『戦国武将列伝』2016年2月号(後編) 大坂の陣開戦、豪傑・奇傑出会う
昨年最後の号となりました『戦国武将列伝』2016年2月号の紹介・後編であります。前編同様、今回も三作品を一つずつ紹介することといたしましょう。
『戦国自衛隊』(森秀樹&半村良)
戦国自衛隊=墨家という意外な、そして納得のテーゼが示された前回ですが、いよいよ迫るのは信長と戦国自衛隊の決戦。伊庭とは笑って言葉を交わしつつも、ぶっ殺すと言い放つ信長は相変わらず面倒なおっさんですが、今回ここで動きを見せるのはお市であります。
信長の下を飛び出し、戦国自衛隊と、伊庭と共に過ごす市ですが、この決戦を前とした時期に信長の下に帰ることになります。が、彼女ほどの女性が命惜しさに戦国自衛隊を離れるはずもありません。伊庭から与えられた手榴弾を胸に彼女が狙うのは……
という今回、結局は敦盛を舞う信長(途中、敢えて彼の顔を見せない演出が圧巻)に持って行かれた感もありますが、自分自身の想いを行動に移す市の行動あってのこの場面であることは間違いありません。
市を救うためにバイクで駆けつける伊庭のアクションも実に格好良く、辛い展開が続いていた本作で、少し希望が見えてきたかな……という気もいたします。
『バイラリン 真田幸村伝』(かわのいちろう)
『舞将 真田幸村』のタイトルで単行本化が決まった本作は、いよいよクライマックスと言うべきか、大坂冬の陣に突入。大坂城に入城した直後の幸村はあまり高く評価されていなかった――時にはスパイ扱いすらされた――というのは史実のようですが、本作の幸村一行のビジュアルはある意味それも納得の独特のユルさなのが楽しい。
(もちろん外見に騙されればとんでもない痛い目を見るのは言うまでもないお話ですが……)。
そんな幸村の大坂初陣にして今なお語り継がれる真田丸での豊臣方の大勝利が今回描かれるのですが……しかし、今回ある意味最大の見所は、あの男の登場でしょう。
その名は後藤又兵衛基次。かつて黒田家にその人ありと知られながらも黒田長政と衝突、潔く全てを擲って飛び出した豪傑――いや、ここではむしろ、作者の前作『後藤又兵衛 黒田官兵衛に最も愛された男』の主人公が再び登場した、と言うべきでありましょう。
前作では惜しくも又兵衛がまだ若き時代までで完結となりましたが、今回はその時そのままの、いやその後の激動を感じさせる姿での登場で、感無量……というのは大げさではありますが、作品と作品、人と人、時代と時代の繋がりを感じさせる描写であるのは、間違いありますまい。
『鬼切丸伝』(楠桂)
歴史上の人物と事件を題材に人と人、鬼と鬼、鬼と人の哀しく皮肉な関係性を描く本作、今回の題材は加藤清正でありますが、やはり本作らしい捻り方の物語です。
肥後平定の際、騙し討ちに等しいやり方で清正に討たれた木山弾正と、素性を隠して清正に近づくも露見して討たれた弾正の子。その二人が怨霊と化して清正を狙っていることを知ったのは、清正に寵愛される小姓・夜刀丸でありました。
そんな中、その夜刀丸が肥後の川に住み着いた河童に殺され、激怒した清正は河童討伐を命じるのですが……
木山弾正とその子との因縁、そして河童退治(これは実際は清正の得意とした治水工事の象徴かとは思いますが)、いずれも肥後時代の清正にまつわる逸話ですが、本作ではそれらを絡めて、思いも寄らぬ異形の愛の形を描き出します。
果たして真の鬼はどこにいたのか、そして何が鬼を生みだしたのか……ある意味、これまで鬼の誕生を連綿と描いてきた本作だからこそのミスリーディングには少々驚かされました。
なるほど、これは鬼切丸の少年には理解できまい……というのはいささか皮肉に過ぎるかもしれませんが。
というわけで、今回もかなりの充実ぶりであった『戦国武将列伝』誌。次号では柴門ふみが細川ガラシャを描くということで、異次元の取り合わせに興味をそそられるところであります。
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