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2016.07.31

最近の時代漫画 『悲恋の太刀』『戦国新撰組』『変身忍者嵐Χ』『ゆやばな』

 今回は普段と少しだけ趣を変えて、7月に発売された雑誌に掲載されている時代漫画の中から、気になったものを幾つか取り上げていきましょう。先日『戦国武将列伝』誌が惜しくも休刊しましたが、新たに創刊された雑誌もあり、まだまだ時代漫画の世界は元気であります。

 その新創刊されたのが、「コミック斬」。掲載作品のうち半分近くが再録ではありますが、なかなかフレッシュな作品も収録されており期待の一冊です。

 そしてその中でも決して見逃せないのが森田信吾&上田秀人の『悲恋の太刀』。そう、先日新装版が刊行されたばかりの上田秀人の『織江緋之介見参』シリーズの第一弾が、『明楽と孫蔵』など剣豪アクションの名手によって漫画化されるというのですから、これは期待するなという方が無理でしょう。

 その第1回は、原作の第1章をほぼカバー。吉原に飄然と現れ、吉原一の太夫を望んで慶長大判を出し、取り籠もりの侍を鮮やかに斬ってみせた謎の青年剣士・織江緋之介の登場を、さまで多くはないページ数の中で、巧みに描いております。

 正直なところ画の方は最近の作者のもので、往年の絵を期待すると少々苦しいのですが、しかしこちらの期待に大いに応えてくれるのは、森田節とも言うべきその台詞回し。
「白刃火花散らすさ中を足捌きだけで避し――…!! 血煙土煙に動じず涼しい眼であの若侍 重心ずらさず喧嘩衆の壁……抜けた!!」
もちろん原作にはないこの台詞を見ただけで、ああ、森田信吾が帰ってきた! と嬉しくなってしまうのであります。


 さて、「月刊サンデーGX」8月号では、先月から連載が始まった朝日曼耀&富沢義彦『戦国新撰組』の第2話が登場です。
 わけのわからぬまま、幕末の京から戦国時代の桶狭間に放り出されてしまった新撰組隊士たち。怪物のような屈強の相手に苦戦し、囚われてしまった土方、島田、三浦啓之助を待っていたのは、彼らのリーダー格である木下藤吉郎と蜂須賀小六による「尋問」で……

 と、今回展開されるのは、尋問に名を借りた土方歳三と蜂須賀小六の激突。まさしく野武士そのものである相手と、喧嘩最強の土方のなんでもありの激闘を描きつつも、啓之助だけが現状に気付いている事実がさらりと描かれ、静と動の入り混じった展開が印象に残ります。
 が、正直に申し上げれば、いかに生き死にの経験値では遙か上とはいえ、新撰組側が押されっぱなしなのは、新撰組ファンとしてはいささか不満があります(特に土方など、こういう場面にうってつけなキャラだけに……)

 しかしこれまで登場していなかった近藤をはじめとするいわば本隊もいよいよ活動開始、次回には全面衝突が見られるのではないでしょうか。数百年を閲する間に洗練された剣術の冴えを期待したいところです。


 そしてもはや老舗とも言うべき「コミック乱」9月号では、これも前号から連載開始のにわのまこと『変身忍者嵐Χ』が絶好調であります。

 前回、血車党の化身忍者ハンザキと対決し、辛うじて秀忠とタツマキを救った謎の青年ハヤテが意識を取り戻した時、目の前にいたのはタツマキの美しい娘・カスミ。一方、血車党幹部・骨餓身丸は、ハヤテの正体を、一党を裏切った化身忍者の生みの親・風の鬼十と睨み、再びハヤテに対してハンザキを送り込むのですが……

 カスミ、骨餓身丸、鬼十とお馴染みのキャラクターが次々登場する今回(特にカスミと骨餓身丸は、それぞれにいかにも作者らしいデザインで実にいい)、ハヤテの記憶もほぼ回復し、ぐっと本編に踏み込んできた印象なのですが――今回の見所はなんといっても実に十ページ近くを費やして描かれる「変身」シーンであります。
 変身ヒーローにとって変身シーンは大きな見せ場の一つですが、それを丹念に、そしてそれでいてスピーディーに描いているのは作者ならでは(そしてその中で「化身」と「変身」の違いを語ってみせるのも心憎い)。

 そしてラストページで高らかに名乗りをあげる嵐! これが見たかった!


 そして同誌からはもう一作、たみ&富沢義彦の『ゆやばな』が特別読切で登場。このコンビで湯屋を舞台に、三人娘を通じて江戸の文芸サロンを題材にした作品というと、どうしても『さんばか』が浮かびますが、本作はそれよりも7年ほど後の時代、三人娘も別人のようで、一種のリブート的な印象。
 頁数が少ないのが残念ですが、一種エッセイ漫画的な展開でいくと面白いのかも……と感じたところです。


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コミック 斬 vol.1 (GW MOOK 292)月刊サンデーGX(ジェネックス) 2016年 08 月号 [雑誌]コミック乱 2016年9月号 [雑誌]


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2016.07.30

『仮面の忍者赤影』 第32話「鉄甲アゴン」

 迫るアゴンから辛うじて逃れ、船で熱田から桑名に向かうこととなった信長一行。信長を付け狙うかげろう兄弟のつむじと野火は、宿の女中とその息子を人質とするが、赤影と白影の前に敗れる。しかし最期につむじが送った合図に、虫寄せ風葉は青影の荷に偲ばせたアゴンを巨大化させる!

 突如出現し、赤影らに迫るアゴン。背中の角からの光線と手からの泡を辛うじて躱した赤影は、忍法影分身で対抗、それがきっかけとなったか、笛の音が何処から響くと、アゴンは縮小して謎の女に拾われるのでした。

 さて、熱田に到着した赤影たちは、桑名に向かう信長と、彼が乗る船を守ることに。岸辺で船を見る三人(久々に忍者衣装でない普通の姿であります)の前で無邪気にだるまさんがころんだをして遊ぶ子供たちに、青影がちょっと羨ましそうなのが微笑ましい。小舟に隠れていた子供の一人・吉松に、師匠面してうずら隠れの術を教えてやるのもまた楽しい場面なのですが、これが後に思わぬ結果を招くことに……

 さて、宿に戻った三人ですが、白影は船を護るために移動……する途中、宿の中でつむじと野火がかぶっていた面、さらに根来の下忍を見つけた白影は後をつけていくのですが、これはもちろん敵の罠。浜辺の小さな小屋の中で下忍に囲まれてしまう白影ですが、槍と逆手持ちの刀で大奮戦! 群がる敵をバッサバッサと斬っていく姿が実に格好良いのですが、しかし多勢に無勢であります。
 その頃、宿で食事をとっていた赤影は、宿の女中が、息子――あの吉松が浜から帰ってこないと聞いて飛び出していったことから異変を察知、後を追います。しかしさすがの赤影も、彼女の代わりにやってきた女中の微妙な表情には気付かなかった様子……

 さて、青影の教えのおかげか、誰にも見つからないまま、舟の中で寝入ってしまった吉松ですが、そんな彼を偶然見つけたのは信長の船に火薬をしかけようとしたつむじと野火。吉松は、探しに来た母親ともども囚われの身になってしまうのでありました。そこにようやく下忍を蹴散らした白影と赤影が到着、何とか二人を救おうと隙を窺います。
 一方、そんな状況とも知らず宿で夕飯をかっこむ青影は、陸を行くことになったのにと独りごちるのですが、それを聞いて先ほどの女中の目が怪しく輝きます。そして女中が青影の荷物に忍ばせたのは甲虫……

 さて、野火とつむじに襲いかかって吉松たちを助けた赤影と白影ですが、野火の野火かげろうが舟の上に立った赤影を襲い(しかし舟に火薬を積んでいなかったか……?)、白影につむじのつむじ風が襲いかかります。
 しかし一人一人の腕はさほどでもなかったか、赤影が投げつけた槍に面を弾き飛ばされ、驚いた隙に懐に飛び込んだ赤影に野火は斬られ、つむじも白影の豪快な一撃で面ごとたたき斬られるのでした。しかしつむじはそれでも立ち上がると、仲間を呼ぶ狼煙……というにはあまりに凄まじい血しぶきを噴き上げるのでした。

 それを見たあの女中――今は何だか不思議な格好の虫寄せ風葉が笛を吹くと、青影の背中の荷物の中でカブトムシが巨大化、アゴンへと変化いたします。信長一行に迫るアゴンは光線で一行の動きを止めると泡攻撃! ああっ、信長や青影が溶けてしまう!? と思いきや、青影たちがすんごいイヤそうな顔をしているほかは特に効果は無い様子……
 一体これは、とこちらが思っているうちに、赤影が呼んだのかはたまた天の助けか、高波が浜辺の一行に押し寄せて泡を洗い流し(ついでにみんなを押し流し)、舟でかけつけた赤影と白影に、信長と青影は助け出されるのでした。

 どうやら海までは追ってこられないアゴンを置いて、桑名まで向かう一行。
 これに対し、久々登場の暗闇鬼堂は、倒されたかげろう兄弟の代わりに風葉と共に行動する者を募のでした、そこに名乗り出たのは、これもくノ一の、人むかでの矢尻――


 敵の攻撃を避けるべく、こちらもルート選択で相手を混乱させるなどの作戦が面白い今回。タイトルのアゴンとの決着は持ち越しでしたが、にしてもあの泡は一体……


今回の怪忍者
つむじ

 かげろう三兄弟の次兄。口から突風を吹き出す忍法つむじ風の使い手。兄を倒され、野火とともに信長の船を狙うが失敗、白影に斬られて合図代わりに自らの血を盛大に吹き出して散った。

野火
 かげろう三兄弟の末弟。口から火炎を吹き出す忍法野火かげろうの使い手。つむじと行動をともにするが、赤影に敗れる。


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2016.07.29

フクイタクミ『百足 ムカデ』第1巻・第2巻 拳侠児、百人の外道に挑む!

 月のない夜に人里を襲い、一晩で全てを喰らう極悪非道の百人の悪党「百足」。毒キノコにあたったところを山村の娘・泉に救われた青年・馬頭丸は、山から戻らぬ泉とその弟を追って百足の一番隊と遭遇してしまう。百足の外道たちの殺人術と、馬頭丸の拳法・百手無双流、死力を尽くした戦いが始まる……

 既に連載は完結、単行本最終巻も来月発売という状況で今頃取りあげるのは申し訳ない限りですが、それでも取りあげないわけにはいかない快作であります。

 あらすじは冒頭に述べた以上でも以下でもない、極めてシンプルなストーリー。舞台となるのもほとんどが山の中と、Vシネマのアクションもの的なシチュエーションなのですが……ワンアイディアでグイグイ押していくパワーと熱量が凄まじいとしか言いようのない作品であります。


 タイトルとなっている百足は、完全武装した侍たち数百人を瞬く間に全滅させるほどの戦闘力を持つ恐るべき集団。それもそのはずと言うべきか、彼らは刀、弓矢、棍棒、剛力、絡繰り等々、それぞれに得意とするものは違えど、いずれも常識外れの殺人兵器・殺人技を身につけ、そして何よりも殺人を禁忌としない殺戮の魔人たちなのであります。

 これに対する主人公・馬頭丸は、幼い頃に出会った育ての親である師に仕込まれた百手無双流の達人。巨大な熊をほとんど一撃で粉砕するその力と技もさることながら、己の一手の結果を百種想定して動くことにより死中に活を見出すという流派の奥義を体得し、全身これ武器というべき青年であります。

 そんな、奇しくも百の「足」と百の「手」の名を持つ者同士が激突すれば、ただですむはずがありません。
 砕ける肉体、吹き飛ぶ生首――もちろん倒されていくのは百足の側ですが、もはや「面白」という域に達している絵面と技を持つ百足たちを、馬頭丸が容赦なく粉砕していくのは、これはもう爽快と言うしかないのであります(毎回、ラストに「残る百足あと○人」などと表示されるのも楽しい)。

 弱者を暴力で以て苦しめる外道たちを、それ以上の暴力で叩き潰すというのはバイオレンスものの王道ですが、本作はそのど真ん中を猛スピードで突き進む――何しろ、数ページに一人、いや時には一ページで数人が斃されていくのですから――作品なのです。


 しかしそこにバイオレンスものにどうしてもつきまとう不快感が極めて薄いのが、本作の魅力であります。
 それは、上で述べたように百足たちの存在感が面白方向に振れている――短期間でキャラを立てるのにはやむを得ないことですが――点もありますが、何よりも、主人公たる馬頭丸の精神性、戦う動機に、その理由があると感じます。

 師に出会うまで、幼い頃からただ一人過酷な戦国の世を生き抜いてきた馬頭丸。時に人の物を奪わざるを得なかった彼の信条は、ただ一つ「自分より弱い相手からは奪わない」ことでありました。
 挑む相手は常に自分より強い相手――それは裏を返せば、弱い者は守るべきもの、という彼の心の表れでもありましょう。

 本作で馬頭丸が戦う理由、それは一宿一飯の恩義を返すため……行き倒れかけていた自分を救ってくれた泉たち山村の善良な人々を、百足の暴虐から救うためであります。
 極めてシンプルすぎるとも言えるそれが、大きな説得力を持ち、そしてこちらの心に大きく響くのは、上で述べた馬頭丸の好もしい心性が、ここに貫かれているからにほかなりません。

 敵討ちでもお家復興でも宝探しでもない、ただ弱い者を守るという義侠心のみを以て、悪鬼外道に立ち向かう……その想いが、ただ爽快なのであります。


 しかし如何に馬頭丸が無敵の技を身につけ、熱い心に支えられようとも、所詮は生身の、ただ一人の人間であります。
 一騎当千の百足たち百人を相手にしてきた彼の肉体にも限界が迫り、そして残る百足は38人。

 果たして馬頭丸の戦いのゆくえは、そして彼が強さの先に見出すものは……ラスト1巻が待ちきれません。


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2016.07.28

くせつきこ『かみがたり 女陰陽師と房総の青鬼』第3巻 記憶と時間、人間と鬼の旅路の果てに

 神を騙る(残念な)美女陰陽師・志摩と、無愛想で凶暴な青鬼・アオが、最強の鬼たる赤鬼を追っての旅を続けてきた本作も、いよいよこの巻で完結であります。ついに赤鬼の居所を突き止めた二人が向かった先で待ち受けていたのは、あまりに意外な真実。果たして二人の旅の結末は……

 「神騙り」と称して、金さえ貰えば神様の代わりに願いを叶えるという胡散臭い稼業を続ける志摩。その彼女が手にした角は、かつて房総で暴れまわった最強の双鬼の片割れであるアオのものでした。
 鬼は自分の角を持つ者には手を出せないという法則どおり、志摩に頭の上がらぬまま旅を続けるアオですが、その二人が共通して追い求める存在こそが赤鬼であります。

 人の負の想いに憑く「隠」を滅ぼすため、隠が現世に現れる黄泉の闇穴の秘密を握るという赤鬼を追う志摩と、自分を裏切り見捨てた赤鬼に復讐せんとするアオ――利害関係が一致した二人は、(アオ的にはやむを得ず)コンビを組んで、今日も赤鬼の手がかりを追うのでした。

 そして最終巻であるこの第3巻では、ついにその赤鬼との対決が待ち受けているわけですが……しかし前半は、これまで同様人に憑いた、あるいは人を狙う隠との対決を描く単発エピソードなのは、意外とも思えます。
 しかしそれも計算の上。これらのエピソードの中には(もちろんこれまでのものにも)、その後に繋がっていく大事な要素が描かれているのです。

 それは「記憶」――時間の流れの中で積み重ねられてきた、時間に刻みつけられた人の想いであります。

 もちろん、一口に記憶といっても、楽しいものばかりではありません。辛い記憶、暗い記憶……そうした想いの固着こそが、本作においては隠を生み出してきたことは、これまで描かれてきたとおりです。しかしそれと同時にその記憶こそが、時に人が隠に抗し、打ち砕く原動力となることもまた。

 そしてまた、その「記憶」こそは、アオが、最強の双鬼である青鬼が持たないものであります。
 ただ赤鬼とともに(おかしな表現ですが)物心ついた時から暴れまわってきたアオ。それだけの存在であった彼には、記憶というものがなく――そしてそれは同時に、彼にとって「時間」の概念もまたないことを意味するのです。


 人と鬼の、志摩とアオの間を分かつ記憶と時間の存在。それは思いもよらぬ展開を見せるクライマックスにおいて、大きな意味を持つこととなります。

 冒険の果てについ二人が赤鬼と対峙した時――物語は、いくらなんでもここまでの展開を見せるとは思わなかったと言う他ない、あまりにも意外な真実を浮かび上がらせるのです。
 これは是非実際の作品に触れていただきたいのですが、ここでこれを持ってくるか! と唸りたくなるような題材のチョイスと、そこから浮かび上がる赤鬼とアオの正体……さらに言えば思いもよらぬ大どんでん返しと、そこに密接に結びついた大逆転には、大いに感心させられた次第。

 正直に申し上げれば、本作は伝奇というよりファンタジーの要素が強い作品、実在の伝承よりも架空の要素をベースとしたものと思い込んでおりましたが、いやはやは最後の最後で嬉しい背負い投げを食らった気分です。
 さらにさらに……ここで先に触れた「記憶」の存在が、志摩とアオを救い、二人の新たな関係性を生み出すのには、ただお見事、と申し上げるほかありません。


 一見アバウトな外見の中に、きっちりと構成された、豊かな想いが積み重ねられている……本作は、そんな志摩や、アオに通じるような物語。
 全3巻、あっという間ではありましたが、実に中身の濃い、素晴らしいお話だったなあと、読み終えた後に笑みが浮かぶような作品であります。


