『戦国武将列伝』2016年6月号(前編) 鬼と人の間にあるもの
二ヶ月に一度のお楽しみの『戦国武将列伝』誌、今回の巻頭カラーは、先日単行本第3巻が発売された『鬼切丸伝』であります。この作品をはじめ、印象に残った作品を、今回も一作ずつ紹介していきましょう。
『鬼切丸伝』(楠桂)
いきなり艶やかなくノ一の裸体が登場する今回、もちろんこれは単なるサービスシーンではなく、伊賀忍者の頭領・百地丹波が、くノ一の少女・蓮華に怨敵必殺の秘術を彼女の体に仕掛けるという場面であります。そしてその怨敵とは、織田信長――実に連載第1回以来、久々の登場であります。
さて、その伊賀に鬼に関わる者がいると聞きつけて現れた彼は、蓮華と出会い、言葉を交わすこととなります。その時は鬼の気配はないと立ち去った少年ですが、しかし織田軍と伊賀の二度目の戦いの中で蓮華と再会した少年は彼女を連れ去って……
蓮華の身に仕掛けられた術とは何か、鬼切丸の少年は何を考えて彼女を連れ去ったのか、本作の内容を考えれば予想はつくかと思いますが、しかし少年の前に現れた鈴鹿御前は、少年に意外な選択肢を提示することになります。
人間は救わず、そして鬼は斬る鬼切丸の少年。だとしたら……鬼切丸と同一とも言われる存在の名が思わぬ形で登場するのもニヤリとさせられるところであります。
さて、実は今回のエピソードは次回に続くことになりますが、さてそこで何が待っていることか。正直に申し上げれば見るのが恐いところではあります。
『焔色のまんだら』(下元ちえ)
前回、大徳寺で破天荒な絵を遺して以来仕事が増え始め、新しい妻が子供を産むのも目前と、上り調子の長谷川等伯のもとに舞い込んだ御所での仕事。そんな彼のもとに狩野永徳が訪ねてくるのですが……
永徳といえばまさしく天下一の絵師。そしてかつて等伯に門前払いを食らわせ、それ以上に、炎の中に消える安土城の障壁画によって彼の心に火をつけた、因縁の人物であります。そして永徳の側も、自分と等伯との因縁を知り、ある決意を固めるのでした。
言うまでもなく等伯の一代記である本作ですが、しかし今回は、むしろ永徳の内面を中心に描かれることとなります。信長に、秀吉に認められ、狩野派の総帥として活躍する永徳にとって、野にあって活躍する等伯は水と油の存在。到底相容れざる存在だったのですが、しかし……
この辺りの等伯と永徳の関係は、物語冒頭の因縁もあり、非常に興味深いのですが、しかし(身も蓋もない表現ですが)史実との関係で、あまり描かれないのは残念なところ。この辺り、もう少し永徳の物語も読んでみたかったという印象はあります。
しかし本作はあくまでも等伯の物語。等伯と永徳が束の間の対面を果たしたとき、永徳が目の当たりにしたもの――等伯の「自由」の象徴として描かれるそれは、前回同様、漫画という「画」を伴う物語だからこそのものであり、可愛らしくも心揺さぶられる存在でありました。
『戦国自衛隊』(森秀樹&半村良)
ついに激突目前となった戦国自衛隊と信長軍。険しい崖に囲まれた台地……というより小さな山に陣取った戦国自衛隊に対し、信長配下の三人の仮面の忍びが忍び寄るのですが……
天正伊賀の乱で伊賀を裏切り、信長についたという三人。しかしそれを悔いる彼らは、戦国自衛隊に味方するため、そしてその誠を示すため、思わぬ苛烈な行動に出ることになります。正直に言えば、決戦を目前としたこの段階で……という印象はあるのですが、味方が増えるのはありがたい話というべきでしょうか。
そして始まる信長軍の攻撃。ポテトチップスを手にご満悦の信長と、バタフライエフェクトも覚悟の上の戦国自衛隊、勝つのはどちらか……何でもありの死闘を繰り広げつつも、その中で不思議な信頼感を持つ伊庭と信長の関係性もまた、なかなかに魅力的であります。
長くなりますので次回に続きます。
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