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2016.06.23

朝日曼耀&富沢義彦『戦国新撰組』連載開始! 幕末武士vs戦国武士

 今年、現代の黒人ボクサーが戦国時代にタイムスリップ、信長に仕えるという『クロボーズ』をスタートさせた富沢義彦が、続いて新たに挑む時代漫画は『戦国新撰組』。何よりもタイトルが内容を雄弁に物語る、幕末の武闘派集団新撰組が、戦国時代にタイムスリップするというとんでもない作品であります。

 池田屋事件で、幕末の京に一躍名を上げた新撰組。しかし冒頭で描かれるのは、その新撰組隊士たちが、何処とも知れぬ戦場で、一人の野武士めいた男相手に大打撃を受けた姿。
 屯所にいたはずの彼らは、わけもわからぬまま突然見知らぬ地に放り出され、見知らぬ強敵の襲撃を受けたのであります。

 はぐれた仲間たちを探す土方歳三は、この混乱の中で仲間を見捨てて隠れていた隊士・三浦啓之助と再会、すったもんだの末に行動を共にするのですが、しかし、彼らがいるのが、彼らの生きた時代から遠く離れた戦国時代であることを知ることに……


 と、いきなり驚かされたのは舞台設定もさることながら、この人物チョイス。土方は有名人ゆえある意味当然といえ、三浦啓之助とは!


 三浦啓之助、本名・佐久間恪二郎。父はあの幕末の傑物・佐久間象山、叔父に当たるのは勝海舟と、生まれだけみればサラブレッドと言うほかない人物であります。
 そして、父が河上彦斎らに斬られた後、その仇討のために新撰組入隊を願い、感動した近藤勇の声掛かりで新撰組隊士となったとくれば、事実は小説より奇なりなのですが……

 しかし、この啓之助、どうにも人間ができていなかったらしく、仇討どころか新撰組隊士としてもロクな活躍も見せず、それどころかその高慢かつ粗暴な言動でたちまち要注意人物になったという男。沖田に親しく声をかけられたのを、粛清されると思い込んで新撰組を脱走、その後も父の名と運に頼った人生で明治まで生き延びた人物であります(もっとも、若くして病で亡くなったのですが……)


 長くなりましたが、話半分としても大概な人物像が浮かぶこの啓之助、私は山田風太郎の『おれは不知火』で記憶に残っているのですが、一般にはあまり知られていない人物でありましょう。
 その啓之助を、よりによって土方らとともに戦国時代に連れてくるのは、一見ミスマッチに見えるかもしれませんが、しかしもちろん、だからこそ面白い。

 戦国時代と新撰組というのは、もちろん意外どころではない……というよりほとんど空前絶後の組み合わせではありますが、そこにさらに、啓之助というおよそ戦国向きではない、しかしそれでいて実に面白い経歴を持つ人物を持ち込むことで、本作はさらに先読み不能な、そしてもちろん先が大いに気になる作品となっていると言えるでしょう。

 早速登場するなり士道不覚悟っぷりを発揮した啓之助と、そんな男と図らずも行動を共にすることとなるのが、よりによって鬼の副長たる土方というのも、実に楽しいではありませんか。
 今回、彼らの他に(回想以外で)登場する隊士が、島田魁のみというのは、少々寂しいところではありますが、その分は、ラストに登場する戦国側の有名人の存在でフォローというところでしょうか。


 冒頭に述べたとおり、原作者の富沢義彦が、本作と並行して連載している『クロボーズ』もまた、戦国時代を舞台としたタイムスリップもの。その意味では、かなり大胆に題材が重なっているとも言えるのですが……しかし、この連載第一回から受けるのは、もちろん先行する作品とは、全く別個の作品という印象です。
(両作品で共通する人物を、はっきり別々の人物像で描いているのも考慮の上でしょう)

 何よりも、新撰組という、何よりも武士道を重んじ、誰よりも武士たらんとした者たちが、その武士の大先輩でありながも、武士道などいうものとは無縁の戦国武士たちと対面するという構図が実に面白い(そしてその新撰組側にも、武士らしくない啓之助がいるというひねり)。
 果たしてこの両者の邂逅が何をもたらすのか――決して取り合わせの意外性だけでない、本作ならではの武士像、歴史像と出会えることに期待できそうであります。


『戦国新撰組』(朝日曼耀&富沢義彦 月刊サンデーGX 7月号) Amazon
月刊サンデージェネックス 2016年 07 月号 [雑誌]


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