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2016.02.29

信長のボクサー!? たみ&富沢義彦『クロボーズ』連載開始

 若き日の式亭三馬を描いた電子コミック『さんばか』シリーズを送ってきた、たみ&富沢義彦による新たな時代コミックの連載が始まりました。今度の舞台は戦国時代――織田信長に仕えたと言われるあの異邦人が、実は現代からタイムスリップしたプロボクサーだった!? という仰天の物語であります。

 物語は現代――黒人ボクサーのヤーボ・モートンが、ヘビー級のタイトルマッチに挑戦、見事に勝利した場面から始まります。
 貧乏のどん底からはいあがり、ついに栄光を掴んだヤーボですが……しかし、チャンピオンベルトを手にした時に意識が遠のいた彼が目覚めたのは、粗末な武具を身につけた兵士たちが争う戦場でありました。

 訳が分からぬまま雑兵に取り囲まれたものの、持ち前のボクシングセンスでその場を何とか切り抜けたヤーボ。彷徨った末、宣教師ヴァリニャーノと出会ったヤーボは、如何なる力が働いたのか、今自分が約四百年前の日本にいることを知らされます。
 行くあてもないまま、ヴァリニャーノに伴われたヤーボの前に現れたのは、この国で「いま」一番勢いのある武将、数々の猛者を従え、髑髏杯を手にして不敵な笑みを浮かべた男――


 ヴァリニャーノから信長に献上され、信長が本能寺で最期を迎えたその時まで仕えたという黒人・弥助。その存在は、『日本教会史』『信長公記』と国内外で記録が残っており、まず間違いなく実在したものと思われますが、事実はフィクションより奇なりというべきでありましょうか。

 しかしそのフィクションの方でも、弥助はこちらの想う以上に、なかなかの有名人であります。
 たとえば私好みの作品で言えば天野純希『桃山ビート・トライブ』では黒人ドラマー(!)としてメインキャラの一人でありますし、菊地秀行の『魔剣士 黒鬼反魂篇』、夢枕獏の『大帝の剣』と、伝奇の二大巨頭の作品の題材にもなっている……というのは持ち上げすぎかもしれませんが、いずれにせよ興味をそそる存在であることは間違いないのでしょう。

 これは全くの私見ですが、弥助は、この戦国時代当時の「外国人」として(フィクションの中で扱われることの多い)ヨーロッパ人宣教師とは全く異なる出自・身分の存在であり――そして、この戦国の世において自ら「戦える」者として(実際に従軍の記録がある模様)、それだけ、我々にとっても刺激的な存在な存在として感じられるのではありますまいか。


 さて、そんな弥助ですが、さすがに本作のように彼が主人公、それも現代からのタイムスリッパーというアプローチは――現代人というのは(恐ろしいことに)本作が初めてではありませんが――非常に珍しいものであります。

 リングという過酷な――しかし決して殺し合いが行われる場所などではない――戦場で戦ってきた現代人が、そこで何を見て、何を感じることになるのか? そしてそれがこの時代に何をもたらすことになるのか?
 この第1回の時点ではまだまだプロローグ、この先の展開は見えませんが、例えばヴァリニャーノとの奴隷制を巡る会話など、さすがにこのクリエイターならではの切れが見れるのが嬉しいところであります。

 栄光の全てを奪われたヤーボが、この新たな世界で、「一時」のことであろうとも、会心の笑みを浮かべる日がくることを期待したいと思います。


『クロボーズ』(たみ&富沢義彦 コミックアース・スター連載) 公開サイト


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2016.02.28

『仮面の忍者赤影』 第11話「鬼念坊鉄車」

 幻妖斎を追って京に到着した赤影たち。しかしそこでは赤影に化けた朧一貫の仕業により、赤影が残忍非道な凶賊として指名手配されていた。敢えて役人に捕らえられた赤影を襲う一貫の手裏剣。しかしそれは逆に仕掛けていた赤影の罠だった。一貫を捕らえた赤影たちを、鬼念坊の新兵器・鉄車が襲う。

 何ごとかを企む幻妖斎を追い、馬ごともんのすごい大ジャンプで河を飛び越し、京に入った赤影たち。その動きを察知した幻妖斎は、朧一貫にある策を授けます。
 それはニセ赤影作戦……辻斬り、押し込み殺人と洒落にならない悪事の場に残された「赤影参上」のメッセージに、京の町は騒然……たちまち役人の手で手配書が張り出されるのでありました。

 それを見て驚いたのは、食料(芋)の調達に出た青影。隠れ場所の寺に戻って、怒りにやけ食いしながらことの理不尽さを訴えかけるのですが……ここで赤影と白影、二人の大人の忍者の対応が心憎い。
 赤影は敵の狙いを冷静に分析して動じず、白影に至っては、青影に対して「食いもんは気持ち良く楽しく食うもんじゃい」と至言を発するのですから。さすがは大人の忍者の貫目であります(まあ、やる時はこちらが同じ事を仕掛けかねない怖さも感じますが……)

 ここは敢えて捕まってみようと大胆な策を立てる赤影ですが、そこにやってきたのは鉄砲隊まで用意した大編成の捕り手。それに対して、手間が省けたようだと完爾と笑みを浮かべる赤影は、案じる青影に笑顔で手を振る余裕すらみせて連行されるのでした。
 そしてその後……見張りを締め落として赤影の牢に近づくのは、何やらちょっと目つきの悪い白影。しかし次の瞬間、彼の手裏剣は赤影にグサリと……これもまた一貫の変身、駆けつけた捕り手を尻目に、豪快に天井をぶち抜いて脱出いたします。

 ついに赤影を倒したと喜び勇んで幻妖斎のもとに向かう一貫、落ち合う場所のお堂に行ってみれば、しかしそこで待ち構えていたのは赤影! 実は牢の中の赤影は既に白影にすり替わっており、赤影は一貫を待ち構えて先回りしたのでありましょう。
 三対一は形勢が悪いと見て、いつもの如く壁に紙になって張り付いて逃げようとする一貫ですが……ここでその足をしっかりと掴む白影のファインプレー!

 必死の引っ張り合いの結果、引きずり出されて囚われた一貫、刀を突きつけられ、幻妖斎の居所を(大見得を切りながら)吐きそうになるのですが……しかしそこに飛んできた槍が彼の胸を貫きます。
 そのまま紙吹雪となり、文字通り散った彼に対する「忍者とは、はかないもんだな……」という赤影の名文句に感傷を覚える間もなく、そこに飛んできたのは謎の回転ノコギリ付きの鉄棒。さらには次には両サイドに回転ノコをつけた鉄棒までもが飛んできて、お堂の外に飛び出した三人を待っていたのは――

 赤いトサカ付きの白いヘルメットに細いサングラスのはっちゃけた格好の鬼念坊。第1話で目を潰されて敗退して以来、本当に久々の登場であります。
 倒された下忍が木の葉に変わる謎の演出を経て、三対一の対決となった鬼念坊ですが、しかし銃弾も効かぬ鉄の体は健在、目を狙った銃弾もサングラスががっちりガード! トサカに鎖をつけて引っ張っていれば、すっぽ抜けて大爆発と、無敵の防御力であります。

 さらに先から火炎を噴射する鉄車を両手にハッスルする鬼念坊に近づけない赤影ですが、三人の手甲を合体させてそこから水が噴き出す飛騨忍法水蓮花の前に脆くも鎮火。自棄になって鉄車を投げて堂に逃げ込んだ鬼念坊を三人が追えば、そこで幻妖斎操る金目像が堂を持ち上げ勝ち誇ります。
 そして堂を地面に叩きつけ、踏みつぶす金目像。しかしそこに残されたのは、さしもの鋼鉄の体も及ばなかった鬼念坊の亡骸のみ……忍び凧で脱出済みの赤影は、笑顔で宙を舞うのでした。


 残る三人の七人衆のうち、二人までもが倒され、いよいよ終盤を思わせる今回。しかしその死に様は、どちらも味方の手にかかってというのが、何とも切ないものがありました。


今回の怪忍者
朧一貫

 赤影に変身して悪事を働き、彼を役人に捕らえさせた隙に暗躍せんとするが、逆に読まれて罠にはめられた末、口封じに味方の放った槍に刺されて紙吹雪となって散る。

鬼念坊
 唯一の弱点であった目を防弾サングラスで多い、ヘルメットも装着した強化版。手の金棒・鉄車は二本に分かれて炎を噴射するが、忍法水蓮花にあっさり鎮火。堂に逃げ込んだところを、赤影を狙った金目像に踏みつぶされて死亡した。


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2016.02.27

原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第8巻 さらばひげ船長! そして新たなる戦いへ

 少年時代――すなわち、うつけ者時代の小田三郎信長の破天荒な大暴れを描く物語も、早いものでもう第8巻。ここしばらく描かれてきた秘宝「光の天」争奪戦にもようやく終止符が打たれ、信長の冒険も、新たな段階に突入することとなります。

 持つ者に己の未来を見せるという「光の天」。その秘石を、尾張を狙う今川義元が求めていることを知り、その秘石を運ぶ南蛮の海賊ジョゼ船長の船に潜入した信長と仲間たち。
 「海の伝説」の異名を取る怪人ジョゼに対し、彼の船で奴隷として酷使される少年たちを味方につけた信長は一気に蜂起し、激闘の末、ついにジョゼ船長を追いつめるのですが……


 というわけで、原哲夫漫画であることを差し引いても(?)異常にテンションの高い言動で、この数巻に渡り物語をひっかき回してきた面白ヒゲ船長もようやくここで退場(しかし……)。

 しかし単に彼を退治しておしまい、とはならず、ジョゼと信長が対決する理由であった「光の天」とその力に、二人が如何に相対したかを描き、それを通じて、二人の人間としての在り方の違いを浮き彫りにしてみせたのが面白い。
 そしてこれにより、ジョゼの男を徒に下げることなく信長を立てて見せたのは、これは一貫して男の中の男たちの格好良さを描いてきた作者ならではでありましょう。
(あのジョゼ船長までが「男の顔」になってしまうのには、さすがと言うべきか……)


 そして争奪戦が終結した後に信長を待っていたのは、既に亡くなっている彼の父・信秀の、その影武者が亡くなったという報。

 もともと信長のうつけぶりは、いわば義元から尾張を守り、そして義元への反撃体勢が整うまでの時間稼ぎのために、彼の才を隠していたものであります。
 信秀の影武者もその時間稼ぎの一環ではありましたが、しかしその彼も亡くなったとあらば、いよいよ信長が真の姿を見せるとき……

 ということにはすぐにならず、久々に尾張に帰ってきたと思えば、世紀末な風貌の小悪党一味と大喧嘩を展開する信長のうつけっぷりは、どこまでが素なのかわかりませんが、だがそれがいい。
 その一方で、ジョゼ船長の船で仲間たちを救うために身を捧げ続けた少年を送る場面、今川家の下で忍従を強いられる松平家の士を見る場面等、人前でも憚るところなく熱い涙を流すストレートさも、実にいいのであります。

 彼を囲む少年たちも、前田利家や丹羽長秀などお馴染みの名前もそろそろ集まり始め、それぞれのキャラクターが見え始めたのも楽しいところであります(丹羽長秀の意外な美少年ぶりに吃驚)。


 もっとも、この辺りは、次なる大展開の前の凪といった印象。ビジュアルはさておき、完全に思想は世紀末であることが改めて明らかになった今川義元との対決との対決はまだまだ先ですが……そこまでに何が描かれるのか。
 ジョゼ船長のような、思わぬキャラクターの登場にも期待……あ、いや、あれは一人でいいかなあ。


『いくさの子 織田三郎信長伝』第8巻(原哲夫&北原星望 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon
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2016.02.26

鎌谷悠希『ぶっしのぶっしん 鎌倉半分仏師録』第4巻 合身! 人と仏と神の間で

 思わぬことから互いの半身を共有することとなってしまった少年仏師・想運と明星菩薩が、地神ミズチを操る平家残党と戦いを繰り広げる姿を、時にシリアスに、大部分コミカルに描く『ぶっしのぶっしん』の第4巻であります。平等院鳳凰堂に仕掛けられた鏡の迷宮に囚われた想運たちの運命は……

 平家復興を目論み、ミズチを操る平教経が京に潜み、何事かを企んでいることを、半人半狐の妖僧・命蓮から教えられた想運。
 兄弟子で運慶の長男・湛慶、伎楽アイドル、実は僧兵の茶経と桜とともに旅立った彼の前に立ちふさがったのは、しかし命蓮その人(?)でした。

 平等院鳳凰堂に作り出された鏡の迷宮に囚われた想運/明星・茶経と、分断されて取り残された湛慶・桜。無数の分身を産み出し、相手の攻撃を反射する鏡の迷宮に苦しめられる一行ですが、しかし迷宮の真の恐ろしさは、別にありました。

 それはあたかも浄玻璃の鏡のごとく、囚われた者の真実の心を暴くこと。脳天気という点で裏表のない想運はさておき、ここで暴かれた茶経の真実とは――
 それは、仏を斬ることに快感を覚える、一種のヤンデレとも言うべき狂気の貌でありました。

 嬉々として自分(明星)に刃を向ける茶経を、傷つけずに抑えることができるか。それは明星にとっては、仏として、自らを害せんとする者をも――もちろん傷つけることなく――救うのか、救うことができるのかという問い掛けと同義であります。
 そして悩み苦しんだ末に、想運と明星がたどり着いた答えは……


 様々に極めてユニークな要素を持つ本作において、まず第一に挙げられるのは、想運と明星の一心同体ぶりでありましょう。

 物語の冒頭で共にミズチによって体を縦に真っ二つにされ、生身と木製の仏身とが接合してしまった。想運と明星。
 姿は想運なれど、心の中は想運と明星の二人に分かれた彼らの存在は、人と仏が奇妙な形で共存する――人の世界に仏が奇妙な形で顕れる――本作を、ある意味象徴する存在と言えるでしょう。

 しかし基本的に対立することはないものの、二人は異なる人格(仏格?)の持ち主。その想いが完全に合一することはなかった二人が、しかし共に一つの想いを抱いた時――奇跡は起こります。
 それを言葉で表せば合体と変身……合身ということになりましょうか。

 ……いや、いきなり何を言っているのだと起こられそうですが、この巻の冒頭で描かれた二人の姿はまさにそれとしか言いようがありません。
 ヒーローの合体とは、変身とは、果たして如何なるもので、何のために行われるものか。それは異なる心を持つ者たちが一つの想いの下に体を合わせ、そしてその想いは変えぬまま、力を求めて現し身の有り様を変えることでありましょう。

 ここで描かれたものはまさにそれであり――そしてそれが、人と仏が共に在る姿の一つの理想を示すのには、大いに唸らされ、心打たれたところであります。


 この巻の後半で描かれるように、本作の敵役たる平教経が目指すのは、仏と人が共存するのではなく、神の力を借りて人が人の上に君臨する世界であります。
 そしてまた、その教経が倒さんとする頼朝が目指すのは――まだその詳細は明らかではないものの――人の世と仏界を一つに重ね合わせる総来迎。

 人を挟んで神と仏が全く相反する――しかしどちらも、己の意を叶えるために人ならざる者の力を借りんとしている点で共通なのですが――立場を取る二人の思想は、しかしここで示された想運と明星の関係とは、また異なるものがあります。

 おそらくはこの先で描かれるのは、この三者の思想の対立でありましょう。
 そしてこの三者が(想運はまあ、微妙かもしれませんが)、その周りの者たちが、突き詰めればそれぞれに救いを求めていることを考えれば、そこにやり切れぬ人の業を感じるのであり、想運と明星の在り方に、希望を見出したくなるのです。


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2016.02.25

『大帝の剣 5 聖魔地獄編』 決着! 「いま」この星に在る者として

 のんびりしている間に、全4巻(?)の文庫版刊行がスタートしてしまった『大帝の剣』の最終章であります。前の巻において、とてつもないスケールの世界観を提示してみせた物語は、飛騨高山に全ての登場人物が集結、全ての因縁に終止符が打たれる大団円を迎えることとなります。

 飛騨で待ち受けていた怪僧・祥雲と激突することとなった万源九郎と牡丹。それぞれが手にした三種の神器が激突した時、謎の力で消えた源九郎が転移した先――そこはタクラマカン砂漠に眠る巨大な宇宙船の内部であり、そこに待ち受けていたのはかつてイエスを導いた者・ガブリエルと、彼と敵対するゴータマ・シッダールタなのでした……!