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2016.07.27

山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤』 現代科学でも気付けぬ盲点

 タイムトンネルを通じて江戸と現代で二重生活を送るヒロイン・おゆうこと優佳が江戸の名探偵として活躍するシリーズの第二弾であります。今回おゆうが挑むのは、さる大名家の御落胤騒動。とある小間物問屋の若旦那こそがその御落胤だというのですが、しかしおゆうが掴んだ真実は……

 江戸は両国橋近くで一人暮らす正体不明の美女・おゆう。普段何をしているかはさっぱりわからないながら、優れた推理力で幾度か南町奉行所の定町廻り同心・鵜飼伝三郎を助けてきた彼女の正体は、ミステリマニアの元OLでありました。
 祖母が遺した家に隠されていたタイムトンネルを発見した彼女は、行き詰まりがちだった現代から江戸に足を踏み入れ、分析マニアで万能分析ラボを営む友人の宇田川の力を借りては、素人探偵を気取っていたのです。

 さて、そんな彼女の評判を聞いた小間物問屋・大津屋の主人が持ち込んだのは、息子の清太郎が実の子か調べて欲しいという依頼。二十年前清太郎を取り上げた産婆のおこうが、強請りまがいの手紙を送ってきたことから、急に不安になったというのです。
 早速一計を案じて父子の唾液を採取した彼女は、宇田川にDNA分析を依頼、99.9%親子という結果を得るのですが、しかし根拠を明かさずに真実を告げるのは至難の業、おゆうが悩んでいる間に事態は思わぬ方向に転がっていくことになります。

 実はおこうの手紙は将軍の子の養子入り先候補である備中の大名・矢懸家にも届けられており、清太郎が実は矢懸家の御落胤ではないかと思わぬ騒動に発展。
 伝三郎がその御落胤騒動を内偵していたことを知ったおゆうは、彼とともに事件の鍵を握るおこうの行方を探すのですが、しかし彼女は行方不明、矢懸家を二分する御家騒動までも絡み、さらに死人までもが出ることに――


 というわけで、今回の題材はタイトル通りの御落胤騒動なのですが、なるほど、時代ものではしばしばお目にかかるこの題材は、基本的にはDNAという概念が普及していなかった時代特有のものでしょう。
 (本作のようにたまたま分析ラボの親友がいるということはそうはないものの)DNA鑑定を簡単に行える環境にあれば、そもそも起こらない……というのは、コロンブスの卵であります。

 おかげで本作は、本来であれば謎の中心になるはずの御落胤の真偽が物語冒頭で判明してしまうのですが、しかし真実を知ることと、それを人に納得させることは別。前作でも指紋鑑定や血液検査の結果を表に出さずに、いかに伝三郎たちに知らせるかが一つの見せ場となっていましたが、それは本作でも同様なのです。

 そして本作においては、さらにおゆうでも引っかかる、いやおゆうだからこそ引っかかってしまうミスリードが存在します。

 どれほど科学的に捜査を行おうとも、その依って立つ前提に誤謬があれば、その分析から明らかになるものも真実から遠のいてしまう……それは言うまでもないことではあります。
 しかし本作においては、主人公が(この時代に比べれば)未来の科学を用いるからこそ気づけない――そして実はそれがこの時代においてはさまで珍しいことではない――「盲点」を設定することにより、主人公の万能さを切り崩しているのに感心させられるのです。

 もっとも、作中で二度ほど、ほとんど反則的な形で科学の力(現代人の立場)を利用している場面があるのですが、これは多くのタイムスリップものとは異なり、江戸と現代を自在に行き来できるという本作ならではの荒業……と好意的に受け止めたいと思います。


 ただし、残念な部分も皆無ではありません。
 事件の真犯人が――あくまでも立ち位置的な理由とはいえ――ほとんどすぐに読めてしまうというのは、やはり本作のようなミステリにおいてはマイナスではないでしょうか(犯人の人物像がそれなりに魅力的であるだけになおさら……)。

 そしてまた、タイムスリップものでは定番とも言える、主人公の正体バレのサスペンスも本作では危機感が薄いのが個人的には気になったところではあります。
 最もバレてはまずい相手である伝三郎、シリーズを通じての仕掛けが施されている彼の存在も、これであれば別にバレても、バレた方がという印象で、この辺りはむしろ逆効果になっているように思えます。

 前作で感じた三郎や宇田川のキャラクターの薄さ(便利さ)も解消されているだけに、いささか贅沢な言い分かもしれませんが、やはり勿体無く感じてしまった次第です。


『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤』(山本巧次 宝島社文庫『このミス』大賞シリーズ) Amazon
大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)


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2016.07.26

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第3話「夜魔の森の女」

 殤不患や狩雲霄と合流した凜雪鴉は、一堂に蔑天骸が潜む七罪塔に至るまでの三つの関門の存在を語る。そのそれぞれを突破する力を持つ知己がいるという凜雪鴉は、最初の亡者の谷を突破するため、夜魔の森に潜む刑亥を訪ねる。しかし死霊術を操る妖魔である彼女は、一行に死霊の群れを差し向ける……

 前回のラスト、狩雲霄が突然殤不患目がけて矢を射た……ように見えたのは後ろに隠れていた玄鬼宗を狙っただけだった、というよくあるオチで始まった今回、戦いが終わった頃を狙ったように登場したのは丹翡を連れた凜雪鴉であります。
 やはり前回送られた三通の手紙の一つの宛先だった狩雲霄は、「今は何と名乗っている?」などといういかにも昔なじみらしいやりとりを経て同行を快諾。その舎弟の捲殘雲も同様ですが……しかし殤不患は同行を思い切り拒否。しかしこれ以上玄鬼宗につきまとわれないように蔑天骸を倒すには、(色々な意味で)彼らと同じ道を行くしかないのでした。

 そんなわけで宿屋に落ち着いた一行ですが(殤不患は一緒だったのですが今回は大丈夫だったのか……?)、ここで凜雪鴉が語るのは、蔑天骸と彼が潜む七罪塔の来歴。かつて強大な魔術師が作り上げたこの塔の番兵であった蔑天骸(どんな格好をしていたのか想像するとちょっと楽しい)は、魔術師の術を盗んだ上で寝首を掻くと、塔の主に収まったというのであります。

 そして塔に近づくには空を飛ぶか、地で待ち受ける三つの関門を突破する必要があるのですが、当然前者は不可能として挑むべきは後者。しかし生ける亡者たちが徘徊するという「亡者の谷」、巨大な石の絡繰巨人が守るという「傀儡の谷」、そして一歩道を間違えれば異次元に飛ばされてしまうという(奇門遁甲の強烈なやつでしょうか)「闇の迷宮」と、いずれも攻略は困難極まりないものです。
 うち、傀儡の谷は、狩雲霄の矢でクリア可能、闇の迷宮も攻略に必要なアイテムを持つ知己がいるとのことですが、さて残る亡者の谷は……心当たりのあるらしい狩雲霄は露骨に厭な顔をいたします。

 さてその晩、殤不患の部屋を訪ねてくる丹翡ですが、もちろん艶っぽい話ではなく、いまだに共に戦おうとしない殤不患を説き伏せるのが目的。が、これまでの旅暮らしの中で、神誨魔械と称する紛い物を幾つも見てきたという殤不患は、その一つであるという天刑劍も偽物ではないかと疑いの目を向けます。
 もちろんこれには丹翡も反論しますが、しかし本物であれば手にして蔑天骸を討つべきであったし、偽物であれば向こうも相手にしなかっただろう、というのはまことにもっともな指摘であります。

 おそらくは生き馬の目を抜くような江湖での暮らしが長い殤不患にとっては、一族の掟に縛られ、そのために命を落とし、かえって天刑劍を危険に陥れた丹翡たちの有様は、何とも歯がゆくも愚かしく見えたということでしょう。一見粗雑に見える殤不患が、一行の中ではツッコミ役というか、常識人的な感覚を持っているのが、本作の面白いところではないでしょうか。
 しかし一方的に丹翡に憧れている捲殘雲にとっては面白くない状況のようですが……(しかし捲殘雲、思い切り貧しい出か、あるいは実はお坊ちゃんのどちらかのような)

 さて、亡者の谷をクリアするために必要な者を求めて夜魔の森を訪れた一行ですが、森は瘴気漂う魔所。さらに突如宙に浮かんだ権高な美女の頭に生えるのは……巨大な角。そう、美女――刑亥は妖魔の血族だったのであります。その刑亥の立ち入り禁止メッセージにかなり弱気の殤不患ですが、あれは誰に対しても同じ事を言う看板のようなものだと凜雪鴉は飄々と歩を進めるのみ。

 そして行く手には彼言うところの番犬――死霊の群れが現れるのですが、それを引き受けて一行を先に行かせるのは丹翡と捲殘雲。一応は狩雲霄が腕を認める捲殘雲はともかく、丹翡は……と思いきや、言ってみれば「聖」属性の彼女は死霊に対してはいわば天敵なのでしょう。
 猛然と槍で死霊を薙いでいく捲殘雲と、華麗な術で次々と死霊を射貫く丹翡……これまで腕前を見せていなかった二人もまた、一行に加わるに充分な腕前の持ち主なのでした(にしても、死霊なら首チョンパしたり爆破したりしても安心して見ていられるなあ……)。

 そして先を急ぐ凜雪鴉は、刑亥の説得に無闇に自信があるようですが……どう考えてもあれは李莫愁のようなタイプ、過去に二人の間に何かあったのでは……と嫌な予感が黒雲のように湧いてきたところで次回に続きます。


 内容的には設定説明が中心の印象だった今回、アクションはラストだけで、やはり30分は短い……というのが正直な印象。登場人物のやりとりも大きな魅力の作品だけに、その辺りのバランス取りは難しいのだとは思いますが。


『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』第1巻(BDソフト アニプレックス) Amazon
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関連サイト
 公式サイト

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2016.07.25

8月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 気がつけば蝉が賑やかに鳴き出し、より一層暑さが感じられる季節になりました。夏休みと無縁の生活を送る身にとっては、読書が数少ない楽しみなのですが、8月はお盆休みで出版社がお休みだし……と思いきや、これがかなりの点数が登場。というわけで8月の時代伝奇アイテム発売スケジュールです。

 この2ヶ月ほど、新刊がちょっと少なくて残念だったのですが、8月は上で述べたようにお盆休みが入るにもかかわらず(?)特に漫画の新刊の点数はかなりの数に及びます。

 まず小説の方は、シリーズものの新刊としては、シリーズついに完結!? のあさのあつこ『燦 8 鷹の刃』のほか、廣嶋玲子『うそつきの娘 妖怪の子預かります2』、上田秀人『表御番医師診療禄 8 乱用』が登場。

 文庫化・復刊では、柴田錬三郎『真田十勇士 3 ああ!輝け真田六連銭』、風野真知雄『刺客、江戸城に消ゆ』、風野真知雄『歌川国芳猫づくし』が刊行されます。
 柴錬十勇士は無事にシリーズ完結、『刺客、江戸城に消ゆ』は、隠れた忍者ものの名作だけに、復刊は嬉しいところです。

 また、小説以外では、高田衛『江戸の悪霊祓い師』増補版に注目。累の怨霊を祓ったという祐天上人の事績を描き出した名著の復活です。


 そして漫画の方ですが……本当にもの凄い点数なので、舞台とする時代毎に分けて紹介しましょう。

 室町時代以前では、武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第7巻、たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第6巻とどちらも楽しみな作品が登場。
 また、戦国時代はほおのきソラ『戦国ヴァンプ』第1巻、長谷川明『戦国外道伝ローカ=アローカ』第2巻、梶川卓郎『信長のシェフ』第16巻、原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第9巻、長谷川哲也『セキガハラ』第6巻、フクイタクミ『百足 ムカデ』第3巻と新鋭・ベテラン入り乱れた作品が並びます。新登場の『戦国ヴァンプ』は、女子高生がタイムスリップして吸血鬼大名と……というなかなか盛っている作品です。

 そして江戸時代は、せがわまさき『十 忍法魔界転生』第9巻、戸土野正内郎『どらくま』第4巻、琥狗ハヤテ『ねこまた。』第3巻、宮川輝『買厄懸場帖九頭竜 KUZURYU』第2巻が気になるところ。
 また幕末以降は、西条真二『みなごろしのストラット 真田幸村異聞録』第2巻、横山仁『幕末ゾンビ』第2巻、野田サトル『ゴールデンカムイ』第8巻、吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第2巻があります。

 そして復刊では、沙村広明『無限の住人』新装版が登場。実写映画化に向けてかと思いますが、こちらは装幀が気になるところです。



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2016.07.24

上田秀人『御広敷用人大奥記録 10 情愛の奸』 新たなる秘事と聡四郎の「次」

 八代将軍吉宗の懐刀として奮闘を続ける御広敷用人・水城聡四郎の物語も、本作でついに二桁に突入。勘定吟味役時代から数えれば実に18作、作者の主人公の中でも最も長きに渡り活躍していることになります。本作においては、新たに尾張藩にまつわる陰に触れることになってしまった聡四郎の運命は……

 吉宗が愛する竹姫を正室に迎えるための下準備として、前作では京を訪れることとなった聡四郎。
 そこで地元の裏社会と結んだ元御広敷伊賀者・藤川の送り込む刺客と死闘を繰り広げたものの、まずは無事に任を果たし帰れる……かと思いきや、吉宗から新たに下されたのは尾張探索の命でした。

 詳しい内容はわからぬまま尾張に向かうことになった聡四郎一行は、代々の藩主の菩提寺に詣でることで相手の様子を窺うのですが、これが見事に当たったと言うべきか、聡四郎一行を次々と襲う尾張の刺客。
 慣れぬ旅の最中に苦戦する聡四郎に対し、彼に従う伊賀者・山崎伊織が提案したのは、何とこれまで聡四郎を仲間の仇と付け狙ってきた伊賀の里の忍びたちを雇うことで――


 というわけで、この巻では、半分以上のウェイトを割いて尾張徳川家にまつわる新たなる闇と謎が描かれることとなります。

 尾張徳川家といえば、同じく御三家の紀州出身の吉宗を敵視し、幾度となく衝突したことで有名ですが、その理由の一つが、将軍位を巡っては吉宗とライバルであった徳川吉通が若くして(それも将軍を目前として)亡くなったことでしょう。
 本作で描かれるのは、まさにその吉通の死にまつわる謎。伝奇ものでは吉宗が手を下したと描かれることもある吉通ですが、本作においてはその真実を吉宗が探るよう命じるというのが、なかなかに面白い構図であります。

 その真実は――ここでは触れませんが、終盤である人物が語るその内容は、なかなかに捻ったものであると同時に、多くの作品で将軍位継承の闇を描いてきた作者ならではのものではある、とは言ってもよいでしょう。
 それを主人公の預かり知らぬところで「自白」してしまうのもまた、作者の作品に多い展開ですが……


 しかし、シリーズタイトルにあるように、本作はあくまでも大奥を巡る物語。そちらの方も、聡四郎不在の間にも動いていくのですが――これまで吉宗の宿敵として月光院と並んで暗躍してきた天英院一派も、以前に行ったあまりに卑劣な策が露見し、ついに没落の兆しを見せることになります。
(本作の冒頭で描かれる、その痛烈なしっぺ返しのくだりは、こう言ってはなんですがなかなに痛快)

 京の公家たちの不気味な動きもあるものの、竹姫を正室に迎える準備も整いつつある中、吉宗はもう大奥で事件は起こるまいと語るのですが……そうなると気になるのは、シリーズの先行き、いや、聡四郎の今後であります。

 これまで聡四郎には厳しく当たり、ほとんど無理難題とも言える使命を押し付けてきた吉宗ですが、本作においては珍しく(?)聡四郎を評価する言葉が並びます。
 そう、いまだ将軍になって日の浅い吉宗にとって、聡四郎は数少ない懐刀。そして超実力主義の吉宗にとってそれは、聡四郎が――まだまだ未熟であるにせよ――吉宗に応えるだけの力を持つことを意味します。

 そして、大奥の件が収束に向かういま、いよいよ聡四郎の「次」が見えてきた感があります。
 もちろんそれが何なのかは、現時点ではわかりません。勘定方に復帰するのか、あるいは別の役職に就くのか? 御広敷伊賀者たちとの関係が一つの鍵になるやもしれませんが……
(それにしても、役人は「異動」させれば次の物語に入れるというのは、役職が固定した作品の多い時代ものではある意味盲点でした)


 しかし、吉宗の予想と裏腹に、これから起きようとしている一大事。その成否も含め、まだまだ波乱の種はつきません。さらに聡四郎の周囲には、彼の口を封じんとする尾張の暗殺団に、藤川を頭とする裏に下った伊賀者たちとまだまだ数多くの敵が存在します。
 これらにケリをつけ、「次」に進むことができるのか、いよいよクライマックスが近づいてきました。


『御広敷用人大奥記録 10 情愛の奸』(上田秀人 光文社文庫) Amazon
情愛の奸: 御広敷用人 大奥記録(十) (光文社時代小説文庫)


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 上田秀人『御広敷用人大奥記録 9 典雅の闇』 雲の上と地の底と、二つの闇

 今日も二本立て 「大江戸火盗改・荒神仕置帳」&「破斬 勘定吟味役異聞」
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2016.07.23

『仮面の忍者赤影』 第31話「怪忍百面鬼」

 織田家の兵たちが何者かに斬られた。生き残りの証言から、その下手人として捕らえられた白影だが、それがかげろう三兄弟の百面鬼の罠だった。本物が捕らえられている隙に信長に近づき、刃を向ける百面鬼。敵の策をを悟った赤影と青影の前に、三兄弟の野火とつむじが立ち塞がる。

