廣嶋玲子『妖怪の子預かります 2 うそつきの娘』 地獄の中の出会いと別れ
正式に妖怪の子預かり屋となって相変わらず妖怪たちに振り回される中、少しずつ周囲とも打ち解けてきた弥助。そんなある日、妖怪の子供たちが次々と行方不明になっていることを知り、妖怪の子を探して浅草に出かけた弥助は、そこで一人の少女と出会う。しかし彼女はとんでもないうそつきで……
妖怪専門のベビーシッターを押しつけられてしまった人間の少年の奮闘を描く『妖怪の子預かります』の続編が早くも登場しました。相変わらず妖怪たちがコミカルな顔を見せる中、ギョッとさせられるような暗黒展開もあり、いよいよ作者の本領発揮という印象の作品であります。
子預かり妖怪・うぶめが住む石を割ってしまったことで、妖怪奉行所の奉行・月夜公から、うぶめが帰ってくるまで妖怪の子預かりをせよ、という罰を受けた弥助。
育ての親である盲目の美青年・千弥以外とはろくに口もきけないほど引っ込み思案の弥助にとって、賑やかで個性的な妖怪の子と接するのは拷問のようなもの。それでも一つ一つの依頼をこなしていく中で、弥助は妖怪たちの信頼を得ていきます。
そして自分の過去に隠されていた妖怪との因縁も解決、実は大妖怪であった千弥の尽力でうぶめも帰ってきて、ようやく子預かり屋から解放された弥助ですが……これまでの奮闘がうぶめに気に入られて、今後も子預かり屋を続けることになるのでありました。
というわけで本作の前半で描かれるのは、相変わらず賑やかな弥助の子預かり屋生活。
風呂屋に貼られたお札に悩まされるあかなめや、三味線にされた母を捜す子猫妖怪、さらには千弥を婿にしようと押し掛けてきた蛇妖の姫君など(最後もまあ、広義の子預かりということで)、相変わらず弥助は珍妙な騒動に巻き込まれることになります。
しかしそんな忙しくも平凡な日常に忍び寄る影。江戸で続発しているという妖怪の子供さらいに、仲良しの梅の子妖怪・梅吉の友達も攫われたと知った弥助は、手がかりを求めて浅草に向かいます。
そこで彼の前に現れたのは、彼とはあまり変わらない年格好の少女・おあき。彼女は洒落にならないような嘘をついて、弥助をひどい目に遭わせるのですが、しかし弥助はそれが彼女の真意だとは思えず……
というわけで、このおあきこそが、 本作のタイトルである「うそつきの娘」。これまではごく普通の娘だったのに、ある日突然、悪意ある嘘をつくようになった彼女のことを信じ、弥助は奔走します。
その結果、彼女を今の境遇から救い出し、彼女と仲良くなった弥助ですが、彼女の笑顔を見ると、今まで感じたことのない想いを感じるようになって……
いやはや、今まで甘やかすというにはあまりにもあまりにもな溺愛ぶりを見せる千弥にべったりで、何というかこう、色々と不安になった弥助ですが、今回めでたく初恋を経験することに。
これまで外の世界との関わりを断ってきた彼にとって、これは妖怪の子預かり屋となって以来の大きな変化であり、成長といえるでしょう。この辺り何とも微笑ましく、こちらの顔もほころぶのです。
が……その笑顔が凍り付くような展開を、本作は用意しています。いまだ解決していない妖怪の子の行方不明事件――その事件が思わぬ形で、それも最も残酷な形で、弥助の身にも迫るのです。
その詳細はここでは述べません(述べられません)が、いみじくも作中で弥助が「地獄」と評したとおりのものであることは間違いありません。
この暗黒ぶりは作者の真骨頂、ある意味こちらとしても望むところではあったのですが、まさかここでこんな形で突きつけられるとは……と震え上がった次第。
この辺りの容赦のなさは(かなりレベルが異なるものの)前作の終盤でも見られたものではありますが、妖怪時代小説が数多い中で、一つの個性というべきでしょう。
子供が大人になるまでには、様々な出会いを経験することになります。もちろん、出会いだけでなく別れもまた。妖怪の子預かり屋として、様々な出会いと別れを繰り返し、これからも弥助は少しずつ成長していくことでしょう。
そこで何が描かれるか楽しみにしつつも、しかし同時に恐ろしくなる……本作は、本シリーズは、そんな物語であります。
ちなみに本作には、人の魂を好む幼い姫君姿の強大な猫の妖が登場するのですが、これはやはりあの作品の……作者のファンにとっては、何とも嬉しいサプライズであります。
『妖怪の子預かります 2 うそつきの娘』(廣嶋玲子 創元推理文庫) Amazon
| 固定リンク