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2016.10.03

ほおのきソラ『戦国ヴァンプ』第2巻 吸血鬼たちの戦場で

 戦国時代にタイムスリップしてしまった女子高生・ひさきが出会った若き日の織田信長。彼は実は吸血鬼で……という、色々と大盛りの戦国ロマンの第2巻であります。あの桶狭間の戦を終えた信長の、ひさきの、彼らを取り巻く人々の運命は――

 彼女を手中に収めた者が天下を取ると予言する謎の尼僧・壱与の力により、戦国時代にタイムスリップさせられたひさき。その彼女を救ったのは、京に覇を唱える三好長慶――実は吸血鬼の始祖でありました。
 その京で、丁度上洛していた信長と出会ったひさきですが、彼は刺客に襲われ、彼女の目の前で瀕死の重傷を負ってしまいます。そしてひさきの懇願に応えた長慶により、信長は吸血鬼として生まれ変わることに……

 というとんでもない展開で始まった本作ですが、この巻の冒頭で描かれるのは、その信長が天下に名を轟かせた桶狭間の戦。
 信長がある意味奇跡的な奇襲によって、遙かに自軍を上回る今川義元の首級を挙げたことについては、様々な作品においてその成因が語られています。そこで本作で提示されるその答えはといえば、ある意味あまりにもシンプルなもので仰天させられる内容であります。

 しかしこれはまだ序の口。この戦の最中、突如現れた人狼――本作においては吸血鬼の宿敵と言われる存在――によって前田犬千代が瀕死の重傷を負い、彼を救うために信長は犬千代を吸血鬼化することに。
 そして自らも人狼に挑んだ藤吉郎は、人狼に噛まれたことでなんと……(ここで表紙をご覧下さい)


 何とも混迷を極める本作の戦国史ですが、そこにおいてあくまでもごく普通の女子高生であるひさきの役目は――それは未だに明確にはなりませんが、一つだけわかっているのは、彼女の血が吸血鬼たちにとっては極めて甘美なものであり、彼女の存在自体が、大きな魅力となり得ること。

 そしてもう一つ、本作において彼女には、現在長慶の下を出奔して行方不明中の松永久秀の身代わり(!)を務めるという役割が与えられているのですが……

 いやはや、現代人が過去にタイムスリップして、その時代の人間の身代わりを務めるというのはある意味定番ですが(本作においてももう一人、ひさきと一緒にタイムスリップしてしまった幼馴染みの男子高生が……)、さすがに本作のパターンは見たことがないように思います。

 しかし作中でのそれはある意味長慶の茶目っ気とはいえ、これによってひさきは織田サイドだけでなく、三好サイドの動きにも巻き込まれていくのが、なかなかに面白いところであります。

 この巻の後半において描かれるのは、三好実休、安宅冬安、十河一存、そして三好義興と一族総出で(?)繰り広げられる河内の畠山高政(こういうところで史実に忠実なのが本作の面白いところではあります)との抗争。
 長慶同様、全員が吸血鬼である三好一族が繰り広げる、文字通り血で血を洗う戦に歯止めをかけるため、ひさきも戦場に立つのですが……松永久秀の名を冠したとはいえ、果たしてごく普通の女子高生に何が出来るのか? ここで描かれた戦の結果は、彼女の今後に大きな影響を与えるのものかもしれません。

(にしても、本作においてはあまりの凶暴さから「鬼十河」と呼ばれる一存を自分が抑えると何度も断言しておいて結局……な義興のポンコツぶりたるや)


 そしてまた気になるのが、終盤登場する吸血鬼を狩ることを定めと称する謎の男。
 このちょいワルげなイケメンが、まずは最初のターゲットとして三好一族を狙う様子であることを考えれば、その正体もある程度予想はつきますが、だとすればひさきは……

 色々と豪快な設定に良くも悪くも驚かされることの多い本作ですが、この先、織田サイド以上に三好サイドの方が気になってしまうようなヒキではあります。


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