 前回、赤影たちのみとなってしまった信長の護衛。しかしさすがにそこは織田信長、何となく増援が来ていたようですが……今回も赤影たちは味方の侍に足を引っ張られる形となります。
 清須を過ぎ熱田に向かう途中、偵察が一段落ついて、池で手ぬぐいを浸し、顔を洗う白影。しかし白影が去った後、池の中から不気味な男の面影が浮かび上がります。これぞ新たなる刺客、かげろう三兄弟の百面鬼であります。弟の野火とつむじと合流した百面鬼は、白影の顔で何かを企んでいる様子……

 と、織田家の家中の侍たちがパトロール中に、その前に立ち塞がる深編笠の男。侍たちを嘲弄し、襲いかかったその男は瞬く間に侍たちを切り倒し、ただ一人残った侍の前で、これみよがしに編笠を取ればその顔は――白影! わざとらしく峰打ちで見逃されたことにも気付かず、生き残りの侍は、砦の仲間たちに白影の凶行を語るのでした。

 そうとも知らず信長の護衛についていた白影は、現れた怪しげな人影を追って行くのですが、そこで出くわしたのは、先ほどの生き残りの侍と仲間たち。たちまち囲まれた白影は、抗弁も許されずに砦に連行されることに……それを見つめるのは、悪い白影の顔をした百面鬼。皆まんまと策にはまった形であります。
 白影が囚われたことを知り、砦にかけつける赤影と青影ですが、面会を断られて青影は怒り心頭、ストレートに怒って侍に食ってかかるのがそれらしくて楽しいのですがそれはさておき。青影をなだめた赤影は、意外に真っ正面から見張りを倒して白影に会うと、状況を把握するのでした。

 そして青影と合流する赤影の前に現れたのは、下忍たちを連れたかげろう兄弟の弟二人、つむじと野火。まずは下忍を蹴散らす赤青影ですが、ここでおそらくは初めて青影が刀で敵を斬ることに注目すべきでしょう(もっとも、その中で座頭市のマネをするのが何ですが)。
 そして次に二人に襲いかかるはかげろう兄弟の二人――口から強風を吹き出すつむじの忍法つむじ風と、同じく業火を吹き出す野火の忍法野火かげろう、これまでの敵に比べれば地味ではありますが、組み合わさればなかなかの威力。それではこちらも協力だ、と赤影と青影は背中合わせで大回転、忍法影風車で強力な竜巻を起こし、敵の攻撃を押し戻し、そのままの勢いで脱出するのでした。

 一方、信長の元へも襲いかかる下忍の群れ。大乱戦の中で、あわやとなった信長を助けた白影は、信長を連れて脱出するのですが――もちろんこれは百面鬼のほうであります。二人きりとなったと見るや、豹変して襲いかかる百面鬼に対し、わしを倒しても第二第三の信長が弾正を倒すと鋼鉄ジーグか悪の首領っぽいことを語る信長ですが……それが功を奏したか、そこに(自分で脱出したのか)本物の白影が駆けつけ、そして、赤影と青影も参上いたします。

 三人がかりでの攻撃の末、百面鬼の額を割る赤影の一刀。しかし百面鬼はお前たちも道連れなどと言いながら自爆……した割りには大した爆発ではないと思いきや、その煙の中から現れたのは巨大な甲虫の怪忍獣・アゴン! 驚く信長と赤影たちに迫る怪忍獣という
三度のシチュエーションで引きとなります。


 変幻自在の忍者が味方の中に入り込んで……というのは、これは忍者ものでは定番中の定番、特に実写ドラマの場合は、役者さんが普段と全く別のキャラクターを演じるのが楽しいところであります。
 その点、今回の白影――牧冬吉は、普段の剽軽さとは別人のような(設定上はそうなんですが)憎々しげな振るまいが実に見事で、この辺りは名脇役としての面目躍如と言うべきでしょう。


今回の怪忍者
百面鬼

 他者に瓜二つに化ける術を得意とするかげろう三兄弟の長兄。白影に化けて織田家の侍たちを殺害、本物の白影が捕らえられた隙に信長に接近、命を狙った。間一髪間に合った白影らに阻まれ、赤影に斬られた。


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2016.07.22

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第2話「襲来! 玄鬼宗」

 丹翡から玄鬼宗に追われていた理由を聞いた殤不患と凜雪鴉。自分には関係ないと二人と別れる殤不患だが、既に玄鬼宗の手配は各地に回っていた。待ち受ける玄鬼宗・獵魅と対峙する殤不患の前に、槍使いの捲殘雲と弓使いの狩雲霄が現れる。殤不患に代わり、玄鬼宗を一掃する狩雲霄だが……

 TMRの曲に乗せた派手な、しかし本作に似合いのOPの後に始まった『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』の第2話、冒頭で物語られるのは、本作の中心となるであろう天刑劍の来歴であります。かつて人界と魔界が争った際、人界側の逆転の切り札となった武具・神誨魔械。その中でも最強と目されるのが天刑劍であり、丹翡はこの剣を守る護印師の一族だったのでした。

 今は丹翡の一族の聖域は玄鬼宗の手に落ちたものの、その中に蔵される天刑劍を手にするには、柄と鍔が必要。柄は蔑天骸の手に落ちたものの、鍔の方は丹翡のもとに。そして丹翡は、兄の仇討ちのため、蔑天骸に挑むと語るのですが……何故か「鬼鳥」の名を名乗る凜雪鴉は助力を申し出たものの、殤不患はこれ以上の面倒は御免こうむると、一人去っていくのでありました。
 が、凜雪鴉は彼が戻ってくることを知っているかのように動ぜず、三通の手紙を認め、鳥を使って何処かに届けるのでした。そして何やら凜雪鴉は、蔑天骸のことを知るらしく、彼のことを「森羅枯骨」と呼ぶのですが――

 一方その蔑天骸の方は、居城でこれまでに集めた宝刀のコレクションを前に、この中に天刑劍を加えるべく配下に命令。これだけ見れば単なるコレクターですが、しかし求めるモノがモノだけに、それだけでは済まないようにも感じられるのですが……さて。

 一方、一人とある街に辿り着いた殤不患ですが、やはりと言うべきか、とっくに玄鬼宗の手配書は回され、街の人々は後難を恐れて彼に近づこうとしません。やむなく街を出た殤不患の前に現れたのは、巨大な弓を持つこれまた一癖ありげな隻眼の壮漢であります。
 この先に玄鬼宗が待ち受けていると語る壮漢ですが、これで行く道を変えれば大侠の名がすたる、と思ったかどうかはともかく、そのまま足を進める殤不患。果たしてその前には玄鬼宗の中でも幹部格の美女・獵魅と配下の皆さんが立ちはだかるのでした。

 もう俺は丹翡たちとは関係ないと言っても、この手の連中に通じるはずもなく、殤不患の首を取る気満々の獵魅。いよいよ一触即発のその瞬間……時代がかった口上を自分の口で言いながら突然割って入ってきたのは、槍を手にした短髪の青年(長髪美形ではないというだけでこの世界ではなかなか新鮮)、捲殘雲であります。
 しかし殤不患も獵魅も視聴者も、彼が誰なのか知らない。おまけに彼自身、なんで割り込んできたかわからなくなってきたという漫才のような状況を打開するのは、玄鬼宗の一人に突き立てられた一本の矢。

 ここで登場するのはあの隻眼の壮漢、念白――賛詩のような形で講談師が述べるそのキャラクターの紹介――付きで登場したのは、鋭眼穿楊の渾名を持つ狩雲霄。前回、念白付きで登場したのが蔑天骸であったことを思えば、彼の格がわかろうというものでしょう。
 そしてその弓はもちろん伊達ではなく、遠距離からの正確なスナイピングで玄鬼宗を次々と射抜き、残るは獵魅を含めてただ三人……

 飛び道具は懐に飛び込んでしまえば、と軽功で間を詰めた獵魅たちですが、狩雲霄は悠々と三本の矢を天高く放ちます。拳で、蹴りで三人をあしらい、矢の落下地点に巧みに誘導するという神業を見せる狩雲霄、ただ一人、獵魅に対してだけは強打で吹き飛ばし、彼女が倒れた足元に矢が刺さりましたが、これはおそらく、彼が口で言うように獵魅が想像以上に打たれ弱かったのではなく、わざと狙ってのことでありましょう。
 さすがに捨て台詞を吐いて獵魅が去った後、残ったのは男たち三人。しかし狩雲霄は、殤不患の名を確かめるや否や、その矢を彼に向けて射て――と、実に武侠ドラマらしい引きで続きます。


 第1話冒頭ほどではないものの、たっぷりとケレンの効いたアクションを見せてくれた今回。弓という飛び道具は、どうしてもどこかチートっぽさを感じさせてしまうものですが、見せ方とアクション設計の面白さで、文句なく格好良いものを見た! という気分です(その一撃必殺感が、いかにも歴戦の強者の狩雲霄のキャラにもまた似合う)。
 その一方で、今回の敵役の獵魅は、首領の寵愛を求めるサディステックな美女というのが、いささか類型的な印象なのが残念ではありますが――

 残念といえば、作中で登場するキャラの渾名や技の名などとの固有名詞は、せっかく格好良いのですから、字幕で見せてくれてもよいのに……と思わなくもありませんが、これはちと贅沢の言い過ぎでしょうか。


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 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第1話「雨傘の義理」

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2016.07.21

仁木英之『くるすの残光 最後の審判』 そして残った最後の希望、しかし……

 島原の乱を生き延び、天草四郎復活の日まで、彼から与えられた異能で戦う聖騎士たちを描く『くるすの残光』もついにこの第五作で結末を迎えることとなります。最大の敵たる天海を討った寅太郎たちの前に現れるのは、かの由井正雪。聖遺物の一つ・聖杯を持つ正雪は寅太郎たちに何を語るのか……

 四郎の遺した七つの聖遺物を巡り、南光坊天海率いる幕府の切支丹討伐部隊・閻羅衆と死闘を繰り広げてきた寅太郎たち聖騎士。
 切支丹のみならず、山の民や海の民、古き神々を奉じる人々を巻き込んで展開してきた戦いは、前作のラストで寅太郎たちが二人もの仲間という貴重な犠牲を払いながらも、天海とその右腕・佐橋市正を討ったことで、決着したかに見えたのですが……

 しかし聖遺物・十字架の復活の力を手にした佐橋をはじめとする閻羅衆と公儀甲賀者たちにより、次々と狩りたてられていく各地の切支丹たち。各地のまつろわぬ民たちも、幕府の圧政の前に誇りを捨て、戦う意思を失っていくのでした。
 そんな中、寅太郎たちに手を差し伸べたのが由井正雪。かつて萩で寅太郎たちと出会い、一目で正体を見抜いた彼もまた、聖遺物の一つ・聖杯を持つ者だったのであります。

 切支丹ではないものの、彼らを含めたこぼれ落ちる者をなくすべく戦うという正雪に対し、一度は完全に信じられずに距離をおいた寅太郎。しかし幕府の度重なる弾圧により追い詰められ、思わぬ形で正体が露見してしまった寅太郎は、ついに正雪を頼ることとなります。そして三代将軍家光の死期が迫る中、正雪の蜂起の時も近づくのですが――


 既に前作ラストで敵の首魁とも言うべき天海を討ち、果たしてどのように物語が続いていくのか……と思われた本シリーズですが、ここで登場するのが由井正雪というのは、シリーズの締めくくりに相応しい存在でしょう。
 言うまでもなく正雪は、幕府史上に残る謀反とも言うべき慶安の変の首謀者。幕府に対して一大勢力を集め、幕閣の心胆を寒からしめた点では、島原の乱の切支丹たちに通じるものがあると言えるかもしれません。

 その正雪を、本作は幕府の力による統治からこぼれ落ちる者を救わんとする理想と野望、そして不思議なカリスマと人間味を持つ者として描き出します。
 それはもちろん、これまで描かれてきた正雪像に通じるものではありますが、しかしこれまで一貫して、理不尽に追い詰められ、こぼれ落ちる者たちが反抗する姿を描いてきた本シリーズにおいて、寅太郎たちの最後の戦いの協力者として、まことに相応しい人物像と感じます。


 しかし……その正雪の存在や、意外なしかし納得の最後の決戦の舞台など、見るべき点は多かったものの、私としてはこの結末にすっきりしないものが残った、というのが正直なところではあります。

 確かに後世の歴史を考えれば、この展開しか、この結末しかあり得ないことは間違いありません。この時代においては異端者である寅太郎たちが駆り立てられ、そして近しい者たちにまで累が及ぶ様は、何とも重苦しくやり切れない印象が残りますが、しかしやむを得ないことでしょう。
(ただし、ある人物が寅太郎に戦う理由を与えるためだけに登場したかのような扱いだったのはどうにも……)

 しかし何とも釈然としないのは、寅太郎たち聖騎士が奉じてきた天草四郎の存在――そしてその想いが、ラストに至るまでに、存在感があるものとして、言い換えれば寅太郎たちの行動原理として、こちらに強く伝わってこなかったことであります。

 この点はシリーズの既刊を紹介した際にも触れてきたかと思いますが、弾圧の犠牲者とはいえ一種のテロリストである寅太郎たちが、我々読者に共感を抱かせる存在であるために、その行動原理である四郎の想いは、やはり明確にされるべきものであったと感じます。
 本作の、本シリーズの結末において寅太郎が選んだ道に至るまでに、彼がもう一度向き合うべきものとしても――

 その点があまりはっきりと見えなかったたために(実はそれも一種の仕掛けとも言えるのですが……)、ラストに描き出されたもう一つの希望の姿も、その尊さも、いささか薄れてしまったと感じるのです。

 第一作からずっと楽しませていただいたシリーズだけに、最後にこうしたことを申し上げるのはまことに心苦しいのですが――
 先に述べたように、この結末以外あり得ないだけに、そこに至る道をもっと飾っていただきたかった、というのが正直な気持ちなのです。


『くるすの残光 最後の審判』(仁木英之 祥伝社) Amazon
くるすの残光 最後の審判


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2016.07.20

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第1話「雨傘の義理」

 天刑劍を護る丹衡・丹翡兄妹を突如襲撃する玄鬼宗。丹衡は玄鬼宗を率いる蔑天骸の手にかかり、丹翡は崖から転落してしまう。一方、風来坊の殤不患は、地蔵に差し掛けられた傘を手にしたことから、謎の男・凜雪鴉に、最初に出会った人物を助けるよう告げられる。そして殤不患の前に現れたのは……

 今頃になっての紹介で恐縮ですが、虚淵玄+台湾の霹靂布袋劇という異色の取り合わせで話題の武侠人形劇の第1話であります。
 私は虚淵作品にほとんど全く触れておらず、霹靂布袋劇といえば『聖石傳説』が浮かぶ程度の人間ではありますが、しかし武侠ものが新しいスタイルで、とくれば見逃すわけにはいきません。

 そして視聴した第1話ですが……なるほど、見事に武侠もの、それも全く見たことのない世界が展開されている、としか言いようがない作品でありました。

 本作の舞台となるのは、いつ、どことも知れぬ(おそらくは現実世界とはよく似ながら異なる)という、古龍テイストの世界。そこで神剣を護る兄妹が、奇怪な仮面の一党に襲われる場面から始まります。

 当然、そこで剣戟が展開されるわけですが、しかしここで布袋劇初体験者として驚かされるのは、その動きとエフェクトのド派手さ。
 人形であるにもかかわらず、いや人形だからこそと言うべきか、縦横無尽に飛び回るキャラクターたちに感心し、そして光やら衝撃波やら、過剰なまでに飛び出すエフェクトに驚き……なるほど、これが霹靂布袋劇か! といささかカルチャーショックを受けた次第です。

 もっとも、兄妹の兄・丹衡が繰り出す奥義はいさかかCG過剰でちょっと……という印象もありましたが、しかし基本的な殺陣や所作は見事に武侠もののそれを再現していると申しましょうか、ちょっとした動き、例えば剣を抜いてくるりと回してみせる動きなどが実に「らしい」と感心いたしました。


 しかし、個人的に一番武侠「らしさ」を感じたのはその後、妹の丹翡の崖落ち……ではなくて、本作の主人公であろう二人の好漢のと、彼らのやりとりにであります。

 一人は、雨のそぼ降る中、傘もささずに悠然と木陰で煙管をくゆらせる眉目秀麗、白面の貴公子という表現がぴったりくる凜雪鴉。もう一人は、不敵な面構えが何とも頼もしい、それでいて人間臭いものを感じさせる殤不患。

 そして傘を持たずに旅してきた殤不患は、路傍の地蔵に差し掛けられた傘を見て、これ幸いと手に取るのですが……
 ここで凜雪鴉が、お前は御仏に傘一本の借りを作った、渡世人ならばその借りを返すため、この先最初に出会った一人に御仏に成り代わり慈悲をかけてやれ、などという言葉をかけるのが実に楽しいのであります。

 ほとんど言いがかりというか屁理屈のような言葉、それもそれを口にしたのが美形ではあるが見るからに一癖ありげな凜雪鴉とくれば、殤不患でなくともスルーしてしまいたくもなります。
 しかし、そこで本当に最初に出会った人物――言うまでもなく、崖落ちしても生きていた丹翡の苦境を見過ごすことができず、追手の玄鬼宗の前に立ち塞がってしまうのが、好漢の好漢たる所以と言うべきでありましょう。

 もちろん登場したばかりではありますが、いずれもいわゆる正義の味方とは縁遠そうな凜雪鴉と殤不患。しかしそんな二人が、義理やら義侠心やらといった不確かな――しかし、人として好ましい心性に動かされ、己の習い覚えた技でもって悪人悪漢に挑むというのは、これはまさしく「武侠」の精神、武侠ものの醍醐味でありましょう。
(もっとも凜雪鴉はその辺りからだいぶ外れるのですが、こういう飄々と胡散臭い、しかし馬鹿強いであろうキャラが舌先三寸で人を動かすのも、また「らしい」と言えるでしょう)