 と、あまりの大風呂敷に、失礼ながら不安になってしまうのですが、しかし彼らの口から語られるのは、これまでの物語の背景に潜んでいた、そして源九郎や牡丹たちの思惑を遙かに超えたところで蠢く、この宇宙の命運に関わる物語であります。
 意志を持ち、全てを食らう大暗黒に抗しようとする者と、彼がもたらしたおりはるこん。遙か太古から「いま」に至るまで、それこそ人類の歴史すら左右するその企て――更なる宇宙からの来訪者までも巻き込んだその戦いの渦中に、源九郎たちはあったのであります。

 その一方、日本での戦いは続き、伊賀では土蜘蛛衆の思わぬ由来が語られたと思えば、その彼らの忍法も及ばぬ奇怪な次元でのバトルが展開。そして高山城ではついに武蔵と小次郎の「再戦」が始まり、それがまた新たな死闘に繋がっていくことになります。
 そしてついにそこに源九郎も加わり……


 いやはや、あまりにとてつもない方向に物語が向かった時にはどうなることかと思いましたが、物語は再び日本に戻り、全ての役者が集結しての決戦に突入。
 そしてそれにとどまらず、その先も展開は二転三転、これまたどこに向かうかとハラハラしたところで、物語は一つの着地を見せることになります。

 正直に申し上げれば、この長大な物語が始まった時の、剣豪vs忍者vs妖術師vs宇宙人の得体の知れぬ迫力は、物語の構造が見えてくるにつれ、薄れた感は否めません。
 当初の構想から異なり、タクラマカン砂漠に向かうことなく(一度は行ったことは行きましたが)終わった点に不満を持つ向きもあるでしょう。

 何よりも、これまで散々触れてきましたが、物語の根元にあるものが、半村良の『妖星伝』の影響をあまりに受けすぎているのは、個人的にはどうかと思われた点ではあります。


 しかし――それでもなお、私は本作を読み終えて、「ああ、面白かった!」と感じることができます。

 確かに物語が始まった時のバトルロイヤルの興奮は、(文字通り)その内に潜むものが見えてきた時点で一端冷めたものの、この巻で繰り広げられた一種変則的なバトルの面白さは、その構造が見えてこそ描けるものでありましょう。
 また、タクラマカン砂漠については、むしろそこに向かう旅路を描かなかったことで、あくまでも「時代劇」の枠内で本作を終えることに成功したと――もちろんその中にはとてつもない飛躍があるのですが、しかし結末がこの国の中であったことは大きい――感じるのです。

 そして迎える物語の結末において源九郎が、牡丹が抱く想い――それはこの特異な物語ならではのものであると同時に、源九郎が、牡丹が、彼らのオリジンがあってこそ導かれるものであるのが嬉しい。
 そしてその果てに源九郎が至る境地とその描写は、作者ならではのものであることは間違いありますまい。


 命が異常なまでに満ちあふれた星に生まれた人の存在を、ある意味極めて悲観的に描いた『妖星伝』に対し、その価値判断には立ち入らぬまでも、「いま」そこに在る人々の力強い姿を描いた本作(それは、ある意味人類の存在を全肯定した『虚無戦史MIROKU』とはまた異なる本歌取りでありましょう……というのは蛇足ですが)。

 終わってみれば呆気ない(背景はともかく、第1巻冒頭からはごく短い期間の物語であるわけで)印象もありますが、まさに源九郎のような豪腕で一気に振り抜いた感覚は、どこか爽快でありました。


『大帝の剣 5 聖魔地獄編』(夢枕獏 エンターブレイン) Amazon
大帝の剣5 <聖魔地獄編>


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2016.02.24

芝村凉也『素浪人半四郎百鬼夜行 六 孤闘の寂』 新章突入、巨大な魔の胎動

 一昨年に続き、昨年も『この時代小説がすごい!』ランキングでベスト10入りを果たした(もちろん私も票を投じました)『素浪人半四郎百鬼夜行』。その好調なシリーズは、この巻において第二部「怪異沸騰編」に突入。物語の中でこれまで描かれてきた謎の数々が、いよいよ動き出すこととなります。

 ある悲劇をきっかけに、生まれ故郷の東雲藩を捨て、江戸に出た青年・榊半四郎。謎の老人・聊異斎や、彼が連れる小僧の捨吉と出会った彼は、様々な怪異と対決する中で、江戸で新しい生を送っていくことになります。
 しかし怪異は江戸だけでなく各地で頻発、そしてその背後では、田沼意次と松平定信という、互いに全く相反する立場にある権力者の影が。そして謎の敵の襲撃により、聊異斎と捨吉は何処かへ姿を消すことに……

 そう、本作のサブタイトルの「孤闘」とは、これまで共に怪異と対決してきた仲間である二人を失った半四郎の姿を表すもの。しかしその第一話「龍の洞穴」で描かれるのは、その彼とは今のところ関係のない、それどころか数十年前の物語であります。

 八代将軍吉宗が紀州藩主であったこと、国元を襲った大地震。その際に現れた穴――龍が潜むとも言われるその穴の探索を命じられた「意行」らは、物理法則を無視したかのようなその内部を彷徨うことになります。そして一行の一人が取った行動は、全く思ってもみなかったような、そして恐るべき結果をもたらすことに……
 その意行こそは、意次の父。これまで意次が恐れ、その存在を密かに探ってきた節のある「龍穴」にまつわる因縁が、全く意外なところから繋がっていた――そして意外なところに繋がっていく――ことを語る、新展開のプロローグに相応しい内容であります。


 そして続く第二話「捜心鬼」において、ようやく半四郎の変わらぬ姿に我々は再会することができます。当時は江戸の外れの向島に出没するという青赤斑の鬼。その正体を探るよう依頼された半四郎は、老岡っ引きとともに向島に向かいます。
 鬼が出没する以前、近くで人の骨が並べられた小屋に住む老人が目撃されていたことを知った半四郎は、それを手掛かりに探索を始めますが、やがて事態は意外な方向へ……

 実は本作において唯一の純粋な(?)怪異退治であるこのエピソードで描かれるのは、やはり本シリーズらしい、独創性に満ちた、そして同時に恐ろしくも悲しい人の心にまつわる物語であります。

 本シリーズで描かれる怪異の独創性については、これまで何度も指摘してきたところですが、今回登場するのは、マニアにはお馴染みのある逸話を題材としつつも、それに大きく捻りを加えた存在。
 それが、背景に秘められたものと絡んだとき……奇怪な怪異と、そして人情――単に「イイ話」というだけではない人の想いを描く物語に転じていくのには、唸らされます。

 さらにこのエピソードの巧みなのは、半四郎を描くに、二人の人物を――一人は初登場の老岡っ引きを、もう一人はこれまで何度か登場し半四郎に仇をなしてきた火盗改を配置している点でしょう。
 酸いも甘いも噛み分けた岡っ引きと、これまで権力を笠に着てきた火盗改と――二人の目を通じ、そして二人との対比を通じて描かれるのは、剣の腕や推理力に優れるだけでなく、人の情の機微を知り、深い思いやりと共感を、怪異に対してすら抱くことができる、まさに好漢と言うべき半四郎の姿。

 その半四郎の姿は、同時に彼の成長の証でもあり――これも新展開の始まりに描かれるに相応しいものでありましょう。


 そしてラストの「終末の道標」では、その半四郎の周囲に、様々な――それも権力者の――影が忍び寄ることになります。突然、彼に仕官を求めてきた意次の家臣。さらに、かつて彼を石もて追った東雲藩も、藩への復帰を求めてくるのであります。
 果たして彼らが求めるものは何か……それも興味深いのですが、それ以上に驚かされるのは、それと平行して描かれる、とある家中で起きた事件でありましょう。

 一見、本筋と全く無関係に展開していくようなその物語が、実は! と結末に至り真の姿を現す構成の妙には、ただただ、舌を巻いた次第であり――そしてこれもまた、新たな幕開けに相応しいものであります。


 上で申し上げたように、半四郎が怪異と退治するのは全三話中の一話のみというのは少々寂しいのですが、しかし新章の始まりとして、それぞれに趣向を凝らしてみせた本作。
 その先に描かれるものが今から待ち遠く――新章においてもその魅力は変わることないシリーズであることを再確認させられました。


『素浪人半四郎百鬼夜行 六 孤闘の寂』(芝村凉也 講談社文庫) Amazon
素浪人半四郎百鬼夜行(六) 孤闘の寂 (講談社文庫)


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2016.02.23

『仮面の忍者赤影』 第10話「怪忍者黒蝙蝠」

 霞谷七人衆を三人まで倒された幻妖斎の次の一手は、七人衆にも匹敵する腕を持つ甲賀の抜け忍・黒蝙蝠を赤影に差し向けることだった。妻子を人質に取られた黒蝙蝠は、捕らえた白影を餌に赤影を誘き寄せ、無数の吸血蝙蝠をけしかける。必殺の罠をくぐり抜けた赤影と黒蝙蝠、一対一の激闘が始まる……

 冒頭、隻眼山伏ルックの幻妖斎と共に、これまで倒された悪童子・傀儡甚内・夢堂一ッ目の墓に詣でる生き残りの七人衆……って、蟇法師生きてたのか!? と驚かされます(この後何の説明もなくフェードアウト)。
 そして今回、七人衆の代わりに幻妖斎が対赤影の刺客として目を付けたのは、凄腕の甲賀忍・黒蝙蝠……今は抜け忍となり妻子とともに平和に暮らす男。襲ってきた下忍たちを軽々とあしらい、幻妖斎と互角に立ち会う凄腕を演じるのは舟橋元――前年まで『新選組血風録』で近藤勇を演じていただけに、流石の貫目としか言いようがありません。

 甲賀五十三家の頭領たる(初めて言及?)自分を前に一歩も引かぬ黒蝙蝠を動かすために、卑劣にも妻の静と娘の百合を捕らえた幻妖斎。悲痛な表情で床下に潜った黒蝙蝠が出てきた時の装束は……あ、何だか可愛い蝙蝠っぽい耳付きの頭巾でした。それはさておき、さすがは忍者の妻子、連行する下忍たちの隙を見て、静は娘を逃がすのですが……

 一方、赤影たちは白影の凧を上空に揚げて偵察中。そんな中、水汲みに出かけた青影は、隠れる百合を見つけるのですが、そこに下忍たちの追っ手が現れます。
 と、そこに爽やかに現れた赤影は、忽ち下忍たちのうち四人に金縛りの術をかけて四隅に配置し、体に縄をひっかけて――これプロレスのリングだ! 残りの下忍相手に楽しげにタッグマッチを繰り広げる赤影と青影……本当にこの二人は白影がいないともう。

 そしてその時白影は空中で謎の蝙蝠の群れに襲われて大ピンチ。斬れば斬るほど黒煙を噴き出す蝙蝠の前に力尽きた白影の身にびっしりとたかる蝙蝠たち……そしてようやく異変に気付いた赤影に、黒蝙蝠からの挑戦状が届きます。案内の蝙蝠について、空を飛ぶ赤影が到着した先は、血のように赤い夕焼けに照らし出された不気味な地。そこで襲いかかるあの蝙蝠の群れを、額からのビーム、忍法流れ星で薙ぎ払う赤影ですが、何せ数が多い上にふわふわと飛び回る相手に苦戦、さらに黒煙に巻かれて苦しむ赤影の運命は……

 と、地下墓地らしい場で、縛り上げた白影(本当にこんな役ばかり)を前に不敵に笑う黒蝙蝠。勝敗がいずれにせよ白影は無傷で返すと紳士的ですが、しかし己の吸血蝙蝠たちの勝利を疑わぬ黒蝙蝠ですが……
 が、そこにボロボロになった蝙蝠軍団とともに赤影参上。忍法みだれ髪(完璧にセットされた髪で言われると妙におかしい)で蝙蝠たちを一網打尽にしてみせた赤影に対し、ついに黒蝙蝠は自ら立ち上がります。

 そして始まる二人の達人同士の激斗! 互いに地下の暗さと複雑な地形を利用しての激突は、これまでの七人衆戦とは全く異なる意味で忍者同士の死闘という印象であります(ちなみに赤影役の坂口祐三郎は、『新選組血風録』では山崎烝。近藤vs山崎!)
 岩をも砕く剛力を発揮する黒蝙蝠に、地上に飛び出した赤影は、入り口の小屋(そして囚われの白影)ごと大爆破! しかしそこから出現したのはこれまでの何倍もの巨大蝙蝠。口から火を吐く怪物蝙蝠ですが、赤影はこれを難なく撃破、そして脱出してきた白影ともども、黒蝙蝠に刃を向けるのですが……

 そこに割って入ったのは、青影に助けられた白影と百合。もとより黒蝙蝠を斬る気はなかった赤影は快く刃を納め、その意気に感じた黒蝙蝠は、幻妖斎の行き先が京の都であると教えるのでありました。


 隠棲していた凄腕が、家族のためにやむなく再び立ち上がる……というのは古今東西を問わぬ定番ですが、それを舟橋元が演じることで、時代ものとしての何とも言えぬ迫力とリアリティが生まれた今回。その一方で、唐突に始まるプロレスごっこなど緩急付けた展開もあって、本作の楽しさが良く表れたエピソードと言えるかもしれません。


今週の怪忍者
黒蝙蝠

 甲賀を捨て妻子とともに平和に暮らす抜け忍。黒煙を発する吸血蝙蝠の群れや、口から火を吐く大蝙蝠を操り、自らの武術の腕も凄まじい。妻子を人質に取られて赤影と死闘を繰り広げるが、妻子が救出されたため、和解した。


