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2015.11.16

廣嶋玲子『鵺の家』 呪いへの依存という地獄の中で

 代々莫大な財産を築いてきた豪商・天鵺家の跡取りの遊び相手に選ばれた茜。彼女を待っていたのは、純粋ながら半面を醜く爛れさせた跡取り・鷹丸と、彼を守る少女の姿をした守り神だった。奇妙に歪んだ心を持つ天鵺家の人々と生活する中、茜は一族を執拗に狙う怨霊の存在を知るが……

 廣嶋令子は、これまで児童文学のフィールドで活躍してきた作家ですが、しかしそこで描かれるのは、決して子供のためだからと手を抜く――という表現が悪ければ、甘いだけの味付けにする――ことはない、重み・深み、そして苦みを合わせ持つ物語という印象があります。
 そしてそれは、もしかすると初の一般向けの作品である本作においても変わることはありません。

 黒羽ノ森と呼ばれる森の側に立てられた屋敷で代々暮らしてきた天鵺家。よそでは見られない、虹色の糸を吐く蚕によって莫大な財を得てきた天鵺家は、しかし短命の者が多く、そして数々の奇妙なしきたりに縛られた暮らしを、維新から数十年後の今も送っていたのでありました。

 そんな天鵺家の養女となったのは、男勝りの元気な少女・茜。常人には見ることができないという、天鵺家の跡取りを守る少女の姿をした守り神・雛里を見ることができたために、嫡男の鷹丸の遊び相手として選ばれた彼女は、半ば強引に養女とされ、この屋敷で暮らすこととなります。

 病弱で半面に醜い爛れを持ちつつも、純粋で善良な心を持つ鷹丸。しかし彼以外の一族は、傲慢な祖父に冷淡な父、息子を厭う義母、正気を喪った叔母と、いずれも人間味に欠けた人物ばかり。そんな中で家族の愛を知らずに育った鷹丸に茜は分け隔てなく接し、二人はすぐに仲良くなるのですが……

 そんな日常にようやく茜が馴れてきた矢先に行われる儀式。その儀式の最中、屋敷で留守番することになった茜はしかし恐るべき魔物に襲われることとなります。
 それは数百年にわたり天鵺の一族を脅かしてきた存在、黒羽ノ森に潜む、天鵺家の先祖・揚羽姫の怨霊――


 こういうジャンルがあるのかはわかりませんが、本作はいわゆる「呪われた一族」ものに属する作品と申せましょう。
 長い歴史と莫大な財産を持ちながらも、奇怪なしきたりを持つ一族に新たに迎えられた主人公が、一族を襲う呪いの存在を知り、自らもそれに巻き込まれて対決を決意する……

 本作は、まさにそんなパターンが当てはまる作品であり、その意味では、正直に申し上げて新味は薄いところがあります。
 しかしそれでも十分に読ませてくれるのは、鷹丸を除く天鵺家の人々の歪みぶりや、茜たちを襲う狂気と怪異といったものの設定と描写の巧みさによるところがまずはありましょう。
(特に終盤、茜を襲う運命の恐ろしさたるや……)

 しかしそれ以上に本作ならではの恐怖として強く印象づけられるのは、終盤で明かされる天鵺家の呪いの「構造」であります。

 かつて財産を得るために血族を犠牲とし、魔物に捧げた天鵺家の当主。以来、莫大な財と引き替えに一族の者たちの命を差し出すこととなった天鵺家は、やがてその運命から逃れるための犠牲を外部へと求めるようになります。
 そこにあるのは、ある意味呪いに依存しつつも、それを逃れるために他者を犠牲として恥じない心性の恐ろしさですが……しかし、(詳しくは伏せますが)呪う側にもまた、その呪いに安住し、呪いに依存していく姿があるのです。

 呪う者も呪われる者も、その呪いに依存し、その構造が、外部へと新たな犠牲者を求めるようになっていく――その地獄めいた関係性こそは、本作ならではのおぞましい呪いの姿でありましょう。
 そしてその中に、一種現代社会に――たとえばブラック企業と従業員の関係性に――通じるものを見ることも可能ですが、これはまあ、野暮というものかもしれません。

 何はともあれ、現状に安住し、変化を恐れる心が呪いを呼ぶのであれば、それを打ち破ることができるのは、現状にとらわれず――たとえそれが勢い任せであり、さらなる負を招くかもしれなくとも――新たな世界を求める心でありましょう。
 そう、そこにこそ、本作の主人公が少女と少年である意味があるのであり、その点もまた、実に作者らしい構図と感じた次第です。


『鵺の家』(廣嶋玲子 東京創元社) Amazon
鵺の家

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