 今回はこの殤不患と凜雪鴉のやりとりが結構な割合を占める印象なのですが、この武侠もののエッセンスを感じ取れただけでも本作の魅力の一端を、目指すところを感じ取れたように思えますし、物語の幕開けとしては十分すぎるほどでありましょう。

 そして追っ手であるいわば中ボスクラスの殘凶を、殤不患が凄まじい技の冴えで一蹴、しかし最期の力で凄まじい覚悟を見せた殘凶により、殤不患と凜雪鴉の存在が蔑天骸らに伝わって……というところで物語は次回に続くことになります。
 ラストに流れる(おそらくは)OP映像を見れば、この先まだまだ一癖も二癖もある面子が飛び出してくる様子。霹靂布袋劇として、和製武侠活劇として、先が楽しみになる滑り出しであります。


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2016.07.19

仁木英之『王の厨房 僕僕先生 零』 飢えないこと、食べること、生きること

 この世界がまだはるかに若く、天地が定まっていなかった頃を舞台に、生まれたばかりの僕僕の姿を描くプリクウェル『僕僕先生 零』の第二弾であります。調和が崩れ始めた世界を救うため、宝貝「一」を手に入れることを命じられた僕僕と拠比は、新たな世界で新たな旅を続けることとなります。

 老君が作り炎帝・黄帝・西王母の三神が育む天地の調和が乱れ始める中、それを防ぐべく、全ての始原である「一」の破片を集めることを炎帝から命じられた水の神・拠比。人間の姿に変えられ、著しく力を制限された彼のパートナーとなるのは、生まれたばかりの料理仙人・僕僕でした。

 人間に近づいたため、栄養を口から食事で取らざるを得なくなり、僕僕の料理を必要とする拠比と、仙人としてはまだまだ未熟な僕僕。そんなちと頼りない二人は、「一」の破片の在り処に反応する鏡を手に入れたものの、炎帝とは異なる動きを見せる黄帝配下の仙人たちにこれを奪われて――

 という前作が、世界観説明に重点を置いた序章的印象があったのに対して、続く本作は、いよいよ探索の旅が本格化した印象。
 鏡を奪われ、手がかりを失いながらも、不思議な因縁に導かれて僕僕が、拠比が向かった先、それは、黄帝が新たに創りつつある人間の世界――そしてその中で大きな力を持つ栄陽の国であります。

 かつては狩りで食物を集め、一族を率いていた男・辺火が、一代にして築いた栄陽。自らに従う者は決して飢えさせないというモットーで、国を広げ、民を従えてきた辺火を支えるのは、狩りを行っていた頃から彼を支える厨師・剪吾であります。
 常に強烈な飢えに苛まされる辺火を、常に新鮮な料理を作り出すことにより支え、国の第二位の地位を与えられてきた剪吾。しかし、いよいよ辺火が飢えに駆り立てられ、そのために泣く民が絶えない今、剪吾は深い悩みを抱えていたのでした

 と、そんな折りに栄陽を訪れたの僕僕と拠比。思わぬ事故によって拠比の前から姿を消し栄陽に放り出された僕僕と、以前冒険を共にした少女・昔花と再会し栄陽に向かうことになった拠比と――それぞれ栄陽を訪れた二人は、そこで「一」の欠片が、辺火の元にあることに気づきます。
 辺火に近づくためには、王の厨師となるほかない。そのために拠比と僕僕は、厨師の座を賭けた剪吾との料理対決に臨むことに――!


 ……いやはや、公式のあらすじで料理対決の文字を見た時は一体何が起きたのかと思いましたが、読んでみれば、あれよあれよという間に冒険が展開し、なるほど、本当に料理対決に至ることになる本作。
 その過程や、登場する料理の数々を見ているだけで実に楽しくなってしまいますし、その料理を生み出す僕僕の(本伝とは微妙に異なる)キャラクターをはじめとして、個性豊かな登場人物たちもまた魅力的です。

 が、本作の中心に居るのは、間違いなく辺火と剪吾の二人でありましょう。
 天地の異変により一族が飢え倒れていく中で、ただ民を飢えさせぬことだけを思い、王とそれを支える者として生きてきた二人。飢えない=充分に食べるということは、人間として必須の行為であり、彼らの行為は即ち生きるための努力そのものでありました。

 しかしその理想が他者を圧することは許されるのか。そして自らに従わぬ者をその理想の輪から外すことは許されるのか――人間として根源的な行為にまつわるものだけに、それは重く切実なものとして響くのであり、特に王と民の間で悩む剪吾の姿は、その問題の象徴と感じます。
 そして、拠比と僕僕の存在は、一種の鏡としてそんな二人の姿をより鮮明に浮き彫りにするのです。

 そもそも、生きるために食う必要はなく、奪うための争いというものも存在しない神仙の世界。そんな中で、何か食べなくては生きていけない拠比と、(主に)彼のために料理をする僕僕は、例外的な存在ではあります。
 そうであっても、やはり根源的なところで拠比は辺火を理解できない。僕僕は剪吾と同じことはできない――それは神仙の世界と人間の世界の、大きな隔たりなのです。

 しかし、その隔たりを乗り越えることはできるかもしれない。隔たりの存在を理解することはできるかもしれない……本作の結末で描かれるのは、その一つの希望であります。
 そしてその希望――そこに至るまでの困難も含めて――は、これまで本伝で描かれたものと変わりありますまい。


 本伝との関わりも含め、まだまだ先は見えないシリーズですが……しかし、この希望の存在あればこそ、この先の物語にも大いに期待が持てるのです。


『王の厨房 僕僕先生 零』(仁木英之 新潮文庫nex) Amazon
王の厨房 (新潮文庫nex)


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2016.07.18

西本雄治『やっとうの神と新米剣客』 人と神と剣と願いの物語

 文庫書き下ろし時代小説に新風を吹き込んできた招き猫文庫の、そのまた新風である時代小説新人賞・大賞受賞作品であります。タイトル通り、やっとう――剣術の神と、若き剣客という凸凹コンビが、思わぬ陰謀と戦いに挑む、ちょっと不思議な青春剣豪小説の快作です。

 廻国修行の旅を終え、久しぶりに江戸に帰ってきた青年剣士・瀬川俊一郎。偶然、小さな社を壊そうとする侍たちに出会い、これを懲らしめた俊一郎は、鈴と名乗る幼い少女にまとわりつかれることになります。
 実は彼女は社に祀られていたやっとうの神、社を護ってくれた礼に俊一郎に力を授けるというのですが……しかし剣は己の力で磨くものであって神頼みなど以ての外、というよりそもそも鈴が神様などと端から信じない彼はそれを拒んでしまいます。

 さて、鈴にまとわりつかれながらも実家の道場に帰った俊一郎ですが、その彼に父が課したのは、新たな道場主として、一ヶ月以内に弟子を見つけるという課題。剣術は一廉ながら、指導者としては全く経験ゼロの俊一郎は、なんだかんだで道場に居着いた鈴の存在も含め、悩み多き日々を送ることになります。

 そんな中、幼なじみの料亭の娘・いちから、男装の女剣士・稲元香純を紹介された俊一郎。思わぬ成り行きから、彼女が出場するはずだった老中の御前試合に参加することになった俊一郎は、そこで香純を妻に迎えようと目論む、奇妙な気配を持つ剣士・源太郎と立ち会うことになります。そして源太郎の背後には、思いもよらぬ存在が――


 そんなあらすじの本作は、キャラといい物語といい、新人の作品とは思えぬほどの完成度。何よりもまず、剣の腕は立つがそれ以外はまだまだ未熟な俊一郎と、(自称)長い年月を閲した神ながら人間界のことはさっぱりの鈴という主人公コンビが実に良いのです。

 コワモテカタブツの男と、無邪気で可愛らしい子供という組み合わせは、ある意味鉄板ではありますが、そこに「押しかけ神様もの」(神様や天使が、主人公の願いを叶えさせろと押しかけてくるパターンの物語)が加わるのだから面白くないわけがありません。
 勝手に食事を作ると息巻いて、できたものは……というのも定番ですが、この組み合わせで描かれると実に微笑ましく、可笑しいのです(しかもこの笑いが終盤で……!)

 そしてまた、そんな楽しさだけでなく、剣豪もの、バトルものとしても本作は上々の仕上がり。作中で幾度か描かれる剣戟シーンはどれも達者でありますし、終盤に展開する、剣術どころではない力を持つある存在との対決もまた、迫力十分であります。


 しかし本作の最大の魅力は、そうした要素を駆使しつつも、登場人物たちの心の奥に存在する、ある想いを丹念に描き出している点と感じます。それは「自分自身であること」「自分らしくありたいと願うこと」……それであります。

 祖父・父と代々剣客の家に生まれ、自分も当然剣の道に生きることを当然と考えて生きてきた俊一郎。しかし、今回課せられたのは、剣と密接に関わりつつも、自分が歩んできた、想像してきたものとは全く異なるものでした。
 さらに彼の前に立ち塞がる敵は、自分の剣では及びもつかぬような――それこ神の力を借りなければ敵わぬような相手。絶対負けられない戦いに勝つために、自分のモットーを捨てて神頼みをすることができるのか。それをした後も、自分は自分でいられるのか……

 そんな俊一郎の悩みは、一見オーバーで、いらぬ意地を張っているように見えるかもしれません。しかし、そんな彼のこの困難と悩みは、形と程度こそ違え、誰もが一度は経験するものとして感じられます。
 青いと言えばそのとおり。しかし、自分が自分であること、そうでありたいと願うことは、人として最も根源的な欲求ではないでしょうか。

 いえ、人だけではありません。神もまた自分でありたいと願い、それ故に苦しむ……それは一見突飛に見えるかもしれませんが、しかしそれが逆に、人知を超えた神に現実性を与え、さらに敵役にも敵役なりの存在感を与えているのには唸らされるばかりであります。


 ユニークな剣豪小説として、そして現代にまで通じる「人」の願いと成長を描く青春小説として見事な物語を見せてくれた本作。
 できるものであればその続編はぜひ読みたいところですし、これがほぼデビュー作である作者の今後の作品もまた、楽しみにしたいのです。


『やっとうの神と新米剣客』(西本雄治 白泉社招き猫文庫) Amazon
やっとうの神と新米剣客 (招き猫文庫)

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2016.07.17

輪渡颯介『夢の猫 古道具屋皆塵堂』 これで見納め!? オールスターキャストの猫騒動

 曰くつきの品物ばかり集まる古道具屋・皆塵堂を舞台に、故あってそこで働く羽目になった若者たちが怪異に翻弄される姿を描く、だいぶ怖くてちょっといい話シリーズも、いよいよ最終巻。少女の夢の中に現れた猫を巡り、今回はオールスターキャストで賑やかに展開します。

 父親を亡くし、天涯孤独の身の上となった少女・おきみ。残された借金を返すため、父が集めていた根付を売りに骨董屋を訪れる彼女ですが、その前夜に決まって、後ろ足の先だけ白い足袋を履いたような黒猫が店で暴れる夢を見るのでした。
 不思議なことに、翌日骨董屋に行ってみれば向こうの店主も同じ夢を見ており、根付も売れず……その繰り返しで、ついに己の身を売ることになったおきみのことを知った皆塵堂の主・伊平次は、いつもの面子を引き入れて、一計を案じることになります。

 という第一話から始まる本作は、これまでにも増して猫、猫、猫の一冊。本シリーズは、ほぼ一巻おきにタイトルに「猫」の字が入ることからわかるように、何かと猫に縁のある物語が多かったのですが、本作はおきみの夢に現れた足袋猫を探して、東奔西走することになります。……円九郎が。

 この円九郎は、前作『影憑き』の主役を務めた若者。大店の跡継ぎでありながらも遊びにうつつを抜かして勘当され、おまけに祟られて死にかけたというろくでなしであります。
 前作で修行代わりに皆塵堂に放り込まれ、祟りからは解放されたものの勘当は解けず、いまは隣の米屋で働かされている円九郎。しかし何かヤバげな事件があれば、呼び出されてこき使われるという身の上なのです。

 というわけで、今回も猫探し……と並行して曰くつきの品物の扱いを押し付けられた円九郎を中心に展開する今回。
 正直に申し上げれば、初の女性主人公としておきみメイン、と思っていただけにいささか拍子抜けの印象は否めませんが、それでももちろん、描かれる曰くつきの品物と、それにまつわる事件の数々は、今回も十分に面白怖いのです。

 夜になると蓋を押しのけて何かが現れる硯箱、子を殺され首を吊った娘にまつわる幽霊屋敷、ある男に取り憑いて執拗に苦しめる老人の霊……
 冷静に考えると滅茶苦茶怖いのですが、怖がらされる連中が妙な人間ばかりのため、なんだか可怪しい/可笑しいというシリーズのテイストは、今回も変わりません。


 そして何よりも今回の最大の魅力は、これまでの歴代主人公が次々と登場する、オールスターキャストという点でしょう。

 体質的に見えてしまう霊よりも猫が怖い太一郎。背負ったひたすら不幸な過去のためか異常に陰気な庄三郎。生真面目で有能ながら盗人の手引として皆塵堂にやってきた益治郎。太一郎の親友で熱血猫好きの脳筋魚屋・巳之助。祟りの家系に婿入りすることになりながら怪異を絶対信じない連助。そして円九郎――

 シリーズのレギュラーキャラである太一郎と巳之助だけでなく、これまで皆塵堂に流れ着き、そして巣立っていった面々に出会ってみれば、何とも懐かしい友達に出会ったような気分。シリーズ最終巻として、心憎いまでの趣向でありましょう。

 特に前々作の主人公でありつつも、前作では出番のなかった連助は、怪異を信じないというある意味反則的なキャラ付けに磨きがかかり、ビビリの円九郎とのコンビはもう絶品(しかも何やら珍妙な属性まで加わって……)
 それでいて、彼の気性が怪異を一転、ホロリとさせる場面もあって、今回一番の儲け役かもしれません。


 そんな楽しい本作ですが、その一方で、最後まで追いかけてきた夢の猫の正体がすっきりしないのは大きなマイナス点。先に触れたとおり、おきみの存在感が薄かったこともあって、その点には不満が残ります。

 いや、もちろん最大の不満は、これでシリーズ完結であること。こんなに恐ろしくも微笑ましく、シビアだけれども温かい世界がもう読めないとは!
 もちろん出会いがあれば別れあり、いつかは物語は終わらなければならないのですが……いつでも戻ってきていいのよ、というのは読者の側の言い草ではありませんが、それが正直な気持ちではあります。

(もっとも、これ以上猫が増えると、太一郎だけでなく読んでいるこちらも大変なことになりそうですが……)


『夢の猫 古道具屋皆塵堂』(輪渡颯介 講談社) Amazon
夢の猫 古道具屋 皆塵堂


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2016.07.16

『仮面の忍者赤影』 第30話「蟻怪獣ガバリ」

 宿場の信長に迫るガバリを辛うじて撃退し、京へ向かう一行。しかし赤影たちに反発する家臣・原田が蟻身眼兵衛の術に嵌まり、赤影たちは信長から引き離されてしまう。眼兵衛の指揮による銃撃で、信長を残し全滅する兵たち。己を取り戻した原田が身を挺して敵を全滅させるが、ガバリが再び迫る……

 前回ラストに続き、迫るガバリから単身信長を守ることとなった白影。両手から石灯籠も溶かしてしまう溶解液を噴出するガバリから、白影は薄い布団一丁で信長を庇います。布団が頑張ったおかげで赤影と青影は間に合いましたが、大ジャンプで頭に飛びついた赤影を振り落とし、仮面からの光線も大して効かず打つ手なしの状況に……
 が、その時降ってきた雨にガバリは苦しみだし、赤影の光線を再度喰らうと、尻から黄色いガスを出して、逃げていくのでした。

 旅を続ける一行ですが、経路等を差配する赤影たちに家臣たちは不満の態。この当時の忍者といえば武士よりも遙かに下の身分、特に信長の直参というプライドのある彼らには、赤影たちの下風に立つような状況は腹立たしいものなのかもしれません(信長はこの辺り全く気にしていないのが、らしいといえばらしい)。そしてその想いから、前回も登場して白影に絡んだ原田伝八郎は、朋輩の髭ありこと一角を連れ、偶然見かけた怪しい老人を追って隊列から離れてしまうのでした。

 そして老人を小屋に追い込んだかと思いきや誘い出されたのは伝八郎たちの方、老人の正体は根来第四の刺客・蟻身眼兵衛でした。二人を軽くあしらった眼兵衛、「人を殺すのはこうやるのだ」と嘯くと菅笠を飛ばして一角の目を潰し、次に伝八郎に迫るのでした。ややあって、自分を探しに来た白影の前に現れた伝八郎は、件の小屋に白影を誘い込むや銃を向けます。その脇には、無惨に人喰い蟻にたかられた一角の死骸が……
 一方、一角らしき人影を追った赤影は、点在する蟻塚を見つけますが、その陰から「アリ塚にアリ。おかしかったかな……」などと、空気を読まぬオヤジギャグを言いつつ眼兵衛と下忍が出現。追い詰められた赤影は、普段とはうって変わった冴えぬ動きで蟻塚の底に転落、人喰い蟻に襲われるのでした。

 さて白影の方は、伝八郎が銃を突きつけながらなかなか撃たないでいるうちに、異変を察知して後ろからこっそり忍び寄ってきた青影がこれを取り押さえて窮地を脱出。赤影たちに対する負の感情を利用され、自分が操られていたことに気付いた伝八郎は、青影と共に信長の元に急行します。一方白影は、蟻にたかられて苦しむ赤影を救出するのでした(映像では描写されませんでしたが)。

