信長のボクサー!? たみ&富沢義彦『クロボーズ』連載開始
若き日の式亭三馬を描いた電子コミック『さんばか』シリーズを送ってきた、たみ&富沢義彦による新たな時代コミックの連載が始まりました。今度の舞台は戦国時代――織田信長に仕えたと言われるあの異邦人が、実は現代からタイムスリップしたプロボクサーだった!? という仰天の物語であります。
物語は現代――黒人ボクサーのヤーボ・モートンが、ヘビー級のタイトルマッチに挑戦、見事に勝利した場面から始まります。
貧乏のどん底からはいあがり、ついに栄光を掴んだヤーボですが……しかし、チャンピオンベルトを手にした時に意識が遠のいた彼が目覚めたのは、粗末な武具を身につけた兵士たちが争う戦場でありました。
訳が分からぬまま雑兵に取り囲まれたものの、持ち前のボクシングセンスでその場を何とか切り抜けたヤーボ。彷徨った末、宣教師ヴァリニャーノと出会ったヤーボは、如何なる力が働いたのか、今自分が約四百年前の日本にいることを知らされます。
行くあてもないまま、ヴァリニャーノに伴われたヤーボの前に現れたのは、この国で「いま」一番勢いのある武将、数々の猛者を従え、髑髏杯を手にして不敵な笑みを浮かべた男――
ヴァリニャーノから信長に献上され、信長が本能寺で最期を迎えたその時まで仕えたという黒人・弥助。その存在は、『日本教会史』『信長公記』と国内外で記録が残っており、まず間違いなく実在したものと思われますが、事実はフィクションより奇なりというべきでありましょうか。
しかしそのフィクションの方でも、弥助はこちらの想う以上に、なかなかの有名人であります。
たとえば私好みの作品で言えば天野純希『桃山ビート・トライブ』では黒人ドラマー(!)としてメインキャラの一人でありますし、菊地秀行の『魔剣士 黒鬼反魂篇』、夢枕獏の『大帝の剣』と、伝奇の二大巨頭の作品の題材にもなっている……というのは持ち上げすぎかもしれませんが、いずれにせよ興味をそそる存在であることは間違いないのでしょう。
これは全くの私見ですが、弥助は、この戦国時代当時の「外国人」として(フィクションの中で扱われることの多い)ヨーロッパ人宣教師とは全く異なる出自・身分の存在であり――そして、この戦国の世において自ら「戦える」者として(実際に従軍の記録がある模様)、それだけ、我々にとっても刺激的な存在な存在として感じられるのではありますまいか。
さて、そんな弥助ですが、さすがに本作のように彼が主人公、それも現代からのタイムスリッパーというアプローチは――現代人というのは(恐ろしいことに)本作が初めてではありませんが――非常に珍しいものであります。
リングという過酷な――しかし決して殺し合いが行われる場所などではない――戦場で戦ってきた現代人が、そこで何を見て、何を感じることになるのか? そしてそれがこの時代に何をもたらすことになるのか?
この第1回の時点ではまだまだプロローグ、この先の展開は見えませんが、例えばヴァリニャーノとの奴隷制を巡る会話など、さすがにこのクリエイターならではの切れが見れるのが嬉しいところであります。
栄光の全てを奪われたヤーボが、この新たな世界で、「一時」のことであろうとも、会心の笑みを浮かべる日がくることを期待したいと思います。
『クロボーズ』(たみ&富沢義彦 コミックアース・スター連載) 公開サイト
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