今回の怪忍獣
大蝙蝠

 巨大化し、口から火を噴く巨大な蝙蝠。黒蝙蝠が奥の手として赤影に繰り出したが、赤影の手首のビームスティックからの光線であっさりと倒された。


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2016.02.22

松本清張『かげろう絵図』上巻 大奥と市井、二つの世界を結ぶ陰謀

 江戸城内の観桜の席で、大御所家斉の寵愛篤い多喜の方が、桜の枝に歌を結ぶために上った踏台から転落、命を落とした。踏台を持ち込んだ登美は、実は大奥の腐敗を探るために寺社奉行・脇坂淡路守一派から送り込まれた間者だった。大奥で、幕府で隠然たる権力を振るう中野石翁一派の陰謀とは……

 松本清張といえば、やはり社会派推理小説の大家……という印象がありますが、しかしデビュー作をはじめ、特に初期には決して少なくない数の歴史・時代小説を発表しています。そして本作は、その中でも娯楽度の高い、しかしやはり作者らしさも感じさせる大作であります。

 物語の背景となるのは、第十一代将軍であった徳川家斉の大御所時代。
 将軍就任当初は、松平定信の起用など(結果はともあれ)政治に熱心に取り組んできた家斉も、晩年は側室のお美代の方に入れあげて政治を疎かにし、そしてお美代の方の養父たる中野石翁や、それと結んだ水野美濃守(忠篤)が権勢を欲しいままにした……と言われる時期であります。

 この中野石翁やお美代の方一派の専横は、時代ものではしばしば題材となっておりますが、本作もまさに彼らが悪役となる作品。家斉を動かし、ある陰謀を企む石翁一派に対し、彼らの腐敗を暴かんとする者たちが戦いを挑むことになります。
 それは、当時の寺社奉行であり、後に老中ともなった脇坂淡路守。大奥女中が谷中延命院の僧と密通した事件を裁いた彼は、なるほど、大奥と寺院を結ぶ陰謀に挑むには、相応しい人物であるかもしれません。

 しかし、本作の主人公となるのは、その淡路守と無縁ではないもの、しかし決して同心するものではなく、それでいて石翁一派にも組みしない者。淡路守と結ぶ旗本・島田又左衛門の甥で、普段は恋人の富本節師匠のもとでのんべんだらりと暮らす若者・島田新之助を中心に、物語は展開していくのであります。

 この新之助、頭の回転も武術の腕も抜群のものを持ちながら、旗本の次男坊という立場故に家を出て、市井で庶民に立ち混じって気楽に暮らす青年。
 そんな彼が、叔父の企てから、そして思わぬ形で事件に巻き込まれた友人を救うために、事件の渦中に飛び込んでいくのが何とも痛快なのであります。


 上でくだくだしく述べたとおり、本作はあくまでも江戸城内、そしてその最奥とも言うべき大奥を舞台に展開する陰謀、闘争を描く物語ではあります。
 つまり、本来であれば新之助のような人間が関わることもないような上つ方の物語なのですが――その交わらないはずの世界が交わりそして互いに影響を与え、そしてそれがまた互いに……と、複雑な波紋を巧みに描いていくのは、作者の腕前であり、また持ち味でもありましょう。

 そんな本作は、特に新之助の、如何にも主人公らしいキャラクター造形と活躍など、読んでいてちょっと驚くくらいオールドファッションな(いや、実際に半世紀以上前の作品ではありますが)内容ではあります。
 しかしそれでも、今読んでも全く古さを感じさせないのは、史実を背景に虚々実々の駆け引きを描く物語の楽しさもさることながら、そこで動き回る登場人物の――特に悪役である石翁一派の描写の巧みさに因るものでありましょう。

 特に、石翁一派である前田家江戸屋敷の用人が、密かに通じた大奥の中年寄が妊娠して認知を迫られ、その対応に困って石翁に頼るくだりの生々しさなど、その後の「ああやっぱり……」という展開も含めて、実に「らしい」。
 しかしそれだけでなく石翁に対する淡路守側も、目的のために手段を選ばぬ、犠牲を仕方ないものと認めるという点において、決して単純な正義の味方ではないのが印象に残ります。

 そんな中でただ一人、そうした両派の在り方に背を向け、自由闊達に活躍するのが新之助なのですが……さて、彼は最後までそれを貫くことができるか。
 この上巻で描かれるのは、起承転結でいえば承までの部分。この先に何が描かれるのか……下巻も近日中に紹介いたしましょう。


 と、この文章を書いていた時に飛び込んできたのは、本作がTVドラマ化されるというニュース。ドラマ版は米倉涼子演じる登美が主人公となるようですが(新之助は山本耕史)、さてどのような形で描かれることとなるのか、気になるところであります。


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2016.02.21

『牙狼 紅蓮ノ月』 第19話『繚乱』

 番犬所から紅蓮ノ月に封印されていた炎羅ルドラが道摩法師により復活したと知らされた雷吼。しかし頼信、そして保輔が謎の黒衣の女に襲われ深手を負う。晴明の力を借りて星明のもとに向かった雷吼は、その先で道満と黒衣の女――星明と出会う。再会を喜ぶ雷吼に、星明は凄まじい勢いで襲いかかる……

 最後の(?)敵の存在が判明し、ついにクライマックスに突入した感のある本作。今回はある意味予想通りというか、恐れていた星明の闇堕ち宣言というべき展開であります。

 前回散々勿体ぶったわりに、あっさりと雷吼にルドラの存在を雷吼に明かした番犬所の稲荷。道摩の企みによりルドラの封印が解かれ、地上にその依代が現れたと語ります。そしてルドラが完全体になる前に討滅せよと命を下すのですが……

 その頃、新たな検非違使の長として庶民に頭を下げる頼信。その行動はさておき、何故わざわざ夜に庶民を集めるのか……というのはさておき、そこに紅の稲妻が天空から幾本も降り、怪しの黒衣の女が現れます。その後を追った頼信は、垣間見えた相手の顔に驚愕の表情を浮かべたまま、一撃でKOされるのでありました。
 さらに、道摩法師の姿を求めて芦屋道満の後をつけた保輔の前にも現れた黒衣の女。赤黒い蝶の奔流と式神を操る相手に深手を負わされた保輔もまた、相手の顔を見ているようなのですが……

 同じ魔戒騎士である保輔が倒され(番犬所で集中治療に)、さすがに弱音を吐く雷吼は、星明の力を借りるため、こういう時に一番頼りになる晴明のもとを訪れます。孫娘を捜すことを請け負った晴明は、あたかもソナーの如く、安部家の者にのみ反応する波動を放ち、反応のあった先に飛んでいく式神を、雷吼も追いかけていきます。

 と、その先に現れたのは道満。道摩法師は殺したとノリノリで宣言するのがかえって心配になりますが、さらにそこに星明が現れます。
 やけに目つきが鋭かったり、肩が露出したやけにセクシーな黒い衣装に変わっていたり、自分のことを「黄金騎士」呼ばわりしたりとあからさまに怪しいにもかかわらず、雷吼は再会に心躍らせるのですが――

 しかし雷吼に襲いかかる星明。何と(と言うのも正直苦しいですが)頼信を、保輔を襲ったのは星明だったのであります。
 驚き躊躇いながらも、あまりの激しい攻撃に、ついに剣を抜きかかる雷吼を、しかし金時は押し止めます。雷吼に星明を斬らせるわけにはいかない、人を守る雷吼を守るのが自分の務めですと語り、星明に挑む金時ですが――星明の一撃は金時を深々と貫くのでありました。

 ついに怒りを爆発させる雷吼を結界の中に取り込む星明。様々な術で襲いかかる星明に苦戦する雷吼は、ついに黄金の鎧を召還するのですが――その時、強固であるはずの結界を軽々と破り、その場に赫夜が現れます。
 星明の攻撃を消し去り、結界を竹林へと変えていく赫夜の前に、その場から撤退する道満と星明。驚く雷吼に、赫夜は自分が紅い月を封印した者だと思い出したと告げ……


 と、ルドラを巡る様々な構図が明らかになっていった今回……なのですが、印象に残ったのは、これまでも素手ゴロ最強感があった星明が、レギュラー陣を相手にその強さを遺憾なく発揮する姿。

 彼女が依代というのはある程度予想していましたが、しかし赫夜の役割にはそれなりに驚かされましたし、まだまだわからないのは、この大波乱の中でも謎めいた動きを見せる道長の存在でありましょう。

 彼が口ずさむ、あの望月の歌に如何なる意味が込められているのか……それが最後の謎となるのでありましょうか。


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2016.02.20

水上悟志『戦国妖狐』第16巻 そして迎えたいくつもの決着

 長きに渡って人と闇(かたわら)、そして遠い過去からやってきた「無の民」との激闘を描いてきた『戦国妖狐』も、作者の言によれば本作は全17巻で完結――すなわち残すところはこの巻を含めてあと2巻となります。完結目前のこの巻では、いくつもの「決着」が描かれることとなります。

 自分たちの時代に迫る破滅を避けるため、千夜の強大な力を求める無の民。彼らの強力な術によって配下とされた無数の闇との戦いも、これまでの旅で培われてきた人と人、人と闇の繋がりによって、ようやく終わりが見えてきました。
 が、最後に残ったのは、無尽蔵な力を持つ雲の妖・万象王。悲しみを乗り越えて更なる力を得た千夜は、黒竜ムドに万象王を任せ、ただ一人――いや、己の身のうちの千の闇とともに、無の民と対峙するのでありました。

 ……というわけで、この巻の冒頭で描かれるのは千夜と無の民の最後の対決ですが、その場に加わったのが千本妖狐・山戸迅火の兄・猛。迅火の双子の兄の存在はこれまで予告されていた――というより設定上いなければならなかった――のですが、物語がここに及んで登場というのには驚かされます。
 しかも彼がここに至って提唱するのは、皆が幸せになる方法の話し合いだというのですから……

 そもそも、彼らの世界を襲う破滅の正体がこれまで語られてこなかった無の民。なるほど、その正体が明かされれば、あるいは千夜を犠牲にせずとも対策は取れるのかもしれません。そして確かに、その答えは示されるのですが――

 これまで、強大な力と力の激突を描きつつも、(特に第二部に入ってからは)決してその力の大きさだけが勝敗を決めるものではなく、力を用いる心の在り方こそが、それを決してきた本作。
 その意味では、ここで描かれるものは、実に本作らしい決着ではあるのですが……そこに残されるのは、大きな苦み。しかし、犠牲なしには得ることのできないものの重みと、その先にほのかに見える希望もまた、本作ならではの――いや、この作者の作品ならではのものでありましょう。


 ともかくも一つの戦いが決着した千夜たちですが、本当に彼らが決着をつけるべき相手は、暴走する迅火であり、彼を救うことこそが真の目的であります。そしてその準備は整った……と言いたいところですが、ここでもう一つ、千夜が決着をつけるべき相手の存在が示されることになります。

 それは、彼自身――彼の中に眠る強大すぎる力への恐れであり、そしてその力がもたらした彼にとっての「原罪」とも言うべき記憶であります。
 誰もが自分の中に抱える弱さや恐れ。それは地上では屈指の力を持つこととなった千夜においても変わることなく――いや、彼の力の源が、自分の中の無数の闇であるからこそ、より大きく感じられるのでしょう

 そしてそんな彼が何よりも恐れるものは何であったか――ここで描かれる「それ」は、あまりにも意外でありつつも、しかしやはり我々にもどこか馴染みのある想い。
 それだからこそ、その想いと対峙した千夜が――決して彼自身の力だけでなく、そしてそれだからこそ価値があるのですが――見つけた答え、彼自身がなりたかった自分の姿は、本当に、本当に感動的なものであります。

 ある意味、彼の旅はここで終わったのではないか――というのはいささか乱暴かもしれませんが、見事な決着であることだけは間違いないでしょう。

 そして、そんな彼だからこそつけられる、もう一つの決着があります。それは言うまでもなく、迅火との決着――すなわち、彼を救い出すこと。

 最終巻で描かれるであろうそれが如何なる形になるかはわかりません。しかしそれが間違いなく素晴らしいものであろうことは、この巻を読んだ今となっては、自信を持って言えるのであります。


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 「戦国妖狐」第10巻 真の決戦、そして新たなる旅立ち
 「戦国妖狐」第11巻 父子対決、そして役者は揃った!
 「戦国妖狐」第12巻 決戦前夜に集う者たち
 『戦国妖狐』第13巻 そして千夜の選んだ道
 『戦国妖狐』第14巻 決戦第二章、それぞれの強さの激突
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2016.02.19

鈴木英治『義元謀殺』下巻(その二) 描かれた「それ以外」と歴史の流れの果て

 鈴木英治による歴史ミステリの名作『義元謀殺』下巻の紹介の続きであります。本作のミステリとしての見事さは先に述べた通りですが、本作の魅力は、決してそれに留まるものではありません。

 そして私が歴史ミステリとしての物語の本筋だけでなく感心させられたのは、本作が描かれるその背景世界――駿府とその周辺に暮らす人々の描くその視点であります。

 戦国時代の真っ只中であり、織田家をはじめ、周辺の各国と一触即発の状態にある今川家。しかしその中心である駿府では、そのような状況であっても、武士や町人、農民を問わず、それぞれの日常の暮らしが続けられているのであります。
 ……もちろんこれは言うまでもないことでありましょう。いかに戦時中であっても、全ての時と場所で戦が繰り広げられているわけではなく、その後ろで人は生き、暮らしているのですから。

 しかし時に歴史小説においては、ある意味当然のことながら、そこで描かれるべき事件(多くの場合それは戦であるわけですが)に視点を集中することにより、それ以外のものが見えなくなることがあります。

 本作は――もちろんそれは物語上の必然ではあるのですが――その「それ以外」を丹念に描きだします。例えばそれは、現代でいえば軍人ではなく、警察官である勘左衛門のような存在、戦国の武士であっても、戦闘員ではない者たちを描く視点に象徴されていると感じますが、それは本作ならではの切り口でありましょう。
(そしてこの視点は、上巻の紹介で触れたように、作者が後に奉行所ものの名手となったこととも無縁ではありますまい)

 そして――その視点は、同時にこの時代の、いや歴史の流れの異常さ、無情さをも同時に描き出します。
 作中で描かれる数々の死。時に極めて残酷に描かれるそれは、戦の場のそればかりではなく、いやその大部分が、「それ以外」で起きるものであります。
 それはもちろん、本作なればこそのものでありますが――しかし全編を通読すれば、それはやはり戦のための、戦での犠牲にほかならないことが明らかになるのです。

 描かれる陰謀が大掛かりであればあるほど、その行き着く先の史実の影響が大きければ大きいほど、その過程に関わった人々、直接戦うわけではなく、ただその時を生きてきた人々の命の価値は、反比例して軽くなっていく……
 それは、ある意味常軌を逸した実行犯(自身)の動機が、一言の下に否定される結末において、象徴的に浮き彫りにされているとも申せましょう。