 しかしその間に、鉄砲を持った下忍たちを率いる眼兵衛が信長一行に一斉射撃、信長を残し供回りはほとんど全滅する結果に。そこに駆けつけた伝八郎は下忍を次々狙撃しますが、弾切れになり、弾を渡そうとした中間の兵助も、伝八郎が青影を庇っている間に一斉射撃で壮絶死を遂げるのでした。
 今度は自分が、という青影を制して自ら弾を取りに向かう伝八郎。しかし彼もまた、一斉射撃の餌食に――が、最後の力を振り絞って彼が投げた火薬袋は、下忍たち、そして眼兵衛ら全てを吹き飛ばすのでした(本当は火薬袋を投げただけでこうはならないでしょうが、まあここはこれでよし)。

 しかし断末魔の眼兵衛に呼ばれてガバリが地中から出現。駆けつけた赤影たちも、溶解液の連射に手も足も出ない状態……が、そこでガバリが雨に逃げ出したことを思い出した赤影は、地下水を掘り、それを手甲を即席ポンプに変えて放水! たちまち弱ったガバリは再び尻から煙を出すと逃げだし、追うまでもないという赤影の言葉通り、崖から転落して淵に沈むのでした。


 ストーリーといい描写といい、これまでになくハードな内容だった今回。確かにこの設定であれば、伝八郎のような想いを抱くものも現れるだろう……という説得力ある(また、がってんがってんしょーち! と妙な新モーションを見せる青影が絶妙にうざい)展開と怪忍獣の襲撃という両極端の物語が、絶妙に噛み合っていた、本作ならではのエピソードでした。


今回の怪忍者
蟻身眼兵衛

 ガバリを操る第四の刺客。人食い蟻を操り、鉄砲を得意とする嗜虐的な男。原田伝八郎の心の隙をついて操り、赤影たちを引き離した隙に信長の警護を全滅させるが、その伝八郎の捨て身の攻撃に爆死。死体は自らの蟻にたかられた。

今回の怪忍獣
ガバリ

 眼兵衛が操る巨大な白蟻怪獣。手から噴出する溶解液と、赤影の光線も効かない頑丈な肉体を武器とする。弱点は水で、放水を受けて混乱した末に、崖から転落、水中に消えた。


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2016.07.15

『戦国武将列伝』2016年8月号(後編) そして新たな世界、新たな時代へ

 『戦国武将列伝』誌掲載作品の紹介、これで正真正銘、最後の第三回であります。

『下剋嬢』(倉島圭)
 何とも感想の書きにくいショートギャグもここで一区切り。数々の戦国武将に近づき、その運命を狂わせた……というよりペースを乱してきたOL・ゆいが自ら命を絶った!?
 というフリから始まる今回は、最終回というある意味唯一無二の機会を存分に活かして、これまでにもまして危険球(と自打球)の連続という印象です。

 しかし、秀吉から家康まで登場して、戦国時代も終わりに来てしまった本作。掲載誌を変えて続くようですが、果たしてどうするのか……あ、戦国という縛りがなくなって、いよいよ餌食になる男たちに不自由しなくなるのですね(タイトルは変えなくてはですが)


『戦国自衛隊』(森秀樹&半村良)
 巨岩「海賊岩」の上に陣を築いた「戦国自衛隊」と、現代の武装を手中に収めた信長との決戦第二ラウンド……の前に、またも乱入者登場。
 命懸け、いや命崖を登って戦国自衛隊に奇襲を仕掛けてきたのは、この時代の日本にはいるはずのない巨躯と体力の持ち主。いや、信長の近くには一人おりました。海を越えて連れてこられた「彼」が――
(しかしトンボ・クンテという本名が、なんというか本作らしい)

 その「彼」に対し、差別は未来でもなくならないものの、しかしその気になれば大統領にもなれる、と熱く語ることで、その心を溶かす伊庭は、もう立派に一軍の将と呼んで構いますまい。
 そして冒頭のインパクトに食われた感もありますが、現代兵器による攻撃と地形を利用した反撃と、それぞれ現代人と戦国人の立場が入れ替わったかのような攻防を繰り広げる両軍。その結末は……まだまだ先になりそうです。


『孔雀王 戦国転生』(荻野真)
 上洛し、天下取りに一歩先んじたかと思われた信長の前に突如として立ちはだかった朝北陸の敵。黄金の魔力に狂い、奇怪なムカデ人間と化した浅井久政は倒したものの、なおも奇怪な黄金に操られた敵との戦いは続きます。

 というわけで今回は信長による朝倉攻めが描かれることとなりますが、行軍中、忽然と姿を消した信長に襲いかかるのが方位神、それも黄「金」の名を冠した存在という趣向は、初期の孔雀王を彷彿とさせるものがあって楽しめます。
 そして孔雀の前に信長の危機に駆けつけたのはなんと……というのも面白く、これもかつての孔雀王で、神に代わる者、神を殺す者として様々な勢力が孔雀王争奪戦を繰り広げていたことを思い出されるのも興味深いところであります。

 それにしても、休刊号とはいえ(もちろん移籍先は決まっているのですが)ほとんど通常営業だった本作、さすがというべきでしょうか……


『無常草紙』(しりあがり寿)
 敵国に攻められ命を落としながらも、魂は城に留まり、自らの国を見守り続けた領主。時の流れの果てに彼が見たものは……
 というわけで、掉尾を飾るのはやはりこの作品。毎回様々な趣向を凝らし、どこか不思議ですっとぼけた、そして時にほろ苦く、時に可笑しく、時に暖かい様々な物語を描いてきたショートコミックシリーズであります。

 死んだ後も地上に留まり、静かにこの世の行く末を見届ける男というのは、いかにも本作らしいキャラクターですが、その行き着く先には我々現代の人間が……というのは、作品全体の結末として、実に美しく、そして納得であります。
 無常であっても無情ではない世界を描き続けてきた本作らしい見事な最終回でした。


 というわけで、全作紹介させていただきましたが、これまで何年もの間、この雑誌でしか読めないような個性的でパワフルな作品を楽しませていただいてきただけに、やはり寂しさは否めません。
 休刊後の掲載作品の去就についてはこちらのとおりですが、移籍作品は移籍先での活躍を心からお祈り申し上げるとともに、終了作品はこれまで楽しませてくれて本当にありがとうございますと、心から申しあげる次第です。


『戦国武将列伝』2016年8月号(リイド社) Amazon
戦国武将列伝 2016年8月号 [雑誌] コミック乱ツインズ 戦国武将列伝


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2016.07.14

『戦国武将列伝』2016年8月号(中編) 様々に語られる「武将」たちの姿

 休刊を迎えることとなった『戦国武将列伝』誌、最後の8月号掲載の全作品紹介のその二であります。

『バイラリン 真田幸村伝』(かわのいちろう)
 後藤又兵衛も壮絶な最期を遂げ、大坂方で戦える者もあとわずか。その中で、己の生き様を、己の舞いを貫こうという幸村の、最後の輝きが描かれる最終回。

 本作の幸村の宿敵たる家康は、己を新たな神と呼び、それに相応しい異様な気配を漂わせる一種の怪物として描かれてきました。これに対するに、幸村は佐助らくちなわ衆をはじめとする残り少ない全ての力を集中、敵陣を一点突破せんとするのですが――

 ここで描かれるのは、あまりに有名な大坂夏の陣での真田の赤備えの突撃。それ自体はこれまで幾度となく描かれてきた題材ですが、しかしあたかも幸村を頭とした一匹の龍のような赤備えの姿は、作者の真骨頂ともいうべきスピーディーなアクション描写が冴えに冴え、これまでにない姿を見せてくれたと感じます。
(個人ではなく集団で、このようなアクション描写が見られるとは!)

 幸村の最期の舞いが神話とならんとした男を打ち砕き、そして自身は伝説として残るという結末も美しく、いささか終盤は駆け足の印象もあったものの、まずは最後まで描くべきを描いた……そんな印象があります。


『戦国機甲伝クニトリ』(あさりよしとお)
 今回描かれるのは信長や藤吉郎らによる「武将」談義。会話を中心に描かれるそれは、合戦に比べればいささか地味に見えなくもありませんが(といっても本作の合戦は重量感重視のためそこまで派手ではありませんが)、しかしその内容はなかなかに興味深い。

 本作における「武将」とは、戦闘用人型機械――いわば巨大ロボット。
 当然ながら史実には存在しないその存在は、作中の世界においては理屈抜きの、所与の存在であるかと思いましたが……しかし、いかにも作者らしいというべきか、今回はその「武将」の存在の意味、理由、そしてその存在を支えてきたモノを、一種理詰めで描き出します。

 ここで描き出されるのは、一種の架空技術史だけでなく、それを歴史と社会体制の中に再配置してみせる視点。さらにそこに、信長や藤吉郎、家康それぞれの想いが絡むことで、その後に彼らが歩む歴史が浮かび上がるのもまた面白い。

 正直に申し上げて、これまで本作がロボットものである必然性をほとんど感じなかったのですが、こういう仕掛けがあったとは、と今更ながらに感じ入った次第です。
 ……が、やはりもう少し早く描いて欲しかったな、とは思います。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 百地丹波により、その身に怨敵必殺の鬼の秘術を刻み込まれたくノ一・蓮華と、鬼切丸の少年の物語の後編であります。

 己が死した時、その身から鬼を生み出すという悍ましき秘術を背負った蓮華に対し、彼女を斬るのではなく、その生を見届けようとする少年。記憶を失った蓮華と、彼女に「髭丸」と呼ばれる少年は、二人寄り添って暮らすことになります。

 そこで少年の中に、初めて人間らしい恋慕の情が生まれるのも、それに少年が戸惑うのも、お約束と言えば言えるのですが、しかしこれまで少年が歩んできた長きに渡る生を思えば、その重みには粛然とさせられる同時に、少しでも二人の幸せが長く続くことを祈らざるをえないのですが……
 しかし、本作はそんな想いを、これでもかと言わんばかりに無残に打ち砕いていくのであります。

 「髭丸」から鬼切丸の少年に戻った少年の前で、鬼よりも残忍無惨な己の所業を悔いることもなく、平然と振る舞う信長の姿を通じて描き出されるのは、人でも鬼でもない、その両者の業を煮詰めたかのような「武将」の姿――
 これこそが、本作が戦国を舞台として描かれてきた意味であったか、と大いに唸らされた次第であります。連載は雑誌を移して続きますが、まずは見事な一区切りと言うべきではないでしょうか。


 次回でラストです。


『戦国武将列伝』2016年8月号(リイド社) Amazon
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2016.07.13

『戦国武将列伝』2016年8月号(前編) これで見納め、ラストの列伝

 二ヶ月に一度、とびきり新鮮で個性的な作品の数々で楽しませてくれた『戦国武将列伝』。それが全く突然のことながら、この8月号で休刊とのこと。あまりにも残念なことではありますが、しかし最後まで充実の一言だった同誌を笑顔で送るため、今回は掲載全作品を紹介することといたしましょう。

『セキガハラ』(長谷川哲也)
 驚天動地の関ヶ原の合戦を描いてきた本作もいよいよ最終回。前回、三成が、家康が、仲間たちが、総力を結集した末に全ての黒幕であった黒田如水は倒れたのですが……
 しかしその死の間際、黒ノ巣の塔の力を奪ったのは小早川秀秋。誰にでも姿を変えることのできる彼は、増幅されたその力で、誰もを自分の姿に変え、この世界全てを自分にしようと企んでいたのであります!

 史実で合戦の帰趨を決した裏切りを働いた秀秋。本作ではそのような動きを見せなかったのですが……最後の最後でまさかのセカイ系大暴走。全てが「僕」になった世界であれば、争いは起きないというのは道理かもしれませんが、しかしそれは、これでもかとばかりに個性的な面々が暴れまわった本作に貫かれた価値観――多様性とは対極に位置するものでありましょう。しかしあまりに強大な秀秋の前に、残るは三成とあの凡人のみ……

 個人的には(本当に無茶を言っているのは承知ですが)ラストは史実と帳尻を合わせて欲しかった、とは思いますが、しかし既に「別の時間線」という概念が出ている以上、それは野暮というものでしょう。最後の決着をつけたのは「彼」だったという趣向も楽しく、まずは大団円というほかありますまい。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 東北という世界では常識外れとも言うべき「小手森城の撫で斬り」で、強烈な存在感を残した政宗。父はもちろん、あれほど対立していた母までも、彼のことを新たな当主として認めるようになっていくのですが……

 と、今回はある意味谷間というべき静かな回ではありますが、この後に政宗と伊達家に何が待ち受けているかは、よくご存知のとおりでしょう。それを考えれば、この静けさが、全く別の意味を持って感じられるのですが……特に政宗と母との関係が変化しかけている描写があるだけに、これは本当にキツい。
 ここで休刊とは(雑誌を移して続くとはいえ)なかなか罪なことであります。


『紅娘の海』(叶精作&篁千夏)
 紅娘ら倭寇一党と島津との戦いも今回で一応の結末。島津義弘の三州統一の野望を阻まんとする義弘の伯母・御南の方と結んだ紅娘たちは、ある策を以って島津軍と対峙するものの(例によって)紅娘が敵に捕らわれ……

 というわけで、基本パターンは変わらぬものの、今回(そして前回も)異彩を放つのは、御南の方の存在。島津忠良の娘に生まれて大隅の肝付兼続に嫁ぎ、肝付の家を守るために密かに紅娘たちの陰の軍師として島津の敵に回るという複雑な立ち位置が何とも面白い。

 紅娘を通じて一貫して女の戦い、戦う女を描いてきた本作ですが――そしてそれが悪趣味なエロと直結していたためにこれまで採り上げる気が起きなかったのですが――こういう女の戦いもあるのか、と改めて感心した次第です。振り返ってみれば、歴史ものとしてもなかなかユニークな作品でありました。


『焔色のまんだら』(下元ちえ)
 狩野永徳亡き後、天下一の絵師の座を目前とした等伯。しかし彼の理解者であり後盾、そして盟友である千利休が秀吉に切腹を命じられ、大きな衝撃を受けることになります。
 ここで閉門状態の利休のもとに、なりふり構わず忍んでいくのが本作の直情径行の等伯らしいところですが、圧巻は等伯と利休、二人の対話と、それを受けての利休切腹の場面であることは間違いありません。

 悲しみ憤る等伯に対し、己が死に臨む理由と心境を静かに語る利休。その利休の姿に、「黒」――己が打ち込む水墨画の、全てを描き包み込む墨の黒を、等伯は感じ取ることになります。そして切腹の最中、利休が視たもの……それは、その墨で黒々と描き出された、等伯の巨大な龍の威容だったのであります。

 そう、ここで描かれるのは二人の偉大な文化人の魂の交流。そしてそれを描き出すに、本作がこれまでもそうであったように、等伯の画と漫画の画を巧みに組み合わせ、浮かび上がり、動き出す画の力を見せてくれるのが、何とも素晴らしいのです。
 本作の残る2話は、増刊に掲載とのこと。いささか変則的な形なのが何とも口惜しいのですが、しかし最後まで見届ける価値は間違いなくある作品です。


 次回に続きます。


『戦国武将列伝』2016年8月号(リイド社) Amazon
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2016.07.12

小松エメル『鬼の福招き 一鬼夜行』 鬼と鬼との力が招いた希望

 鬼のような面で恐れられる古道具屋店主と、大妖怪を自称しながら見かけは可愛らしい鬼という凸凹コンビが活躍する明治妖怪人情譚『一鬼夜行』、待望の第二部スタートであります。ほんの少しだけ趣を変えて、しかしシリーズの魅力と根幹は全く変わることなく、新たな騒動が始まります。

 百鬼夜行からはぐれて地上に落ちてきた見かけは可愛い子供の猫又鬼・小春と、古道具屋「荻の屋」の店主で妖怪もビビる閻魔顔の青年・喜蔵。
 心ならずも共同生活を送り、様々な妖怪騒動に巻き込まれるうちに、強い絆を築いていった二人ですが、小春の宿敵・猫又の長者との死闘の末、小春は勝ちはしたものの、妖怪としての力をほとんど失うことに――

 という、実に気になる形で結末を迎えた第一部。その後、小春の過去編を経て、本作において第二部がスタートしたのですが……もちろん気になるのは、小春の去就です。
 見かけや普段の人懐っこさとは裏腹に、大妖怪としての自負を持つ小春。その小春にとって全てである妖怪としての力が失われてしまったら、彼はどうなってしまうのか……と。

 が、開幕早々、それが取り越し苦労であったことがわかります。明るく脳天気で図々しく、大飯食らいで怠け者……ここにいるのは、今までと変わらぬ小春なのですから。
 が、そんな小春に喜蔵は容赦なくツッコミを入れるのですが――売り言葉に買い言葉、小春が新しい稼業として「妖怪相談処」を(萩の屋の中に勝手に)開業したことにより、新たな事件に二人は巻き込まれるのです。

 次から次へと舞い込む妖怪騒動をなんとか解決していく二人に、新たに舞い込んだ意外な依頼。それは千束の鷲神社――酉の市で知られる由緒正しき神社の神様にまつわるとんでもない内容のものでした。
 さすがに二人が手を焼く中、喜蔵は一つの疑問を抱きます。それは――


 短編連作的に、次々持ち込まれる妖怪騒動に二人が挑んでいくという、シリーズ第一作を思わせるスタイルで展開する本作。しかしもちろん第一作と異なるのは、これまでの積み重ねがあることであります。
 小春と喜蔵、深雪に彦次に綾子、付喪神たちetc.……次から次へと萩の屋に現れる面々は、これまでの物語を振り返りつつ、小春と喜蔵が歩んできた道を、そしてその中で得てきたものたちのことを、教えてくれるのです。

