小前亮『真田十勇士 1 参上、猿飛佐助』 価値ある「初めて」の十勇士
いよいよ大河ドラマ『真田丸』が放送開始ですが、以前にも申し上げたとおり、個人的に楽しみなのは、それにタイミングを合わせて刊行される真田を題材とした児童書。これまで以上に活劇に、伝奇にしやすい題材ということで期待が高まりますが――本作は見事にそれに応えてくれる作品であります。
時は16世紀末、信州上田で猿たちとともに野山に暮らす少年・佐助は、敵に追われる老忍者と出会い、これを助けることになります。老忍者――戸沢白雲斎の持つ力と技に魅せられた彼は、己がこの天下で生きていくための力をえるために弟子入りを志願、許されて修行を積むこととなります。
やがて数年後の1600年、関ヶ原の合戦に真田昌幸・幸村配下の戸隠忍びの一員として参加した佐助は、真田家家臣の望月・海野の両六郎や渡り忍びの霧隠才蔵とともに奮戦。
危ういところを才蔵に救われながらも、真田の軍が徳川秀忠の大軍を翻弄するのに貢献した佐助ですが、しかし天下の大勢を覆すことはできず……
と、佐助の生い立ちと忍者の修行、昌幸・幸村の下での真田の兵たちの奮戦が描かれる本作の前半部分。
内容的には非常に目新しいというわけではありませんが、歴史ものとして抑えるべき部分を抑え、活劇として盛り上げるべき部分を盛り上げる手腕はさすが、と言いたくなる印象があります。
特に、山中で育ち、また幼いこともあって戦国の世相や合戦の在り方を知らぬ佐助の視点から描くことにより、あまりこの時代に知識を持たない――そして年齢的にはほぼ佐助と重なる――読者層にもわかりやすく、この時代というものを描き出しているのには大いに好感がもてます。
(子供が戦場で戦うという点についても、親しい者を失う痛みを緒戦で経験させることでうまく相殺している印象)
そして後半は一旦佐助から離れ、関ヶ原後の京・大和を舞台に、独自に反徳川の活動を行う三好清海・伊佐兄弟、そして由利鎌之介の大暴れが描かれるのも楽しいところです。
酒飲みで豪快な暴れ者の清海は従来のイメージ通りですが、そんな兄に容赦ない突っ込みを入れる女性と見紛うばかりの美貌で知恵者の伊佐、鎖鎌の使い手ながら大の女好き酒好きの鎌之介のキャラクターはなかなかに斬新。
そんな個性的な三人が後先考えずに暴れ回るのは、佐助パートと打って変わった豪傑物語として、何とも痛快であります。
そして再び物語は佐助のもとに戻り、昌幸・幸村助命のために小松姫が記した書状を託された信幸の家臣・穴山小助を守り大坂に向かうミッションに、海野六郎とともに参加する姿が描かれることとなります(ここでも佐助は万能ではなく、まだまだ未熟で限界のある少年として描かれているのが印象的)。
ラストは九度山に配流となった幸村たちと行動を共にした佐助の前に、土地の若者らしい筧十蔵が登場したところで、この巻は幕となります。
ここで駆け足で述べたとおり、タイトルの十勇士となる面々ははこの巻で全員登場するのですが、しかしある者は何処かに去り、ある者は未だ独立して暴れ回り、またある者は消息を断ち……と、まだまだ「真田十勇士」の誕生は先の様子。
しかしこうした複数メンバーものは、集結するまでがまず魅力の第一であり、この巻で登場した顔ぶれを見れば、彼らがいかにして志を同じくする者として集結するのか、楽しみになろうというものです。
(そしてもちろん、集結したその先の活躍もまた……)
読者によっては初めての真田十勇士となる本作、それが価値ある「初めて」になる可のはほぼ約束されたようなもの……そう感じます。
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