 個人的には、クライマックスのトリックがいささかアンフェアなのが気になるところではありますが、しかし本作はそれが許される世界観であり(その点も事前に伏線があります)、そして何よりも、そこに至るまでが最大のトリックであると考えるべきでありましょう。

 何よりも、これまで縷々申しあげたとおり、本作の最大の魅力は、ミステリとしてのトリックに加え、その視点の巧みさ、そしてそれらが一体となって描かれることにより、歴史というものの無情さ・非人間性を剔抉してみせた点であり――それは、少々のことでは揺るぐはずもないのであります。


『義元謀殺』下巻(鈴木英治 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
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2016.02.18

鈴木英治『義元謀殺』下巻(その一) 精緻に積み上げられた陰謀の果てに

 謎の一団の凶行により、血に染まる駿府城下。今川家の目付・深瀬勘左衛門は、ついに謎の一団の本拠に近づく。敵味方に死者が続出する中、義元は厳重な警戒の下、花見を強行。多賀宗十郎もその警備に当たるが、敵の真の狙いは意外なところにあった。そしてついに今川と織田の戦が始まる……

 今川家と織田家の決戦が迫る中、織田側の起死回生の策として送り込まれた、今川義元暗殺を狙う一団。その陰謀に巻き込まれた義元の馬廻・多賀宗十郎をはじめ、今川方・織田方、敵味方様々な視点から描かれる歴史ミステリの下巻であります。

 ある晩、駿府城下で起きた凄惨な事件。一夜にして旗本頭の皆殺しにされ、屋敷が廃墟と化したこの事件を皮切りに、駿府では次々と犠牲者が発生、数多くの者が命を落とすこととなります。
 その凶行の下手人は、かつて義元の命で謀殺された山口家の一党。復讐のため、そして織田家仕官のため、彼らは織田家の忍びの協力の下、ある計画のために暗躍していたのでありました。

 山口家謀殺に関わった宗十郎もまた、彼らに狙われたものの、謎の密告者の警告により襲撃を事前に察知した彼は、今川家随一の腕で敵を撃退。
 一方、宗十郎の幼なじみで恋人の兄でもある敏腕目付・深瀬勘左衛門も、執念の捜査から、山口党に一歩一歩近づいていくのですが……


 という上巻に続き、いよいよクライマックスとなる下巻。果たして山口党の、織田家の計画とは何なのか、宗十郎たちは陰謀を未然に防ぐことができるのか。そして何よりも、桶狭間の戦と、この陰謀は関わってくるのか……
 数々の謎が解き明かされていく中、さらに多くの者たちが命を落とし、そして物語は運命の刻に向かい、突き進んでいくこととなります。

 が、困ってしまうのは、これ以上内容に触れようがないことであります。何しろ、誰が死んで誰が生き残るかはもちろんのこと、いつ何が起こるかも、一つ語れば、この精緻に積み上げられた物語全てが崩れかねないのですから……

 そんなわけでいささか隔靴掻痒のきらいはありますが、具体的な内容に踏み込まずに紹介すれば、とにかくまず言えるのは、上巻でこちらが抱いた期待は全く裏切られることなく、最後の最後まで全く気を緩めることもできぬまま、物語は一つの大団円を迎えるということであります。

 上巻の時点で、そしてそれ以降も、物語に散りばめられた数々の謎の、その一つ一つは何となく解けたように思えるものの、それが物語全体の中でどのような意味を持つかはわからぬまま展開していく物語。
 さらに物語が宗十郎や勘左衛門だけでなく、目まぐるしく視点を切り替えていくことで、無数の情報が錯綜し、一種神の視点を持つはずの我々読者も――いやそれだからこそ、完全に術中にはめられてしまうのであります。


 そしてそれだけでなく……以降、思わず長くなってしまいましたので、次回に続きます。


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2016.02.17

『牙狼 紅蓮ノ月』 第18話「星滅」

 討滅された炎羅を吸い込んでいく紅の月。その正体は、かつて安倍家の先祖によって作られた封印の結界であり、その鍵が何処かへ失われたことを知る雷吼。一方、道摩の呪詛を消すため熊野に籠もっていた星明の前に晴明が現れる。しかし祖父の力でも解けぬ呪詛に、単身星明は道摩のもとに向かう……

 後半戦に至り天空に出現した謎の紅い月。タイトルともなっているその紅蓮ノ月の正体が、ようやく明かされることとなります。

 火羅たちに力を与え、そして討滅された火羅たちが紅い光となって昇っていく謎の月。その光の中に星明の紋章を見た雷吼は、番犬所の稲荷にその正体を問い質します。そして明かされたその正体とは――月のようで月ではないもの、「紅蓮ノ月」。遙か古に安倍家の者が作った結界でありました。
 しかしその結界の鍵は何処かへ喪われ、それを探すために、都から魔戒騎士や法師たちは姿を消していたのであります。が、その結界が何を封印しているかまでは、稲荷は答えず……(尤も、すぐに語られるのですが)

 一方、雷吼の前から姿を消した星明は、自らにかけられた呪詛を解くために道摩法師を探し、都で凶行を働いていた道満と対決するものの逃げられる羽目に。そして自分の体内の闇に苦しみながら、熊野の山中に向かった星明の前に現れたのは、祖父・晴明……
 星明が熊野に来たのは、安倍家の聖地たるこの場所で身を清めるためですが、晴明が現れたのは、紅蓮ノ月を見張るため。その紅蓮ノ月に封印されていたのは、古の騎士や法師が束となっても敵わなかった火羅・ルドラ……晴明もまた、封印の鍵を探していたのであります。

 が、とりあえず今は星明にかけられた道摩法師の呪詛を解こうとする晴明。しかしその術は晴明の命を削るものであり――それどころか、術が効果を発揮する前に星明の中の闇が暴走、晴明に襲いかかるのでありました。
 辛うじて晴明の身は式神が守ったものの、正気に返ってしまった星明にとってはそれはなお辛い事実。星明はその地を離れ、先に道満と対峙した際につけておいた目印を辿り、道摩のもとに向かいます。

 そこで道満と対決することとなった星明。自分の望みはこの世を無明の闇の世界に変えること、そしてそれこそが道長への復讐だと嘯く道満に対し、雷吼への想いを胸に戦う星明も一歩も引きません。そしてついに星明の渾身の一撃が道満を捉えたかに見えたのですが……しかし道満の逆転の刃が星明を貫きます。

 そして道満の凶行は留まることを知らず、その傷から湧き出た闇は師たる道摩法師をも喰らうことに――そしてついにその時、ルドラが目覚めます。
 それを見つめるのは雷吼や金時をはじめとする都の人々。そしてもう一人、赫夜もまた……


 というわけで、星明主役篇とも言うべき今回のエピソードにおいて、ついにというかようやくというか動き出した物語。星明の闇堕ちは予想通りではありますが(魔戒騎士ではなく、陰陽を合わせ持つ陰陽師だからこそ……という道摩の言葉に納得)、しかし紅蓮ノ月の正体は相当に意外かつ納得の展開であります。
 月の封印の在処は、まあ何となくわかるような気がしますが……

 そしてこれも予想できたとはいえ、ついに師にまで牙を剥いた道満はどこに向かうのか。これまでも散々突っ込んできましたが、言うことの大きさの割りには非常に打たれ弱いキャラだけに、先行きが気になるところです。
(今回も星明の拳にあわや屈するところで……まあ、星明はある意味素手が一番強いような気もします)


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 『牙狼 紅蓮ノ月』 第5話「袴垂」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第6話「伏魔」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第7話「母娘」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第8話「兄弟」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第9話「光滅」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第10話「一寸」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第11話「斬牙」
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 『牙狼 紅蓮ノ月』 第14話「星明」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第15話「心月」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第16話「最低」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第17話『兇悪』

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2016.02.16

武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第6巻 新たなる六韜、そして頼朝が示す弁慶の道

 源平の争いを背景に、持つ者に超常の力を与える六韜を巡り繰り広げられる死闘・暗闘・激闘を描く『天威無法 武蔵坊弁慶』も第6巻。今まで見たことがない(ような気がする)キャラクターが表紙に登場――と思えばこれが源頼朝。六韜の一つの持ち主である頼朝は、義経と弁慶に何を語るのか……

 鬼一法眼が宋国から日本に持ち帰った六韜。兵法の秘伝書とも伝えられるその正体は強大な呪術書――持つ者に人を超えた様々な力を与え、時にはその姿すらも変えてしまう、恐るべき存在でありました。
 平氏打倒の力とするため、六韜を求める義経とともに奥州への旅に出た弁慶は、途中で木曾義仲と対決。武韜の力を全開にした義仲に対してはさすがに手も足も出ないかと思いきや、鬼とも言うべき異常な力を発揮してその場を切り抜けた弁慶を連れ、義経と遮那は旅を続けることとなります。

 そしてこの巻の前半で中心となるのは、遮那とある男の出会い。義経が土地の源氏に渡りをつけ、いまだ傷の癒えぬ弁慶が休む中、一人町に出た遮那は、そこで貧しい兄妹を助けるため、破落戸たちを束ねるある男と賽子博打対決をすることに……

 と、六韜探しとは関係ないエピソードなのですが、ここで登場するある男の名は、伊勢三郎。言うまでもなく弁慶にも次ぐ義経股肱の臣として知られる人物であります。
 しかし登場時点の三郎は、イカサマ博打であくどく稼ぐならず者。遮那も、あわやそのイカサマの餌食となるかと思いきや、全く別の場所で、ほとんどホラー映画の殺人鬼のような行動を見せた義経のおかげで難を逃れるというのはなかなかに面白い展開ではあります。

 そして一方的に遮那に惚れた三郎を加えて再び旅立った一行が訪れたのは伊豆――そう、義経の兄たる頼朝が流罪とされた地であり、ここで物語はまた大きな転機を迎えることになります。


 ここで、最近のフィクション(特に漫画)の頼朝像を見てみれば、義経との対比や後々の義経に対する行動もあってか、サイコパス気味に描かれることが多いようにも感じられます。
 サイコパスといえば本作の義経は完璧にそれで、義経がそれであれば頼朝はどうなってしまうのだ……と思いきや、これが実に意外なキャラクターとして描かれているのであります。

 痩躯に伸ばし放題の長髪、そして穏やかな瞳と、むしろ茨の冠が似合いそうなこの頼朝、外見と内面が大きく異なる義経とは異なり、どうやら外見そのままの人物。
 弟とはまた異なる形で、肉親同士が殺し合う地獄を経験しながらも(ここでちらりと顔を出す平重盛が、また「らしい」キャラクターで楽しい)、復讐や天下取りにも興味を示さず、ただ愛妻の政子と、天然自然を友に暮らす……そんな本作には今までいなかったタイプのキャラクターなのです。

 しかしそれであっても彼もまた六韜の持ち主。その一つ・龍韜を手にすべく、強引な手段に出た義経に対して全く動ずることなく、頼朝は一行を龍韜の在処に誘うことになります。
 そして龍韜を前にして、再び姿を現さんとする弁慶の中の鬼。そしてその正体を見抜いた頼朝が語る言葉とは……


 その詳細はここでは伏せさせていただきますが、いやはやこれがまた、ここに来てこう来るか! と言いたくなってしまうような内容。あまりの豪快さにただただ口をあんぐりとしてしまうような内容なのですが――
 しかし、そのとんでもない内容が、ここしばらくの六韜を巡る物語に全く予想もしなかった形で弁慶を密接に結びつけ、そして彼自身に進むべき道を示すこととなります。

 物語の中核に位置する六韜。その六韜を日本にもたらした鬼一法眼と浅からぬ縁を持ちつつも(ちなみにここで法眼の、いや宋国皇帝の真意がさらりと語られるのにも仰天)、しかし弁慶は、六韜の力に背を向けようといたします。そして、それがかえって、彼が行く道を迷わせることとなります。

 そんな複雑な関係を持つ弁慶と六韜に対して、今回描かれた頼朝の言葉は、一つの明快な回答を与えることとなります。
 ある意味、ここからが弁慶と六韜の物語の始まりであり――そしてそれは、いよいよ物語が佳境に入ったことをも意味するのではありますまいか。


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2016.02.15

『仮面の忍者赤影』 第9話「不死身の魔像」

 甲賀の下忍に追われて逃げてきた三人の若者を救った赤影と青影。彼らが金目教に働かされていたことを知り、三人の案内で作業場に潜入する赤影たちが見たものは、片腕を破壊された金目像の修理だった。金目像破壊を狙う赤影らと、その動きを察知した幻妖斎。両者は虚々実々の駆け引きを繰り広げる。

 前回、南蛮大筒の直撃で片腕を落とされた金目像。しかしタイトルのとおり、まだまだ健在な姿を見せることになります。

 下忍に追われて必死に逃げてきた若者三人組。わざとやってるんじゃないかというくらいに下忍がモタモタしている間に駆けつけた赤影と青影は、彼らに飯を食わせて、彼らが金目教に騙されて徴用され、過酷にこき使われた末に作業場から逃げてきたことを聞き出します。
(この三人組の語りの下り、ストップモーションの連続で描かれるのが妙なインパクト)

 が、そこに案内してほしいと頼むと、途端に態度を変える三人組。必死に食らいついていた握り飯を放り出し、そんなのは忘れたと言い出す三人ですが、そんな彼らに、にこやかに笠の骨(?)を被せ、謎の忍法で記憶を再生させて案内に使う赤影さんは、やっぱり戦国の忍びだと思います。
 それでも三人組の記憶がアバウトなおかげで、赤影は三人組を青影に任せて、単身別ルートを行くことになります。

 その作業場では、幻妖斎の命を受けた朧一貫がノリノリで村人を虐殺。しかしその一方で、闇姫は女子供にも容赦しないそんな一貫の、いや幻妖斎のやり方についていけないものを感じ、幻妖斎に対してもあからさまに不服な態度を隠そうとしんあいのですが……
 それはさておき、そんな殺伐とした作業場で、大胆にも一貫を虚仮にしてみせたふてぶてしい老人が一人。幻妖斎の前に引きずり出されても態度を変えない老人の正体を赤影と睨んだ幻妖斎(その一方で、老人の髭を引っ張って、確かに本物だと確認した一貫の目の節穴ぶりよ……)は、敢えて老人を泳がせておくのでした。

 果たしてその晩、作業場の奥に横たえられていた(妙に縮尺がおかしい)金目像に近づく一人の影。周囲に火薬を振りまいて着火しようとした瞬間、トラバサミにかかって宙づりにされたその姿に快哉を挙げる幻妖斎ですが――しかしそれは赤影のふりをした白影!
 いやいや、あなた今回どこにもいなかったでしょうと言いたくなりましたが、密かに連絡を取り合っていたのでしょう。その隙に赤影が参上、さらに青影と何故か女装して見張りを欺いた青影も、解放した村人たちとともに乱入し、周囲は大混乱であります。

