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2016.04.13

琥狗ハヤテ『メテオラ 参』 いま明かされる「魔星(メテオラ)」の真実!

 獣に変化するという呪われた力と運命を背負った者たち「魔星(メテオラ)」。そのメテオラたる豹子頭林冲、花和尚魯智深らの苦闘を描く変格水滸伝もついに三巻目。過酷な運命に翻弄される林冲たちの前に、新たなメテオラたちが現れ、そしてついにメテオラたちの存在の意味が語られることになります。

 赤子の頃に王進将軍に拾われ、厳しくも温かく育てられた青年・林冲。しかしメテオラたちを狙う謎の男・高キュウと、その配下・高廉によって王進と彼に仕える者たちは滅ぼされ、王進によって事前に旅に出された林冲にも、文字通りの魔の手が迫ります。
 魯智深の助けで辛くも逃れた林冲ですが、その前に新たな異形が……

 という場面から始まるこの巻ですが、登場した異形の鳥人の正体は、王進が林冲を送り出した先である滄州の大富豪・柴進その人。(変身を解いたらいきなりマッパの)この人物もまたメテオラであり、そしてその宿命を知る者の一人だったのであります。

 原典序盤で林冲の庇護者として登場する小旋風柴進。高貴な生まれであり、その地位と財産によって数多くの好漢を庇護する大人物――という設定は原典通りですが、本作の柴進は、鳥人という設定を抜きにしてもなかなかに個性的な人物であります。
 一言で表せば食えない人物、飄々としながらも感情の奥底を見せない男……それが本作の柴進。そんな彼に、林冲と魯智深は庇護されるのでした。

 そしてこの第3巻の物語は、ほぼ柴進の館で展開していくことになります。いかに怪しげな男とはいえ、メテオラの同志としての彼の厚意は真からでたもの。彼と、彼の配下のもふもふちびっ子・阮三兄弟に温かくもてなされる林冲たちですが……

 しかし魯智深を通じてもたらされた都の状況は、林冲にとってはあまりにも衝撃的なもの。失意のどん底に沈んだ林冲に対し、魯智深は己の凄惨な過去を語り始めます。
 そして柴進のもとにいたもう一人のメテオラ、公孫勝(本作では少女!)により、林冲と魯智深は、メテオラの使命と本当の敵の存在を知るのでありました。


 実にこの巻の肝は、この公孫勝により二人が知ることとなるメテオラの真実にあります。公孫勝の術により、記憶の奥底に潜り込んだ二人が見たもの……それはここでは伏せます。
 しかしなるほど、メテオラという異形の姿を持つ者たちのオリジンとして納得のいくものであり、そしてこれまで断片的に描かれてきた「敵」の行動も理解できるように感じます。

 そして何よりも感心させられるのは、ここで語られたメテオラの正体が、原典で登場した百八の魔星の説明として、平仄が合うものとして感じられることでしょう。

 かつて世に災いをなし、地中深く封じられたという魔星たち。一度解放された彼らは、人間に転生して世の災いとなる……という設定は、一見意味が通るようでいて、そんな魔星の転生であるはずの彼らが、天に替わって道を行う(相当に乱暴ではあるものの)正義の味方として活躍する時点で、既に矛盾が生じているやに感じられます。
 そもそも、百八星の存在自体、冒頭と百八人集結の辺りを除けばごくわずかしか語られないわけで、成立事情は色々あるとはいえ、物語内だけでみれば、色々と不思議な点のある設定ではありましょう。

 それに対し、本作で描かれるメテオラの設定は、かなりの部分は――もちろん本作独自の設定ではあるのですが――納得のいく形で答えていた感があります。
 特に、何故同じ時に解放されたはずの魔星の化身たる彼らに年齢差があるかの説明など、その平仄の合い方と内容の過酷さに、ゾクゾクさせられたところです。


 さて、まさしく自分たちが「兄弟」であることを知った林冲と魯智深が旅立つ先は、自分たちメテオラが集うべき地。未だ見ぬその地がどこであるか、それはあの水の滸の地以外ありえませんが、さてそれがどのように描かれるか……この先も必見であります。


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