『牙狼 紅蓮ノ月』 第10話「一寸」
一夜のうちに陰陽寮の陰陽師たちが姿を消した。陰陽師絡みの事件でやる気のない星明を置いて犯人と思しき炎羅を追う雷吼だが、炎羅の能力で一寸の大きさに縮められてしまう。何とか星明のもとに帰り着いた雷吼は、弟・頼信が目撃したものを踏まえ、再び炎羅を迎え撃つ。
牙狼版御伽草子という趣のある本作、今回はサブタイトルどおり一寸法師。しかしどこか突き抜けた明るさのあった原典に対し、本作独自の世界観と結びつき、何とも黒々とした印象の残るエピソードです。
その世界観とは、陰陽師中心観とでもいいましょうか――陰陽師の結界がなければ炎羅が都に雪崩込んでくるという世界において、現実世界では下級役人に過ぎなかった陰陽師たちが幅を利かせている……そんな世界であります。
そして冒頭に登場するのは、そんな歪な世界の犠牲者ともいうべき老僧・慈法。それなりの地位にあると思しいものの、陰陽師に押されて一人寂しくこの世を去ろうとしている彼の前に現れた道満が(例によって)煽ったために、悲劇の幕が上がります。
と、今回(ほとんど)初登場なのが賀茂保憲。史実では暦道と陰陽道を大成し、安倍晴明の師匠として知られる人物ですが、本作においては、どうやら本作における陰陽道の負の部分を象徴する人物のように思われます。
星明の母の父、すなわち晴明とともにもう一人の祖父でありつつも、今回の怪異に翻弄されたり、道長には軽くあしらわれたりと、晴明が厳しい中にそれなりの徳と重みを感じさせるのに対し、かなりの小人物臭さを感じさせるのです。
(にしても安倍と賀茂の血を引き、先代道満に師事した星明さん超絶サラブレッド)
結局、保憲と星明の衝突もあり、陰陽寮では、謎の粘液に濡れた小さな服を見つけただけで去る羽目になった雷吼一行。いつも以上にやる気を見せない星明はさておき、炎羅の再来を予想した雷吼と金時は、炎羅を待ち伏せして見事追いつめるのですが……
今回の炎羅は、童子とも力士ともつかぬ、そして右手が槌となった存在。そしてその能力は言うまでもなく、槌を相手に振り下ろすことにより、その大きさを自在に変えるというものであります(片側に小、反対側に大と書いてあるので、金時が逆に巨大化するのを期待しましたが、さすがになし)。
一寸法師になってしまった雷吼は川に流され、古式ゆかしくお椀の舟に乗ったり、途中で出会ったスッポンと意気投合したりと何とか帰還(そして予想通り変なものマニアの星明に滅茶苦茶喜ばれる)。そしてここで、消えた陰陽師たちが、小さくされて食われたことを悟ります。
それを意外な形で裏付けたのが、雷吼の弟・頼信。いつの間にか亡くなっていた雷吼と頼信の父・多田新発意――その葬儀を行ったのが慈法だったのであります。そして、その慈法の身を案じて訪れた頼信が見たのは、鬼と化した慈法が、一寸化して捕らえておいた人々を貪り喰う姿……
その頼信の言葉と、稲荷から炎羅退治を命じられたこともあり、ようやく重い腰を上げた星明。牛車を仕立てて陰陽師の夜行を装い、現れた炎羅に対し、これまた古式ゆかしく飲み込まれた雷吼は、腹の中で牙狼の鎧を装着、中から炎羅を倒すと、その大きさも元に戻るのでした。
しかし炎羅を退治してもめでたしめでたしとはならない牙狼。綱に続き、今回も炎羅と化した身近な人物を救えず、一人肩を落として去る頼信の今後が少々不安なところではあります。
そして今回、星明と稲荷の会話で触れられた、本作における疑問点――牙狼以外の魔戒騎士の不在。そもそもその牙狼の鎧からして、一時期装着者もいない(と思われた)状態だったわけですが、確かにこれだけ中央集権の時代に都を守る魔戒騎士が一人というのは、冷静に考えてみれば不思議な話ではありますが……
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