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2016.02.16

武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第6巻 新たなる六韜、そして頼朝が示す弁慶の道

 源平の争いを背景に、持つ者に超常の力を与える六韜を巡り繰り広げられる死闘・暗闘・激闘を描く『天威無法 武蔵坊弁慶』も第6巻。今まで見たことがない(ような気がする)キャラクターが表紙に登場――と思えばこれが源頼朝。六韜の一つの持ち主である頼朝は、義経と弁慶に何を語るのか……

 鬼一法眼が宋国から日本に持ち帰った六韜。兵法の秘伝書とも伝えられるその正体は強大な呪術書――持つ者に人を超えた様々な力を与え、時にはその姿すらも変えてしまう、恐るべき存在でありました。
 平氏打倒の力とするため、六韜を求める義経とともに奥州への旅に出た弁慶は、途中で木曾義仲と対決。武韜の力を全開にした義仲に対してはさすがに手も足も出ないかと思いきや、鬼とも言うべき異常な力を発揮してその場を切り抜けた弁慶を連れ、義経と遮那は旅を続けることとなります。

 そしてこの巻の前半で中心となるのは、遮那とある男の出会い。義経が土地の源氏に渡りをつけ、いまだ傷の癒えぬ弁慶が休む中、一人町に出た遮那は、そこで貧しい兄妹を助けるため、破落戸たちを束ねるある男と賽子博打対決をすることに……

 と、六韜探しとは関係ないエピソードなのですが、ここで登場するある男の名は、伊勢三郎。言うまでもなく弁慶にも次ぐ義経股肱の臣として知られる人物であります。
 しかし登場時点の三郎は、イカサマ博打であくどく稼ぐならず者。遮那も、あわやそのイカサマの餌食となるかと思いきや、全く別の場所で、ほとんどホラー映画の殺人鬼のような行動を見せた義経のおかげで難を逃れるというのはなかなかに面白い展開ではあります。

 そして一方的に遮那に惚れた三郎を加えて再び旅立った一行が訪れたのは伊豆――そう、義経の兄たる頼朝が流罪とされた地であり、ここで物語はまた大きな転機を迎えることになります。


 ここで、最近のフィクション(特に漫画)の頼朝像を見てみれば、義経との対比や後々の義経に対する行動もあってか、サイコパス気味に描かれることが多いようにも感じられます。
 サイコパスといえば本作の義経は完璧にそれで、義経がそれであれば頼朝はどうなってしまうのだ……と思いきや、これが実に意外なキャラクターとして描かれているのであります。

 痩躯に伸ばし放題の長髪、そして穏やかな瞳と、むしろ茨の冠が似合いそうなこの頼朝、外見と内面が大きく異なる義経とは異なり、どうやら外見そのままの人物。
 弟とはまた異なる形で、肉親同士が殺し合う地獄を経験しながらも(ここでちらりと顔を出す平重盛が、また「らしい」キャラクターで楽しい)、復讐や天下取りにも興味を示さず、ただ愛妻の政子と、天然自然を友に暮らす……そんな本作には今までいなかったタイプのキャラクターなのです。

 しかしそれであっても彼もまた六韜の持ち主。その一つ・龍韜を手にすべく、強引な手段に出た義経に対して全く動ずることなく、頼朝は一行を龍韜の在処に誘うことになります。
 そして龍韜を前にして、再び姿を現さんとする弁慶の中の鬼。そしてその正体を見抜いた頼朝が語る言葉とは……


 その詳細はここでは伏せさせていただきますが、いやはやこれがまた、ここに来てこう来るか! と言いたくなってしまうような内容。あまりの豪快さにただただ口をあんぐりとしてしまうような内容なのですが――
 しかし、そのとんでもない内容が、ここしばらくの六韜を巡る物語に全く予想もしなかった形で弁慶を密接に結びつけ、そして彼自身に進むべき道を示すこととなります。

 物語の中核に位置する六韜。その六韜を日本にもたらした鬼一法眼と浅からぬ縁を持ちつつも(ちなみにここで法眼の、いや宋国皇帝の真意がさらりと語られるのにも仰天)、しかし弁慶は、六韜の力に背を向けようといたします。そして、それがかえって、彼が行く道を迷わせることとなります。

 そんな複雑な関係を持つ弁慶と六韜に対して、今回描かれた頼朝の言葉は、一つの明快な回答を与えることとなります。
 ある意味、ここからが弁慶と六韜の物語の始まりであり――そしてそれは、いよいよ物語が佳境に入ったことをも意味するのではありますまいか。


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