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2016.10.24

『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』11月号の作品紹介の続きであります。

『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
 自分から国を奪った怨敵を追い、屠った者の命を奪い己の寿命にする魔刀・不破刀の化身である美少女ともども旅を続ける主人公・怨ノ介を描く本作も第1巻発売間近。
 今回は、そんな彼があるきっかけから、途中の山形藩の剣術指南役(を目指す男)に頼まれて、男の道場に食客のような立場で滞在することになります。

 怨ノ介が道場に残ることを決意した理由の一つが、男の(嫁入りを控えた)美しい娘のためであったりするのもおかしく、また周囲に他の魔刀が存在する気配もなく、平和な時間が流れるのですが――
 もちろんそれで終わるはずがありません。実は男の任は上意討ちという名の暗殺、怨ノ介と出会ったのもその場だったのですが、異常なまでに続く上意討ちが、やがて惨劇を招くことになります。

 正直なところ今回、人物の画などにところどころ「ん?」と思うところはあったのですが、しかしクライマックスの画の力の前には全て消し飛びます。ユニークな設定と物語を支える画の力にただ脱帽であります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 移籍後の連載第2回の今回のタイトルは「鬼青頭巾」。言うまでもなく、あの「雨月物語」の「青頭巾」を下敷きとした物語であります。

 旅の途中で訪れた山村で鬼が来たと騒がれた僧侶・快庵。山の上の寺の阿闍梨が稚児への愛に迷うあまり、亡くなった稚児の肉を喰らって生きながらに鬼に変じたものと間違えられたと知った快庵は、寺に向かうと阿闍梨の鬼と対峙、彼の霊威に感じ入った鬼に自分の青頭巾と、二句の公案を授けて――

 という原典の内容そのままに展開していく今回。しかしその村に、鬼切丸の少年もいたことから、物語は異なる様相を見せることになります。
 人の妄念が変じた鬼を、再び人に戻すことができるのか? 鬼を説き伏せた快庵に少年は興味を抱くのですが――一年後、再び村を訪れた快庵を待っていたものは何であったか。

 正直に申し上げれば、あまりに身も蓋もない結末(いやむしろ発端というべきか)に驚いた今回。むしろ快庵から、お前もいつか人間に成りたいと願う者なのか、と問われてちょっとムキになったように見える少年の姿が、一番の見所かもしれません。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 同じかどたひろしの『そば屋 幻庵』と同時掲載となった今回描かれるのは、聡四郎と紀伊国屋文左衛門のファーストコンタクト。
 紀文が絡んだ永代橋の工事のからくりに気付いた聡四郎を、紀文が差し向けたと覚しき破落戸が襲撃、これを退けたかと思えば、今度は吉原に招待を受けて――

 脅しと賺しを巧みに使い分けて己に近づく紀文は、聡四郎にとって未知の敵。そんな敵を前に大いに戸惑う彼の姿が、今回描かれることになります。
 チャンバラシーンはあるものの、比較的静かな展開の今回で一番印象に残るのは紀文の姿……というより顔。剣を武器とする武士とも、権力をバックにした役人とも違う、海千山千を絵に描いた商人の顔には、こちらも圧倒されるのです。


 以上、ついつい紹介が長くなってしまいましたが、それも気になる作品の多さゆえ。一通り新連載や『戦国武将列伝』からの移籍組も揃った様子ですが、ここに取り上げた以外の作品も強力で、一番から九番まで全て三割打者のようなラインナップであります。

 なお、移籍組や新連載等、作品によっては扉ページの前に1ページ、ストーリーや登場人物の紹介を用意しているのは、実にありがたい配慮で、大いに評価できるところです。


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コミック乱ツインズ 2016年 11 月号 [雑誌]


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