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2016.01.22

唐々煙『煉獄に笑う』第4巻 天正婆娑羅活劇、第二幕突入!

 強大な力を持つ大蛇(オロチ)復活を巡り、戦国の世を舞台に繰り広げられる大活劇『煉獄に笑う』も、着々と巻を重ねてもう4巻、本伝に迫る勢いであります。曇神社の双子がまさかの退場!? という前の巻の衝撃の引きから続き、物語は第二幕開幕とも言うべき展開を迎えることとなります。

 大蛇復活の秘密を握るという謎の存在・髑髏鬼灯の探索を、秀吉から命じられた石田佐吉。それ以来、曇一族のおかしな双子に翻弄され、雑賀一族の内紛に巻き込まれ、凶人の群れとも言うべき百地丹波一党と対峙し……様々な苦難の果てに彼が知った髑髏鬼灯とは、大蛇とは永劫の因縁を持つ「彼女」でありました。

 しかしその正体を知ったものの、あえて道化を装って彼女を、近江の国を守ってきた曇の双子はその命を散らして――というあまりに衝撃的な展開に一度は絶望の淵に沈んだ佐吉ですが、しかし主君の言葉に(余談ですがこの秀吉のキャラがまた実に良い。イメージ的にあまり秀吉好きではない私も納得)再び立ち上がることを決意することとなります。


 と、そこから一気に時は流れて3年後。前巻のラストからこの辺りまでは、新展開というより、舞台の二幕目に入ったという印象ですが、それはさておき――

 双子の役目を引き継ぐことを決意した佐吉がついに巡り会った髑髏鬼灯の彼女が佐吉に託したのは、大蛇の復活・支配・封印を司るという巻物の奪還。
 そしていまその巻物を持つ者、それは有岡城主・荒木村重――今まさに、信長に叛旗を翻しているまっただ中の人物であります。

 なるほど、この時期で信長絡みの伝奇もので題材となるのは天正伊賀の乱が専ら。実際、本作でも先に織田信雄の専行により織田軍が大敗した第一次の戦が描かれますが、なるほどこの時期は、村重の謀叛という事件もありました。
 なかなか伝奇ものの題材にはならない村重ですが、しかし彼によって黒田官兵衛が捕らえられ、長きにわたり幽閉されるなど、その影響は決して小さくはありません(その事件が本能寺の遠因となったという作品もあるほどで……)

 本作ではそのちょっと不遇な重要人物を、いかにも本作らしいとんでもないビジュアルで描き出しますが、その武将としての勇名とは背中合わせの弱さを背負った人物造形は、時に人の心の負の部分を――そしてそれに対する人の心の勝利を――描く、『笑う』シリーズに相応しいもの。
 そしてそんな村重と、どこまでも真っ直ぐあろうとするへいくわいものの出会いが生み出すもの――それもまた、実に本作らしいものであると感じられるのです。

 皆が平和に暮らせる世が夢という村重のキャラクターはどうかと思いますし、史実に照らし合わせると色々と苦しい部分はあるのですが、しかしそれでもなお、本作が戦国時代を舞台とすることに、一つの意味が見出せるように感じられた次第です。


 さて、そんな中で、島左近が本格的に佐吉と絡み、そしてこの時代の「安倍」が登場。さらに光秀、官兵衛とオールスターキャストが集結し、そしてここにあの千両役者二人が復帰……? と、この巻も大いに気になる引きで終わった本作。

 まだまだ大蛇にも負けないような怪物たちがゴロゴロしている中、果たして物語はどこに向かおうとしているのか――
 その終幕を迎える日が楽しみなような、来て欲しくないような気分になるというのは、それだけ本作が魅力的である動かぬ証拠でありましょう。


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