『戦国武将列伝』2016年4月号(後編) 戦国と平安と――二つの誕生記
リイド社の『戦国武将列伝』四月号の掲載作品紹介の後編であります。
『戦国自衛隊』(森秀樹&半村良)
「とき」の使者を名乗る謎の男の支援により、信長との最後の決戦に臨む伊庭たち。墨家の精神を継ぐ者として、この国のみならず全てを呑み尽くそうという信長に対峙する彼らの旗印は――「戦国自衛隊」!
……原作小説に始まり、漫画、映像と、既に二桁に近いバリエーションが生まれてきた『戦国自衛隊』。その全てを知るわけではありませんが、自分たちでその名を掲げた例は、ほとんどないのではないでしょうか。
そしてそれは、時に流された果てについに彼らが見つけた、自分たちが自分たちとして戦う理由の宣言であり――それだけに、『戦国自衛隊』史上に残る格好良さ、爽快さ、痛快さがあります。ここに名実ともに戦国自衛隊が誕生したのであります。
『鬼切丸伝』(楠桂)
再び平安時代を舞台として描かれる今回は、以前描かれた鬼切丸の少年のオリジンを描く物語の後日譚。恐るべき鬼――酒呑童子に喰らわれた尼僧の身から、成長した姿で生まれた少年。本来であれば神仏の子でもあったかもしれぬ彼は、しかし母を見殺しにした人間たちをも憎み、鬼を斬る刀を手に姿を消したのですが……
今回その少年が出会ったのは、かつて人に退治されたという鬼女・紅葉。鬼としての部分を討たれ、今は母としての部分が残った「貴女」となったという彼女は、少年に生き別れの息子の面影を見て、共に暮らそうと誘います。
紅葉は「歴史上」鈴鹿御前と並んで良く知られた鬼女ですが、鬼女ならぬ貴女となった……というのは、信濃は鬼無里に伝わる伝説をベースとしたアレンジでありましょう。
本当の息子が誰なのか、という点がすぐにわかってしまうのは残念ですが、しかし母を喪った少年と子を探す紅葉という対比、そして仮の(偽りの)母子に対して……というもう一つの対比は面白い。
結末において、ついに自らの行くべき道を見出した鬼切丸の少年の姿を描く今回のエピソードは、誕生編の後編とも言うべきものでしょう。
その他、今回のスペシャルゲスト『伽羅奢』(柴門ふみ)は、細川ガラシャが最期を遂げる寸前に、己と忠興の関係を振り返る物語。内容的にはちょっと驚くくらいにストレートな作品でしたが、冷静に考えれば他の作品が飛びすぎているだけなのかもしれません。
また、『戦国機甲伝クニトリ』(あさりよしとお)は、信長・秀吉の物語から少し離れ、竹中重治の稲葉山城攻めが描かれます。切れ者のようで狂気を感じさせる重治の不気味な描写は面白いのですが、しかし今回は本作独自の設定であるロボットも女体化も、必然性を持たなかったのは残念。
何はともあれ、『孔雀王 戦国転生』(荻野真)が休載でも層の厚さを示した今号。終盤に近づいている物語が幾つもあるのが気になりますが、まずは次回を楽しみにいたします。
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