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2015.12.13

山田正紀『桜花忍法帖 バジリスク新章』上巻(その一) 山田対山田の対決

 将軍位を巡る甲賀対伊賀の忍法合戦が両者全滅という結果に終わってから12年、矛眼術を操る少年・甲賀八郎ら徳川忠長に仕える甲賀五宝連と、盾眼術使いの少女・伊賀響ら江戸城を守る伊賀五花撰を、謎の敵・成尋衆が襲撃する。奇怪な術を操る強敵に、運命の双子である八郎と響の運命は……

 発売直後に読んだにもかかわらず、そのインパクトに気圧されたというべきか、ついつい紹介が遅れてしまいました。
 山田風太郎の『甲賀忍法帖』を、せがわまさきが漫画化した『バジリスク』、その新章を山田正紀が書く――ここに挙げた三者のうち、誰かのファンであれば必ずや目を剥くであろう驚きの作品であります。(この先、かなり詳細に内容に踏み込みますのでご注意)

 本作については、以前試し読みが公開された時に紹介しましたが、試し読みの内容はある意味盛大なフェイクだったと申しましょうか、序章も序章の内容。こうして手にした本編は、想像を遙かに上回る、この作者らしい物語でありました。

 あの甲賀対伊賀の死闘から12年、母たる大御台所・江与の危篤の報に江戸に急ぐ徳川忠長を襲う黒鍬者の群れを得意の忍法で軽々と一蹴する、彼に仕える甲賀五宝連のうち四人。
 なるほど、本作では彼らが忍法合戦の一方の代表選手となるのか……と思いきや、そこに現れたのは、天海僧正の弟子を名乗る怪人・成尋と、彼を長とする成尋衆の二人。そして、その超絶の忍法――いや、それを忍法と真に呼んで良いものか?――により、五宝連の四人はあっけなく……

 代表選手と思われた者たちが、まさかにも本編開始の前に粉砕されるとは、とここだけでも驚かされるのですが、これはまだ序の口。真に驚くべきは、この後に語られる本作の主人公・八郎と響の設定でありましょう。

 それぞれ矛眼術と盾眼術なる、対になる瞳術を持つ八郎と響――と聞けば、彼らの出自は容易に想像できるでしょう。そう、彼らは甲賀弦之介と伊賀朧が、「あの戦いの後に」生んだ双子なのであります。
 それぞれ類希なる力を持つ両親の血を継ぎ、瞳術のサラブレッドと言うべき存在である二人。幕府は二人の血を掛け合わせ、さらなる忍者を生み出そうとしていたのでした。

 しかしお互いに「純愛」と呼ぶべき強く儚い絆で結ばれるようになった二人は、それを汚すような真似を諾うことはできず、あえて別れを告げていたのであります。最初で最後、互いの眼と眼で見つめ合った後に。
 そして矛と盾、相反する瞳術がぶつかった末に生み出されたのは、情報が空間にクラウド化されたとでも言うべき存在「桜花」であった――


 と、ここで物語がいきなり飛躍するのですが、この「桜花」の誕生とその存在を語るくだりは、まさに作者の真骨頂とも言うべき超絶ロジック。
 それまでは(これも超絶ロジックの成尋衆の忍法を除けば)シチュエーション、描写と、山風節を忠実に再現していたものが、いきなり作者自身のそれに変貌するのは――私も含めて普通の読者はその難解さに置いてけぼりとなるのはいかがなものかと思いつつ――いかにも作者らしいと感じるところです。

 以前も紹介しましたが、作者には『甲賀』のオマージュとして『神君幻法帖』があり、そちらがあくまでもオマージュの枠を出るものではなかったのに対し、そこから軽々と飛び出してみせた意気やよし。
 ここに至り本作は、山田風太郎と山田正紀、奇しくも同姓の鬼才の対決とも言うべき様相を呈すると言えましょう。


 しかし……以下、長くなりますので次回に続きます。


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