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2015.11.17

『牙狼 紅蓮ノ月』 第6話「伏魔」

 珍品ばかり盗む少年・ごべえと出会った雷吼たち。ごべえが病身の母親と小さい妹のために盗みを働いていたのだった。一方、道満が疫病をもたらす炎羅・以津真天の封印を解いたことから、貧民街で病に倒れる者が続出。道長は羅城門に病人を隔離することを決定、ごべえたちも隔離されてしまう……

 『太平記』に登場し、鳥山石燕によって名付けられたという妖怪・以津真天が炎羅として登場する今回。かつて奈良の都で暴れ回り、遷都を余儀なくさせたという巨大な炎羅ですが、ストーリー的にはむしろ人情話的側面の強いエピソードであります。

 東寺でのボロ市の帰り、見つけた珍品を子供に奪われた星明。その子供・ごべえを追いかけた星明たちがその家に辿り着いてみれば、そこには(星明以外興味を持たないような)珍品の山が……
 ここでごべえが病気の母と、まだ赤子の妹のために盗みを働いていたというのは定番のパターンですが、ごべえが盗みを働く上で仲間になろうとしていたのが、前回登場した袴垂の一味だった、というのはちょっと面白い。
 前回のラストに盗賊になったと思いきや、早くもそれなりの数の一団――それも貴族専門の盗賊――を率いている「袴垂」とは、雷吼は初対面となるわけで、なるほど、ここで会わせるのはよいタイミングかもしれません。

 それはさておき、あまりの珍品に袴垂たちから拒否されたごべえに対し、。ごべえが珍品を(盗んで)持ってくるたびに銭を払うことにした星明。それはそれで問題は大ありですが、盗賊団に入られるよりはいい(自分が珍品を手に入れられるし)というのは、現実主義一直線の星明らしい行動でしょうか・
(この時代、でんでん太鼓があったかどうかはアレですが、変形の振鼓だったと思いましょう)

 しかし、ごべえも暮らしが何とか成り立つようになりめでたしめでたし……となるわけがないのが本作。ごべえの母の病状は相当に悪く、そして子供たちのために死にたくないと彼女は狂態を見せるほどなのですが……
 そこに期を同じくして出現したのが、冒頭に述べた以津真天。かつて奈良に出現し、魔戒法師が総出でようやく塚に封印した炎羅を、蘆屋道満が解き放ったのであります。

 夜な夜な出没する以津真天の力により、次々と血を吐いて絶命していく貧民たち。これに対し、道長らは羅城門に発症した貧民を隔離することを決定いたします。そしてその中には、母が血を吐いたために役人に捕らえられたごべえたちの姿も……

 そしてごべえの母に語りかける道満の声。生きようという執着心が陰我となり、それを力とする以津真天をごべえの母に憑依させんという企みですが――


 いつものパターンであればここで母親が炎羅化、涙を呑んで雷吼が一刀両断というところですが、ここで一ひねり入った展開となるのが嬉しい。

 生きようと努めることは強さか弱さか。生きることを諦めるのは強さか弱さか――以津真天の力の源を知り、そんな疑問を抱く雷吼。前者はともかく、後者については諦める強さというものがあるのか、あるとすればそれは……という、雷吼のみならずこちらの疑問に応える強さを見せてくれたのは、人の陰我が暴走する展開の多い本作なればこそ、尊いものとして感じられます。

 ただ、強さと言えば相変わらず牙狼が強すぎて、折角の巨大炎羅も一刀両断というのは、いささか勿体なかったと思いますが……(もちろん、「諦める強さ」によって真の力を取り戻せなかった故、というのはわかっていますが)



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関連サイト
 公式サイト

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