宮川輝『買厄懸場帖 九頭竜 KUZURYU』第1巻 湿から乾へ、もう一人の九頭竜登場
石ノ森章太郎の時代劇画『買厄懸場帖 九頭竜』を宮川輝がリメイクした本作の単行本第1巻が発売されました。薬を売る「売薬」で諸国を巡るのは表の顔、裏の顔は厄を買う「買厄」として揉め事処理を行う男・九頭竜を主人公とした活劇が、装いも新たにここに復活しました。
旧作のリメイクと言った場合、旧作の設定を使用して新しい物語を描くもの、旧作の設定とエピソードをある程度取捨選択しつつ物語を再構成するもの等々いくつかパターンがあるかと思います。
さて本作の場合はと言えば、設定・エピソードをほとんどそのまま使用してリライトしたパターンと申せましょうか……この第1巻に収録されている全6話は、原典の第1話から第6話までのエピソードをそのままの順番で持ってきているのに、少々驚かされました。
とはいうものの、もちろんそこにはアレンジが加えられているのは言うまでもないお話。その中でも最たるものは主人公・九頭竜のキャラクター像でありましょう。
原典の九頭竜は、決して悪人ではないものの、仕事上敵に回った相手には全く容赦せず、ほとんど笑顔も見せないようなハードな印象が先に立つ男。何しろそのビジュアルからして、禿頭に白眼がち(というより完全に白眼)という強烈なものなのですから……
一方、本作の九頭竜は、蓬髪を束ねたそれなりの色男。基本的な言動は原典とは変わらぬものの、どこか飄々とした諧謔味を漂わせた男であります。
この辺りのアレンジは今風と言えば言えますが、その明るさの一方で、平然と金のために相手を殺すというギャップの気味悪さは高まっているようにも感じられるのが面白いところではありましょう。
(九頭竜のあまりにインパクトのある初登場シーン、怪我をした小鳥を、治る見込みがないからと子供の目の前でとどめを刺すくだりも、本作の九頭竜がやると妙な味わいが)
そしてまた、基本的な物語展開は同一といえど、個々のエピソードの描写はまたアレンジが加えられているのも事実。
特にこの巻のラストの「反吐」――鬼と称して村から生け贄の女を差し出させ、弄ぶ修験者を退治するエピソードは、原典ではあまり描かれなかった生け贄とされた娘の描写が加えられ、より凄惨さを感じさせると同時に、どこか不思議な希望を感じさせる内容となっているのが印象に残ります。
さすがに画的な面では、あと一歩で「実験的」という言葉が相応しいような一種凄絶な陰影を提示してみせた原典とは大きく異なりますが、原典の「湿」に比して「乾」を感じさせる絵柄は、悪くはありません。
ある意味原典とは一番大きな相違点である、結末がわかっている点を踏まえての物語描写も見られ、もう一つの(いやさいとう・たかを版があるので三つ目の)『九頭竜』として、この先の展開を楽しみに待つことといたしましょう。
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