 さすがに戦国時代のお百姓さんは戦闘力が高いというべきか、下忍たちを叩きのめし、一貫まで追い詰めた彼らのパワーには幻妖斎もたじたじ。そして赤影が白影を助け出し、金目像は大爆破……おや、タイトルと違うと思いきや、地中から現れたのは、吹き飛ばされた左腕を金属で補強して復活した金目像!
 すかさずラッパランチャーで攻撃する赤影・白影・青影に、見物していた百姓衆も喝采ですが、しかしそのもうもうたる爆煙の中から金目像は無傷で出現するのでありました。

 それでもなおもランチャーを乱射する赤影たちの攻撃でたじろいだのか、はたまた改修の目的は果たされたからか……金目像は何処かへ消えるのでありました。


 登場シーンから、ラストに赤影たちに道案内の駄賃を強請る姿まで、妙にすっとぼけた三人組の若者が印象に残る今回ですが、クライマックスの大火力による金目像迎撃シーンはかなりの迫力。
 そしてその一方で、闇姫が幻妖斎に不満を抱いている様子も描かれ、第一部クライマックスに繋がっていく回と言うべきでしょうか。


今回の超兵器
強化金目像

 南蛮大筒で左腕を吹き飛ばされた金目像が、山中で密かに改修されたもの。左腕の付け根と手首は金属で補強された上、全身も強化されているのか、赤影たちの砲撃もものともしなかった。


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2016.02.14

3月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 暖冬かと思えば非常に寒くなったりと、結局厳しかった冬ですが、暦の上では立春を迎え、だんだんと暖かくなってきた印象があります。今年度もあと一月、というと途端に絶望的な気分になったりしますが、何はともあれ春は目前。3月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 さて、個人的にはかなり寂しい印象のあった2月ですが、これが3月は一転、嬉しい悲鳴……というよりも、大袈裟に言えば命の危険(あと、物理的な意味での家での身の置き所)すら感じる物量であります。

 文庫小説では、まずシリーズ最終巻(であろう)瀬川貴次『鬼舞 見習い陰陽師といにしえの里』が登場。ちなみにこのシリーズとは浅からぬ関係のある『暗夜鬼譚』が、コバルト文庫ではなく集英社文庫から同月復刊されます。
 その他白泉社招き猫文庫からは三國青葉『忍びのかすていら』と仲野ワタリ『幕末五七五!』が登場。また、小松エメル『うわん』第3巻、紅玉いづき『大正箱娘 見習い記者と謎解き姫』、出海まこと『天正真田戦記 名胡桃事変(仮)』、鳴海丈『あやかし小町 大江戸怪異事件帳 2 鬼砲』と気になる作品が目白押しであります。
(ちなみに『天正真田戦記』は同じ作者の『ロクモンセンキ』の続編ではないのかしらん)

 また、徳間文庫『妙ちきりん 「読楽」時代小説アンソロジー』が登場。同誌の時代伝奇特集がベースではないかと思いますが、こちらも私好みの作品が揃っている様子です。

 また、復刊では夢枕獏『大帝の剣』第3巻&第4巻、長谷川卓『嶽神列伝 逆渡り』、輪渡颯介『迎え猫 古道具屋皆塵堂』、上田秀人『織江緋之介見参 5 果断の太刀』の新装版と、いずれも未読の方はぜひ、と言いたくなる作品揃いです。


 一方、漫画の方では、長谷川明『戦国外道伝 ローカ=アローカ』第1巻、横山仁『幕末ゾンビ』第1巻、西条真二『みなごろしのストラット 真田幸村異聞録』第1巻と、狙ったように異常にパワフルな作品が新登場いたします。

 そしてシリーズものの新刊も森野きこり『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』第4巻、波津彬子『雨柳堂夢咄』第16巻、灰原薬『応天の門』第5巻、楠桂『鬼切丸伝』第3巻、野田サトル『ゴールデンカムイ』第6巻、北崎拓『天そぞろ』第3巻、戸土野正内郎『どらくま』第3巻、永尾まる『猫絵十兵衛御伽草紙』第15巻、樹なつみ『一の食卓』第3巻、霜月かいり『BRAVE10S』第9巻と――
 まあ本当によくぞこれだけ刊行されるものです。


 最後に中国ものとしては、逢巳花堂『一〇八星伝 天破夢幻のヴァルキュリア』第2巻が登場。
 また、大西実生子による漫画版第2巻も同月発売の仁木英之『僕僕先生』シリーズは『童子の輪舞曲』が文庫化されます。



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2016.02.13

北崎拓『天そぞろ』第2巻 自分が自分であることを示すための戦いへ

 北崎拓とあかほり悟が、幕末の江戸にタイムスリップしてしまった女性編集者・楓と、屈託を抱えた浮世絵師の青年・源吾の数奇な運命を描く『天そぞろ』の第2巻であります。現代に戻るため、源吾に桜田門外の変の浮世絵を描かせた楓ですが、絵が失われたことで、二人の運命は大きく動くことに……

 武士の実家を飛び出し、市井で浮世絵師となった源吾。自分の中にあるものを持て余す「そぞろもん」の彼が出会ったのは、千里眼の力を持ち、さる大店を甦らせたという楓でした。
 実は楓は現代の漫画編集者。謎の浮世絵の取材をしていた彼女は、如何なる理由によるものか、幕末にタイムスリップしてしまったのであります。

 そしてその浮世絵の作者こそは源吾――楓は彼を焚き付け、浮世絵を――この時代においては決して許されぬ題材である桜田門外の変を描いた絵を――描かせ、後世に残すことで、幕末と現代を繋げ、現代に帰ろうとしていたのですが……


 という第1巻の展開を読んだ時には、楓が現れて早々にタイムスリップものの定番である元の時代への帰還の試みが描かれてしまい、少なからず驚かされたのですが、どうやら本作はそれが失敗した、ここからが本番という印象。

 現代に帰れなくなってしまった楓は、せめて自分がこの時代にいた証を残そうと、源吾の浮世絵を、あるやり方でプロモート。現代人でなければ知り得ないある情報を元にしたその手法は大成功、源吾の絵は一躍江戸中で知られることに……
 というわけで、ここで物語は、一種の業界ものに装いを変えた感があります。

 その転換――もちろんこれはあらかじめ企図されたものかと思いますが――の原動力となったのは、楓のキャラクターがこの巻において掘り下げられたことでしょう。
 第1巻では幕末人である源吾の視点から描かれていた物語は、この巻においてかなりの部分、(第1巻の時点では)謎の女性であった楓の視点に切り替えて描かれることになり、それによって物語の向かう先が、見えてきたように感じられるのです。

 源吾と楓と――その背負った事情は全く異なるものの、考えてみれば二人が抱えるのは、ともに「自分が自分であることをこの世界に(この時代に)」示したいという想い。
 もちろん深刻さは異なるわけですが、しかしその共通点を持つ二人が、どのようにこの先自分たちの道を切り開いていくのか……その舞台であり手段として、業界ものがチョイスされたというのは、なかなか興味深く感じます。

 そして、自己実現への渇望にも似た想いを抱くのは、二人だけではありません。二人と同じくらい、いや後世に残るという点では遙かに強くその想いを抱く男、土方歳三の存在もまた、魅力的なのであります。

 本作時点の歳三は、まだ何者にもなれていない中途半端な男。しかし楓は、その彼がこの先に為すことを知っているわけで――やはり有名人がいると盛り上がりが違う、というのは失礼な言い方かもしれませんが、主役二人とは別のアングルから物語を描く存在として、やはり気になる存在です。


 しかし、物語の方向性は見えたとしても、その行き着く先はまだまだ全く見えないのが正直なところ。果たしてここから先、この物語で何が描かれることとなるのか……
 それは時代もの、タイムスリップものという枠の中で、本作がどこまで自由な世界を描けるか、ということと繋がってくるのかもしれません。


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2016.02.12

風野真知雄『女が、さむらい』 伝奇とラブと……二重のromance見参

 北辰一刀流千葉道場の筆頭剣士の秋月七緒は、偶然、何者かに毒殺されかけた男・猫神創四郎を助け、彼が奪われた刀を取り返すが、その刀は徳川家に仇なすという村正だった。時を同じくして江戸に次々現れる村正。実は村正に関する密命を受けてた御庭番であった猫神とともに、七緒は事件の渦中へ……

 これだけの作品を刊行しながら、まだまだ新しいアイディアに満ちた作品を発表してくる風野真知雄の新作は、やはり作者ならではの極めてユニークな活劇の開幕篇であります。

 時は江戸時代後期、北辰一刀流・千葉周作の玄武館、鏡新明智流・桃井春蔵の士学館、神道無念流・斎藤弥九郎の練兵館と、いわゆる江戸三大道場が隆盛を極めていた頃。
 ……が、泰平の世に慣れすぎたのか、男たちは軟弱というかゆとりというかさとりというか、とにかく無気力。女を口説く気力もない男たちに替わりというべきか、主人公の秋月七緒は、千葉周作門下は目下筆頭の腕前になってしまったという状況であります。

 その七緒、やっぱりと言うべきか、色恋にはほとんど興味がなかったものが、長州藩邸用人の父に無理矢理押しつけられて、薩摩藩の重職の息子(で七緒の追っかけ)とお見合いする羽目になるのですが……その会場の料理屋の隣の座敷で騒動が起こります。
 何者かに毒を飲まされ、刀を奪われたという客の男・猫神創四郎。刀を奪った一味を追いかけた七緒は敵の群れを蹴散らし、刀を取り返すのですが……


 正直なところ、舞台設定だけを見ると(現代社会の風刺が効き過ぎて)もはやファンタジーのような印象もありますが、ここから展開していく物語は、実に伝奇テイストで面白いのであります。

 実は創四郎の正体は御庭番。西国の某藩が集めているという村正を奪う命を与えられた彼は、首尾良くその一本・月光村正を手に入れたものの、毒の後遺症で、命は取り留めたものの戦うのはおぼつかない身になってしまったのでした。
 そんな中、江戸には第二・第三の村正が出現。その存在を巡り、薩摩藩・尾張藩が暗躍し、さらに刀狩りをはたらく女剣士や、武器マニアのイケメン音曲師などの怪人物も登場、猫神の属する御庭番も、二派に分かれて暗闘を繰り広げるという状況であります。

 そしてなりゆきから創四郎を救い、次々と起きる事件に共に巻き込まれる中、いつしか創四郎に惹かれるようになった七緒。二人の運命は……


 というわけで、タイトルからうかがえるとおり、内容に直接の関係は(今のところ)ないものの、『妻は、くノ一』『姫は、三十一』の流れを汲んだ、伝奇活劇+ラブロマンスという、二重の意味でromanceな本作。

 先に述べた通り、舞台設定はちょっと首をかしげるところがありますが(まあ、女性上位社会を皮肉りながら、マチズモも否定するのは作者らしいところ)、独特の緩さと苦さの中で、個性的なキャラクターが入り乱れる楽しさは、やはり作者ならではのものでしょう。
 そして伝奇ものの王道とも言うべき秘宝(この場合は村正)争奪戦に、江戸三大道場+αの剣士たちが絡むという構図はやはり大いに盛り上がるところです。

 果たして物語がどちらに転がっていくか、今の時点では全くわからないところではありますが、しかしこれまで同様、安心して楽しめるシリーズになるであろうことは、間違いない……そんな感触であります。


『女が、さむらい』(風野真知雄 角川文庫) Amazon
女が、さむらい (角川文庫)

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2016.02.11

畠中恵『明治・金色キタン』 文明開化に消えたモノ、それを語るモノ

 築地の甫峠寺跡へ出向くお偉方の護衛をすることとなった銀座の派出所の巡査、滝と原田。しかしそこには祟りの噂があり、果たして二人は思わぬ騒動に巻き込まれてしまう。廃仏毀釈の最中に寺が、仏が、僧が消えたという甫峠寺村を巡る数々の事件に、滝と原口、仲間たちは否応なしに関わることに……

 明治も20年を過ぎ、江戸から東京と名前を変えてもなおも闇深い街を舞台とし、その闇の中で蠢く人ならざるものたちの姿を描くシリーズの第2弾であります。

 物語の中心となるのは、銀座の掘っ建て小屋のような交番に勤め、日夜事件や揉め事の解決に奔走する滝と原田の巡査コンビ。見かけによらずどちらもかなりの熱血漢である二人は、街の住人――特にその裏側で暮らす者たちに、時に恐れられ、時に敬われながら、忙しい日々を送っております。

 しかしこの滝と原田は――そして彼らの友人である牛鍋屋の百賢と妹のみずは、煙草商の赤手、三味線の師匠のお高は、いずれもごく普通にこの東京に暮らしつつも、時折どこか普通の人間とは異なった部分を見せます。
 それもそのはず、実は彼らは……

 というわけで、文明開化を迎え、妖たちがどこかへ消えてしまった――そして人間たちからも否定され、笑い飛ばされたかに見える時代に生きる「彼ら」を描く本シリーズ。
 前作は個々のエピソードは基本的に独立した短編集でしたが、本作はやはり短編の積み重ねでありつつも、それらに通じる太い柱が存在する連作スタイルであります。

 その柱とは、廃仏毀釈――ここでその内容を説明するまでもない有名な史実の背後に潜んだ謎が、滝と原田たちを翻弄することになります。
 江戸時代は菜種油の産地として江戸でも知られ、今は筑摩県(現代の長野県+飛騨地方)に組み入れられた甫峠村。かつてこの地にあった五つの甫峠寺は、廃仏毀釈の嵐の中で廃され、それぞれの本尊も行方不明になったというこの村では、五つの仏が揃った時、祟りにより村は無くなるという不気味な言い伝えがありました。

 同様に祟りが噂される、築地にあった甫峠寺の別院跡に出向くという甫峠村出身の内務省のお偉方・阿住の警護を押しつけられた滝と原田。彼らはそこで、何故か赤手と出くわすのですが、突然仏塔が倒壊し、その騒ぎの中で赤手が行方不明に……

 そんな事件に始まり、新興宗教めいた互助会の解散騒動や、女学生の写真から始まった人気投票騒ぎ、阿住の隠し子だという青年の登場、上野競馬場で起きた華族の狙撃事件と、次々起きる厄介な事件。
 主に阿住に振り回される形で首を突っ込む羽目になる滝と原田(特に滝)ですが、事件のたびに彼らの前にちらつくのは、あの五つの仏の影で……


 前作では、明治の東京に潜む妖の姿以上に、彼らの存在を信じず、あるいは利用すらしようとする人間たちの姿が描かれましたが、本作ではこの「祟り」の存在が中心にあることで、より妖サイドに引き寄せられた印象のある本作。
(この辺り、前作で、ある程度レギュラー陣の「本性」が描かれたことも大きいでしょう)

 その意味では、ある意味、より作者らしい雰囲気となったという気もいたしますが、人間の心の、この社会の陰の部分を描き出す――それはもちろん、他の作品にも存在しますが、本シリーズはそれがより色濃い――苦さ重たさ、そしてどこかもやもやとしたものが残る不気味さは、健在であります。

