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2016.07.20

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第1話「雨傘の義理」

 天刑劍を護る丹衡・丹翡兄妹を突如襲撃する玄鬼宗。丹衡は玄鬼宗を率いる蔑天骸の手にかかり、丹翡は崖から転落してしまう。一方、風来坊の殤不患は、地蔵に差し掛けられた傘を手にしたことから、謎の男・凜雪鴉に、最初に出会った人物を助けるよう告げられる。そして殤不患の前に現れたのは……

 今頃になっての紹介で恐縮ですが、虚淵玄+台湾の霹靂布袋劇という異色の取り合わせで話題の武侠人形劇の第1話であります。
 私は虚淵作品にほとんど全く触れておらず、霹靂布袋劇といえば『聖石傳説』が浮かぶ程度の人間ではありますが、しかし武侠ものが新しいスタイルで、とくれば見逃すわけにはいきません。

 そして視聴した第1話ですが……なるほど、見事に武侠もの、それも全く見たことのない世界が展開されている、としか言いようがない作品でありました。

 本作の舞台となるのは、いつ、どことも知れぬ(おそらくは現実世界とはよく似ながら異なる)という、古龍テイストの世界。そこで神剣を護る兄妹が、奇怪な仮面の一党に襲われる場面から始まります。

 当然、そこで剣戟が展開されるわけですが、しかしここで布袋劇初体験者として驚かされるのは、その動きとエフェクトのド派手さ。
 人形であるにもかかわらず、いや人形だからこそと言うべきか、縦横無尽に飛び回るキャラクターたちに感心し、そして光やら衝撃波やら、過剰なまでに飛び出すエフェクトに驚き……なるほど、これが霹靂布袋劇か! といささかカルチャーショックを受けた次第です。

 もっとも、兄妹の兄・丹衡が繰り出す奥義はいさかかCG過剰でちょっと……という印象もありましたが、しかし基本的な殺陣や所作は見事に武侠もののそれを再現していると申しましょうか、ちょっとした動き、例えば剣を抜いてくるりと回してみせる動きなどが実に「らしい」と感心いたしました。


 しかし、個人的に一番武侠「らしさ」を感じたのはその後、妹の丹翡の崖落ち……ではなくて、本作の主人公であろう二人の好漢のと、彼らのやりとりにであります。

 一人は、雨のそぼ降る中、傘もささずに悠然と木陰で煙管をくゆらせる眉目秀麗、白面の貴公子という表現がぴったりくる凜雪鴉。もう一人は、不敵な面構えが何とも頼もしい、それでいて人間臭いものを感じさせる殤不患。

 そして傘を持たずに旅してきた殤不患は、路傍の地蔵に差し掛けられた傘を見て、これ幸いと手に取るのですが……
 ここで凜雪鴉が、お前は御仏に傘一本の借りを作った、渡世人ならばその借りを返すため、この先最初に出会った一人に御仏に成り代わり慈悲をかけてやれ、などという言葉をかけるのが実に楽しいのであります。

 ほとんど言いがかりというか屁理屈のような言葉、それもそれを口にしたのが美形ではあるが見るからに一癖ありげな凜雪鴉とくれば、殤不患でなくともスルーしてしまいたくもなります。
 しかし、そこで本当に最初に出会った人物――言うまでもなく、崖落ちしても生きていた丹翡の苦境を見過ごすことができず、追手の玄鬼宗の前に立ち塞がってしまうのが、好漢の好漢たる所以と言うべきでありましょう。

 もちろん登場したばかりではありますが、いずれもいわゆる正義の味方とは縁遠そうな凜雪鴉と殤不患。しかしそんな二人が、義理やら義侠心やらといった不確かな――しかし、人として好ましい心性に動かされ、己の習い覚えた技でもって悪人悪漢に挑むというのは、これはまさしく「武侠」の精神、武侠ものの醍醐味でありましょう。
(もっとも凜雪鴉はその辺りからだいぶ外れるのですが、こういう飄々と胡散臭い、しかし馬鹿強いであろうキャラが舌先三寸で人を動かすのも、また「らしい」と言えるでしょう)


 今回はこの殤不患と凜雪鴉のやりとりが結構な割合を占める印象なのですが、この武侠もののエッセンスを感じ取れただけでも本作の魅力の一端を、目指すところを感じ取れたように思えますし、物語の幕開けとしては十分すぎるほどでありましょう。

 そして追っ手であるいわば中ボスクラスの殘凶を、殤不患が凄まじい技の冴えで一蹴、しかし最期の力で凄まじい覚悟を見せた殘凶により、殤不患と凜雪鴉の存在が蔑天骸らに伝わって……というところで物語は次回に続くことになります。
 ラストに流れる(おそらくは)OP映像を見れば、この先まだまだ一癖も二癖もある面子が飛び出してくる様子。霹靂布袋劇として、和製武侠活劇として、先が楽しみになる滑り出しであります。


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