戸土野正内郎『どらくま』第4巻 新章突入、北の地で始まる死闘
真田の血を引く守銭奴・源四郎と、腐れ縁の凄腕忍び・九喪の二人が、大坂の陣後の世界に暗躍する者たちと丁々発止やりあう痛快活劇も、早くも第4巻目であります。この巻からは新章突入、強敵・軒猿十王の一人を探して彼らが向かう地は奥州……独眼竜の領国で、忍び同士の新たな激闘が始まります。
豊臣残党との繋がりを示す書状を巡って繰り広げられた死闘の末、ひとまずは安堵された真田家。しかしその結果、真田家は豊臣残党の獅子身中の虫として振る舞うと同時に、それと並行して徳川へのカウンター勢力を育成せざるを得ないという、まさに表裏比興の行動を強いられることになるのでした。
そしてその先鋒としてこき使われることになるのはもちろん源四郎&九喪。根津のくノ一・桜も加えたトリオの新たな任務は、北の雄・伊達を探ることであります。
これまでも強敵ぶりを遺憾なく発揮してきた軒猿最強の十王の一人であり、一度は加わった伊達家の忍び・黒脛巾組から離反して伊達家の隠し財宝を狙う謎の忍び・天雄。
源四郎と九喪は、その天雄と黒脛巾組との争いに首を突っ込む形で、伊達に潜り込んでいくこととなります。
そしてこの争いに加わるのは、かつて大坂で九喪と共に戦い、いまは黒脛巾組に協力する伊賀の忍び・シカキンこと才蔵(!)と、彼が連れる忍びらしからぬ少女・木毎(きつね)、そして天雄を仇と狙う大獄丸。
異形の改造忍たちを操って黒脛巾組の砦を襲撃する天雄を迎え撃つ彼らが、死闘の果てに見たものは……
と、新たな舞台、新たな味方、新たな敵と、まだまだ先は見えないものの、いきなりクライマックス級の戦いが続くこの第4巻。
舞台となる伊達家といえば、言うまでもなく外様の雄――秀吉、家康と二人の天下人の陰で、天下を窺ってきた(と言われる)傑物・政宗が未だ健在の時期であります。
本作に見え隠れする、戦乱の時代を再び呼び戻そうという者の、最有力候補とも言えるこの伊達家は、なるほど本作の舞台となってもおかしくない、いやならないほうがおかしいほどでしょう(そしてもう一つ伊達家には……と、これは後述)。
そんな伊達で繰り広げられる戦いは、天雄vs源四郎&九喪・大獄丸・シカキン・黒脛巾組の連合軍という、一見わかりやすい構図ではありますが、しかし戦いに加わる勢力それぞれがそれぞれの思惑を秘めているだけに、その実態はなかなかに複雑怪奇。
そもそも、天雄が財宝を狙うのは何故か。そして伊達がこれまで天雄を表立って始末しようとしてこなかったのは何故か。その謎の数々は、むしろ一つの戦いに決着が着いた時に、大きく浮かび上がるのです。
そしてもう一つ、天雄と同じく、いやそれ以上に気になるのは木毎の存在であります。傍目には黒脛巾組のマスコット……と言いたくなるような可愛らしい外見、そして忍びとしては残念過ぎる実力と素直な心の持ち主である木毎。
シカキンとは複雑な関係にあるらしい彼女は、実は生まれついての忍びではないということが、やがて明らかになります。
かつて大坂において父と兄を殺され、シカキンに保護されて忍びとなり、裏切り者を討つことを念願にしているという木毎。シカキンが幸村に仕えた九喪の同輩であったことを考えれば、彼女の父と兄が誰であるか、察しがつこうというものでしょう。
そして本作において、その「仇」が誰であるかも……
思えば、伊達家といえば、真田幸村の娘・息子が引き取られた家。その因縁を思えば、源四郎にとっても決して縁なき場所ではありません。
そしてその娘を後室としたという片倉重長、何よりもその主である政宗本人が登場していないことを思えば……この伊達編もまだまだ波乱含みと考えてもよいでしょう。
その中で源四郎が、九喪が、いかに立ちまわることになるのか……全く先が読めないからこそ、楽しみになろうというものです。
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