 そしてその中心にあるのは先に述べたとおり、廃仏毀釈。
 冷静に考えれば、国全体で時にとんでもない蛮行を伴って行われたこの強制的な変革の陰には、確かに様々な犠牲が存在したのであり――それはある意味、明治維新、文明開化といった時代の荒波に消えたモノたちの象徴とも言えるものでありましょう。

 しかし、それを描き出すのに、声高にその負の部分を訴えるのではなく、その消えたモノ自身に語らせるというのは、まさに本作でなければできない芸当であり――それこそが本作の、本シリーズの楽しさ、そして独自性に繋がるものと言うべきと感じたところです。


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明治・金色キタン


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2016.02.10

『牙狼 紅蓮ノ月』 第17話『兇悪』

 盗みに入った際、幾人もの炎羅と化した貴族を斬る保輔。一方、保輔を捕らえるため、施しを受けた民に暴力を振るおうとした四条公任は、止めようとした保輔の兄・保昌をも共犯として捕らえんとする。炎羅と化した貴族たちと公任の関係に気付いた保輔と保昌は、思い切った手に出ることに……

 今回は藤原保輔=袴垂=白蓮騎士斬牙の主役回。雷吼は冒頭に少々顔を出すのみであります。

 義賊としてのお勤めの最中、屋敷の主が出世コースから外れた不満から炎羅と化して住人を喰らっている場に出くわした保輔。あっさりとこれを退ける保輔ですが、同様のケースは何件も起きている様子であります。
 しかし保輔を取り締まる立場にあるのは兄の保昌。雷吼のところで保輔と出会った彼は、弟でも容赦はしないという態度を示しますが、しかしこの二人、直接的に金品を撒いて助けるか、治安を良くして間接的に助けるかという違いはあれ、どちらも民のためを思っているという似た者なのでした。

 と、兄弟がなんだかんだとやり合っている間に焦っていたのは検非違使別当の四条公任。保輔から施しを受けた民たちに拷問まがいの暴力を振るって口を割らせようとするのですが、保昌に阻まれます。
 そして、(雷吼に指摘された際にはスルーしていたものの)さすがに貴族の炎羅化が気になった保輔は式部に調査を依頼、貴族たちが皆、公任に睨まれて出世から遠ざけられたことを知るのでした。そしてその公任に近づいていたのは道満――例によって煽りを入れる道満によって、公任はおかしな野心に火が付いたようであります。

 そしてついに口を割らせるために民に矢まで向けるようになった公任。再び止めに入った保昌は、行方不明になった(=斬牙に斬られた)貴族たちと公任の関係を指摘しますが、それが悪かったか、口封じに盗賊と同腹(まあ、間違えてはいません)の者として追われ、図らずも保輔に助けられるのでした。
 事ここに至っては、公任の不正を暴くしかないと、証拠があるという検非違使庁に忍び込んだ保昌と保輔。何故か警備が薄く、簡単に忍び込んだ二人が、隠し部屋で見つけたものは――

 と、警備が薄かった理由は、その晩に道長が(酔狂にも)開いた観月の宴。その場に飛び込んできた保昌と保輔は、同席していた公任の命で討たれかかりますが、それを止めたのは道長でありました。
 そして保昌が道長に差し出したのは、公任によって握りつぶされた、彼の非道を告発する書状。さらに隠し部屋には、その際に彼によって殺された者たちの遺品が山のように……

 事が全て露見し、やはりと言うべきか炎羅と化した公任。さすがというべきか、二刀を手にした鎧武者さながらの姿は、なかなかの強豪、さらに紅蓮ノ月の力で足を四本に増やすと、皆を逃がして単身挑んできた保輔=斬牙に襲いかかります。……が、あっさりやられるのですが。

 公任の後任は頼信が当たることとなり、以前よりも手強くなった検非違使庁を相手に、今日も保輔は元気に盗賊を続けるのでありました(そしてそれを見逃す保昌)。


 というわけで、第一話から登場していたわりには微妙に印象の薄かった公任が今回で退場。渡辺綱、賀茂保憲に続いて実在人物が炎羅化して殺されてしまったわけですが……まあ、史実の公任は確かに検非違使別当であったものの、むしろ文名が高く、政治家・法律家の性格が強い人物だったので、モデルだと思うべきなのでしょう。

 が、いただけないのは、その悪事が露見する過程。まあ、隠してあったのが普段であれば厳重に警戒されているであろう検非違使庁の中ですし、元々そういう性格であったと言えばそれまでですが、自分の有罪の証拠をごっそり残していたというのは、あまりにもこう、都合がいいというか……

 まあ、公任の退場を除けば、主人公もほとんど登場せず、あまり大筋には影響の少なそうな回でしたが、一つだけ気になったのは、道満(の顔の傷)と道長の間に因縁があるらしいという描写ですが……
 基本的に煽りを担当しつつ、その合間に意味ありげな描写を積み重ねてきた道満ですが、そろそろ彼の真の目的が描かれるのでありましょうか。


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 『牙狼 紅蓮ノ月』 第8話「兄弟」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第9話「光滅」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第10話「一寸」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第11話「斬牙」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第13話「相克」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第14話「星明」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第15話「心月」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第16話「最低」

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2016.02.09

和田はつ子『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が飛ぶ』 鬼と人、鬼と鬼の間で

 人に紛れて無数の鬼が暮らす江戸で、鬼狩りの四天王の血に目覚めた同心・渡辺源時の活躍を描く極めてユニークな時代ファンタジー『鬼の大江戸ふしぎ帖』の続編が登場しました。今回もこの世界観ならではの奇妙な事件が続発する中、源時は人と鬼、鬼と鬼の間に立って奔走することになります。

 裕福な唐物屋の生まれながら、故あって同心株を買い、定町廻り同心となった源時。ある時、急に人に入り混じった人ならざるものたち――鬼を見るようになった彼は、やがて自分が古より鬼と戦ってきた「四天王」の血を引くことを知ります。
 実は江戸は、人よりも多くの鬼が住む地。蚊蜻蛉鬼、狐鬼、狼鬼、鼠鬼……様々な種族に分かれた鬼たちは、人の中に混じり、人の顔をして暮らしてきたのでありました。

 しかし鬼だからといって、邪悪で凶暴というわけではありません。そして人だからといって、善良で温厚なわけでもありません。鬼狩りとして、町方同心として――江戸の平和を守るため、源時は人と鬼にまたがる事件解決のため、奮闘することになります。


 というシリーズ設定を受けて展開される本作は、全4話の連作スタイルであります。

 据物斬り師を営む虎(猫)鬼の副業である人肝から作られた薬を巡る怪事件を描く「鬼薬」。鼠鬼の老婆が殺され、下手人として疑われた源時が奔走する「鬼が飛ぶ」。富裕な狐鬼たちの残酷な成年の儀式が、思わぬ惨劇を招く「鬼の呪縛」。江戸中で狼鬼が悪者扱いされる中、源時たちが人狼となった青年と出会う「鬼が怖い、人が怖い」……

 先に正直に申し上げれば、妖怪時代小説として食い足りない部分はあります。源時にとっては(そしてもちろん我々読者にとっても)未知である鬼の能力が、時に秘伝の巻物で、時に手下の蚊蜻蛉鬼の花吉らの解説であっさりと語られてしまうのは、厳しい言い方をすれば、興醒めの印象は否めません。

 しかしその一方で、本作の世界観ならではの個性的かつ魅力的なエピソードも描かれているのもまた事実。特に第3話の「鬼の呪縛」には唸らされました。
 かつて先祖たちが野山で獲物を狩っていた時の名残として、店の跡を継ぐ際に、鼠鬼の娘を攫って弄ぶという非道な儀式を行っていた狐鬼の商人たち。その事実を知った源時がそれを止めようと苦心する中、儀式を待ち望んでいた狐鬼の若者が何者かに食い殺されることに……

 人ならぬ鬼ならではの残酷な風習(しかし狐鬼は富裕な商人が、鼠鬼は庶民が多いという設定には考えさせられるものがありますが)という状況を踏まえて展開するストーリーは、まさに本作ならではのものであります。
 しかしそれに留まらず、事件を引き起こした者にもまた、ある意味止むに止まれぬ事情が――それもやはり本作ならではの――あって、というのが実に面白いのです。
(その中でも、やはり先に述べた通りの欠点はあるのですが……)

 そしてその中で浮かび上がるのは、人であり、鬼狩りでありつつも、鬼たちもまた江戸の住人としてその平和を守ろうとし、そして一口に鬼と言っても様々な種族が存在する中で、その目的のために鬼たち同士の架け橋ともなろうとする源時の存在感であります。
 それが鬼狩りとして正しい姿であるかどうか――それはわかりませんが、しかし彼の姿は、人として、町方同心として、大いに納得できるものでありましょう。


 そしてこの第3話では、新たなる鬼狩りの四天王が登場。これがまた非常にユニークな、一筋縄ではいかないようなキャラクターである上に、さらにこの先の世界観の広がりにも繋がってくるのではないか……というところがあるのも興味深い。

 独特の世界観とそこで繰り広げられる物語がどこまで行くのか……気になってまいりました。


『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が飛ぶ』(和田はつ子 宝島社文庫) Amazon
鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が飛ぶ (宝島社文庫 「この時代小説がすごい!」シリーズ)


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2016.02.08

『仮面の忍者赤影』 第8話「南蛮大筒の秘密」

 信長の依頼で新型の南蛮大筒を製造する大筒師・織部多門。その大筒を狙う幻妖斎は、夢堂一ッ目に多門の娘・霞を誘拐させる。企みを知った赤影と青影は多門の工場で一ッ目と対決するが、赤影は巨眼に吸い込まれてしまう。一方、青影たちに迫る金目像。辛うじて巨眼を倒し、霞を救出した赤影だが……

 信長の依頼された新型大筒作りのため、工場に籠もりっきりの大筒師・織部多門。親が仕事に夢中で、退屈していた多門の娘・霞は一人外で遊んでいたのですが……そこに地中からニュッと突き出される不気味な手。さらに不気味な笑いと姿で現れたのは夢堂一ッ目、あの巨眼で彼女を攫って姿を消した後に娘を探しに来た母親は、狂乱の態であります。

 その頃、藤吉郎を送って横山城に向かった白影(今回は登場なし)と分かれ、僧形で旅する赤影と青影ですが、関所の役人に悪戯心を発揮した青影が、笠を取ったら一つ目小僧、なんてことをするものだから牢屋に入れられることに。
 一応身分は明かして横山城に伝えてもらったようですが、青影は牢の中から念力で鍵を入手、それをポリポリと食べてしまったり(!?)と遊んだ末に、何だかよくわからない術で牢から抜け出すと、今度は役人に化けて関所をクリアいたします。

 この時、身長を合わせるために青影の頭を引っ張って引き揚げる(今度はその分足元が浮いてしまう)のが妙におかしいのですが、今回この二人万事この調子。白影という重しが取れたせいか、赤影も本来はこういう性格だったのか……

 一方、娘が誘拐されたことを知らされた多門、最初は意に介してもいないような顔をしていたのが、次に登場した時にはえらく焦っているのが、ある意味リアルというか……
 と、そこに現れて絵図面を要求する一ッ目に対し、壁に貼られた絵が喋って裏側から登場、という、さっきまでのノリを維持した赤影青影が登場。赤影と一ッ目の対決が始まりますが、そこで一ッ目が微妙にリアルな自分の片目を取り出すと、巨眼念力出現! 赤影はその中に吸い込まれてしまうのでした。

 そして工場に残された青影や多門たちの前には、金目像が出現! ボーリングのピン型爆弾で立ち向かう青影ですが効果はなく、暴れ回る金目像により、工場と作りかけの大筒は破壊寸前(それは元も子もないのでは)

 一方、巨眼の中で目を覚まし、脱出した赤影は天空高く飛び上がると、爆弾を手に巨眼に突撃。見事巨眼を粉砕すると、跡に残されたのは一ッ目の死体。そして無事な霞の姿でありました。
 そして霞を連れて工場に戻った赤影、今度は暴れ回る金目像に対し、前々回のように単身空を飛んで手首ランチャーを発射。しかし今回は平地での戦いだったためか、金目像は動じず、赤影ははたき落とされた上に、金目像に踏みつけられることに……それで即死しないのはすごいのですが、しかし赤影絶体絶命のピンチ――

 が、そこで文字通りの援護射撃。青影が、多門の南蛮大筒を引き出したのであります。これが多門の腕なのか、威力だけではなくもの凄い勢いで連射する大筒。なるほど、これは幻妖斎が欲しがるはずだ……というほどの大筒の威力の前に、さしもの金目像もたじたじとなり、左腕を落とされた末に退却するのでありました。
 そして大筒の納品に向かう織部親子を見送り、赤影青影は再び旅を続けます。そして彼らを見つめるのは(何故か雪の中から現れた)幻妖斎……


  前回、前々回に引き続いての巨大敵戦がメインとなった今回。お話的には非常にシンプルなのですが(そのわりに赤影と青影のおふざけに尺を取り過ぎてた感も)、特に金目像大暴れのシーンの迫力など、相当のものでありました。

 そして大いに燃えるのは、赤影の超忍法も敵わない謎テクノロジーの金目像を粉砕するのが、(当時)最先端技術の結晶である大筒というシチュエーションがたまらない。忍者が自由に空を飛ぶ世界であっても、単純な物理的破壊力がものをいうという、ある種のリアリズムにしびれるのであります。


今回の怪忍者
夢堂一ッ目

 織部多門の新型南蛮大筒を奪うため、娘の霞をさらった霞谷七人衆。巨眼で一度は赤影を捕らえるが、脱出された末に巨眼を爆破され命を落とす。

今回の怪忍獣
巨眼念力(巨眼一ッ目)

 一貫の片目が巨大化する巨大な眼。霞や赤影を黄色い光線で眼の中に捕らえるが、脱出した赤影に正面から爆弾をぶつけられて倒される。


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2016.02.07

畠中恵『うずら大名』 悪人退治の「快」さの向こうの現実の「痛」み

 これは全くの個人的な印象ですが、『○○大名』というタイトルの作品には、痛快な物語が多いように思います。個性的な特徴(それが○○の中身)を持った、大名としては破格の主人公が、弱きを助け強きを挫く――そんな内容の。本作はまさにそんな作品、鶉を連れた大名と泣き虫の名主が活躍する物語です。

 本作の主人公の「自称」大名・有月は、見目麗しく頭の回転も速く、そしてかなりの剣の達人。自分の家で育てている鶉のうち、勇猛果敢で賢い白鶉・佐久夜を巾着に入れて連れ歩くという、なるほど「うずら大名」であります。
 本作はこのうずら大名・有月をいわばホームズ役に、そして泣き虫で東豊島村の名主の豪農・吉之助をワトスン役にして展開する物語なのです。