 そして、そんな彼らが巻き込まれる事件もまた、これまでと全く異なる新たなものであると同時に、これまで物語で描かれてきたものと重なるものでもあります。
 それは「共に在るということ」「共に在りたいと願うこと」――一人ではなく、他者と一緒にいたいという想いなのです。

 それは、人間にとっては――いや人間だけでなく、妖怪や人ならざる者たちにとっても――ある意味本能的な想いでしょう。それがこれまで、人間と妖怪にまつわる様々な事件を起こしてきたことは、シリーズの読者であれば、よくご存知でしょう。
 今回の事件の根源にもそれが、それもこれまで以上に痛切な形で存在します。そしてその過去の物語は、それが我々の世界でも実際にあり得ることだけに、実に重くやるせなく、悲しく恐ろしいものとして胸に刺さります。

 ある意味それは、実に本シリーズらしいというか作者らしい内容かもしれません……しかし同時に本作は、本シリーズは、それでも世界に存在するのが悲しみだけではないと、出会いが生むのは別れだけではないと力強く語りかけます。

 思い通りに共に在ることができるわけでもない。残酷な別れに傷ついた心は歪み果てるかもしれない。それでも、それでも他者との出会いは、少しずつ世界を変え、それが幾重にも重なることにより、やがては善き奇蹟を起こす……かもしれない。
 それが決してゆめまぼろしでないことを、我々は小春と喜蔵の姿を通じて、これまでも何度も見てきました。

 そしてそんな積み重ねの先にある本作で描かれるのは、これまでで最高の幸福感溢れる結末。鬼の力をなくした妖怪と、鬼のような面の人間が、それぞれに出来ることを尽くした末に待つものは、その奇蹟が確かに存在することを、我々に教えてくれるのです。
 そしてもう一つ、たとえ力があろうがなかろうが、小春は小春。そして小春に力があろうがなかろうが、喜蔵は喜蔵なのだと……


 こうして第二部として最高のスタートを切った本作。今回からイラストを担当する漫画版の作画者・森川侑の画も見事にマッチして(漫画版とは一部異なるキャラデザインも楽しい)、この先の展開に待つものは、ただ希望と期待のみ、なのであります。


『鬼の福招き 一鬼夜行』(小松エメル ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
(P[こ]3-9)一鬼夜行 鬼の福招き (ポプラ文庫ピュアフル)


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2016.07.11

『真田幸村と十勇士 ひみつの大冒険編』 「いろいろな角度から考える」ことの楽しみ

 「物語」の面白さを存分に味あわせてくれた奥山景布子の児童向け小説『真田幸村と十勇士』が帰ってきました。前作は十勇士の集結と、彼らが幸村の下で活躍し、やがて散っていく様を描いた、いわば「通史」でしたが、本作は彼ら一人一人の活躍を振り返る、「列伝」スタイルの一冊であります。

 前作ラストで、佐助ら幾人かの十勇士の生き残り、そして豊臣秀頼と大坂城を脱出し、薩摩に向かった幸村。
 本作は、彼ら生きていた幸村と十勇士の活躍を描く物語……ではなくて、彼らが薩摩に向かう船中で、十勇士一人一人の活躍を振り返るというスタイルで語られる、全九話(三好清海と三好伊佐の兄弟は二人で一話)から構成される連作集であります。

 信長供養の法会の前に、賤ヶ岳の七本槍と対決することとなった佐助たち七勇士の活躍。
 手のつけられない暴れ者だった三好兄弟が、僧となり、次いで幸村の家臣となるまでと、その壮烈な最期。
 海戦最強の九鬼水軍からも一目置かれていた根津甚八の幸村との出会いと意外な因縁。
 父の後妻により妹を、父を失い、父の秘伝を奪われた筧十蔵の女への敵討ち。
 幸村蟄居中に諸国を探るために旅立ち、御前試合の末に片倉小十郎の家臣となった由利鎌之助の迷い。
 幸村蟄居中に医者に弟子入りした穴山小助と、父を不幸な事件で失った少年との交流。
 加藤清正が遺した朝鮮伝来の秘密兵器の製法を巡り、望月六郎と仲間たちが挑む謎解き。
 浅井家の侍大将の遺児であった霧隠才蔵の生い立ちと、忍者となるまでの物語。
 仲間たちからは堅物と見られる海野六郎が、かつて出雲阿国と交わした想い。

 ……と、全九話、謎解きあり、ロマンスあり敵討ちありと、実に盛りだくさん。史実を背景にしているエピソードも少なくありませんが、そこから離れて物語を膨らませたものも多く、前作以上に自由闊達な空気を感じさせる内容となっています。
 そもそも本作のベースは「真田三代記」と立川文庫の真田もの、つまりは講談。その「物語」としてのプリミティブな楽しさを、本作は巧みに再構築してみせているのです。

 そしてその中には、作者ならではの味わいが、サラリと、ピリリと効かせてあるのも嬉しい。全九話構成ということで、一話一話の分量は短いのですが、その中で随所に「おっ」と唸らされる部分が隠されているのです。

 例えば由利鎌之助のエピソード、片倉家に潜入した自分の正体が小十郎に露見し、刃を向けられた鎌之助の胸中に過ぎった人物の顔は、主君たる幸村ともう一人誰であったか。
 例えば筧十蔵のエピソード、驚くべき正体を見せた妖女を見事に討った十蔵に対し、幸村が弔うよう申し付けた人物は誰であったか。

 シンプルな物語の中に差し挟まれたこれらの描写は、分量的にはごくわずかながら、それがあるだけで物語が、そこに登場する人物の想いがグッと深まることになります。
 この辺りのフックの効かせ方は見事の一言……これまで数多くの歴史小説を、史実の羅列に留まらぬ人の息吹を感じさせる作者ならではのものと言うほかありません。


 「真田信繁」の史実を踏まえつつも、あえてそこから離れ、「真田幸村」と十勇士の物語として、自由に空想を遊ばせてみせた前作。
 本作はそのスタイルを踏まえつつ、さらに物語の楽しさを――上で述べたように作者一流の描写でもって――追求してみせたという印象があります。

 そんな本作のスタンス……いや、史実と物語のスタンスについて、作者があとがきで語る部分を引用させていただきます。
「読書をしたり、何かを調べたり、つまり、知的好奇心を持って日々を送ることは、とても楽しいことです。そして、「歴史」も「物語」も、どちらもその楽しみには欠かせません。
 「面白い」と思ったお話の、どこはフィクションで、どこは史実として確かめられるのか、なぜ史実とちがうことがお話となったのか。作られたフィクションの背景には、どんな事情があるのか。
 一つのストーリー、一人の人物について、そんな「いろいろな角度から考える」読書は、みなさんのこれからを、きっととても豊かにすると思います。」

 色々な角度から考えることの楽しさ……! 私がこれまで様々な物語を、史実に魅力を感じ、追いかけてきた理由を、これほど的確に表現した言葉はありませんでした。
 そのような想いに貫かれた作品だからこそ、本作は子供だけでなく、私のような大人が読んでもなお、魅力的であり、かつ得るものがあると感じられるのです。

 物語と史実の楽しさだけでなく、その両者との接し方まで教えてくれる……このような本は、なかなかあるものではありません。


『真田幸村と十勇士 ひみつの大冒険編』(奥山景布子 集英社みらい文庫) Amazon
真田幸村と十勇士 ひみつの大冒険編 (集英社みらい文庫)


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2016.07.10

高橋克彦『完四郎広目手控 文明怪化』 安楽椅子探偵による「真実」の再吟味

 江戸の広告代理店・広目屋で活躍する刀を持たぬ侍・香冶完四郎の活躍を描く連作シリーズも、第四作の本作において大きくその趣きを変えることになります。何しろ舞台となるのは明治七年、文明開化の時代。全てが大きく変わる中、果たして完四郎は如何に活躍するのでありましょうか。

 前作『いじん幽霊』のラストで、日本を飛び出し、欧米に向かうことが仄めかされた完四郎。その通りに完四郎が日本を離れている間に幕府が倒れて新政府が樹立され、日本は全く異なる姿を見せることになります。
 それは完四郎のかつての仲間たちも同じこと――藤岡屋由蔵は隠居し仮名垣魯文は売れっ子作家の仲間入り。彼らと組んでいた浮世絵師の歌川芳幾も、自ら社主を務める東京日日新聞で新聞錦絵を発表と、以前とは大きく変わった生活を送っていたのであります。

 既に瓦版は新聞へと姿を変え、そして浮世絵も新聞錦絵という新たなメディアとして世情を描き出す時代に帰ってきた完四郎。彼はは、今度は東京日日新聞の居候という身分に収まり、再び魯文を相棒に、市井を騒がす謎解きに挑むことになります。

 これだけでは、舞台が幕末から明治に移っただけのように見えるかもしれません。しかし本作は、これまでとは似て非なる趣向が施されております。
 それは、収録されているエピソードのほとんどで、完四郎が安楽椅子探偵として活動すること。それも、東京日日新聞の新聞錦絵を見て、そこに描かれているものの裏の事情を、隠された真実を推理するのであります。

 ……ここで念頭に置くべきは、この新聞錦絵が、実際に新聞紙上に掲載されたものであることでしょう(ちなみに作者は『新聞錦絵の世界』という研究書を発表しております)。
 すなわち、そこで描かれているのは実際にあった(とされている)事件であり、そこに描かれているものの裏を推理するということは、実際に「真実」を再吟味しているということと同義なのですから。

 これまでも時代ものとして、ミステリとして、作者ならではの趣向を凝らしてきたシリーズですが、本作はこれまででも最も野心的な試みであり、そしてそれは間違いなく成功していると感じます。

 特に印象に残ったのは、第六話『ニッポン通信』。前作から登場している欧州娘のジェシカが、タイムズ誌の特派員として送る記事の題材となる新聞錦絵を探すうちに……という趣向のエピソードで描かれるのは、赤子に乳をやりにくる母の亡霊の新聞錦絵です。
 しかし元記事は、妙に具体的な場所や背景をぼかした上に、「文明開化の世の中にこのような事件があるわけがない」と断じる始末。他の記事では化物の出没を面白可笑しく書いていた同じ記者が、何故このような記事を書いたかが、大きな謎となるのです。

 その「真実」をここで述べるような野暮はいたしませんが、幕末の動乱がわずか数年前であったこの時代と、そこで翻弄された男の心を切り取ったものとして、見事と言うほかない内容。そしてその記者こそが、後に魯文と並び称される三代柳亭種彦こと高畠藍泉というのも、またたまらない趣向であります。

 また、もう一話印象に残ったものを挙げるとすれば、それとは全く別のベクトルの『死人薬』。薬とするために、埋葬されたばかりの死人の墓を掘り起こしたという事件の続発に不自然なものを感じ取った完四郎が見抜いたのは……
 という本作、事件の背後に潜むある人物の動機にも驚かされるのですが、ラスト1ページで描かれる、さらにその背後に存在したものの姿には、もう心底震え上がらされたというのが正直なところ。時代もの、ミステリと並ぶ作者のもう一つの得意ジャンルを、今更ながらに思い起こさせられた次第です。


 そして様々に趣向を凝らしてきた本作の掉尾を飾るのは新聞紙条例に揺れる新聞を描く『幻燈国家』。
 官吏のことを噂話程度でも書けなくなった状況下で、それでも「真実」を描くため、敢えて曖昧模糊とした「虚構」を記事とする者たちを描くこのエピソードは、新聞というメディア、明治という時代、そして「真実」を武器とする広目屋という稼業が絡みあった本作ならではの作品でありましょう。

 そしてここで完四郎が見出すのは、上辺だけ近代めかしたの幻燈のような国の腐った部分を切り出す新聞という存在への希望なのですが……
 政府との関係を問われて、「一銭も貰ってはいない。新聞に関わる人間の心得だ」という彼の言葉も含めて、今という時代においては痛烈な皮肉に見えてしまうのをなんと評すべきでしょうか。彼のある意味純粋な心が、この先も変わらず貫かれるのか、気になるところではあります。

『完四郎広目手控 文明怪化』(高橋克彦 集英社文庫) Amazon
完四郎広目手控4 文明怪化 (集英社文庫)


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2016.07.09

辻真先『未来S高校航時部レポート 新撰組EZOで戦う!』 これで見納め? 反則級の大騒動!

 つい先頃もコンレボで健在ぶりをアピールした辻真先の学園青春SF時代ノベルの完結編が刊行されました。これまで時空を股にかけて大活躍してきた未来S高校航時部の面々もついに卒業、最後の舞台は幕末。動乱と混沌の時代で、驚くべき冒険が繰り広げられることとなります。

 時は二十二世紀、故あってタイムマシンを託され、航時部を結成した五人の高校生と一人の教師――(元)男装の美少女・黎、歴史マニアの男の娘・真琴、お調子者の超能力坊主・越人、クールな古武術の達人・凜音、クールな天才少年・学、そして美女だけど色々残念な蓮橘先生。
 これまで享保年間の江戸、そして大坂の陣まっただ中の大坂城と、二度にわたりタイムトラベルし、歴史改変を目論むタイムテロリストの陰謀を退けてきた航時部ですが、元々は彼らも高校生、それぞれに進路を決めて卒業間近となりました。

 そんな彼らに命じられたのは、お偉いさんの娘だという美少女・アザミを伴っての、新撰組が活躍する幕末の京へのタイムトラベル。しかし学と蓮橘を残し、アザミと他の部員たちは忽然とタイムリーパーから消失してしまうのでした。
 彼女たちが出現したのは、目的の時代よりも数年先、新撰組の生き残りたちが死闘を繰り広げる宮古湾海戦――旧幕府軍と新政府軍の戦いのただ中だったのです。

 急ぎ当時のタイムパトロールである勝海舟の助力を求めた学と蓮橘ですが、しかし知らされたのは、黎たちが出現したのは、実はこの世界の過去ではなかったという事実。
 そう、彼女たちが飛んだ先は、いわゆるパラレルワールド――そこでは永倉、原田らが土方歳三と行動を共にして戦い続ける世界、そして土方がタイムパトロールを務める世界だったのであります!


 というわけで、前作では歴史改変ギリギリの展開という、タイムトラベルものとしては危険球だったのですが、今回は初めから別の世界だから歴史が変わっていてもOK! という潔い(?)展開。
 しかしこの世界でもタイムテロリストの跳梁は続き(さりげなくとんでもない人物が……)、今回も航時部の面々と、タイムパトロール――すなわち土方は、どこからどんな手段で襲い来るかわからない敵に挑むことになります。

 そしてそんな中で主役級の活躍をみせるのは、もちろん土方。なぜ彼がタイムパトロールに、というのは置いておくとして(ちゃんと語られます)、今回語られる、タイムパトロールの――タイムパトロールだからこその――ある非情な宿命を背負って戦う姿は、なるほど彼なればこそでしょう。

 そして土方といえばもちろん剣ですが、そのアクションがまた燃える! こんな技アリか? いや、彼ならばOK、と言いたくなってしまう本作ならではの「秘剣」は、そのアクションとの絡め方の巧みさも相まって、本作の見どころの一つであります。

 さらにまた、そんな土方が胸中に抱える屈託――ある人物の死にまつわる謎解きも、あっさり目ではありますが、しかしその真相の切なさも相まって、強く印象に残るのです。


 後半にはまたも時代を移しての戦いが展開、ちょっと意外な(?)キャラクターが、相当に意外な歴史上の人物と出会って活躍するなど、盛りだくさんの内容なのですが……しかし完成度という点では、ちょっと、いや相当苦しいという印象があります。

 最終作なのに航時部員の出番・活躍に大きなムラがある――実は学と蓮橘がほとんど活躍していない――というのはさておき、本作のキーパーソンである謎の美少女・アザミ――ほとんど反則に近い彼女が、後半に行くにつれて存在感を失っていく、というよりなぜ存在しているのかわからなくなっていくというのはかなりの問題。

 ある意味彼女の存在が本作を支配することを思えば、その彼女が迷走していくにつれ、物語が(こういう表現は使いたくはないのですが)破綻していくのは、必然なのかもしれません。
 その先に待っている結末も、もう反則中の反則で、最終作だからといってアリなのかしら……という想いは否めません。

 もっとも、その一方で、もう最後だから全部やってしまえ! とばかりにつめ込まれたラストの展開の野放図さ(カタストロフの快感?)は、これはこれで全くもって本シリーズらしい、と納得できてしまうのも事実。
 やはり上で述べた不満も全て、作者の掌の上で踊らされているだけなのかしらん、とも思わされてしまうのは、やはりこの作者ならではのマジックなのかもしれません。


『未来S高校航時部レポート 新撰組EZOで戦う!』(辻真先 講談社ノベルス) Amazon
未来S高校航時部レポート 新撰組EZOで戦う! (講談社ノベルス)


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2016.07.08

『仮面の忍者赤影』 第29話「忍法山彦変化」

 奇怪な笛の音とともに信長を弓で狙撃せんとする山彦多門丸。赤影たちにより阻まれた多門丸は、信長が泊まる宿の女中・絹を脅して、井戸に眠り薬を投げ込ませる。絹を口封じしようとした多門丸を阻んだ赤影と青影は、苦戦しながらも多門丸を撃破。しかしその頃、宿には怪忍獣ガバリが迫っていた……

 なおも京を目指す信長一行の前に響く怪しの笛の音。訝しむ信長を密かに狙うのは、根来第三の刺客・山彦多門丸であります。背中に背負った矢の束からも明らかなように、彼の得物は弓矢、第一矢は信長をかすめ、続く第二矢は……と思えば、矢がない!?
 驚き逃げる多門丸を追う白影と青影は、槍と鎖の連携であっさりとこれを捕らえた……と思いきや、二人が得意になっている間に脱出。しかし逃げる多門丸の前に、消えた彼自身の矢が――

