでもなく名門の御曹司と放免という身分では差がありすぎるわけで、不幸な予感がひしひしと……
と、兄の家に保輔が呼ばれていった後、夜道で星明と――彼女が餓死した死体の鉢を気に入って拾おうとしているところで――出会った小袖。今度は小袖の髪飾りに目を付けた星明ですが、小袖はここで思わぬ提案をするのでありました。
それは、自分に単衣(ここでは貴族の女性の衣装、という意でしょう)に着せてくれたら髪飾りを星明に譲るというもの。もちろん星明にしてみればそんなことはお手の物、翌日、牛車に乗せて単衣をまとった小袖と町に出る声明ですが……しかしそれがやはり自分にとって分不相応と悟った小袖は、星明に髪飾りを譲るのでありました。
その頃、保輔は雷吼のもとを訪れ、自分が罪人になれば身分が釣り合うのではないかと相談するのですが……この辺りの想いのすれ違いを、保輔と小袖、雷吼と星明、男と女、それぞれ(お互いの想い/行動を知らないという形で)描くのはなかなかにうまい演出と感じます。
さて、そして二人のすれ違いは頂点に達し、身分を捨てるという保輔に対し、その愚かさに愛想が尽きたと(心ならずも)言い放つ小袖。
しかしそれでも保輔は身分を捨てると兄・保昌に宣言、藤原の使命とは京のために力を尽くすことだという兄に対し、その京とは誰のための京なのかと言い返す保輔の言葉は、正論ではあるものの、やはり青さは否めないのですが……
そして一人彷徨う小袖は、路上に落ちた反物を拾っただけで盗人扱いされ、散々に打擲されることに。そして反物の持ち主である貴族の姫君から吐き捨てるような言葉をかけられた彼女の中で、この世の理不尽を恨む心が限界を超えた時――
というわけで、残念ながら、という言葉がふさわしいかはわかりませんが、悲劇に終わった今回。
しかし平安時代を舞台にした、平安時代ならではの物語、さらに言えば牙狼ならではの物語という点では、良く出来たエピソードであったと感じます(冒頭で触れた、女性の放免はいるのか、という点に目をつぶればですが……)
保輔と小袖の物語を通じ、理想主義の雷吼と現実主義の星明の姿が浮き彫りとなる構図も――二人のスタンスの違いはこれまでも何回も描かれてきたわけですが――印象に残りました。
そしてラストシーン、ついに盗賊となり、追っ手に名を問われた保輔。その時、かつて初めて出会った時、小袖がボロボロに垂れていたことから、名前を持っていなかった彼女に小袖と名付けたことを思い出し彼が、その伝で自らを「袴垂」と名乗ることとなります。
この辺りはある意味お約束と言えば言えるのかもしれませんが、保輔の小袖への想い、思い出が籠もったものとして袴垂という名が生まれたというのは、決して悪い後味ではなく、どこか爽やかさすら感じられて、私は好きです。
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