 大名と名主というのは一見不思議な取り合わせですが、実はこの二人は剣術道場の同門。三男坊や四男坊、家にも町にも居場所のない冷や飯食いばかりが集まる道場で、まさにその冷や飯食いだった二人は汗を流していたのです。
 しかし運命は不思議なもの、十数年経ってみれば、どちらも当主が亡くなったことで家を継ぎ、それぞれ家族や下の者を背負う立場になっていて……と、そんな二人が再会したことから、この物語は始まります。

 舞台となるのは江戸時代もだいぶ経った、太平の世の中で武士が埋没し、産業の進歩から、商人・農民が力を蓄えていった頃。武士は食わねど……とはいかず、大名が豪商・豪農に金を借り(大名貸し、というやつであります)、時には身分を与えていた時代です。

 しかし近頃江戸近辺で相次ぐのは、そんな豪農の不審死。豪農とはいえたかが百姓と言うなかれ、大名貸しをしていた豪農が死ねば、そこに金を借りていた大名家は金を借りる宛がなくなる=藩の財政破綻というわけで、大名たちにとっても一大事です。
 そしてまさにその豪農である吉之助も、命を狙われたことをきっかけに有月と再会し、ある事情から一連の不審死の背後を探ることになった有月とともに、数々の事件に巻き込まれるのでありました。


 『しゃばけ』シリーズをはじめとして、作者が得意とするのは、個性的なキャラが登場する、ユーモラスでミステリタッチの連作物語ですが、本作もまさにそれに当たります。

 一見非の打ち所のない好漢でありつつも、時にひどく人の悪いところを見せる有月、危ない目に遭ったりするたびにすぐ涙を見せる吉之助。そして気性が荒く、「御吉兆ーっ」という鳴き声とともに飛び出してくる巾着鶉の佐久夜……
 マスコットキャラまできっちり設定されたキャラ配置に加え、物語展開も個性的。先に述べたとおり武士が金の力の前に屈しつつある時代、それを象徴する豪農、大名貸しという存在を中心にした物語は、よそではなかなか見られないものでありましょう。

 特に物語が徐々に進むにつれて明らかになる大陰謀は、一見地味なようでいて、実は徳川幕府の前提を根幹から揺るがしかねぬもの。「江戸は天下分け目の合戦の時!」という帯の文句が決して大げさではない展開に繋がっていくのには、ただ驚かされるばかりでした。


 しかし本作のさらに見事な点は、そのユニークな物語の趣向が、かつて冷や飯食いだった有月と吉之助の存在と重なっていく点でありましょう。

 明日の自分に全く希望の持てず、ひりつくような想いを抱えて暮らしていたものが、ある日突然、皮肉な運命の変転で、全く異なる立場になった二人。
 そんな彼らの姿は――吉之助が有月の家の大名貸しとなるのも含めて――作中において様々な形で描かれる身分の変転の象徴とも言うべきものでありましょう。

 そしてその一方で、彼らのようになれなかった者の存在をも、物語は描き出します。何が彼らを分かったのか、他に道はなかったのか……その答えを誰よりも知るのは、有月であり、吉之助でありましょう。

 冒頭で私は、本作を痛快な物語と述べました。それは決して嘘ではありませんが、しかし本作に描かれるのは、ヒーローが悪人を退治する「快」さだけではありません。同時に描かれるのは、ままならぬ現実の「痛」み――そしてその二つの組み合わせは、作者の作品全てに通底するものであります。

 やはり作者ならではの作品と申し上げるべきでありましょう。


『うずら大名』(畠中恵 集英社) Amazon
うずら大名

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2016.02.06

斉藤洋『くのいち小桜忍法帖 1 月夜に見参!』 美少女忍者の活躍と生きる価値と

 時は元禄、江戸では子供の拐かしが相次ぎ、さらに忍びや奉行所の同心たちが次々と殺されていた。表の顔は薬問屋、実は将軍直轄で外様大名の動きを探る名門の忍び・橘北家の末娘・小桜は、拐かしの現場に出くわしたことから、事件の陰に潜む謎の忍びたちと対決することに……

 斉藤洋といえば児童文学の大ベテラン、このブログではこれまで人の世の在り方を目撃してきた神通力を持つ狐の物語『白狐魔記』を紹介してきましたが、本作は本格的な時代もの――少女くノ一の活躍を描くシリーズの開幕篇であります。

 主人公の小桜は薬問屋・近江屋の末娘。新しい着物を着ることを何よりも楽しみにする、年頃の少女らしい彼女の正体は、実はくノ一。
 実は近江屋は、幕府の御庭者の中でも江戸市中に潜み、密かに各地の外様大名の動きを探り、将軍や大目付に伝える橘北家の隠れ蓑、当主から番頭、使用人に至るまで、全て忍びで構成された店だったのであります。

 修行中の身ながら、様々な事件に首を突っ込む小桜がある日聞きつけたのは、同様の任務を持つ橘南家の忍びが、顔を潰す間もなく殺されて発見されたという事件。しかも忍びだけではなく、町奉行所の同心たちも次々死体となって発見され、さらに子供たちの拐かしが横行しているというではありませんか。

 この一件に首を突っ込んだ小桜は、偶然拐かしの現場に出くわし、下手人の破落戸が忍びに口封じで殺されるのを目撃。彼女にも謎の忍びたちの魔の手が迫ります。
 一方、彼女の兄ら、橘北家の面々は、外様大名の抜け荷の証拠を掴むため、江戸屋敷に潜入するも忍びたちの襲撃にあって失敗。一連の事件に共通する忍びの存在とは……


 本作を一読してまず感心、というより驚かされるのは――いささか失礼な表現に見えるかもしれず、まことに恐縮ですが――本作が時代小説としてあまりに端正で、丁寧に作られていることであります。
 主人公・小桜の家である橘北家回りの設定はフィクションとしても、それ以外の部分については、子供向きだからと言って一切手を抜くこともいい加減な描写もなく、むしろ解説も最小限で描かれるという、本格的と言うほかない内容です。

 もちろんこれは、これまでの作者の作品を読んでいればむしろ当然ともいうべきものであり、むしろ失礼な驚きではありましょう。しかし対象年齢を小学校高学年としつつも、装幀を変えればもっと上の層――正直なところ、一般向きとしても通じるのではないか、とすら感じさせられます。

 もっとも、シリーズ第一作ということもあってか、物語自体はいささかあっさり目の味付けではありますし、事件の絡繰り自体もすぐにわかるものではありましょう。商家の丁稚という、小桜のもう一つの姿があまり活躍しなかったのも、勿体ないところです。

 しかし、小桜をはじめとする登場人物――兄の一郎や三郎、番頭の佐久次といった橘北家の面々だけでなく、どうやらこちらの正体を知っているらしい岡っ引きの雷蔵、謎めいた女形・市川桜花、南蛮から近江屋にやってきた犬の半守(ハンス)など、登場人物たちが、いずれも魅力的かつ大なり小なり秘密めかした部分を持つ造形なのは、さすがと言うべきでしょう。

 そして何よりも感心させられたのは、一郎が小桜に語る、武士と忍びの違い、忍びの心得であります。武士は名を惜しみ、失敗すれば死を選ぶ。しかし忍びは命を惜しみ、失敗しても成功するまで挑み続ける――そして一郎はそれに続けて、こう語ります。
「おまえも、いつでも、仕立てに出していて、まだできあがっていない着物があるようにしておくのがいい。そうすれば、それを着ないうちに、死ぬことはできないと思うだろう。だから、できあがってくる振袖を楽しみにすることはよいことなのだ。」

 ここで語られる武士と忍びの違いの内容は、珍しいものではありません。しかしそれに続く、忍びの生き様に通じて、命の大切さと生きることの楽しさを語る言葉は、ちょっと見たことがありません。
 いささか穿った見方かもしれませんが、そこに児童書的なスタンスもあるのかもしれませんが――いずれにせよ、本作ならではの視点であることは間違いありません。


 どうやら全四巻のシリーズらしい本作、この巻での事件は解決しますが、幾つか謎のままに残された要素も存在します。それがこの先、どのように明かされるのか……
 子供だけが楽しむのは勿体ない作品です。

  しかし冒頭、「けものが人に化けるなど、あろうはずがない」という一文に『白狐魔記』読者としては苦笑であります。


『くのいち小桜忍法帖 1 月夜に見参!』(斉藤洋 あすなろ書房) Amazon
1月夜に見参 (くのいち小桜忍法帖)

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2016.02.05

小林薫『大奥怨霊絵巻』 霊媒姫君と霊感将軍、怨霊に挑む

 大河ドラマで堺雅人が活躍しているのを見ると、やはり思い出すのは『新選組!』の山南敬助ではありますが、『篤姫』の徳川家定も、その役どころから印象に残るキャラでした……と、いささか強引な前フリですが、その篤姫と家定を主人公とした、一風変わった時代伝奇ホラー漫画が本作であります。

 徳川十三代将軍の家定の正室として迎えられた篤姫。しかし彼女の前に現れた家定は、見目麗しくはあるものの、武士の頂点に立つとは思えぬようなだらしない格好をして、昼日中から遊びほうけているような一種の怪人物でありました。

 その頃大奥では、通常では考えられないような死に様を遂げた者が幾人も出るなど、奇怪な事件が続発。その背後に、大奥で数多く伝わる怨霊の存在を噂する者も少なくない状況でありました。

 と、生まれついての優れた霊感で、その怨霊たちと密かに渡り合っていたのが家定。将軍位を巡り、ある人物に命を狙われたことから暗愚を装っていたいた彼は、今また徳川家に仇なそうというその人物の企みで解き放たれた悪霊たちを封じるため、強力な修験者としての力を持つ将軍付御年寄・瀧山とともに戦い続けていたのであります。
 そんな家定の裏の(?)顔を知らぬ篤姫は、筋金入りのリアリストであったことから、怨霊の存在を真っ向から否定。しかし何と彼女が生まれついての強力な霊媒体質であったことから、家定の怨霊退治に巻き込まれることに……


 約250年にわたり、江戸城の中に存在した女の世界・大奥。その外部からはうかがい知れぬ世界では、数々の怪談・奇談が伝わっていたことは、様々な記録が記す通りであります。

 全5話(最終話は前後編)で構成される本作は、そんな「実際の」大奥の怪談・奇談を題材とした物語であります。
 天守閣跡で奇怪な死を遂げたという御末・あらし、徳川綱吉を殺害し自分も命を絶ったという正室・鷹司信子、大奥の井戸に身を投げた使番・染次、城内の乗り物部屋の駕籠の中から無惨な姿で見つかった祐筆・おりう(おりゅうとも)、そして天璋院でない方の篤姫の命で大奥の大火の中に消えた御中臈・こや(てやとも)――

 本作に描かれる全てのエピソードは、「実際に」大奥であったと「伝えられる」ものばかり。
 鷹司信子とあかずの間の逸話などは、あまりにセンセーショナルな内容ゆえに、様々な物語の題材となっている感もありますが、それ以外の逸話も、よくぞこれだけ集め、アレンジしてみせたものだと感心させられます


 もっとも本作の基本ラインは、ホラーといってもガチガチなものではなく、時に時代考証を(意図的にそして豪快に)無視したギャグも入る、コミカルなもの。
 真面目な方が読んだら怒り出しそうな描写もありますが、大奥の凄惨な陰の部分を描く物語を、いい意味で中和しているという印象があります。

 何よりも楽しいのは、あまりに破天荒な家定に反発を感じていた篤姫が、いつしか彼に惹かれ、その力になっていく様で――それはそれでお約束ではありますが、しかし世間知らずという点ではどっこいの二人はなかなかのお似合いで、何とも微笑ましいのであります。
(その篤姫が自分の想いを自覚する展開が、彼女が、取り憑かれた相手の記憶するら読み取れるという優れた霊媒であるという本作の設定を踏まえたものなのがまたうまい)

 ラストのとんでもない(本当にとんでもない!)オチも含めて、肩の力を入れずに読める本作。
 時代伝奇ホラーとしてそれが正しいかはわかりませんが、少なくとも本作の家定の脳天気な笑顔を見ていると、これはこれで……と思えてしまうのです。


『大奥怨霊絵巻』(小林薫 青泉社LGAコミックス) Amazon
大奥怨霊絵巻 (LGAコミックス)

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2016.02.04

『牙狼 紅蓮ノ月』 第16話「最低」

 女と見れば見境なく手を出す橘正宗。その女癖の悪さを見かねた和泉式部から、情報料のツケと引き替えに正宗の見張りを押しつけられた雷吼と金時。正宗の最低人ぶりに呆れる二人だが、正宗が手を出した女たちが次々と惨殺されたことで、正宗を疑う。必死に否定する正宗だが……

 冷静に考えると、史実上の人物でもなく、別に偉いわけでも強いわけでもないのに何故か居る男・橘正宗。今回はその正宗が主役(?)のギャグ回です。が……

 出世にも風流にも背を向け、今日も今日とて女に目の色を変え続ける正宗。歌会中に侍女を手込めにしようとするなど、常軌を逸した彼の行動に、その妻は怒り心頭であります。が、本人はそれを不服に思い、窮地の和泉式部にグチる有様。捨ててもおけないその始末を押しつけられたのは、運悪く居合わせた雷吼と金時で――

 というわけで、ツケのカタに監視役を押しつけられてしまった二人は、珍しく普通の直垂姿で供回りに加わります。が、行く先々で女性に手を出す、いや襲いかかる正宗のヒューマンダストっぷりは、さすがの雷吼も思わず刀に手をかけるほどであります。
 さすがに式部のところで閉じこめられた正宗(ととばっちりの二人)ですが、雷吼たちが紅い月を見上げているうちに、正宗は脱走。しかし向かった先で彼が見た者は、無惨に殺された女の姿で……

 その後も相次いで見つかる、正宗が手を出した女の惨殺死体。さすがに全く庇わないどころか、正宗に炎羅の疑いまでかけた雷吼ですが、しかし意外にも(?)正宗はシロ(ここで正宗を「陰我の塊のような奴」呼ばわりの雷吼がおかしい)でありました。
 しかし疑いが完全に晴れぬ中、彼の妻だけは彼を信じる態度を崩さず、感動した正宗が詠んだ歌に、式部は合格を出すのでした。
(と、この後、式部が本当に説得力のない謎の行動を取るのですが、まあ和泉式部だからなぁ……と思うことにいたします)

 と、ここまで来ると大体オチは二つ考えられるのですが、物語はその中でもより悲惨な方へ。実は正宗の妻こそが殺人鬼、結局反省していない正宗に対して、彼女はついに炎羅と化して襲いかかることになります。
 そこに割って入ったのはもちろん雷吼、牙狼の鎧を装着した彼に対し、炎羅は彼の心の中にある女と称して星明の顔を生やして襲いかかりますが――いや、その下が炎羅のままなので雷吼が動揺するはずもなく、一撃で粉砕されるのでありました。