 先ほど彼の矢が突然消えたのは、赤影の仕業だったのでありましょう(「自分の技に溺れ、墓穴(はかあな)を堀ったようだ」と微妙に違和感のある勝ち誇り方をする赤影)。しかし袂から寸詰まりの尺八のような竹笛を取り出した多門丸は、大地を揺るがし、頭上の崖から岩を転がり落とす忍法山彦返しで三人をたじろがせて逃れるのでした。

 さて、赤影と青影は多門丸を追う一方で、一人宿の信長を守ることとなった白影。そんな彼を、信長の旗本たちは忍者風情が、と苦々しく見ているのですが、それはさておき、ここで登場するのは宿の若い女中・絹。彼女が働いているところに、父が病で苦しんでいると伝えに来た妹・糸に対し、金は何とかすると明るく答えた絹ですが、しかしその直後の暗い眼差しが全てを物語ります。
 と、その彼女の目の前に落ちてきた何枚もの小判。初め驚き、次いで急いで拾い集め、周囲を窺いながら懐に収めようとするのが、厭になるほどリアルなのですが、その彼女に声をかけたのは多門丸でありました。その金をやるから井戸に薬を入れろ、断れば殺す、と嘲笑いながら脅す多門丸に屈した絹は、白影の目を盗み、薬を井戸に入れることに……

 罪の意識と恐ろしさから、妹を連れ逃げるように宿を飛び出した絹ですが、その前に現れた多門丸は、やはりと言うべきか、口封じに彼女を殺そうと矢を向けます。いたぶるように彼女に迫ったところで、上から落ちかかる大量の縄。以前は歌舞伎の蜘蛛の糸のような材質でしたが今回は縄を使った、赤影の忍法乱れ髪であります(にしてもここで糸に「あっ赤影さんだ!」と叫ばれてしまうのは、忍者としていかがなものか)。
 しかしこれを難なく抜け出した多門丸を追った赤影と青影は、森の中で多門丸と対峙いたします。ここで突如石像に化けた(忍法石仏?)多門丸に翻弄された上、下忍たちが放つ無数の矢を受けて青影が足に負傷。何とかその場を逃れた二人ですが、なおも多門丸が襲いかかります。

 下忍を蹴散らし、多門丸と対峙する赤影。至近距離から放たれる矢を両断する赤影ですが、ここで多門丸の山彦返しが暴風を起こし、周囲の樹がドサドサと倒されていく! 隠れていた小屋の陰から青影が「アーアアー!」と叫んで注意を惹こうとするも焼け石に水。意識朦朧とした赤影にとどめを刺そうと近づく多門丸ですが――ここで赤影が気配のみで背後に刃を振るい、多門丸を斬るのでした。

 しかし瀕死の状態で、何者かに呼びかける多門丸。「眼兵衛、ガバリを呼ぶのじゃ……」という言葉に、赤影はハッとするのですが、時既に遅し。
 その時宿場に残っているのは白影ただ一人、後の者は信長を含め皆眠り薬で昏々と眠っていたのですが――その白影の耳に、怪しげなうなり声のようなものが届きます。表に飛び出した白影の前に現れたのは、先端が輝く二本の柱? いやこれは巨大な蟻の怪獣・ガバリの触覚。目を爛々と輝かせるガバリには、白影の攻撃も通じず……次回に続きます。


 前々回と同じく、怪忍獣を持たない忍者が登場、様々な策で信長を襲うも、それ自体が陽動でラストには怪忍獣が……というエピソード。しかし多門丸の悪辣なキャラクターがなかなか面白く、全く印象は前々回とは異なります。
 それにしてもこの後(まだ決着は持ち越しですが)、絹は厳しく罰せられないかしら……と少々心配になります。


今回の怪忍者
山彦多門丸
 弓矢を得意とする根来第三の刺客。竹笛を吹くことにより天変地異を起こす忍法山彦返しの遣い手。信長狙撃を失敗した後、宿の女中を脅して眠り薬で信長一行を眠らせた末、彼女を口封じに殺そうとする悪辣な男だが、赤影に一瞬の隙を突かれて斬られる。


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2016.07.07

森谷明子『深山に棲む声』 真実と虚構、現実と物語の狭間に

 『千年の黙』でデビューし、数々の歴史ミステリーをはじめとする作品を発表してきた名手・森谷明子が、平安時代から中世の日本を思わせる世界を舞台に描く、極めてユニークな歴史ファンタジーであります。立ち入ることを禁じられた深山を舞台とした、幾つもの昔話が交錯した末に浮かび上がるのは……

 神の山とも呪われた山とも呼ばれ、禁忌の地として畏怖とともに語られる「深山」。本作は、その地を囲む東西南北の国にまつわる四つの昔話が、まず描かれることとなります。

 初めに語られるのは、祭りに使う花を探すうちに深山に迷い込んだ少年・イヒカの物語『朱の鏡』であります。
 深山でババと呼ばれる妖しげな女と出会い、彼女に己の意思を奪われたかのように、山で日々を重ねるイヒカ。しかしある日、ババに幽閉されているという一人の美少年と出会ったイヒカは、少年が大事にしてきた鏡を託されます。山から脱出しようとするイヒカは、追手に対し、鏡が持つという不思議な力を用いるのですが……

 ババという名から連想されるように、山姥が登場する「三枚のおふだ」、あるいはロシアのバーバ・ヤーガの伝説を思わせる内容が、しかしそれとは微妙に異なる形で展開していくこの物語。
 切ない余韻を漂わせつつも、若干の違和感と語られざるものの存在を感じさせながら物語は終わりを告げることとなります。

 次いで描かれるのは、とある山中の集落を束ねる老婆と、その集落を訪れた男がそれぞれ語る三つの物語。

 母のために青い実を求めて深山に入り、深手を負った女を助けたことからその運命を大きく変える少年・オシヲの物語『青い衣』。
 年越しの晩、富裕な家の娘・タクシの家に旅芸人の男と子供、臨月の女とその夫が集った際に起きた小さな事件を描く『白い針』。
 父を救うために奇鳥を求める北の領主の息子・カシイと、彼の故国の兵に攫われた豊かなセイの国の商人の娘・フツ、そして山育ちの娘・イオエや謎めいた山の少年・トマらの運命が複雑に交錯していく『黒の森』……


 次々と語られていく昔話は、しかし、物語が重なっていくに連れて、我々読者の中に、ある種の疑念を浮かばせることになります。
 深山という地を中心に据えているほかは、それぞれが独立した、関係のない物語のように見える四つの昔話。しかし実はその物語は、実は根底で繋がっているのではないか。巨大な一つの物語の、それぞれ一部分が語られているだけではないか……と。

 そして四つの昔話に続く物語において、その疑念に対する答えが、驚くべき形で描かれることになるのです。

 そう、四つの昔話の背後に存在するある真実――過去から現在に連綿と存在する者たちの存在を、本作はその終盤において明らかにすることになります。
 そしてさらにそこから踏み込んで、何故、その真実が物語の中に埋め込まれていたのか……それすらもまた。

 ここに至り、ファンタジーは鮮やかにミステリへと姿を変えてその姿を露わにするのであり――この鮮やかな転回は、優れたミステリのみが持つ興奮と驚きを、味あわせてくれるのです。
(そしてこの、虚構と真実の絡みあった構図は、冒頭に述べた作者のデビュー作『千年の黙』と共通するものでもあります)


 しかし本作は、そこに留まるものではありません。本作は、そこからさらにもう一段踏み込んだものを描き出すことになるのです……真実と虚構、現実と物語の狭間に埋もれた、人の想い、真情を。

 物語の中で果たされずに終わった約束。それは閉じた物語の中では、物悲しい結末として終わったものですが――しかし、現実は一つの物語が終わった後も、なおも続くことになります。そこに生きる人の想いもまた。
 本作のラストが描くのは、そんな人の想いが、物語という虚構を超えて、その枠組みを貫いて、ついに果たされる姿であります。

 それは、本作で描かれた虚構と真実の姿をさらにもう一度転回させてみせたものであり――虚構に翻弄された末に描き出されるものは、ある種の希望とすら、感じられるものです。
(その一方で、新たな物語が生まれたことを、本作のラストは語るのですが……)

 物語も現実も、畢竟作り出すのは人間……そんな当たり前の、しかしどこまでも重く尊い「真実」を、本作は描き出すのです。


『深山に棲む声』(森谷明子 双葉文庫) Amazon
深山に棲む声 (双葉文庫)


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2016.07.06

柴田錬三郎『真田十勇士 一 運命の星が生れた』 幻の大伝奇ノベライズ復活!

 これまで何度も採り上げてきたとおり、今年は『真田丸』効果で真田ものの書籍が大豊作。そんな中で、思いもよらぬ作品が復活しました。1975年から77年までNHKで放送された人形劇『真田十勇士』――その人形劇の、原作者・柴田錬三郎によるノベライゼーションであります。

 『新八犬伝』に続き、辻村ジュサブローの人形で人気を博しながらも、現在数本分しか映像が残されていない『真田十勇士』。そのため、現在では映像としてはその全容を窺うべくもない幻の作品となっているのですが……
 しかし放送と並行して、全5巻(予告では全6巻だったため、未完と誤解されることもありますが、第5巻で完結)で刊行されたのが、このノベライゼーションであります。

 今回の文庫化は、その全5巻を全3巻に再編集したものとのこと。これまで本作は復刊されることなく、(映像だけでなく)こちらまで幻の作品となっていたところに、誠にありがたい復刊と言うほかありません。

 さて、柴錬で真田十勇士、猿飛佐助と言えば、ファンであれば真っ先に浮かぶのは連作シリーズ『柴錬立川文庫』でありましょう。人形劇『真田十勇士』(以下、「柴錬十勇士
」と呼びます)は、その映像化というわけではありませんが、柴錬立川文庫の基本設定を数多く使った作品であります。
 しかし柴錬十勇士の真骨頂は、柴錬立川文庫だけに留まらず、他の数多くの柴錬作品から、その題材を得ているのであります。

 ……と、その前に、この第1巻に登場する、十勇士のうち九人を紹介しておきましょう。

猿飛佐助…武田勝頼の遺児の伊賀忍者
霧隠才蔵(キリー・サイゾ)…山田長政が暹羅から送り込んだ英国人剣士
三好清海…石川五右衛門の遺児の美青年
高野小天狗…異国から来た忍者・からす党の当代の頭
由利鎌之助…元・宇喜多家の寡黙な鎖鎌使い
筧十蔵(劉十天)…二刀流と妖術を操る明国の少年
呉羽自然坊…豪快、力自慢の今弁慶
穴山小助…若狭に潜む風盗族の頭
為三…貧相な小男だが名うての盗賊

 通常の十勇士とは異なる顔ぶれも含まれておりますが、いやはやこれでもかと言わんばかりの伝奇色濃厚なメンバーであります。そいや、柴錬ファンであれば、えっ!? と思う人間が含まれているではありませんか。

 そう、十勇士の一人・高野小天狗の設定は、連作『忍者からす』の中心となる忍一族「鴉」から。そして穴山小助が属する風盗族は、『赤い影法師』の冒頭で服部半蔵と凄腕の忍「影」ら木曽谷一党に滅ぼされた一族から来ているのですから。

 それだけではありません。本作のヒロインの一人・夢影は、その名が示すとおり、その『赤い影法師』の母影に当たる人物ですし、由利鎌之助が佐助とともに探すのは、宇喜多の遺臣・黒井大膳亮が隠した大量の遺金とくれば、これは『木乃伊館』――
 いやはや、柴錬作品の夢のクロスオーバーというほかない内容ではありませんか!
(まあ、『忍者からす』も柴錬立川文庫の一編ではありますが)

 実際のところ、これだけのメンバー、これだけの題材が揃うと、ほとんど10ページに一度に衝撃の事実が飛び出すという展開で、相当に慌ただしいのですが、それはもう本作ならではの持ち味。
 どこを切っても伝奇100%、いや1000%と言いたくなるような、凄まじい作品なのであります。


 もっとも、今の目で見ると、いささか苦しい点も少なくないのは事実。元が全年齢向けの人形劇ということもあってか、柴錬作品特有のエッジの効いた設定や描写はかなりマイルドになっておりますし、また、妖術に頼った荒唐無稽な場面も少なくありません。
 この辺りは、普段の柴錬作品に慣れている方、期待している方にとっては、些か違和感を感じられる部分かもしれませんが……
(もっとも、そんな作品だからこそ、例えば夢影の初登場シーンなど、問答無用のケレン味に満ちていて実に良いのですが)

 しかし(「柴錬」抜きの)立川文庫がそうであったように、理屈抜きの野放図さがあるからこそ、生まれる楽しさが、魅力があります。そしてその楽しさは、発表から約40年経った今でも、変わるものではありますまい。
 残すところあと二巻、私ももう一度、この楽しさを、ただ無心に味わいたいと思います。


『真田十勇士 一 運命の星が生れた』(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon
真田十勇士 (一) 運命の星が生れた (集英社文庫)


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2016.07.05

風野真知雄『女が、さむらい 鯨を一太刀』 縦糸横糸の妖刀伝

 女性ながら北辰一刀流千葉道場の筆頭となった剣士・秋月七緒と、毒によって体の自由を失った御庭番・猫神創四郎――風変わりな二人の姿を描くシリーズも、第二弾の本作に入って本格始動であります。刀剣屋を開業した創四郎と彼を手伝う七緒、二人の周囲には、名刀にまつわる怪事件が次々と……

 江戸三大道場を中心に、剣術が隆盛を極める江戸時代後期。しかし泰平の世に緩みまくったか、男たちはふぬけばかり、女性たちの方が強くなった――という世相を体現するのが、本シリーズの主人公の一人・七緒。
 長州藩江戸屋敷の重職の娘に生まれた彼女は、千葉周作の下で剣士として頭角を表し、江戸有数の剣士となったヒロインなのです。

 そんな彼女がある晩巻き込まれたのは、徳川家に仇なすという妖刀・村正にまつわる事件。御庭番を毒殺して、彼が手にした村正を奪おうとした一団から刀を取り返した彼女は、命を取り留めた御庭番――創四郎と、やがて互いに憎からず想うようになります。
 しかし創四郎が属する御庭番は、二派に分かれて暗闘の最中。毒の後遺症で思うように動けなくなった創四郎は、村正を手に江戸の市中に身を潜めることに……


 いささか前置きが長くなりましたが、そんな設定を踏まえて展開する本作の舞台となるのは、創四郎が開業した刀剣商「猫神堂」。
 時を同じくして複数本が江戸に現れた村正の情報を集めるため、そして自らの口を糊するために店を開いた創四郎ですが、ただ刀を売るだけでなく、刀の鑑定も行うというのがミソであります。

 その「刀剣鑑定いたします」の看板に引き寄せられて店にやってくるのは、いずれも曰くつきの、しかし歴史に残る名刀ばかり。
 斬られた相手が屋敷に帰ってから絶命した、竹林から生えてきた、家にある酒を飲んでしまう、子供を避けて賊を斬った……名刀につきまとうそんな信じられない事件の真相を、創四郎は七緒を相棒に、一種の安楽椅子探偵として、解き明かしていくのです。

 江戸の市井で起きる奇妙な事件を連作形式で解き明かしていくというライトミステリ調の物語は、これはもう、作者が自家薬籠中のものとする、得意中の得意のスタイル。
 一歩間違えれば超常現象のような、それでいてどこか日常系の趣もあり、殺伐さというよりも可怪しさ/可笑しさを感じさせる味わいは、いつものことながら安心して読むことができます。

 冒頭のエピソードのようにミステリとしても「おっ」と思わされるものもあれば、後半ではちょっと頭を抱えたくなるようなものもあり、質という点では、少々ばらけているのは気になるところですが……


 それはさておき、ライトミステリ風味の短編が横糸だとすれば、村正を巡る暗闘という伝奇風味濃厚な物語と、七緒と創四郎のロマンスが、本シリーズの縦糸。
 こうした物語構造も作者の得意とする(そして我々読者も大好物の)ところでありますが、その縦糸の方も、いよいよもつれにもつれてきた……という印象です。

 言うまでもなく、徳川に仇なす忌まわしき刀として知られる村正。その村正を求めるのが、薩摩のような外様や、あるいは紀州への恨みから将軍位をうかがう尾張であればまだわかりますが、本作においては当の幕府も村正を求めるという状況なのであります。
 そしてそれぞれの勢力が村正を求める嵐の中に七緒と創四郎は巻き込まれてしまったわけですが……しかし巻き込まれたのは彼らだけではありません。

 鏡心明智流の女剣士・ゆみ江や神道無念流の町方同心・今井といった七緒に並ぶ使い手たちに加え、本作では新たに創四郎の母・ガラシャと姉・マリアという名前だけでもとんでもない二人に、吉原四十七人斬りの過去を持つ美しい尼・文秀尼が登場。
 それぞれの立場から、望むと望まざるとに関わらず、村正を巡る事件に彼女たちは巻き込まれていくことになるのです。

 一人ひとりでも主役級の面々が入り乱れるこの展開は、話がとっちらかりかねないところですが、伝奇ものは数多くの登場人物たちが好き勝手に入り乱れるところが一番面白いのは間違いありません。

 そしてラストで爆弾を投げ込んでくることでは定評のある作者だけに、本作もとんでもない爆弾が二連発。二人の登場人物が、意外すぎる素顔を露わにする結末には、ただただ唖然とするほかありません。
 いよいよ横糸縦糸入り乱れる一大ロマン、たどり着く先はまだまだ見えませんが、今後も楽しみにする以外の選択肢はないのであります。


『女が、さむらい 鯨を一太刀』(風野真知雄 角川文庫) Amazon
女が、さむらい  鯨を一太刀 (角川文庫)


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2016.07.04

ユキムラ『たむらまろさん』 ユルくて深い古代の人間模様

 坂上田村麻呂といえば、蝦夷の王・阿弖流為と戦い、数々の伝説を残した平安の英雄であります……が、本作は8世紀末、平安遷都の前の長岡京時代を舞台に、その田村麻呂たちの日常(?)をゆるーく描いたユニークな作品。しかし同時にユルさだけでは終わらない、なかなかに味わい深いところもあるのです。

 渡来人の血を引くゆえか、金髪碧眼の風貌を持ち、その武勇により周囲からも頼られ、慕われる好漢・坂上田村麻呂。……が、その素顔は、かなりやる気なしで気紛れのユルい人物、彼の舎人となり、それを足がかりに出世しようという文室綿麻呂にとっては、歯がゆいことばかりであります。

 そんな二人が巻き込まれるのは、しかし厄介事ばかり。迷信深くすぐ遷都しようとする帝(桓武天皇)に振り回され、鈴鹿山に籠もる鬼・悪路王と鈴鹿御前と戦う羽目になり、そして田村麻呂の周囲には怪しげな蝦夷の男の影が。
 やる気だけは無駄にある綿麻呂も、妖術で「わたわたさん」に変えられてしまったりと波瀾万丈。果たして綿麻呂は望み通り出世できるのか?


