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2016.08.15

武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第7巻 破天荒なる青春と等身大の人間と

 一族を殺し、専横を極める平清盛を討つべく、恐るべき力を持つ六韜を手にせんとする義経と、その六韜を封じんとする弁慶の姿を描く奇想天外な源平合戦絵巻の最新巻であります……が、この巻で描かれることとなるのは、義経の父・義朝の時代の物語。義朝・清盛・秀衡の青年期が語られることになります。

 鬼一法眼により宋国から日本に戦乱と混沌をもたらすためにもたらされた六韜。その最後の一本・龍韜の持ち主である頼朝は、しかし六韜の力の危険性を知り、その封印を願う人物でありました。
 そして再び六韜を前にして現れかけた弁慶の中の鬼こそが、その力を持つ存在、いわば七番目の秘伝書と言うべき傀韜であると、頼朝は驚くべきことを告げたのでした。

 かくて、六韜を封じることを自らの使命とした弁慶と、表向きはそんな彼を認めつつも、内心では(といっても彼の妹以外にはバレバレなのですが)六韜の力を狂おしく求め弁慶を憎む義経は、ある意味呉越同舟の旅を東北に向けて続けるのですが――
 しかし、ここから描かれるのは、過去の物語。平家の珍宝重宝を収めた宝物庫にあった粗末な盃の欠片……三分の一に割られたその盃を見た、清盛の回想の形で、物語は展開していきます。

 保元の乱で圧倒的な勝利を収めた源義朝と平清盛。生まれも育ちも全く異なりながらも、不思議に相通じるものを感じた二人の若武者は、しかし自分たちが後白河院をはじめとする貴族たちの手のひらの上で踊らされていただけであったことを知り、索漠たる想いを味わうのでした。
 そんな中、二人の前に現れた途方も無い財力を持つ豪傑児・藤原秀衡。破天荒な性格の彼もまた、貴族の世に不満を持つ者であることを知り、三人は意気投合いたします。

 そして義朝が貴族の世を終わらせるために提案したのは、何と天下三分の計。秀衡が北国を、自分が東国を、清盛が西国を手にすることにより、三人が力を合わせて天下を治め、そして誰かが暴走した時には二人が止める――
 そんな巨大な夢を見た三人は、やがてその最大の障害である後白河院との対決へと向かっていくことになります。


 ……我々はその後の史実を知っています。いえ、その無残な結末は、本作の作中でも描かれ、義経を復讐鬼に変えてしまいました。
 しかし今回描かれるのは、その結末に至るまでの過程であります。

 言い換えれば、義朝と(さらには秀衡と)同じ夢を見て厚い友情で結ばれたはずの清盛が、なぜ後の平治の乱において後白河院側につき、義朝を討ったのか? 自らが貴族と等しい存在と化したのか? その絵解きであります。

 その詳細はここでは伏せますが、そこにあるのは、人間的すぎるほど人間的であった、等身大の清盛の姿。義朝を、秀衡を認め、尊敬するからこそ、自らの卑小さに苦しむ清盛の姿であります。
 そしてその清盛の人間性と、後白河院の邪悪が結びついた時生まれたものは、もう一人の、全ての軛から解き放たれた清盛――そう、本作の冒頭で我々の度肝を抜いた、白塗り口紅でオネエ喋りの清盛だったのであります。

 巨大なカラクリを自在に操る秀衡、高野山で天狗面を装着して暴れまわる法然、そして何よりも、義朝・清盛・秀衡の天下三分の計と、いかにも本作らしいぶっ飛んだアイディアの数々が投入されるこの巻のエピソード。
 しかしその派手なガジェットの中から浮かび上がるのは、やり切れないほどにリアルな人間性の負の側面でありました。

 六韜が登場して以来、物語のテンションも、史実からの飛び具合も、うなぎ昇りの本作ではありますが、しかしそれを支えているものは、どこまでもリアルな、等身大の人間の情である……その事実をこの巻では突きつけられた思いです。


 ……などと思っていたところに、この巻のラスト、陸奥に到着した義経と弁慶の前に秀衡の巨大○○軍団が! という展開にはもうひっくり返るしかないわけで、この辺りの振れ幅の大きさには、もう満面の笑みを浮かべながら振り回れるほかありません。


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