 そして妻の死を悲しみ、身を慎んだかに見えた正宗ですが――もちろんそんなことはなく、うるさい妻がいなくなったのを喜びつつ、またも女性を追いかけ回すのでした。


 ……言いたいことは山ほどあるのですが、あえて一つだけ言えば、キャラクター描写といいストーリーといい、これだけサブタイトルそのままのもの出てくるとは、もう感心するほかありません、としか。

 雷吼も、人間全てを守ることに、もう少し疑問を抱いてもいいのではないでしょうか。


『牙狼 紅蓮ノ月』Blu-ray BOX 1(ポニーキャニオン BDソフト) Amazon
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 『牙狼 紅蓮ノ月』 第2話「縁刀」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第3話「呪詛」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第4話「赫夜」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第5話「袴垂」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第6話「伏魔」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第7話「母娘」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第8話「兄弟」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第9話「光滅」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第10話「一寸」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第11話「斬牙」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第13話「相克」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第14話「星明」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第15話「心月」

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2016.02.03

澤見彰『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』 現の悲しみから踏み出す意思と希望

 時は嘉永年間、絵を描くことだけが楽しみの孤独な南部藩士の青年・外川市五郎は、同様に孤独で、絵を愛する少女・桂香と出会う。彼女を引き取った市五郎は、やがて二人で「現絵」――死者の後生を祈り、あの世で楽しく暮らす姿を描く供養絵を描くようになる。しかし彼の前には厳しい現実が……

 『はなたちばな亭』シリーズや『もぐら屋』シリーズ等、妖と人間が共存する世界を舞台にしたコミカルな物語を中心に手がけてきた澤見彰久々の新作は、遠野に伝わる供養絵額を題材とした、暖かくも、重く哀しい物語であります。

 供養絵額とは、この遠野を中心とした地方にのみ伝わるという、文字通り供養のための絵。死者の冥福を祈り、その死者があの世で幸せな暮らしを送っている姿を描き出す、一種の肖像画です。
 本作で描かれるのは、その供養絵額――作中では「現絵」と呼ばれますが――の、代表的絵師・外山仕候の若き日の姿っであり、仕候が何を思って現絵を描いたのか、その物語であります。

 兄の不慮の死から家を継ぐこととなり、江戸勤番から南部に帰ってきた青年藩士・外山市五郎。家族も持たず、出世も武道も興味を持たぬ武士らしくない武士である彼の唯一の楽しみは、絵を描くことでありました。
 そんな彼は、かつて幾度か見かけた深紅の山百合を探して出かけた山村で、座敷童めいた少女・桂香と出会うことになります。

 しかし彼女は歴とした人間――父親が失敗に終わった一揆に参加したことから周囲に疎まれ、半ば虐待同然に家に閉じこめられていたことを知り、桂香を連れ帰る市五郎。そして、閉じこめられていた間、絵を描くことだけが心の支えだった彼女と暮らすうちに、市五郎は二人で絵を描くようになります。
 初めは成り行きに近かったその絵に描かれたのは、今は亡き人が、生きている時そのままの姿で、幸せに暮らす姿。亡くなった者をあたかも現実の存在のように描く――「現絵」はやがて評判を呼び、二人の絵は、悲しみに沈む人々の心を救っていくこととなるのでした。


 ……と、この前半部分を見れば、本作は、生者と死者にまつわる悲しみと喜びを描く、いわゆる「イイ話」であるように思えるかもしれません。
 それはもちろん、そのような要素はありますし、そして全面的にそちらに舵を切ることもできたはずですが――しかし、本作はやがて、思いもよらぬ方向に、厳しく重い物語へと向かっていくことになります。

 数年前、桂香の父が加わった一揆の後も藩政は改まらず、いやそれどころかますますと厳しくなっていく庶民の暮らし。現絵描きを通じて彼らに接していた市五郎は、同時に彼らを圧する武士階級であることの板挟みに苦しめられることになります。
 そんな中、市五郎の前に現れた男が依頼した現絵。その意味するところを悟り、一度は断る市五郎ですが……


 冒頭に述べたように、もともと作者は、コミカルな、あるいはゆったりとしたムードの物語を描いてきた作家ですが――しかしそれだけではありません。それらの作品の中で、時にドキリとするほど鋭い筆致で浮き彫りにされるのは、この社会や我々人間の中に確かに存在する、悲しみや怒り、残酷さといった負の部分であります。
 本作は、そんな作者の作風を、ある意味極限まで押し進めたものであるといえるかもしれません。

 いや、それだけではありません。作者はそこから――現実の過酷さを描き出すことに留まるのではなく、そこから一歩、たとえ小さくとも、自分の力で一歩踏みだし、その現実を変えていく意志と希望の存在をも、同時に描き出すのであります。

 「イイ話」を期待する向きには、本作はあまりに重い内容かもしれません。その重さを避け、口当たりの良い物語とすることも、できないことではなかったでしょう。
 しかしそれを敢えて正面から描いてみせたのは、(これも作者の作風の一つとも言うべき)生真面目過ぎるほどの誠実さとも言うべき態度ゆえでありましょう。

 そしてそれは、市五郎の姿に――現の悲しみ・苦しみを絵の中で昇華することに留まらず、それを正面から受け止め、踏み出して見せたその姿に重なるものである、というのはいささか思い入れ過剰でありましょうか。


 悲しみを予感させる冒頭のある記述が、希望と決意に転じる結末も見事な本作。作者の新たなる代表作となることは間違いない……心からそう感じます。


『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰 ハヤカワ文庫JA) Amazon
ヤマユリワラシ ―遠野供養絵異聞― (ハヤカワ文庫JA)

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2016.02.02

『仮面の忍者赤影』 第7話「妖術一つ目」

 横山城を巨大な眼の怪物が襲撃、木下藤吉郎が連れ去られてしまった。消えた金目像を追っていた赤影たちは、竹中半兵衛の急報を受け、藤吉郎が捕らえられた地獄谷に三手に別れて急ぐ。しかし藤吉郎を人質にして待ち受けていた幻妖斎の前に苦戦を強いられる。さらにそこにあの巨眼までもが現れ……

 前回、本拠地の霞谷に攻め込まれ、金目像もろとも姿を消した幻妖斎が今回狙うのは、赤影の依頼主たる木下藤吉郎。そしてその命を受けたのは霞谷七人衆最後の一人・夢堂一ッ目――青い肌に潰れた左目、死神のような巨大な鎌と、見るからに怪人です。
 そして横山城に出現したのは、宙を舞う巨大な一つ目……目から赤い光線を放って侍を一人焼き払うや、今度は黄色い光線で目の中に藤吉郎を吸い込んでしまうのでした。

 と、藤吉郎と同室にいた竹中半兵衛はおもむろに部屋の隅からミラーボールを取り出すと天井から下げ、赤い灯りを近づけると、それが秀吉が下げていた謎の飾りと反応し、ミラーボールから下に敷いた地図に光が――
 と、文章ではわかりにくいですがこれは要するに、今風に言えばGPS。これは想像するに、半兵衛というよりは飛騨忍者驚異のテクノロジーのような気がしますが、冒頭で今回一番スゴいものを見せられた気がします。

 それはさておき、半兵衛が知った藤吉郎の所在は地獄谷……死んだ者を生き返らせてくれるという奇怪な伝説が残る地。仮面の伝書鳩によってそれを伝えられた赤影たちは、金目像のでっかい足跡を追うという任務を一端置いて、藤吉郎救出のため、三手に別れることになります。
 と、こういう時に襲われる役はやはり白影。眼前に現れた一ッ目が両眼を閉じているので盲人かと思い込んだ白影ですが、無限にホーミングしてくる鎌に苦戦。さらに一ッ目の忍法巨眼で呼び出されたのは、あの巨大な眼であります。たまらず忍び凧を呼ぶ白影のですが……(これはこれで凄いテクノロジー)

 さて、一足早く地獄谷に到着した赤影を待っていたのは、崖の上で十字磔にされた上に、火あぶりにされようとする藤吉郎。もちろんこれを止めんと大ジャンプする赤影ですが、ここで朧一貫のバリアがナイス(?)セーブ! 落下したところに襲いかかる下忍たちに屈するわけはないものの、刻一刻と藤吉郎焼死の刻が迫ります。
 と、そこにやってきたのは、幻妖斎配下の信徒たち。大喜びでこれを迎え入れる幻妖斎ですが、編み笠の下から現れたその顔は――竹中半兵衛! さすがは大軍師、自らも手勢を引き連れ、まんまと幻妖斎を謀って懐に飛び込んだのであります。

 この機に、天高く投げた火薬玉からナイアガラ花火の如く火花が降る「流星滝流れ」の術でバリアを破った赤影は大ジャンプ、豪快に片手持ちで斬りまくる半兵衛と並んで藤吉郎の下まで急ぐ赤影ですが、しかし焦る幻妖斎は藤吉郎に槍を突きつけ……
 と思いきや、藤吉郎が(磔柱ごと)次々と分身!? 幻妖斎たちを茶化すようなその技は、やっぱり青影! 乱戦の中、磔柱に近づいていた青影のナイスフォローでありました。

 藤吉郎を奪い返され、追い詰められた幻妖斎ですが、(すごい野太い声で)「一ッ目ーッ、一ッ目ーッ!」と呼ばわれば、現れたるはあの巨眼! 今度は眼から機銃を乱射する巨眼には、さしもの赤影も接近不能ですが……そこに白影の忍び凧が参戦!
 機銃を喰らって凧をボロボロにされながらも、手甲ランチャーで狙い澄ました白影の一撃は見事巨眼を直撃! 一撃で巨眼は地に堕ちるのでした。

 しかし再び野太い声で幻妖斎が呼ばわり、手から緑の怪光線を飛ばせば巨眼は復活。幻妖斎と一貫は、黄色い光線で巨眼に救出され、姿を消すのでありました。


 巨眼やGPSなど、いよいよとんでもないギミックの連発に驚かされる今回ですが、しかし最大の魅力は、敵味方がクルクルと攻守を目まぐるしく変えていくクライマックスの戦い。この辺りのテンポの良さが、荒唐無稽なビジュアルと妙に噛み合う、楽しいエピソードでした。


今回の怪忍者
夢堂一ッ目

 幻妖斎が藤吉郎抹殺のために呼び出した霞谷七人衆。青い肌にごつごつした坊主頭、醜く閉じた左目と異様な姿の怪人。最大の武器は忍法巨眼で操る一ッ目だが、縦横無尽に操る巨大な鎌も脅威。

今回の怪忍獣
巨眼念力(巨眼一ッ目)

 一ッ目が呼び出す(巨大化させる?)巨大な眼。まつげを引きずって宙を舞い、眼から放つ赤い光線は人を焼き尽くし、黄色い光線は眼球内部に相手を引きずり込む。眼からは機銃を放つことも可能。


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2016.02.01

折口真喜子『おっかなの晩 船宿若狭屋あやかし話』 あの世とこの世を繋ぐ場所で出会う者たち

 与謝蕪村を主役にしたちょっと不思議な連作短編集『踊る猫』『恋する狐』で登場した折口真喜子が、江戸は箱崎の船宿・若狭屋の女将を狂言回しに描く、やはりちょっと不思議で心温まる連作集であります。

 浅草川のほとり、日本橋は箱崎にある船宿・若狭屋。抱える船頭は二人と、決して大きくはないものの、さっぱりした気性で30過ぎの女将・お涼の客あしらいの良さもあって、吉原に向かう粋人などを得意先として、まずまずの繁盛を見せております。
 元々若狭屋のあるじは、お涼の父で元船頭の甚八。しかし最近はいささか惚けが出て、隠居してお涼の母と二人で暮らすことになったため、お涼が跡を継いだのであります。

 本書に収められた物語が関わるのは、この若狭屋とお涼、甚八たち。彼女たちを通じて、不思議で優しく、時にはちょっと恐ろしい八つの物語が語られていくこととなります。以下のような――

 狐憑きと同輩から陰口を叩かれる花魁が胸中に秘める想いと粋な切り返し「狐憑き」
 村八分となり、僧となった親友を気遣う若者が知った彼の想い「おっかなの晩」
 若狭屋の船頭が乗せた商家の子供が川で消えたことをきっかけに語られる奇譚「海へ」
 客の幇間が退屈しのぎに語った怪談が、思わぬ形で現実に関わる因縁咄「夏の夜咄」
 病の母のためにその故郷を訪れたお涼が、山姥と出会い、思わぬ頼まれ事をされる「鰐口とどんぐり」
 同輩から苛められた末に身投げしようとした売れない役者が辿る思わぬ運命「嫉妬」
 水害で生まれたばかりの娘を失いかけた男が水神に祈ったことから、思わぬ形でその代償を求められる「江戸の夢」
 亡くなった兄を慕い、三途の川を渡りたいと願う少年の前に現れたもの「三途の川」

 いずれの物語も、決して派手ではないものの(もっとも、中にはアッと驚かされるような意外な趣向もありますが)、穏やかでユーモラスで、そして暖かい佳品揃い。
 もちろんと言うべきか、いずれの物語にも、もののけや亡霊、神様やそれらが起こす不思議な現象が登場するのですが、しかしいずれも、恐ろしさや気味悪さなどよりも、どこか親しみやすさすら感じさせるのが楽しいところであります。

 それはもちろん、狂言回したるお涼や甚八の気持ちのよいキャラクターによるところも大きいかとは思いますが、何よりも、デビュー作から変わらぬ、つかず離れずで存在する、人とそれ以外の距離感を絶妙のバランスで描く作者の筆あってのことでありましょう。

 そんな感覚がよく表れた作品の一つが、江戸を離れたお涼が出会った不思議な存在を描く「鰐口とどんぐり」でしょう。

 床に伏して、懐かしいアケビが食べたいという母のため、その故郷に向かったお涼。アケビを探して山に入った彼女は、そこで村で噂になっていた山姥と呼ばれる老女に出会います。
 みすぼらしい身なりながら、能を解するなど、どこか本物の山姥めいた老女がお涼に頼んだのは、何年も前に山中の沼に消えたという息子探し。なりゆきから引き受け、沼に入ったお涼を待ち受けていたのは、なんと……

 まさに山中異界というべき地でお涼が出会うのは、山姥をはじめとする不思議な存在たち。しかし本作においてはそんな存在たちを、ことさらに恐ろしく異常なものとして描くのではなく、お涼がごく普通に接することができるような、ある意味当たり前の存在として描き出します。
 そこにあるのは、人もそれ以外も、皆等しくこの世のに天然自然の産物として「在る」ものとして受け入れる眼差しであり――そしてその眼差しの暖かさが、本作の、本書の作品の基調として存在しているのであります。


 あの世とこの世を繋ぐ場所である川と、その川を行き来し、人を渡すことを生業とする船宿。なるほど、人とそれ以外の物語を描くのに、船宿というのは極めて相応しい場所なのかもしれません。
 まだまだ人とそれ以外の物語と出会いたい、この不思議な暖かさに浸っていたい……そんな気持ちになる作品集です。


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おっかなの晩 (船宿若狭屋あやかし話)

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