 ……と、この辺りが第1巻のあらすじなのですが、まず驚かされたのは、上で述べたように、田村麻呂と並ぶ本作の主人公格として、文室綿麻呂が設定されていることであります。

 綿麻呂は、田村麻呂とともに阿弖流為ら蝦夷と戦った人物ではありますが、田村麻呂に比べれば、失礼ながら相当にマイナーな人物。私の拙い知識では、これまで(これだけのウェイトで)フィクションに登場したことはほとんどなかったのではないでしょうか。

 そして本作に登場する人物チョイスは、綿麻呂に留まりません。田村麻呂の上役に当たる和気清麻呂、田村麻呂の親友の橘清友に藤原内麻呂、イヤミで間抜けなボンボン役に藤原乙叡……
 と、レギュラー、サブレギュラーのキャラクターは、皆実在の人物であり、(宇佐八幡宮神託事件に関わった清麻呂を除けば)やはりフィクションでは滅多にお目にかかれない面々ばかり。

 本作は、そんな我々にはほとんど馴染みのない人物たちを、歴史上の事績や伝承をきっちりとベースにしつつ(これが大事!)、自由自在に味付けをして物語を展開してみせた快作なのであります。


 そしてもう一人、田村麻呂と密接に関わる歴史上の人物が本作には登場いたします。そう、それは阿弖流為……本作の時点から十年ほど後に、それぞれ一軍を率いる将として、激しく激突することとなる相手であります。

 本作に登場する阿弖流為は、完全にフィクション寄りの造形でありつつも、田村麻呂とは一人の「人間」として心を通わせる人物。
 田村麻呂と阿弖流為が旧知の間柄というのは完全にフィクションでありましょうが、しかし後の戦いの後に田村麻呂がとった行動を思えば、この関係も納得がいくという印象があります。 

 そしてその阿弖流為の存在が、同時に、普段は暢気で飄々とした田村麻呂が密かに心に抱える屈託とも密接な関わりを持つというのも魅力的に感じられます。
 冒頭に述べたとおり、本作はあくまでもユルくコミカルに田村麻呂たちの姿を描く作品ではありますが、しかしそれは決して、彼らが何も考えていない脳天気な人形であることを意味するのではないのですから――

 そうした本作のもう一つの側面は、綿麻呂の方によく現れているかもしれません。本作の綿麻呂は、皇族の血を引きながらも今は没落し、優しげな外見にも似ず、強い上昇志向を持つ青年。
 しかし田村麻呂という一種の天才に比べれば、綿麻呂はあくまでも凡人であり、その壁にぶつかることも一度や二度ではありません。それがおかしくもあり、切なくもあり、そしてそれが本作を血の通った歴史ものとして成立させているのだと感じます。

 ちなみにわたわたさんになってしまった綿麻呂が、幼い安殿親王(後の平城天皇)に懐かれたことをきっかけに、強いシンパシーを抱くという描写は、後の歴史を考えると何ともグッとくるものがあるのですが……


 阿弖流為との戦いまでを描かず、それよりも前の時点で全3巻完結となっているのは、やはり少々残念ではありますが、そこまでいけばさすがにユルい物語とはできないということでありましょう。
 しかしその点を差し引いても、本作が希有な題材を、ユルく楽しく、そして味わい深く仕上げてみせた作品であることは、間違いありません。


『たむらまろさん』(ユキムラ KADOKAWA/エンターブレインB's-LOG COMICS) Amazon / 『都編』 Amazon/ 『綿麻呂編』 Amazon
たむらまろさん (B's-LOG COMICS)たむらまろさん 都編<たむらまろさん> (B's-LOG COMICS)たむらまろさん 綿麻呂編 (B's-LOG COMICS)

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2016.07.03

田牧大和『彩は匂へど 其角と一蝶』 今語られる男たちの出会い

 ウマが合いそうな男がいると勧められ、深川の芭蕉庵に向かった絵師兼幇間の暁雲は、そこで琉球の装束姿の謎の女と出会う。折しも芭蕉庵では、琉球の芭蕉布に包まれた謎の投げ文が見つかり、犯人探しの真っ最中だった。芭蕉の一番弟子・其角と意気投合した暁雲は、二人で謎解きに乗り出すが……

 『酔ひもせず』で登場し、息のあった探偵ぶりを見せた暁雲(英一蝶)と其角(榎本其角)。この名コンビが帰ってきました。

 吉原の太夫連続行方不明事件を描いた前作は、物語の展開上、二人にとっては最後の事件となってしまったのですが、しかしこの一作で終わらせるにはあまりに惜しい……と思っていたのは私だけではなかったということでしょう。
 前作がいろは四十七文字の最後の一節を題名に冠していたのに対し、本作は最初の一節を冠しているというのも、心憎い趣向です。

 さて、前作で描かれたのが最後の事件であったのに対し、本作で描かれるのは最初の事件――暁雲と其角の出会いであります。
(内容的に、前作を先に読んでいた方がベストかとは思いますが、核心には触れていないため、本作からでもほとんど問題はないかと思います)

 吉原で幇間として明るく振る舞いながらも、過去のある事件がもとで心に深い屈託を抱える暁雲。そんな彼に対し、ある日顔なじみの太夫が教えたのは、深川の芭蕉庵にいるという、暁雲とウマが合いそうな男の存在でした。

 俳諧の世界に超新星の如く現れながら、すぐに江戸の中心を離れ、辺鄙ともいえる深川に篭ってしまった芭蕉庵の主――松尾芭蕉。
 その芭蕉と一門自体にも興味を覚えて深川に足を運んだ暁雲を待っていたのは、脅迫状とも呼べるような不穏な投げ文によって、喧々諤々となっていた一門と、その中心で人一倍(?)無神経な言葉で周囲の神経を逆なでする一人の男でした。

 その男こそが、暁雲が会おうとしていた其角――芭蕉からは一の弟子と呼ばれ、溢れんばかりの才を持ちながらも、何故か口から出る言葉の選択は拙いものばかり、という奇妙な人物。
 そして太夫の言葉どおり、たちまち意気投合した二人は、成り行きから事件の謎を追うことになるのでした。

 投げ文が琉球の芭蕉布で包まれていたこと、騒ぎの直前に、暁雲が芭蕉庵の庭で謎めいた琉球装束の女と出会っていたことから、琉球出身の女を追う二人。やがて二人は、両国の見世物小屋の女性芸人が、十年前に行方知れずとなった琉球の楽人を追って、江戸に出てきたことを知るのですが……


 ともに江戸の文化史に名前を残しながらも、本シリーズにおいては対象的な人物として描かれる暁雲と其角。
 豪放磊落のようでいて、鋭い観察眼と細やかな神経を持つ暁雲と、生真面目だが空気が読めず、そして奇談怪談が大好物の其角のキャラクターは、二作目にして既にお馴染みと言いたくなるようなハマりっぷりであります。

 しかし其角は年若い時分のせいか、その口の拙さがことあるごとに強調されているのがなんとも可笑しい。
 そして暁雲もまた、前作では固く心の底に秘め隠していた「ある女性」への想いがまだ透けて見える形で――そんなどこか欠けた部分を持った二人が、お互いを補うように友情を深めていく姿が、実に気持ち良いのです。

 しかし、この憂き世にあるのは、気持よく、心地よいものばかりではありません。本作で二人が挑む事件、解き明かす謎の先にあるものは、前作同様、この世の理不尽と悪意が結びついて生まれた、大きな悲しみなのですから。

 そしてその理不尽と悪意は、時と場所こそ違え、暁雲も味わい、憎んだもの。それに対する自分の無力を呪い、悔やんできた暁雲が、過去の自分自身を救うことになるかのように事件解決に挑む姿の切なさも、また本作の味わいであります。


 真犯人の見当がすぐについてしまうのは勿体ないように思いますが、しかしそこに至るまでのミステリ味も楽しく――特に、事件のきっかけとその解明に、俳諧という一種特異な決まり事の世界が有機的に結びついているのに感心――後半、ある人物の企みが明かされた場面では、アッと驚かされた本作。

 最後の事件と最初の事件という、いささかイレギュラーな形で発表された二人の事件簿。しかし二度あることは三度ある、ぜひ続々編も……と欲張りたくなってしまうのです。


『彩は匂へど 其角と一蝶』(田牧大和 光文社) Amazon
彩(いろ)は匂へど 其角(きかく)と一蝶(いっちょう)


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2016.07.02

『変身忍者嵐Χ』連載開始 新たなる変身忍者見参!

 初報から大いに気になっていた、にわのまこと『変身忍者嵐Χ』の連載が、『コミック乱』8月号から始まりました。言うまでもなく石ノ森章太郎の、あの『変身忍者嵐』をベースに、続編ではなく、新しい物語を展開するリメイクであります。

 時は関ヶ原の合戦が始まる直前、戦場に向かう徳川秀忠の前に、風のハヤテを名乗る謎の青年が現れたことから、本作は幕を開けることとなります。

 天下人を目前とした家康の息子とも思えぬほど人の良く、優しい秀忠。そんな彼が誤って崖から落ちかけた時、常人とは思えぬ身のこなしでハヤテが救ったのです。
 と、実は過去の記憶を持たぬハヤテは、秀忠が口ににした「父」という単語に激しく反応を見せるのでありました。

 そして出陣を目前に、兵を集めた秀忠の前に出現した奇怪な男。衆人の目の前で見る見るうちに巨大なサンショウウオのような姿に変化したその男は、化身忍者ハンザキを名乗ると、周囲の兵たちをものともせず、秀忠を攫って逃走。
 ただ一人追いついた伊賀忍者タツマキの技も及ばず、ハンザキの魔手が二人に迫った時――二人を奪い取り、天空に舞う一つの影! その鳥人めいた姿の影こそは、もちろん――


 というわけで、ついに見参した変身忍者嵐。特撮ヒーローファンで知られる作者の筆になるだけに、特に嵐のビジュアルは文句なし。
 実は意外と格好良く描くのが難しい嵐の姿を、見事にヒーローとして実に格好良く描き出していたかと思います。

 それにしても意外なのは、本作の舞台が関ヶ原前夜であり、徳川秀忠が絡んできたこと。
 本作のベースとなっている石ノ森章太郎の漫画版(おそらくは週刊少年マガジン版)は、時に歴史上の事件を、それも江戸時代前期のそれを題材としつつも、比較的歴史との関わりはアバウトに展開されたのですが、ここまでがっちりと史実と絡めるとは意外であり、かつ伝奇者としては大いに楽しみになってしまうところであります。

 特に秀忠とハヤテ、ともに父とは複雑な関係にある青年同士を絡めるという趣向は、石ノ森版の結末を考えれば、(少々気が早いですが)なかなかに興味深いところではありませんか。


 さて、これまで何度も、本作のベースは石ノ森章太郎の漫画版と申し上げました。
 実は……と改まることもありませんが、『変身忍者嵐』といったときに、多くの人の頭にまず浮かぶのは特撮TVドラマの方ではないかと思いますが、本作はあくまでも、漫画版のリメイクという扱いのようであります。
(骸骨丸ではなく、骨餓身丸の名が登場する点から、そう予測がつきます)

 個人的にはTV嵐の西洋妖怪編が大好きだっただけに、西洋妖怪も月の輪も登場しそうにないのは少々残念ではありますが、しかし先に述べたとおり漫画版そのままではない、大胆にアレンジを加えた物語が展開されそうなだけに、これまでとは全く異なる、新たな『変身忍者嵐』を楽しみにしてもよいでしょう。
(ただ一つ、絵が普段の作者のそれからすると少々違うタッチに見えるのが気になりますが……)


 石ノ森漫画版、TV版に続く第三の(いや「希望の友」版を入れれば第四の?)嵐の活躍に期待しましょう。


『変身忍者嵐Χ』(にわのまこと リイド社「コミック乱」連載) Amazon
コミック乱 2016年8月号 [雑誌]


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2016.07.01

『仮面の忍者赤影』 第28話「忍法大怪魚」

 辛うじてガンダから逃れ、尾張から迂回することとなった信長一行。先行した赤影たちだが、清須に向かった早馬の異変を探る赤影と白影を根来の下忍が襲う。残った青影は、姿を消した茶店の娘を探して丘の上に向かうが、そこでは渦巻一貫斎が、大筒による信長狙撃の準備を進めていた……

 前回の引きで、突如現れたガンダに襲撃される信長一行。そこに駆けつけた赤影たちは爆裂弾でガンダをたじろがせると、その場から撤退いたします。真っ直ぐ京に向かうことは困難と悟った信長は、尾張への迂回ルートを辿ることとするも、それは既に根来十三忍が二番手・渦巻一貫斎に知られていたのでした。道標の下に一貫斎が忍ばせたのは……

 さて、先行して茶店で信長一行を待つ赤影ですが、青影はガンダと戦わなかったことに納得がいかない様子。ここで赤影は、今回の戦いが、敵を倒すことではなく、信長を無事京に送り届けることが第一目的であることを語ります(「ゲームのルール」をわかりやすく語ってくれるのがイイ)。
 ようやく青影も納得したところで、しかしそこに現れたのは、無人で、血塗れの手裏剣が刺さった姿で戻ってきた早馬。その様子を探りに赤影と白影が向かった一方で、青影の前には茶店の娘・くみが現れます。子供らしい行儀悪さが微笑ましい彼女は、母親の言いつけで丘の上の寺に向かうのでした。

 さて、殺された使者と根来の下忍を発見し、下忍を追う赤影たち。お堂に入った下忍を追い詰めたはずが、赤影たちは下忍に包囲されていたのですが……ここでキラリと光る赤影の目。下忍に見えるのが術にかけられた一般人であることを見抜いた赤影は、仮面からの光線で彼らを正気に戻しますが、しかしこれが陽動であることに気づくのでした(ここは二人で来てしまった赤影のミスでは)。
 一方、寺に向かったくみを待っていたのは一貫斎一味。くみが帰ってこないことをそこらの子どもたちから聞いた青影は、その一人の服を奪……取り替えて、何食わぬ顔をして寺に向かいます。

 住職に化けた一貫斎は、青影の正体を見抜いて何食わぬ顔で応対しますが、しかし青影の方も「おたまちゃん」を探しに来た、とカマをかけ、相手が偽物であることを見抜くという丁々発止の駆け引き。寺に潜入してくみと本物の住職を逃がそうとする青影ですが、しかし一貫斎には叶わず捕らえられてしまうのでした。
 そして明らかになる一貫斎の企て。砲術では忍者随一の腕を活かし、「忍びというものは己の一番得意な技で目的を果たすのが本道」とばかりに、丘の上の寺から信長一行を大筒で狙撃するのが彼の狙いだったのであります。やってきた信長一行に照準を定める一貫斎。しかし突然濛々と立ち込めた赤い煙がその視界を阻むのでした。そう、それはもちろん――「赤影参上!」

 青影たちを助けた赤影は一貫斎と対決、刀術はさほどでもなかった一貫斎はあっさりと斬られ、大筒も破壊されるのですが……しかし瀕死の一貫斎には「己の得意技が敗れた時、初めて用いる根来忍法の極意」である忍法大怪魚が。一貫斎の吹く竹笛の音に応えて巨大化したのは、道標に放たれたガンダ! 
 さらに下忍たちも現れ、絶体絶命の信長と白影のもとに駆けつけた赤影は、「今度はやる!」とばかりに忍法影一文字で白影と大ジャンプ! 顔面に火炎弾を叩きつけられたガンダは、炎に包まれ倒されるのでした。


 忍者として確固たる哲学を持ち、幾重にも策を張り巡らせた一貫斎と、それを見抜いて仕掛ける赤影や青影の駆け引きが実に面白い今回。青影が不満に思うほど溜めておいた上で、ラストには一気にそれを解き放った大怪獣とのバトルもあり、これが見たかったんだよ! と言いたくなるような痛快な一話でした。


今回の怪忍者
渦巻一貫斎

 根来十三忍の二番手。竹笛でガンダを操る忍法大怪魚の遣い手。根来で学んだ砲術の腕を活かし、寺を占拠して信長狙撃を狙うが、赤影に斬られて失敗。最期まで竹笛を手放さずガンダを操った。

今回の怪忍獣
ガンダ

 渦巻一貫斎の竹笛に操られる二足歩行の怪魚。普段は根来の谷で迷い込むものを食らっているが、大山椒魚状に縮小することも可能。二度にわたって信長一行を襲うが、赤影と白影により顔面に火炎弾を叩きつけられ炎上した。


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